武器屋バスス&ギブ side???
ピカピカのショーウィンドウを少し眺めて、武器屋バススに入る。いつもの軽いドアベルの音が聞こえて、輝きを放つ武器を見詰めた。
武器屋っていつ来ても楽しいな。かっこいい魔剣がライトアップされているよ。少し商品が入れ替わっているね。
バススさんの店は、超高級魔法武器から一般家庭の包丁まで売っている。食器や鍋はないけれど、頼まれれば作る事もあるそうだ。そこはオマケな部分だから、お得意様にしか卸さないらしい。
ドアベルの鳴った音で気がついたバススさんが、店の奥から顔を出す。
「これはこれは、Eランク冒険者のアーク様ではございませんか」
「これはこれは奇遇ですね。こんな場所で会うなんて!」
「ふはは」
「ふふふ」
武器屋バススはよく遊びに来るので、この変なやり取りは少しじゃれ合っただけだ。少しバススさんと雑談していると、ギブが店裏から顔を出した。
「あ!」
ギブは僕を見つけて顔が笑顔になっている。僕も自然と頬が緩む。
「やっほ! ギブ〜」
「やっぱりアークだ。声が聞こえたからさ。遊びに来たの?」
「んーとね、実は剣折れちゃったんだ⋯⋯大事な剣だったんだけど」
想い入れのある剣だった。三歳の誕生日にプレゼントしてもらった剣で、毎日訓練に使っている。
辛い訓練を休まずに続けられたのは、剣を見る度に父様や母様の冒険譚が頭に蘇るからだ。
「そんなに大切にされたら剣も本望だな。鋳潰して作り直してやろうか?」
バススさんがとっておきの提案をしてくれた。それは素晴らしいことだと思う!
もう一度この剣に会えるの!? 諦めていたからとっても嬉しい!
「良いんですか!?」
「おう! 見せてみろや」
収納から折れた剣を取り出した。それを見たバススさんもギブも凄いびっくりする。
「何だ今のは! 噂に聞いたことはあるが、もしかして空間魔法だったりするのか?」
「違うよ。これを使ってるの」
空間魔法はいつか使えるようになりたいけどね。二頭の捻れウロボロスの刻印。それを見たバススさんは腰を抜かす程驚いていた。
「伝説のアーティファクトじゃねえかああああ!!」
「ああああ!!」
「ああああ!!」
ちょっとバススさんの反応が大袈裟で楽しかった。ギブと一緒に両手を上げて驚いておく。
「ぐ、ゲホゲホ! いや〜。アークが初めて店に来た時よりびっくりしたぜ」
「王都のハルファナスさんから貰ったの。御礼なんだって。僕と友達になりたいみたい」
「あぁ、あの商会長さんかい⋯⋯納得だわなぁ。こんなもん用意出来るなんてよ。何処でそんな伝手を見つけてきたんだ?」
「僕は依頼でライノス達を鍛えてただけだよ。それがすっごい嬉しいことだったみたい?」
「金持ちの考える事はわからんな⋯⋯はぁ」
「バススさんも超お金持ちじゃん」
魔剣すっごく高いんだもの。
「馬鹿。ウチと商会長じゃ月とダンゴムシの糞くらいの差があらーな。ふう⋯⋯あまり人前でそれを使うんじゃねえ。錬金術ギルドから適当なマジックバックでも用意するか。戦闘に邪魔にならないデザインが良いな⋯⋯ポーション入れタイプにするか? ⋯⋯ぶつぶつぶつぶつ」
バススさんが自分の世界に入ってしまった。僕はギブにギルドから持って帰ったお菓子を半分あげる。
ギブもお菓子大好きだからね。嬉しそうにしてくれたよ。
鞘から刃引きの折れた剣を抜いて、会計カウンターに置く。それを見たギブは少し難しい顔をしていた。
「ギブ?」
「んー、アーク。この剣じゃもう駄目かも⋯⋯こんな折れ方⋯⋯」
「え!? さっきは大丈夫だって⋯⋯」
「んー、父ちゃん。父ちゃん! おとーちゃーーん!」
ギブが叫ぶと、バススさんは現実に戻ってきた。「おっと、すまん」と言うと、バススさんは剣を手に取り小さく息を吐いた。
「こりゃ駄目だな。アークには使えんよ」
「ええ!?」
「もう鉄の剣じゃ駄目なんだ。剣がアークの力に耐えきれないってやつだな」
「ええ⋯⋯でも⋯⋯」
「これはもうアークにはついて来れん。大事な剣なのはわかるが、この剣のせいで怪我をしてしまうわけにもいかんだろ? だから、剥ぎ取り用のナイフか包丁にしてしまうのが良いかもな。どうだ?」
それなら良いかもしれない。一年半以上一緒に頑張ってきた剣が、これからもナイフになって一緒にいてくれるのならそれでもいい。
「わかりました。お願いします!」
「任せろ! この剣のことは良いとして、アークは剣を探しに来たんだよな?」
「はい!」
「予算はどれくらいある?」
僕は収納からお金を取り出す。またそれを見てぎょっとしていたが、バススさんは流すことにしたらしい。
お金はミラさんがくれた革袋に入っていた。中には大銀貨三枚と銀貨が二枚、大銅貨一枚に銅貨五枚で3215ゴールドだ。
僕の努力の結晶! 全財産である。
「ふむ。頑張って貯めたんだな。これなら原価は何とかなるだろう。ただアークはこれから成長するからな。多少長さを弄れるような術式を組み込むか⋯⋯なあアーク。剣は刃引きで良いのか?」
あ、考えてなかった。そろそろ魔物と戦いたいなって思ってたんだった。
刃引きの剣にしたら魔物と苦戦するかもしれない。多少は斬れるかもしれないけど、尖った鈍器と変わらないもんね。
訓練場でライノス、ロド、バイオと戦う時は、ギルドから刃引きの剣を借りれば良いかな? なら普通の剣にしてもらおう。
「今度町の外に出る予定なので、普通の剣が良いですね」
「何!? 町の外だと? 外は危ないだろう?」
「ベスちゃんに連れて行ってもらうの」
「はぁ⋯⋯アークの交友関係はどうなってんだ? ベスって竜戦鎚のベスだろ? Bランクの化け物冒険者じゃないか」
竜戦鎚のベス? 二つ名かな? 僕がベスちゃんに二つ名を付けるとしたら、デレ顔のベスだね。いつもデレデレしてるもの。子供扱いしないで欲しいよね!! ふんすっ!
「有名なの?」
「そりゃ有名だよ。この町の全員が知っていると言ってもいいくらいだ。Bランクにもなれば、他の国にも名が知れることもある。ベスさんが一緒なら心配あるまい」
「クレスさんよりも?」
「ん? 誰だそりゃ」
クレスさんよりも有名なのか。知ってる人は知っているんだけど。
「まあ楽しみにしてろよ。ミスリル合金の業物を鍛えてやるぜ」
「ええ!? でも、お金今はそれしか」
ミスリル合金の剣は8000ゴールドする。半額以下じゃないか。
「気にすんな。ギブの剣術スキルの御礼だよ。それに赤字にはならねーさ」
「ありがとうございます!」
「術式を組み込むのが面倒でな、完成は数週間かかる。代わりにこれで代用しておけ」
それは肉厚のナイフだった。でも僕が使うなら剣として丁度いい長さだね。しかも鋼鉄製! 細かい傷があるので新品ではないみたい。きっと貸し出し用の武器なのだろう。
「端数は返すよ」
少しお金を戻してくれた。215ゴールドだ。それでも僕には大金だよ。教会以外でお金使ったの初めてだな。もしチョコが欲しかったら、僕は商業ギルドへの配達依頼を受ける。依頼完了後、右手を出せば手に入るのだ。本当に美味しい依頼である。
「出来上がったら、ギブを通して伝えるからよ」
「よろしくお願い致します」
ペコりと頭を下げ、僕は家に帰ったのだった。
*
side ???
そこはドラグスのとある酒場⋯⋯脛に疵を持つような者達が集まる場所で、普通の人間は怖がって入ることは無い。ここには情報屋も出入りしていて、面白い話を聞くなら此処が一番である。
「まずはエールとソーセージだ」
「先払いだ。10ゴールド」
「チッ! ぼったくりじゃねえのか?」
「嫌なら帰れ」
なんて態度の悪い店だ! 俺は大銅貨を投げつけるように金を払う。まあ俺の態度も悪いわけだが、これが今のキャラ設定だから仕方がない。
俺はフーリール帝国の工作員だ。このヴィシュラリア王国を手に入れるため、俺のような工作員が多数潜伏している。
「ほらよ」
ジョッキが叩きつけられ、中身が少し零れた。素でイラッとしたぜ。キャラ的にも怒る場面だから、激しく小物っぽく睨む。
今日は客が少ないらしいな⋯⋯テーブルがガラガラだ。
フーリール帝国とヴィシュラリア王国は、昔は戦力差が大きく開いていた。フーリール帝国は軍事国家として、東へ西へと破竹の快進撃を続けていた。
そうだ。昔は敵無しの強国だったのだ。だが、先々代の皇帝の命令により、フーリール帝国は足を止めざるを得ない状況になる。何があったのかと言えば、皇帝が侵略行為を禁じたためであった。何故そうなったのかはわからない⋯⋯それまで皇帝は大陸統一のために力を尽くしていたからだ。
それには神が関係していたとか龍の怒りに触れたとか、そんな噂が立ったものだ。
勿論フーリール帝国は割れた。そんな急な方針転換に従える筈もない。帝国は三つに割れ、北のフーリール帝国、東のバンフリーゲル王国、西のレバタスク神国が誕生したのだ。
フーリール帝国はヴィシュラリア王国の北にあり、雪の深い土地である。食料を輸入に頼らねばならず、このままいけば民が飢えてしまうだろう。
そしてとうとう現代の皇帝が重い腰を上げたのだ。このまま飢えてしまうのならば、もう戦争しか道が残されていない。
俺は工作員として、このドラグスの町を荒らすのが使命だ。王都から程よい距離にあり、何か問題が起これば王国軍が直接出動してくれるだろう。
王都の北は買収に成功している筈だ。王都から軍が南へ離れれば、フーリール帝国は一気に国盗りに攻め入る事が出来るだろう。
だが準備にはまだ時間がかかる。半端な騒動では国は動かんしな。
このガルフリー領を混乱に陥れるだけの戦力を集めるのに、あと五年はかかるだろう。
俺は皇帝陛下から直々にダンジョンコアを授かった。これを町の近くに設置して、尚且つ見つからない場所を選び出し、人知れずスタンピードを作り上げるのだ。
後は人材だな。俺は作戦が終われば国へ帰らねばならん。なので俺自身がダンジョンマスターになるわけにはいかないのだ。ダンジョンマスターになっちまうと、もうそこからは動けねえし⋯⋯
欲望に満ち、小物で御しやすい奴が良い。今の俺みたいなキャラの奴がいればいいのだが⋯⋯
ソーセージを齧り、エールを煽る。酒は好きだが強くはないので、この一杯で十分だ。情けない⋯⋯もっと飲みたいが、国に帰るまでは無理だ。敵陣に一人ってのも、結構堪えるもんだぜ。
この領地の兵士は弱い。元Cランク冒険者が二人雇われちゃいるが、実力は中の中⋯⋯平凡だな。兵士の数も少ない貧乏貴族だが、まあ騎士爵家では立派な方だろう。だが問題は冒険者ギルドだな⋯⋯何故この小さな町にAランクが二人もいるんだ!?
巫山戯んなよ! 今更帰れねえよ!
あのギルドマスターのキジャはやべえ奴だ。夜勤のテイターもやべえ。Bランクも二人定住しているしな⋯⋯竜戦鎚のベスに蒼炎の魔剣騎士ベルフ。此奴らも帝国まで名が知れ渡る程の強者だ! 何故こんな田舎にいるんだよ!?
五年だ! 今に見てろよ!? まずはコアの宿主を探す! 準備が整い次第、Bランクと念の為Cランクを町から依頼で追い払う。
キジャとテイターは依頼でも外には出て行かないだろう。一番町から引き剥がしたい奴らなんだがな。
町の戦力を遠ざければ、こちらも手を打ちやすい。最後にスタンピードを利用して町を包囲出来れば完璧だ。
町を攻め滅ぼさない程度に攻撃し続け、出来る限り王国兵を釣る。何せ迷宮は金になるからな。王国は兵を動かしてでも取りに来るだろう。民を守るって口実まであるんだ⋯⋯食いつかないわけが無い。
そしたら俺はやっと帝国に帰れるんだな⋯⋯ああ、やべ、ちょっと酔っちまったぜ⋯⋯
コソコソ(*´ノU(・ω・゜゜)悪役出てきましたよ。
ヒロインはいつ出て来るんだ!(_・ω・)_バァン
ヒィー(>ω<ノ)ノ




