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デタラメな冒険譚が僕にくれたもの〜憧れを追いかける少年〜  作者: まあ(ºωº э)З
第七章 いきなり始まるスローライフ?
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快進撃のアーク探検隊と町の噂話





 ティーナさんのローラー靴は、砂浜も海も関係無く進めるんだけど、六階層は島全体を探索しなきゃいけないみたい。


 海と砂浜の無人島⋯⋯とても綺麗な景色がいっぱいあって、思わずのんびりしたくなるね。


 無人島の中心には火山があって、それを鬱蒼としたジャングルが囲んでいる。鳥の鳴き声や、獣の唸り声が聞こえてきた。

 この島で戦う魔物は、主にホブゴブリンになりそう。


 ホブゴブリンはゴブリンの上位種で、装備の質がワンランク上だった。

 力もスピードも頭の回転も良くなるから、ティーナは苦戦するだろうね。


 ローラー靴だと森の中は辛いらしい。大きな根っこや落差があると、悲鳴を上げて転んでいる。


「アーク隊長殿。わだすは頑張るだ⋯⋯」


「その意気だよティーナ。きっとティーナには体術スキルが合ってるだろうね」




【アークによるティーナの育成計画が始まり、本人は知らず知らずのうちに魔改造されていく】




三人称視点



 そこは活気に溢れる酒場で、楽しげな音楽が流れていた。薄着の踊り子が舞い、それに見惚れた冒険者が声をかけている。

 二階は宿屋スペースになっていて、酔った勢いで重なり合う。ここはそういう大人の集まる酒場だった。


 その酒場で、ガイスとサシモンという男が噂話をしていた。酒の勢いもあり、話すトーンも大きくなる。


「ねえねえ逞しいお兄さん。私と二階で良い事しない?」


 そんな時、ガイスは褐色肌の綺麗な踊り子に話しかけられ、ほんのりと頬を染めた。


「今ちょっと話し中なんだ。他の奴に──」


「貴方が良いのに⋯⋯いっぱいサービスするわ」


 踊り子はふわりとガイスの膝に乗り、胸の谷間を見せつけた。見た目とは違い純情なガイスは、そんな踊り子の誘惑に更に赤面する。


「あ、後でな⋯⋯今は連れがいるんだ」


「約束よ♡」


 踊り子はガイスの頬にキスをすると、またふわりと浮かぶように離れて行った。


「ガイスはモテんな。羨ましいぜまったくよ」


「⋯⋯サシモンはその無精髭をどうにかしろよ」


「へっ、めんどくせー」


 自然とグラスをぶつけ合う二人。彼等はDランク冒険者で、同じパーティーメンバーだ。

 この二人は一度アーク達に会っている。五階層のボス待ちの列で、ガイスとサシモンはアーク達の前に並んでいた。


 サシモンは豆と挽き肉の炒めた料理を、美味そうにスプーンで勢い良く口にかっ込む。


「あいつら⋯⋯何なんだろうな?」


 ガイスがボソリと呟いた。サイモンはそれだけで何の事かがわかったらしい。



「俺が知るかい! 噂じゃ明日にも三十階層だとよ」


「はぁ⋯⋯マジかよ。ただの子供だと思ってたんだがな⋯⋯ちゃんと通常フィールドもクリアして進んでると聞いたよ。それも楽しそうに進んでるらしい」


「は! 信じられん。二十階層の後半っていったら、Dランクの魔物がうじゃうじゃいるんだぜ? 俺達だってまだ歯が立たねえんだ」


 今はこの噂話が一番熱い話題になっている。小さな子供三人組が、五つの金星をぶら下げていたとかなんとか。そんな事は嘘だと笑い飛ばす者もいるが、実際に何人もがそれを見ているのだ。


 サイモンがエールをがぶがぶと呑み、追加で塩茹でソーセージを注文した。


「金星五つなんて化け物だ。二十五階層のボスっていったら、Bランクの中でもかなり強え筈だ。Cランクの魔物でも、俺達じゃ絶対倒せねえぞ?」


「わかってるよ。認めたくは無いが、あいつらは俺達より遥かに上だ。もし六つ目の金星を手に入れたのなら、あのSランク冒険者と同じになるな」


 Sランク冒険者とは、誰もが憧れて目指す頂点だ。そんな人間が出した記録と並ぶ事になれば、もはや実力を疑うような奴はいないだろう。



「へ、そんな大した奴らかよ」


 そこへ一人の獣人の少年が近づいて行く。見た目は十歳くらいで、腕にはキラキラと光る六つ星が輝いていた。

 だがそれは全て銀の星だった。彼はそもそも冒険者見習いで、戦闘の役に立つ事は無い。迷宮へ来たのは荷物持ちとしてで、彼自身の力ではないのだ。

 それでも、その銀星を自慢したいらしく、事情を知らない冒険者を見つけては、こうして声をかけて回っている。



「俺はAランク冒険者チーム“獣人の集い”のメンバーさ」


「いや、聞いてねーけど」

「聞いてねえな」



「⋯⋯や、奴らはまだまだヒヨっ子さ。マイ滑車すら持ってないんだからな!」


「「俺達も持ってねーな」」



 ガイスとサイモンはハモった事に苦笑いになりながらも、偉そうに威張った少年の顔を見る。相手にする必要も無いのだが、からかえば面白そうだと思ったのだろう。


 そこに更に獣人が歩いて来て、その少年にゲンコツを落とした。


 良い音が鳴り響くが、それも直ぐに酒場の音楽に流される。


「痛い!」


「大人しくしてろ。済まなかったな」


 似たような角を持つ獣人に、ガイスとサイモンは親子なのかと思った。しかし、詮索すると経験上ロクな事がない。サイモンは獣人の二人に軽く手を振り、気にしてないとアピールをする。


「“獣人の集い”はランキング三位になりましたな。流石Aランク冒険者のチームです」


「いえいえ。私達などはまだまだです。二つ名持ちもいないチームですからね」


 サイモンは口調を正し、獣人の大人に喋りかけた。Aランク冒険者というだけで凄い事なのだが、二つ名を授かる奴はそうそういない。


「酒を一杯ずつ奢らせてくれ」


 獣人の男はウェイトレスを呼び、エールを二杯注文した。


「なんか悪いですね。気にしてはいませんが」


「いえ。目立つ場所へいると、些細な事でも何があるかわかりませんからね」


 それは何にでも言える事だろう。上に立つ者は、否応なく嫉妬されやすい。注目を集めると色々なしがらみがあるのだろう。


 ガイスとサイモンは素直に酒を奢られると、去る二人の獣人を見送った。



「ヒュー、貫禄が違うぜ」


「あははは、俺達もああなりたいな」



 二つ名持ちではないとはいえ、Aランク冒険者は憧れる存在だ。



「獣人の集いは確か三十四階層まで行けたんだったよな。Cランクの魔物が彷徨く場所なんておっかねぇ」


「全くだね」


「子供らが何処まで行けるかも楽しみだ」


「ここまであっという間だったなぁ。俺達も頑張らないと」


「そろそろ挑戦するか? 二十階のボスによ」


「いや、焦りは良くない。もう少しレベルを上げないとな」


 ガイスの言葉に、サイモンはニヤリと笑った。


「そういう慎重なところがお前らしい。頼りにしてるぜリーダー」


 グラスをぶつけ合い、二人は一気に酒を飲み干した。


 アーク冒険隊というチーム名は、徐々に町中へ轟始める。現在はランキングにも載り、アーク達に憧れる子供達が増えてきたらしい。


 だがこの噂話に納得していない者が一人いた。



『わだす⋯⋯子供じゃねーべ⋯⋯』






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