クックック⋯⋯哀れな○○○○よ!
ガジモンさんに報告をすると、
「ヌワンニィィイイ!!! 三十階層でレアボスだとぉぉおお!!!!」
うん⋯⋯想像以上に驚いていたんだ。その声は間違いなく町中に轟いたと思う。
その後生還の御祝いをされたんだけど、やっぱり肉てんこ盛りな料理が出てきたよ。
「じゃあティーナ。また明後日の朝ね」
「だべ! んではまた、アーク隊長殿!」
また一日休みにして、ティーナと別れていつもの場所へ帰る。
鳥さんが百羽くらいいました⋯⋯本当にどこから増えて来るの? 鳥さんの情報網がとっても気になる。
「アーク。流石に一羽くらい食っても──」
「だ、駄目〜! 絶対駄目〜!」
ビビがそんな事を言うから、鳥さん達が数歩下がっちゃったよ。いや、本当にね⋯⋯ビビがその気になったら一瞬で狩られちゃうからね。
一羽一羽を丹念に撫でて、いつもの場所へ家を出した。ビビとお風呂に入っていると、ホロホロが窓から首を突っ込んで来る。
「クルクルクルクルクルルウェ?」
「家の中は駄目だよホロホロ」
「クルルウェェェエエ工⋯⋯」
「⋯⋯」
なんだろう⋯⋯なんだか最近楽しくなってきちゃって、ここが現実なんじゃないかと錯覚する事がある。
ティーナとも別れる時が来るんだよ。そう思うと、凄く寂しいな。
ビビの顔を見ていたら、不思議そうに首を傾げた。
「どうかしたか? アーク」
「ん〜⋯⋯別に〜⋯⋯」
「⋯⋯ちょっとこっちへ来い」
「ん〜」
移動すると湯船が波立つ。ビビは僕を引き寄せると、後ろ向きに回して元の姿に戻った。
僕の脇の下に手を入れると、抱きしめながら頭を撫でてくる。
こうやって包まれるの好き。母様やミラさん達を思い出す。
ビビは何も言わなかったんだ⋯⋯僕の頭の匂いを嗅いだりして、ゆっくりとした時間が流れていく。
あ、肩を甘噛みされてる。ちょっと擽ったい⋯⋯
「あの迷宮って何階層まであるんだろうね」
「⋯⋯迷宮のフィールドが小さいと思わないか?」
「ドラグスの迷宮に比べると、全体的に広さが五分の一くらい?」
「そうだな。層が深ければ深い程、一階層は広くなると言われている。だからあっても五十階層程度だとは思う」
「そうなの? じゃあ半分以上はクリアしてるんだね」
「予想だけど」
ビビが二の腕の後ろを噛み始めた。ビビもちょっと寂しいのかな? 僕も対抗してビビの腕を噛んでみる。
「血を吸ってみるか? アーク」
「え? 美味しいの?」
「アークに私の血は美味しくないな。ただ、私はアークに飲まれてみたいと思った⋯⋯駄目か?」
振り返ってビビの顔を見ると、耳や頬が真っ赤になっている。
血を吸って欲しいなら吸ってみても良いんだけど、背中から伝わってくる心臓の鼓動が速い。
ビビの瞳の色が赤く染まっていて、余裕の無い表情だった。
「良いよ。ちょっとだけ⋯⋯ね?」
*
あれ? ここは?
いつの間にか僕はベッドの中にいるらしい⋯⋯でもなぜ?
「アーク! 起きたか!」
「ビビ?」
「良かった⋯⋯」
ビビが泣きそうな顔をしている。真っ暗闇の中、何故かその顔がくっきり見えた。
何だろう⋯⋯この感覚は⋯⋯今のビビは、闇に照らされて見えるんだ。
「アークが私の血を飲んで、急に気を失ったんだ⋯⋯私は慌ててベッドに運んだんだが、何をしたら良いのかわからなくて⋯⋯」
「んー⋯⋯でももう大丈夫かな?」
体調は悪そうじゃないね。寧ろ調子が良いと思う⋯⋯変な感覚だな。
ベッドから起き上がると僕はまだ裸のままだった。とりあえずパジャマへ着替え、冷えたオレンジジュースを取り出した。
なんだか無性にオレンジジュースが飲みたかったんだ。
「はぁ〜⋯⋯美味しい。甘酸っぱさが染み渡る」
快っ感!! ふぁ〜⋯⋯さてと、どうしようかな。夕食まだ食べてないんだけど、ビビがちょっと凹んでるね。
「アークに私の血は毒だったようだ。ごめん」
「凄く調子が良いよ? 真っ暗なのに、何でかビビがくっきり見えるんだ」
ビビはベッドの上で体育座りをして、肩にバスタオルをかけている。
これは一人で反省中の座り方だね。服着てからにすれば良いのにな。
ビビは僕の顔を見ると、その目を大きく見開いた。信じられないものを見るように、少し口が開いている。
「まさか⋯⋯そんな⋯⋯」
「え? どうかしたの?」
ベッドから降りたビビが、寝室から出て脱衣場に向かった。直ぐに壁掛け鏡を持ってきて、それで僕の姿を写す。
目が⋯⋯オレンジ色に光っている⋯⋯?
「私はもしかしたら、アークを吸血鬼へと変えてしまったのかもしれない⋯⋯」
「だからかな⋯⋯暗くてもくっきり周りが見えるんだ」
鏡を脇に退けて、悲しそうに僕を見ていたビビをベッドに引っ張る。仰向けに押し倒して、僕はビビの上に乗った。
「アーク?」
ビビの無抵抗な両手を拘束して、試しに首に噛み付いてみる。
んー⋯⋯やっぱり牙は出ないみたいだね。血も飲みたいと思わないし。
「血は吸いたくないみたい⋯⋯って、ビビ? 顔が真っ赤だよ? 大丈夫?」
「アークがこんな事するからだ⋯⋯」
こんな事ってどんな事? ビビがよく僕にするようにしてみただけなんだけど?
*
翌日、僕達は冒険者ギルドへ向かう。その途中で、食材とお酒の購入は済ませたんだ。
ドラグスへのお土産に、沢山の装飾品も買っている。皆喜んでくれるかな? 三百年も昔の物だから、珍しいとは思うんだけどね。
ギルドでハルキバルさんに腕輪を見せた。正体不明の万年筆を、僕はいつまで預からなくちゃいけないんだろう。
「流石アーク様です。もう六つ星なんですね。それも金の星」
「ハルキバルさんは今ランキング一位ですよね」
「それも後数日ですが⋯⋯」
「否定はしません。僕が抜かしちゃいますよ」
お互いに軽く笑い合った。でも、僕はこの人の考えが良くわからないんだ。
なんて言えば良いのかわからないけど、心に一枚の壁を作って話をされている感じがするんだよ。
万年筆の預かりは更に延長⋯⋯魔族の動きはまだ無いらしく、安全に姫様は護られているらしい。
ギルドから出て、ビビと町の中を適当にブラブラする。
ん?
「ビビ、多分あそこの角を右に曲がって三百メートル行った先に、僕を待つ哀れなオレンジがいると思う⋯⋯」
「アーク⋯⋯本当にごめん⋯⋯まさかオレンジ鬼になるとは思わなかったよ⋯⋯」
本当に⋯⋯オレンジに牙を突き立てたくて仕方がありません⋯⋯牙無いけど⋯⋯逃げ惑うがいい! オレンジ達よ!
ああ、飢えたアークが通りますぅ。すいません! 全部下さい!
*
休暇を終えた僕達は、ホロホロに乗って迷宮へと向かった。迷宮の入口で、いつもの兵士さんに酒瓶をプレゼントする。
すっごい笑顔で僕の頭をガシガシと撫でるんだ。
「いつもありがとな!」
「うん、またね」
僕達は迷宮の中へと入った。迷宮の中は夜の町。外は朝なのに不思議に思うよ。
ピラミッドの階段を歩いて下りると、沢山の人から注目されているのがわかった。
嫌な感じはしないね⋯⋯純粋に興味の目?
「なんかあったかな?」
「六つ星になったんだ。注目されて当然だ」
「あ、そっか」
迷宮には子供達もいるんだけど、憧れるような視線がむず痒いね。僕よりも凄い人が、三百年後に現われるんだよ?
父様と母様の名前が、過去の世界にも響き渡りますように。
ん?
「っ!!! ビビ! 約六百メートル先に不貞腐れたオレンジが!」
「昨日散々買っただろう?」
飢えたアークが通りますぅ。すいません全部下さい。
その後ティーナと合流して、僕達は再び攻略を開始した。
Σ(゜∀´(ω・` )ガブ




