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デタラメな冒険譚が僕にくれたもの〜憧れを追いかける少年〜  作者: まあ(ºωº э)З
第七章 いきなり始まるスローライフ?
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御祝いと町の人々 続





「お前を倒して俺は更に有名になる。いや〜⋯⋯こんな餓鬼がアークだとはな。ついてるぜ! カッカッカッカ! ついでに女もいただいてやる! 感謝するんだな!」



 ニヤニヤするヨコチンさんが、勝手にテーブルの上の料理を手掴みで食べた。


 あ、あれはビビの鳥肉⋯⋯あらら⋯⋯


 その瞬間、ビビから怖いくらい濃密な殺気が放たれる。


 音楽がピタリと止まり、踊り子さんは顔を青ざめた。


 これは駄目。


 僕がビビの頭にチョップを落とすと、溢れ出た殺気が急速に小さくなる。


「アーク?」


 ビビが捨てられた猫のような顔で僕を見つめてくる。


 でも駄目です。人様に迷惑をかけちゃいけないんだから。


「駄目だよビビ。皆困っちゃうじゃん。二階で激しくぶつかり合ってた気配も、さっきから動きが止まっちゃってるよ?」


「⋯⋯あ⋯⋯ごめん」


「うん。ビビがこんな場所で本気を出したら⋯⋯」


 酒場にいる人間全員が、顔にびっしりと脂汗をかいている。それはティーナも同じで、とても青い顔になってしまった。


「ヨコチンさん? 大丈夫ですか?」


「⋯⋯」


 ヨコチンさんも大量の汗をかいて、過呼吸を起こして(うずくま)っていた。


 ビビから殺気を直接叩き込まれた本人だからね⋯⋯


「ふ、ふざけやがって!」


 顔に怒りを貼り付けて、ヨコチンさんが立ち上がった。

 近くで棒立ちになっていた店員さんから、配膳中だったエールを奪って一気に飲み干す。


 飲み干したグラスをテーブルに乱暴に置いたので、ビシリと縦に亀裂が入った。


 あれはもう使えなそう。でもノーム様の力があれば⋯⋯


 入った亀裂が時間を巻き戻すように再生した。ノーム様は大地の化身だから、契約者の僕だってこれくらいの事は出来るんだよ。


 さてと、どうしようかな⋯⋯



「ヨコチンさんは僕と何で戦いたいんですか?」


 今ヨコチンさんはビビを睨みつけている。ビビは涼しい顔で追加を注文していた。


 まるで相手にもされてない事で、更に怒りのボルテージが上がっているよ⋯⋯僕の事なんて完全に無視だもんね。


「よ、ヨコチンさんは有名だが、流石に止めた方が良いだべよ⋯⋯」


「ああ!?」


「わ、わだすは止めたかんな? もう知らねーべ⋯⋯」


 顔を真っ赤にさせたヨコチンさんが、ティーナに向かって牙を剥く。


 ティーナにはまだヨコチンさんの威圧感が厳しいみたいだね⋯⋯手荒な真似はしたくないけど、そろそろ周りの迷惑になりそうだ。


 僕が座っていた椅子を引こうとした時、さっきの執事服っぽい人が現れる。



「すいませんがお客様」


「今度はなんだ!?」


 店の奥から冒険者さんがゾロゾロと出てきた。全員が完全武装をしていて、きっとこのお店が雇った用心棒的な人達だと思う。


「これ以上騒がれるようでしたら、店としても対処せざるを得ません。その場合は冒険者ギルドへも被害を届け出るつもりですが、如何致しますか?」


「⋯⋯ちっ! 冷めちまったよ」


 のしのしと歩くようにヨコチンさんが酒場を出て行く。流石に冒険者ギルドへ問題を報告されるのはまずいよね。

 きっとヨコチンさんなら用心棒達を蹴散らせるだろうけど、そんな事をすれば指名手配されてしまう。


「覚えとけよ⋯⋯」


「⋯⋯」


 ヨコチンさんがそんな言葉を残して行く⋯⋯僕だけ最後に睨まれちゃったよ。結局戦闘にはならなかったけど、あれ絶対後で何かやってきそうだなぁ。喧嘩とか好きじゃないのに⋯⋯


 ふう⋯⋯


「ありがとうございました」


「いえいえ。目立つ場所にいるのですから、ああいった事もあるでしょう」



 おじさんはニコリと笑って奥へ戻って行った。


 余裕のある人だなぁ⋯⋯力の使い方って色々あるんだね。


「あの人は裏の世界の人間だべ」


「え? 裏の世界?」


「んだべ。こういうお店を経営するには、そういう繋がりが必要なんだべよ」



 え〜っと、その裏の世界の人間って何? もしかして⋯⋯あの人は店の裏に住んでるのかな?


 ビビが僕の頭を撫でてくる。ふむ⋯⋯僕の考えは当たっているらしい。

 ずっと店の裏に住むなんて可哀想な人だね。そういう繋がりって、お客さんと友達になるって事なんだ。


 なら友達になってって言ってくれれば良かったのにね。



「それにしても⋯⋯」


「来るだろうか」


 ヨコチンさんがこれで手を引くとは思えないよね。絶対どこかでまた絡んで来ると思う。



「すまなかった⋯⋯あいつの言動には本当に腹が立──」


「チキンだよね?」


「それにあの舐め腐った態度を見てたら──」


「チキンで怒ってたよね?」


「あの顔が──」


「だからチキンだよね? チキン取られたからでしょ?」


「⋯⋯アークが馬鹿にされて嫌だったんだ」


「えへへ。知ってる」


 ビビの頭を撫でる。沢山撫でていたら徐々に機嫌が良くなってきた。



 青いドレスに合う綺麗な銀髪は、いつ触ってもサラサラで気持ちいい。


 酒場もさっきの賑やかな雰囲気を取り戻し、お酒に酔った人達が騒ぎ始める。


「こんばんは」


「あ、アウグシィスさん、サウマーレさん、ルルエラさん。お久しぶりです」


「こんばんは」

「こ、こんばんはアーク君⋯⋯」

「久しぶり。ちょっと良いかい?」


「はい」



 あのトラップ事件は直ぐに転移所へ報告され、新しく入る人に注意をしてくれるらしい。

 あれからなかなか会う事もなかったけど、御祝いの言葉とお菓子詰め合わせらしい物をいただきました。


「ありがとうございます。アウグシィスさん」


「いや、あの時は世話になった。ルルエラがこうして生きているのは、アーク君達のお陰だよ」


「ルルエラさんが助かって良かったです」



 三人には椅子に座ってもらい、一緒にお酒を飲んだんだ。僕はオレンジジュースだけどね。

 ルルエラさんはあの時混乱していたらしく、変な事ばかりしてごめんなさいだって。

 あまり気にしてないけど、ルルエラさんにとっては大事件らしいんだ。



「一応情報はもらってるんだけど、生の声を聞きたくてね」


「だと思いました」


 アウグシィスさんが、ただ御祝いを言いに来た訳じゃないのはわかってたんだ。

 三十五階層のボスの事だよね。種類やどんな攻撃をしてきたかなどを丁寧に教えてあげた。

 僕は三十五階層を突破した事で、ガジモンさんから報奨金も貰ったんだ。


 これが馬鹿に出来ない金額で、ランキングに夢を見る人の気持ちがわかった気がした。


 三十五階層のボスはデカい多頭のムカデだった。普通に倒しやすい敵ではあるけど、様々な魔法攻撃には注意が必要だ。

 最前線に挑む人達が集まって来て、僕達のテーブルの周りは大賑わいになっていく。


 後続の人がなるべく安全に着いて来れるように、僕はなるべくわかりやすく説明をしたんだ。

 誰にも死んで欲しくないし、これが仲間ってやつなんだと思う。



 本当に楽しかったんだ。もう楽しくて楽しくて⋯⋯





 帰る頃、僕達三人はマイ滑車を手にしていた⋯⋯あれ?






 遂に手に入れてしまった⋯⋯_(›´ω`‹ 」∠)_

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