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デタラメな冒険譚が僕にくれたもの〜憧れを追いかける少年〜  作者: まあ(ºωº э)З
第七章 いきなり始まるスローライフ?
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黒い魔物





 目が覚めると、いつの間にか腕の中に入っているビビを抱き締める。


 可愛い可愛い毎朝の恒例行事だね。そうするとビビが嬉しそうに笑うんだ。


「おはよう」


「お、おはよう。アーク⋯⋯」


 今日も良い日になりそう。ふわ〜⋯⋯


 その後は血を吸われ、朝の訓練を開始した。


 最近はビビと空中戦の練習をしている。

 激しくぶつかり合いながら、急旋回や急落下や急上昇。魔法やスキルを使ってるんだけど、どうせならもっと緊張感のある訓練がしたい。


「ねえビビ。何か一つお願いを聞いてあげるって言ったらどうする?」


「願い⋯⋯か⋯⋯」


 ビビと高速で剣を交えながら、そんな話をする。


 普段から何かをお願いされればするんだけど、こうすれば少し違うよね。


「僕が勝ったら僕のお願いを聞いてもらおうかなぁ。お願いって言うか命令みたいな?」


「ふふ⋯⋯面白い。受けて立つ」


 ビビが怪しく笑う。これならいつもより緊張感を持って訓練出来そうだよね。


 下では鳥さん達が、口を半開きで僕達を見つめていた。


 僕、鳥さん達が飛んでるところ殆ど見た事無いな⋯⋯もうずっと食っちゃ寝してるよね?



 それから約三十分が経過した。ビビの大人気ない攻撃に敗北した僕は、冷たいオレンジジュースを飲み干した。


 勿論僕が使うのはSスタンダードレベル1までだけど、それでも結構激しい訓練になるよね。




 ビビが血を吸って魔力を回復するように、僕もオレンジジュースを飲むと魔力が回復するようになったんだ。


 僕ってすっごく変な体になっちゃったよ。まあ今更だけど⋯⋯


「アーク。膝枕だ」


 ホクホク顔のビビに言われて、直ぐにソファーで準備をした。でもされる方じゃなくてする方だったみたい。

 これから迷宮だから長い時間は出来ないけどね。朝食の時間までは大丈夫。


 ビビが僕の両手を取ってバンザイをさせてくる。僕はしばらくビビがしたいようにさせた。





 今日はホロホロには遠慮してもらった。流石にもう危ないからね⋯⋯


 迷宮の入口の兵士さんにお酒とおつまみを渡した。


「いつもありがとう! 今日も楽しくなりそうだ」


「頑張ってくださいね」


「ああ、する事は殆ど無いんだがな」


 いやー⋯⋯本当にここは暇だと思うよ。僕がこの仕事を任されたら、ずっと剣を振ってそうだもん。



 迷宮の中へ入ると、随分と慌ただしい声が聞こえて来る。


 いつもと町の雰囲気が違う⋯⋯何があったんだろう?


「アーク⋯⋯血の匂いだ」


「え?」


 ビビが小さな声でそう呟くと、転位所の方向を見て目を鋭くした。


「行くぞ!」


「うん!」


 急いでピラミッドを駆け下りる。血の匂いを嗅げば、ビビなら普通の人よりも多くの情報がわかる筈。

 そんなビビが余裕も無く走る姿を見て、僕も胸がザワザワとした。



 転位所の前に到着すると、神父様とシスターが神聖魔法を使っている。


「なんだこれは」


「⋯⋯」


 そこには十数人の怪我人が横たわっていた。いったい何が⋯⋯


 あ、あれは!


「アウグシィスさん!」


「アーク⋯⋯」


 アウグシィスさんが苦悶の表情を浮かべ、僕の名前を小さく呟いた。


「“リジェネーション”、“ヒール”」


「すまない⋯⋯」


「これは何があったのですか?」


 アウグシィスさんを治療しながら周りを見てみると、最前線に挑む冒険者さん達ばかりが倒れているみたいだ。

 そこには“獣の集い”のメンバーや、ルルエラさんも倒れている。


「おい! お前!」


「⋯⋯君は」


 後ろから声をかけられて、振り返った直後に胸ぐらを掴まれた。

 そしてそのまま転位所の壁に叩き付けられて、僕は襟首を締められる。


「アークを離せ!」


「五月蝿い!」


 あまりの事にギョッとする。乱暴にされる僕を見て、ビビがその人に怒鳴った。


 この人は初日にマイ滑車自慢をしてきた人だ⋯⋯冒険者見習いで荷物持ちをしている人だったと思う。


 なんでかわからないけど、凄く怒っているのだけはわかる。ビビも怒っているけど、僕はそっと手で止めた。


「あんな⋯⋯黒い化け物がいるなんて聞いてない⋯⋯」


「え?」


 今度はいきなり涙を流し始める。ちょっと待って! 僕にはなにがなにやら⋯⋯


「あの化け物のせいで皆が⋯⋯クソ! お前のせいだ! お前が全ての情報を話さないから!」


「どういう事?」


 黒い化け物? 僕はそんなの知らない⋯⋯三十六階層から四十階層までの魔物の情報は、ちゃんとガジモンさんに報告をしてある。


 他の人が危なくないようにちゃんと資料を作ったんだ⋯⋯それじゃ、僕が見落とした魔物がいたって事?


「四十階層で黒い魔物が暴れ回ってんだよ! それに皆一撃で殴り飛ばされちまった! ゼファルさんが俺を庇って⋯⋯」


 ゼファルさんとは、“獣の集い”のメンバーかな?


「勝手に⋯⋯殺すな⋯⋯ロイ」


「ぜ、ゼファルさん!」


 ──ゴツン!


「痛ってー!」


 ゼファルと呼ばれた角の生えた獣人さんが、ロイさんにゲンコツを振り下ろす。

 僕の胸ぐらが解放されたので、怒っていたビビの所まで移動した。


 ゼファルさんは満身創痍(まんしんそうい)といった状態だね⋯⋯防具はボロボロで、服に血がベッタリと染み付いている。



「だってこいつらがいけないんだろ!? ちゃんと四十階層の情報を渡さなかったから!」


「⋯⋯馬鹿を言うな⋯⋯情報は任意だ。強制じゃない⋯⋯」


「でも──」


「“リジェネーション”、“ヒール”」


 ゼファルさんが苦しそうだったから、とりあえず回復魔法をかける。


「アーク君⋯⋯君は神聖魔法まで使えるのか!」


「はい。神父様のようにはいきませんが、楽になれましたか?」


「良い腕だ。一気に痛みが引いていくよ。ありがとう」


 ゼファルさんに頭を下げられた。柔らかい表情を見て、僕はホッと胸を撫で下ろす。


「僕は、四十階層で黒い魔物を見てません」


「その事だが、多分あれは特殊な何かだ。到底四十階層に出て来るような魔物には見えないな。多分もっともっと深層に出て来るような⋯⋯そんな怪物に会った気分だ。攻略もアーク君が来てから明らかに進んだだろう。もしかしたら迷宮の主が焦っているのかもしれない⋯⋯」


「迷宮の主が焦る?」


「他の迷宮でも、そういった事例が報告されている。そして今回も多分それに当てはまる⋯⋯だとすればあの魔物は⋯⋯」


 ゼファルさんが言葉を濁した。その魔物に何か心当たりでもあるのかな?


「アーク!」


「ティーナ! それにガジモンさんも」


 ティーナは完全武装をしていた。ガジモンさんまで大きな斧を持っている。


「これから黒い魔物を討伐する。力を貸してくれアーク」


「わかりました」


「⋯⋯アークのせいではない。あの黒い魔物は、迷宮の悪足掻きのようなもんだ」


「⋯⋯はい」


 それでも、こんな沢山の人が大怪我をしている。僕は胸の奥が締め付けられるような気がした。



「これから動ける者を集める! 黒い魔物は階層の扉にも近寄れるんだ。転移陣が利用されるかもしれねぇ!」



 ガジモンさんのその言葉を聞いて、怪我をした冒険者さん達までが起き上がる。

 そんな事になれば、この町まで攻められてしまうからだ。





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