土砂降りのフェイクタウン
Cランクの魔物は基本的に大きい。そしてそれに見合うだけの魔力を保有しているんだ。
だから発見する事は簡単で、こちらから奇襲する事が出来る。
三十一階層には石造りの民家が並んでいて、絶えず雨が降り続けているみたい。それと凄く寒い⋯⋯オレンジも無い。
ホロホロはガジモンさんに遊んでもらってるよ。流石にずっと雨の中なのは可哀想だからさ。
お店のような建物もあるけど、品物は固定されているのか動かせなかった。
不思議な階層だね。当たり前だけど、人が一人もいないんだ。それがちょっと寂しく感じてしまう。
服屋、本屋、肉屋⋯⋯全てが作り物でちょっと悲しい。きっと雨のせいでもあるのかな。
ビビが先頭を進み、ティーナが真ん中を歩く。僕は後ろで地図を書きながら、二人の背中に着いて行った。
きっと飛べば早いんだろうけど、そんな事をしたら直ぐにCランクの魔物に囲まれてしまうよね。
事前にティーナが用意してくれた雨具が、雨の音を響かせていた。
「どっちへ行くだ? ビビさ」
「こっちだ」
「迷いなく歩くだな⋯⋯」
「ふっ、適当に歩いているように見えるか?」
「いや、そんな事は言ってねーけんど」
「私は適当に歩いている」
「⋯⋯」
僕達はずっと情報も無しに攻略してきたから、いつも適当に進んでいるんだよね。ティーナがビビにからかわれているのを見ると、どっちがお姉さんなのかわからない。
ん? そう言えばどっちがお姉さんなんだろう? ビビは吸血鬼だし、ティーナはドワーフだし⋯⋯
でも年齢は聞いちゃ駄目だろうね。女性に年齢を聞いちゃいけないのです。
「視界も悪い、匂いもこの雨じゃな⋯⋯小さな音も消されてしまう」
「ちょっと休憩にしねーべか? わだす寒いだよ⋯⋯」
ティーナとビビの会話を聞いて、僕は警戒しやすい場所を探す。
「あそこが良いんじゃないかな?」
「三階建ての家か?」
「うん。それと一回戦闘になるよ。進路上に魔物がいるんだけど、避けてはいかないからね」
「「了解」」
僕は書いた地図を一度収納した。皆灰色のレインコートを着てるんだけど、僕だけは傘も差してたんだ。
じゃないと紙が濡れちゃうから、手が塞がるけど仕方ない。
態々魔物と戦うのは、魂魄レベルを上げる必要があるからだ。迷宮の攻略をするために、僕は沢山強くなる必要がある。
建物の隙間を移動して、僕達は魔物に向かって走って行った。
この雨なら足音も隠せるね。でも⋯⋯
「⋯⋯バレたかも」
「そのようだな」
魔力感知か気配察知かはわからないけど、僕達が近づいて来る事が敵に知られたらしい。
見なくてもわかる⋯⋯だって魔物の魔力が高まっているもの。背筋がゾクゾクしてくるように感じるのは、僕の本能が危ない敵だと言っているのかもしれない。
Cランク以上の魔物は一撃が強いから、僕だって油断をすれば死ぬ可能性だってある。
「ティーナとビビは左右から。僕は正面に出て注意を引くよ」
「「了解」」
体に魔力を漲らせると、青い光が放出された。わざとわかりやすくしてみたんだけど、上手く注意を引けているみたい。
魔物は狭い路地には入って来ず、そのまま悠然と大通りに立っていた。
「牛!」
闘牛のようにも見えるけど、家と見紛う程の大きさがあった。
地面を前足の蹄でガリガリと掻き、威嚇しているように見える。
「さあ! こっちだよ〜!」
牛は直ぐに飛び出して来た。ちょっとフォレストガバリティウスを思い出すね⋯⋯でもあの頃と今じゃ違う。
「“オーロラカーテン”」
オーロラカーテンを網のように張り、突っ込んで来た牛を正面から受け止める。
結構重い⋯⋯でも大丈夫!
「くらえ」
「んだべ!」
ビビとティーナが物陰から飛び出してきた。ティーナの“水神牙仙”が、水を纏って巨大な斧になっていた。
ビビは右腕に真っ赤なガントレットを装備している。
「ゴモアァァアア!!」
ビビが牛の後ろ足を完全に粉砕して、ティーナの斧が前足の一本を斬り飛ばした。
最後に僕が“オーラスティンガー”を繰り出して、牛の頭部を貫く。
「うん。討伐完了」
「や、やったべか?」
「Cランクって言ってもこいつは弱い方だったみたいだな」
確かに弱かったかも⋯⋯でも、僕達が強くなってるって事なのかもしれない。
迷宮は段階を踏んで強くなれるようになってるのかな? 誰が何のために作ったのか、もし知ってる人がいたら教えて欲しいです。
牛の血抜きは今度にして、今は収納しておく事にした。
目的の休憩地点へ移動すると、家の中を三階まで駆け上がった。
「なんもねーべな」
「コップ一つ無いね」
「他の家も同じだ。気にしても仕方ない」
レインコートを脱いで壁に掛ける。床に絨毯を敷いて、窓を黒い布で覆う。
一応魔物からバレにくくしたつもりだけど、真っ暗になるとティーナが地図を見れない。僕とビビは夜目がきくから、床にランプを置いたのはティーナのためだ。
「生ぎ返るなぁ」
ティーナが身体中にある沢山の装備を外した。ヘッドギアだけは残して、壁に寄りかかる。ヘッドギアが無いと見えなくなっちゃうからね。
僕達は身を寄せ合って、ティーナを挟んで毛布に包まった。
マグカップで温かい紅茶を飲みながら、僕はここまで書いた地図を絨毯に広げる。
「アーク隊長殿は温けえだなぁ。ビビはちょっと冷たくねーべか?」
「うるさい乳」
「な、なして怒るだべ?」
ティーナにはビビが吸血鬼だとバレてないっぽい。ビビは自分の体が冷たい事を気にしてるからね⋯⋯本気で怒る事はないけど、その代わりに傷ついているんだ。
ビビはティーナに自分が吸血鬼である事を話すつもりはあるのかな? ティーナならきっと気にしないと思うけど、ビビは知られたくないと思っているかもしれない。
ビビが僕の隣に引っ越して来る。ティーナも今の話がまずかったと思ったのか、少し視線を落とした。
でもこの二人なら大丈夫だと思う。ティーナもビビもとっても優しいからね。
「えーとね、地図だと今ここにいるんだ。歩いて来た道的に、探してないのはこっちの方」
話題を迷宮の攻略へと向ける。早く次の階層への扉を見つけたいな。
*
三十一階層は、三十階層よりも楽に感じた。奇襲する事が出来るし、魔物の数が少なかったからね。三十階層は沢山魔物が出てきて、良い経験は出来たんだけどさ。
三十二階層へ到着する頃には、ビビとティーナは普通に戻っていた。
ここも雨が凄い。三十一階層と同じで、偽物の街になっているね。
歩き出そうとしたら、人間の反応がある事に気がついた。
「⋯⋯近づかない方が良いよね?」
「そうだな。人の多かった低層とは違うし、無用なリスクは避けるべきだ」
三十二階層って事は、ランキング上位の人に決まってる。向こうだって僕達に近づこうとは思っていない筈⋯⋯?
「あれ?」
「⋯⋯」
「⋯⋯近づいてきてる?」
「⋯⋯どういう事だ? ティーナも一応警戒は怠らないようにな」
「わかっただべ!」
何があってこちらに向かって来てるのかわからないけど、その足取りにはかなりの焦りが感じられた。
全員で四人、ちょっと面倒な事になりそうだね⋯⋯
いつも読んで下さりありがとうございます(っ ॑꒳ ॑c)
久しぶりに朝ジャンル別ランキング五位に入らせて頂けました(*^^*)
これからも応援よろしくお願い致しますm(*_ _)m




