体育座りするしかねーべ(´・ω・`)
アーク探検隊二日目。ティーナは順調に強くなっている⋯⋯でも、
「あんぎゃァァあああ!!!」
魔物が出て止まる度によく転ぶんだよね。手を貸して立ち上がらせると、申し訳なさそうな顔をする。
滑るローラー靴は急停止に弱いみたいで、改良の余地が沢山あった。
「んー⋯⋯ティーナばかり狡い。ローラー靴楽しそうだね。ビビ」
「私は羨ましいとは思わないぞ? それに走った方が速い」
「あんたら体力のお化けだべか⋯⋯わだすの方がバテてるべ」
二階層もスケルトンばかり出てきたんだ。ティーナの武器は特殊なハンドアックスと、爆弾のような魔導具を投げたりしている。
高起動なローラー靴を使って、ジグザグに動いて敵を翻弄する。すれ違いざまにハンドアックスで攻撃するんだけど、その高起動にティーナも翻弄されてるんだよね。
全部が噛み合って、バッチリ決まるとかっこいいんだ。それに、ティーナの靴は壁も天井も走れちゃうんだよ。本当に凄いんだから。
こういう洞窟タイプの場所だと、縦横無尽に走る事が出来るね。ガジモンさんが言ってたようにちょっと運動音痴だけど、低階層なら問題無さそう。
転んでしまうと三十階層は危ない⋯⋯多分Cランクでスピードタイプの魔物が出たら、ティーナのカバーが間に合わないかもしれないもんね。
三階層はスライムも混じってきた。スケルトンの体の中から飛び出してきたりして、不意を突いてこようとする。
頭蓋骨や腰布に隠れていたりするんだけど、ビビが嫌そうな顔をしていたよ。
「ブラブラするな!」
「あれ、チンチ──」
「それ以上は駄目だ!」
え? だってあれチンチ「ごほん」に見えたんだけど⋯⋯
三階層も洞窟タイプなのは変わらないけど、少し敵との遭遇率が上がった気がするよ。
四階層へ到着したところで、僕達は二回目の野営をする事になった。迷宮の中だから、昼も夜も無いんどけどね。
「も、もう駄目だで⋯⋯肩が凝って動けねえべ」
「ふむ⋯⋯私が肩の荷を降ろしてやろうか?」
ビビが赤いナイフを作り、ティーナの胸をペチペチ叩く。もう少し進みたかったけど、ティーナが体力的に限界を迎えちゃったから仕方ない。
ビビに五階層への扉を探してもらい、その間に僕は夕食を作る。
ティーナに雲海ズベーラを食べてもらいたいんだ。僕とビビも初めて食べるんだけど、どんな味がするんだろうね。
無限収納から取り出し、タイムロックが解けた瞬間に紫電を浴びせた。
ちゃんと気絶してくれて良かったよ⋯⋯もし逃げられたら大変だもんね。
尻尾を落として血抜きをする。貰った刀で三枚におろし、少し塩をふりかけて水を抜いた。
初めて刀を使いました。ガジモンさんありがとう。
身は透き通るような白で、ちょっと薄切りにして一口食べてみる。
歯ごたえがあって、コリコリとしているかな。噛めば噛む程脂が出てくる⋯⋯それと、海の香りがしない? 変わった味だね。
あのおじいちゃん精霊さんは、焼いたら美味しいって言ってたよね。ちょっと火を通してみようか。
次は少しお湯に潜らせてみた。すると、身がふわっふわになって、口の中でとろけていく。
美味しい! うん。決めた! 今日は雲海ズベーラスープにしよう! 鳥団子も入れて、野菜もたっぷり入れればきっと最高だ。
小麦粉でうどんを打つ。これは〆にしようと思う。
紅茶を飲みながらキッチンで一息ついていると、家の扉が開いた。
「アーク。五階層の扉あった」
「おかえりビビ。場所は遠い?」
「そうでも無い、ティーナは?」
「ソファーで寝てるよ」
ビビはソファーをチラリと見ると、僕にぎゅっと抱きついてきた。
なんかちょっとドキっとしたんだ。何でなのかな?
あ、ビビの目が赤くなってる⋯⋯
「アークぅ⋯⋯」
「ここで? ティーナ起きちゃうかもよ?」
頭を撫でてあげても、瞳の色が戻る事は無い。我慢出来ないのかな? 背中もゆっくり撫でてあげたんだけど、ビビから激しい鼓動が伝わってきた。
「迷宮に入ってからなんだが⋯⋯私の、本能的な部分が強くなっているみたいだ」
「本能? どんな感じなの?」
「⋯⋯」
僕はビビに押し倒される⋯⋯持ってた紅茶が零れちゃったよ。
荒い呼吸を繰り返しながら、ビビが僕の上にまたがった。
ちょっと乱暴だ。それだけ辛いのにな?
暫く僕を見下ろしていたビビが、ふわりと上半身を重ねてくる。
もう一度背中を撫でてあげよう。真子ちゃんの作ったメイド服は、すべすべしてて気持ち良いんだ。
「大丈夫?」
「今は見ないで⋯⋯」
顔が真っ赤になっていた。僕の襟元をはだけさせると、ビビが甘噛みしてから牙をたてる。
「“オプティカルカムフラージュ”」
ビビは吸血を僕以外に見られたく無いみたいだから、一応姿を消しておいた。
ティーナは足を痙攣させて、死にそうな顔で眠っているよ。パンツ丸出しになってる⋯⋯
この後皆で夕食を楽しんだんだけど、ちょっと上の空になっちゃったよ。雲海ズベーラは美味しかったよ? ティーナが体育座りするくらいに美味しかった。
でも何故かビビが気になっちゃって、あまり料理に集中出来なかったんだ。
*
次の日、やっぱり雲海ズベーラは美味しかったと思った。変な感じはあの時だけだったみたい。
五階層を午前中に突破した僕達は、お昼にはボス部屋も見つけていたんだ。
五〜八人くらいの人達が、何組も纏まって同じ場所にいたから変だと思ったんだよね。行ってみたら、次の階層へ進む扉があったんだ。
小さな建物があって、その扉を何人かの武装した人が守っている。
「おい、お前達」
「はい?」
「子供がこんな場所で⋯⋯え?」
きっと転移陣を管理してる人だと思う。その人が僕達の腕輪を見て驚いているみたい。
「僕達は一階層から来ました。あの扉がボス部屋ですか?」
「まじか⋯⋯こんなに小さいのに⋯⋯あ、ティーナ様まで!?」
ティーナを見てびっくりする職員さん。ティーナは頑張ってるよ? 何回体育座り見たかわからないよ。
「直ぐに帰還の準備をさせていただきま──」
「待って下さい。一度戻るのはボスを倒してからです」
「へ?」
這い寄るビビ様┌(⊙ω⊙┐)┐




