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デタラメな冒険譚が僕にくれたもの〜憧れを追いかける少年〜  作者: まあ(ºωº э)З
第七章 いきなり始まるスローライフ?
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変貌する格闘王





 僕達の家は、ホロホロ達に完全に包囲されています。どの窓からも鳥さんの顔しか見えず、鍵を忘れると首が中に入っているんだ。


 まるで⋯⋯そう。お金持ちの家にあるアレだね。剥製の頭部のやつ! 普通は鹿とかの首だと思うけど、ウチではこんなにでっかい鳥の剥製が! って⋯⋯駄目だよ動いちゃ⋯⋯も〜、動いたら剥製じゃないでしょ?


 激しく抵抗されるんだけど、(くちばし)を掴んでギューギューと押し出す。窓を閉めて鍵をかければ、流石の鳥さんも窓を壊してまで中に頭を突っ込んだりはしない。


 前は何度か壊されたりしたんだけど、怒ったらわかってくれた。

 鳥さん達は、『いややわ〜アークさんも怒る時は怒るのね〜』って顔をしてたね。


 とりあえずベッドに戻り、眠るビビの顔を見る。


 んー⋯⋯


 下唇を引っ張ってみると、小さな牙が生えているのがわかった。


 普段は人とあまり変わらないんだけど、血を吸う時にこれが伸びるんだよね。

 ビビは見ていて飽きないよ。本当にお人形さんみたいだ。


 今日は四十階層のボスを倒して、そのまま四十五階層まで攻略を進める予定なんだ。

 そろそろ僕も迷宮限定の魔法スキルを覚える事が出来そうです。


 迷宮魔法の取得条件は、千時間以上迷宮に潜る事。魔物を誰の助けも得ずに、一万体以上討伐する事。宝箱を百個以上開ける事。魂魄レベルが百以上である事。

 この四つの条件をクリアしないと、迷宮魔法を覚える事は出来ない。


 迷宮魔法を使える冒険者は、どのパーティーにも引っ張りだこらしい。

 迷宮限定になるけれど、探索に便利な魔法が沢山使えるようになるからね。


 セーフティーエリアの作成。日に一度しか使えないけど、階層移動が出来る魔法。迷宮内限定の収納魔法。かなり高精度な罠発見魔法。


 すっごく便利な魔法なんだけど、迷宮魔法を使える人は皆強いらしい。取得条件があれだから、理由は納得出来る。

 アウグシィスさんに聞いてみたら、迷宮魔法を使える人はパーティーには属したがらないらしい。変わり者が多いとも聞いたね⋯⋯



 ビビを見ながら横になっていたら、段々瞼が重くなってきた。


 ふわああ⋯⋯ちょびっと寝よ⋯⋯



三人称視点



 黒い髑髏のガントレットを装備して、Cランクの魔物を蹂躙している男がいた。

 ここは三十五階層で、土砂降りの雨が降る廃墟フィールドになっている。


「あの銀髪の女⋯⋯許さねえ⋯⋯」


 彼の名はヨコチン。先日アーク達に絡み、見事何も出来ずに追い返された男だ。

 冷たい雨に打たれながらも、当たり散らすかのように戦闘を続けていた。


 彼には格闘王という二つ名があり、その実力も名に恥じぬものであった。


 そんな彼を見つめる背中が三つ並んでいる。

 名はレティス、ドージ、アルファロと言う。


 レティスは左腕を失った女の子だ。歳はまだ十四歳だが、Cランク冒険者に匹敵する力を持っている。

 この歳では珍しい天才と呼ばれる部類の人間だろう。そんな彼女は深い溜め息を吐いた。


「兄貴、荒れてんな⋯⋯この前帰って来てからずっとだぜ」


 ドージがそんなヨコチンを見ながらレティスに話しかけた。レティスはその言葉に頷いて、もう一度深い溜め息を吐く。


 彼等、彼女はヨコチンのパーティーメンバーだ。

 冒険者パーティー“成り上がり”。二つ名持ちのAランク冒険者が率いるパーティー⋯⋯ドージもアルファロもレティス以上に実力がある。


 ドージは二十代後半で、頭にターバンを巻いた浅黒い肌の男だ。孤児で生まれがどこかもわからず、小さな頃は物理耐性スキルが与えられる程の迫害を受けた。


 アルファロは顔に仮面をつけた男で、中身は醜く奇形している。口からはヨダレが零れてしまい、右目は失明していた。

 彼もその見た目から、迫害の対象となり親にも捨てられている。


 このパーティーはそんな者の集まりで、故に深い絆によって結ばれていた。

 ヨコチンも元孤児であり、同じ経験をした仲間にだけは優しい顔を持っている。


 絶望に沈みかけた彼等を救ったのは、今八つ当たりで拳を振り回しているヨコチンだ。

 中身は結構クズで勢いとノリで生きているような男だが、彼等にとっては大切な恩人であったのだ。


「また女にフラれたかねえ」


「ははは。兄貴は色々すっ飛ばすからなぁ」


 アルファロとドージが笑い、レティスが不機嫌そうに頭を搔く。


「兄貴は私だけ抱いてくれりゃあ良いんだよ⋯⋯」


「レティスは大切にされてんだよ」


「そんな気遣いいらないよ」


「⋯⋯だってレティス、お前⋯⋯いや、何でもねえ」


「⋯⋯」


 少しの短い沈黙が、土砂降りの雨に流される。


 彼等はまだこの迷宮には来たばかりだ。Aランク冒険者の率いるパーティーと言う事で、転位所からは全ての転位陣を使わせてもらっている。

 一層から上がって来た訳じゃなく、三十五階層から攻略を始めたばかりだ。


 この迷宮には、冒険者ギルドから多額の報奨金がかけられていて、討伐すれば1000万ゴールドが支払われる事になっていた。

 その金があれば、レティスの腕を治せるかもしれない。アルファロの奇形した顔も、どうにか出来るかもしれないと彼等は思っていた。



 ヨコチンが魔物を倒し終わり、全員が一箇所に集合する。

 普段は全員で相手にする魔物だが、今日はヨコチンが一人で倒したいと言っていた。

 少しいつもと違うヨコチンに、三人は大人しく従う事にした訳だ。


「これくれーなら大丈夫だな。四十階層で暴れるとするか」


「兄貴、今日はやけに気合い入ってるね」


 レティスが機嫌良さそうにする。ヨコチンの豪快な戦い方を見るのが、レティスの何よりの楽しみでもあったからだ。


「ああ、俺はまだまだ力が足りねーと理解しちまったからな⋯⋯」


「そんな事は無いさ。兄貴ならドラゴンスレイヤーにだってなれる」


 ドージの言葉にヨコチン以外が頷いた。ヨコチンは更に深刻な顔をすると、剣呑な目を細めながら口を開く。


「⋯⋯そのドラゴンよりよっぽどやべえ奴が町にいた」


「町に⋯⋯」


「あれは化け物だな。手に入れてえ」


「それ程なのか?」


「ああ」


 ドージが拳と拳を叩き合わせと、衝撃波で雨が吹き飛ばされる。


「現在トップの“アーク探検隊”。巫山戯た名のチームだと思ったが、ありゃあ別格だぜ」


「⋯⋯」


 再び激しい雨が降ってくる。三人はヨコチンの言葉に息を呑んだ。


「まず銀髪の女⋯⋯あれは内包する魔力がとんでもねえ。その片鱗を浴びただけで、俺は膝を着いちまった⋯⋯それにリーダーのアークっつー餓鬼は、俺にはまるで底が見えなかったよ」


「そんな⋯⋯兄貴がそこまで言う程の相手なんですかい?」


 ヨコチンがここまで言うのは珍しい。ドージが目を見開きながらそう聞くと、ヨコチンは口角を吊り上げて笑った。


「もう一人の巨乳はどうとでも出来そうだったがな。いつかひん剥いて舐め回してやる」


「⋯⋯兄貴の阿呆⋯⋯」


 そんな下卑た笑いを浮かべるヨコチンに、レティスが不機嫌な顔をした。

 ヨコチンが苦笑いでレティスの頭に手を置くと、レティスの機嫌が途端に元通りになる。



 全員は直ぐに四十階層へ移動した。

 四十階層では、上位ランカー達が魔物を狩って魂魄レベルを上げている。それから三十五階層のボスへ挑むのだろうが、ヨコチン達には興味が無かった。


 目指すは迷宮の討伐と、莫大な金が目当てである。四十階層はまた洞窟タイプになっていて、様々な色の水晶が壁から生えて光っていた。


 暫く探索を続けていると、アルファロが宝箱を発見する。



「でかしたアルファロ。さて、早速⋯⋯」


 ドージがトラップの確認をしたが、別段危険そうなものは無かった。

 ヨコチンが宝箱に手をかけて、ゆっくりと中身を確認した。




 その時、宝箱から黒いオーラが解き放たれる。



「な、なんだ!?」


「あ、兄貴!!」



 ヨコチンはその黒いオーラに呑み込まれ、苦しそうに顔を歪めている。



「ぐ⋯⋯がぁぁぁああ!!!」


「そんな! 兄貴!!」


「来るな!! ⋯⋯ぐぅ」



 ヨコチンの体に変化が起き始める。


 肌は黒色に変色し、体が一回り大きくなった。頭からは角が伸びて、肉食獣のような目に長い牙が生えてきた。



「いやー!!!」

「兄貴!」

「なんて事だ!」


 ヨコチンは我を忘れているのか、近づいたアルファロを殴り飛ばした。


「ぐあ!」


「アルファロ!」


「だ、駄目だ! しっかりしてくれよ兄貴!!」


 ふらふらと近づくレティス。


「駄目だレティス! 今兄貴に近づいたら!」



「ぐぐぅ⋯⋯グガアアア!!!」



 ヨコチンの体から、とてつもなく激しい黒いオーラが放たれた。







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