ランキング目指して頑張ろー!
五階層のボスを倒さないと、六階層へ入る事は出来ない。だからボス部屋って言うのは階層の狭間なんだよね。
今僕達は、順番待ちをするパーティーの最後尾に並んでいる。
魂魄のレベルアップを狙う人や、ボスを倒した戦利品狙いの人達だと思う。
僕はこの迷宮に来てからまだレベルは上がってません。強い魔物がいないから仕方ないよね⋯⋯でも三十階層からはレベルアップに期待してるんだ。
「許可出来ません! 君達三人だけだなんて、もしガジモン様に知られたら⋯⋯」
転移陣の管理をしている職員さんが、ティーナの事を心配しているみたいだね。
必死に止めようとしているけど、ティーナは行く気満々な様子。
「わだすはじいちゃに許可さもらってるだで?」
「なんですと!?」
ティーナが胸を張って上半身を仰け反らせる。それでも納得がいかないといった様子で、職員さん達はコソコソ内緒話を始めた。
「ほ、本当だと思うか?」
「いや⋯⋯どうだろう? 何も無い場所で転んでパンツ丸出しになるティーナ様だぞ?」
「俺この前椅子から転げ落ちたの見たぞ? パンツも見た」
「それは俺も見た事ある⋯⋯」
「俺もだ⋯⋯」
「階段からも⋯⋯」
「水溜まりでも転ぶな」
「バナナの皮の手前でも転んでたな」
わざとなのかな? 少し聞こえてくるよ。ティーナ⋯⋯転び過ぎだと思う⋯⋯それは心配になるに決まってるよね。
ボス待ちの列は、遅くても三十分ぐらいで一組進むみたい。職員さん達の話をスルーして、僕達は前に進んだ。
ボスへの扉は今黒くなっている。それが銀色へ戻った時、次のパーティーが中へ入れる合図となる。
一人が扉から転移すると、扉の光が弱くなっていくんだ。数十秒で光が消えちゃうみたいだけど、それまでは続けて入る事が出来るみたい。
列は進み、後一組進めば僕達の番になる。ワクワクして待っていたら、前に並んでいたお兄さんが振り返った。
「は? 子供? お前達三人だけか?」
「はい。やっぱりボスは強いですか?」
「当たり前だろう! 魔物のランクで言えばDランクはある。それをお前達子供三人だけでなんて無謀だろう」
「御心配ありがとうございます。まだ実績も無いので不安に思うかもしれませんが、必ず戻ってきますので御安心を」
「いやいや、やめとけって──」
「おいガイス。順番だぞ?」
「ああ、悪ぃ」
こう言われるのは仕方ない。早く大きくなりたいです。
納得いかなそうに振り返るお兄さんにお辞儀をしました。あの人は冒険者さんなのかな?
十五分くらいの時間が経ち、扉が再び銀色に光る。
普通に倒したんじゃ駄目かな?
「ビビ、僕達は実力を証明する必要がある」
「じゃあ速攻かな?」
「どういう事だべか?」
実力を証明する確かな方法なんて一つしかないよね。
「ティーナを頼んだよビビ、五階層に戻って合流ね」
「わかった」
僕は一人でボス部屋へ入る。入った瞬間にSスタンダードのレベル3になり、中央でふんぞり返っていた大きなアーマースケルトンを発見した。
体から邪悪な黒いオーラを漲らせ、大楯に巨大な錆びた剣を装備している。
即ダッシュから“加歩”を使い、ボスの懐へ飛び込んだ。銀の奔流を纏わせた拳を、そのがら空きの胴体へと叩き込む。
「はぁああ!」
スキルは使ってないけど、僕の全力の力を込めた拳。銀の奔流を一点に集中させると、アーマースケルトンは抵抗も無く爆散した。
父様は死線を何度も潜ったって言ってたけどさ、三歳の時にSランクの実力があったなら、それ以上の魔物が沢山いるって事だよね?
僕はまだまだ強くならなくちゃいけない⋯⋯でも、速攻で倒す事は出来ました。
もしかしたら、この迷宮の最短記録かもしれないよ。
装備や骨を収納して、直ぐに来た道を引き返す。
「ふぅ⋯⋯討伐完了です」
六階層へ進む扉も現れたけど、僕は戻る扉に触れたんだ。
ビビとティーナが出てきたら、一度迷宮から出ようと思う。ビビの体調をリセットしたいのと、ペットの鳥さんに餌をあげたいんだ。
「な、何だと!?」
「え?」
驚きの声が聞こえてきたので、気になって見てみる。すると、さっきのお兄さん達が休憩をしていたみたい。
「あれ? ここは?」
確かにちゃんと戻ったのに、何で出た場所が違うのかな?
「ここは五階層のボス討伐帰還ポイントだ! 俺達がボスを倒してから一分も経ってないんだぞ!?」
「直ぐに倒しましたから、多分そろそろ後二人も──」
背後の空間が光輝いて、何も無い場所からビビとティーナが現れる。噂をすればってやつだよね。
「おかえり。ビビ、ティーナ」
「ただいま」
「わ、わけわがんねーだ⋯⋯ボスが一撃とか有り得ねーべ?」
あの程度のボスなら当たり前だね。ティーナがブツブツ何かを言っている。
「お疲れ様。じゃあ町へ戻ろうか」
お兄さんに小さく頭を下げて、僕達はその場をあとにした。
「ティーナ、迷宮はどうだった?」
「迷宮よりも、アークとビビに驚き疲れただや⋯⋯こげな強さがあるのなら、じいちゃがわだすを預けた理由もわかるべよ」
「楽しかった?」
「⋯⋯それはもう」
ティーナがにっこりと笑う。楽しかったのなら良かったよ。ティーナと一緒に冒険して、僕もすっごい楽しかったんだ。
ボスの扉がある部屋に戻ったら、転移陣を管理していた人もかなりびっくりしていたよ。早速帰還の魔法陣を使わせてもらって、一階層の転移所へ戻ってこれました。
「ふぁー。長かったんだか短かったんだか⋯⋯」
「かなり早いペースだと思うべよ」
転移所の受け付けで金の星を貰い、三人で腕輪に付けました。
「わだす、ボスじゃ何もしてねーべ? 星もらうのは悪か気分さなるだな」
「星一個目だ。やったー!」
「良かったなアーク」
「き、聞いてるだか?」
えへへ。ビビに撫でてもらえた。嬉しいなぁ。
五階層じゃまだランキングには入れないみたい。転移所にいた受け付けのお姉さんに聞いてみたら、
「ランキングに入れるのは二十階層からになりますね。っふんす! 探索のチームは約五千組が登録されています。っふんす! 動いているパーティーは千組に満たないですが、ランキングは上位二%の狭き門です。っっふんす!! 入れるだけで凄いんですよ!!! っふんっすぅ!!!」
「なるほどです。っふんす! ありがとうございます。っふんす!」
「っふんす!!」
「っふんす!!」
って言われたんだ。という事は? 百位までがランキングに入れる計算になるよね。
「そう上手くはいかねーだ⋯⋯」
ティーナが真剣な顔をしている⋯⋯何でなのかな?
「ランキングは皆の憧れだ。そこに入れるっつー事は、本当に大変な苦労さかか──」
「アーク。早く出よ?」
「そうだね」
「って聞いてなか!」
別れる前に、ティーナにぎゅっと抱き着いておく。ティーナはドワーフで身長が低いから、胸に顔が埋まっちゃうぅ⋯⋯ふわふわで気持ちいい。ミラさんを思い出すよ。
「ティーナ。明日はお休みで、明後日の朝に転移所で待ち合わせね」
「わかっただべ。わだすも色々と用意したいだでな」
頭と背中を撫でられた。丸一日休みを入れたけど、ビビの体調が良くなるかはわからない。
ティーナに手を振って、僕とビビは鳥さんホームへ帰ってきた。
ま、眩しいよぉぉぉぅおああああ!
「た、卵が⋯⋯」
「またやばいくらいにあるな」
庭を埋め尽くす黄金の卵の山。鳥さんも五十羽くらいになってるし、流石にこれ多過ぎじゃないかな?
「クルルウェ!? クル、クルルウェ!?」
「クルルウェ! クルルウェ! クルルウェ!」
「クルルウェ!!!?」
「あはは。ただいま皆」
一羽ずつ撫でるのも大変。僕が帰ってきたから、皆も喜んでるみたい。鳥さん達は、頭を擦り付けて来るから本当に可愛い。よしよしよしよーし。
「ビビ、体調はどう?」
「迷宮を出たら楽になった。もう欲じょ⋯⋯あ、も、もう大丈夫だ」
「? それなら良かった。明日一日休めば大丈夫?」
「う、うん。ごめん⋯⋯ありがとうアーク」
ビビの顔が少し赤い。やっぱり辛かったのかもね。
次の日、ギルドで追加のお金をもらい、食材とお酒を沢山買い込んだんだ。そしてそのまた翌日、僕達は六階層に立っている。
んんんん〜!!
「アーク探検隊! 今日からまた宜しくお願い致します!」
「よろしく」
「だべ」
海の匂いと波の音。照りつける太陽を浴びて、僕はとてもワクワクしているんだ。白い砂浜とコバルトブルーの海⋯⋯海を見れるなんて感動しちゃうよね。
凄いなぁ⋯⋯これが六階層なんだ。海は父様や母様の話でしか知らないんだよね。新しい冒険に出発です!
「皆。海にはリヴァイアサンが沢山いるから気をつけてね!」
「リヴァイアサン? 伝説の魔物だろ?」
「いたら探索禁止されてるべ」
いーーや! リヴァイアサンはいるよ! だって父様が海に行くと、毎回お話に出て来るんだもんね。ワンパンで倒されちゃうけど、とんでもなく強いらしい⋯⋯ゴクリ。
お気軽に感想など宜しくお願い致します(っ ॑꒳ ॑c)




