ガジモンさんと転移の腕輪
僕とビビはグラウンドの中央に腰を下ろした。ラックさんに指示をされて、体育座りになる。
ビビの得意な座り方だね。反省中はいつもこれなんだ。
「いいかい君達。本当なら門前払いしているところだけど、特別に試験をしてやるんだからな」
「はい! ありがとうございます!」
「恩着せがましい⋯⋯」
「ん? 何か言ったかい?」
「いえ! 何も言ってません!」
「言ってません。にゃん」
ちょっとびっくりしました。こういう登録みたいなのがある時は、ビビに大人になってもらった方が良いかもね。
そうすれば多少スムーズに事が進む気がするよ。
「ちゃんと聞いてくれよな? この迷宮はね、一階層からスケルトンが出るんだ。力も強いから、油断してると直ぐに死んでしまう。だから君達みたいな子供が挑戦するのは難しいのさ」
「スケルトン! ゴーストじゃないなら大丈夫ですぅ⋯⋯ゴーストは怖いですし⋯⋯本当にやめて下さいとしか言いようがなく、もし急に後ろから脅かされたりなんかしたら、一気に全ての力を解放してしまうかもしれません」
「⋯⋯この迷宮にゴーストはいないよ。それに肝試しじゃないんだから⋯⋯魔物が脅かしてくる事は無い」
そんなのわかんないよ? わっ! ってされたらどうするのさ。怖⋯⋯
「えーと、試験は何をするのですか?」
「そうだな⋯⋯まずは逃げ足の速さを見ようか。追いかけるから逃げてみな」
なんだ。試験って言うから戦うのかと思ったよ。なんて言うか、今考えたような試験だよね。
僕とビビは立ち上がり、ゆっくりその場から離れた。
「まずはメイドの子からかな」
「わかった」
〜十分後
「ゼヒュー⋯⋯ゼヒュー⋯⋯ゼヒュー⋯⋯きょ、今日はこの辺で勘弁し、してやる⋯⋯ゼヒュー⋯⋯」
「そうか」
小鹿のように笑う足を押さえて、ラックさんは何とか言葉を発していた。
ビビは一メートルくらいの距離で、ずっとバックステップだけで逃げていたね。全く捕まる気配が無かったよ。
「隙あり!」
「無い」
──ズシャア!
ビビが襲いかかってきたラックさんを、余裕をもってヒラリと躱した。
この人は遅いな⋯⋯走るの苦手なのかもね。それとお尻が出てますよ?
「こ、こういうスケルトンもいるって実演しただけだ⋯⋯」
「ありがとうございます! 次僕ですね!」
「走れる訳無いだろ! 次は魔力測定だ!」
「はい!」
「走れよ⋯⋯」
「何か言ったかな?」
「何も言ってません!」
僕は何も言ってません。
魔力測定とか初めてだね。何をするのかな?
ラックさんがヘロヘロと歩き、丸い水晶のような物を持ってきた。
占いでもするのかな? あれをどうするの?
「まずはお手本を見せてやる」
ランクさんがその水晶に魔力を流し始めたのがわかる。魔力の流れを見れば、だいたいやり方は理解出来るね。
「こうすると水晶が光り出すんだ。そして──」
──この後も色々やらされたんだ。魔力測定では水晶が割れちゃって大変だった。力の測定や短距離走なんかもやらされたね。
ラックさんの驚愕顔のレパートリーには驚きました。そして何だか周りが賑やかになってきたよ。僕達を見守る冒険者さん達がいて、値踏みされているようにさえ感じる。
まさかとは思うけど、勧誘されたりするのかな?
「アーク⋯⋯いい加減馬鹿らしくならないか?」
「ビビ。もう少し我慢しよ?」
「アークがそう言うなら⋯⋯」
迷宮の探検が始まらないまま、この町で一泊とか嫌だからね。ビビが不満に思うのも良くわかる。
「ま、まだだ! あの的を見ろ!」
ラックさんがまた何かを用意したみたいだ。僕とビビはうんざりしながら、ラックさんの試験に付き合ってあげる。
「あの的は竜の鱗を削って作った物だ。この場所から魔法で攻撃して、見事破壊出来たら試験合格だ!」
「わかりました!」
「自分が出来ない事をさせるな⋯⋯」
「何か言ったかな?」
「何も言ってません!」
「ません」
ビビの機嫌が良くないのには理由がある。後で何かしてあげよう。
多分これは精神圧縮によるストレスが、自分でも気がつかないうちに表に出てるんだと思うんだ。
僕はまだ大丈夫だけど、これからまだまだ辛くなるからね。ビビには覚悟をしてもらわなくちゃ。
僕達は軽い魔法で的を壊す。イフリンと契約しているから、ファイアバレットでも破壊する事が出来た。
竜の鱗って言っても、生きた状態とは違うだろうね。ビビは赤い手裏剣のような物を投げる。それが的に突き刺さると、増殖して針山のようになった。
あれが生き物に当たった時を考えるとゾッとするね⋯⋯ラックさんも同じ事を考えていたようで、その顔を真っ青にしているよ。
「馬鹿な⋯⋯有り得ない⋯⋯」
僕の的は溶解し、ビビの的は粉々⋯⋯膝をつくラックさんの後ろでは、僕達に拍手をする人がいた。
もっさりとした髭が凄いドワーフさんで、髪の毛はくすんだ金色だった。
「素晴らしい。ハルキバルがお前さん等をもてなせと言うから、気になって見に来て正解だったわ」
そのドワーフさんはゆっくり僕達に近づいてくる。
あれ? 身長が二メートルはあるかもしれない? 横にもかなり大きい⋯⋯オーガもびっくりのマッスルボディー!?
「こんにちは!」
「こんにちは。にゃん」
「おーおーこんにちは。カッカッカッ」
歩く度に地面が揺れた。鉄板を何枚も重ねたような胸部装甲⋯⋯ガントレットも凄く重そうだね。
「エルダードワーフのガジモンだ。転移所の管理者をしている」
「僕はアークです。山中で鳥に囲まれる日々を過ごしています」
「ビビ。にゃん」
「よろしくな。着いて来い」
有無を言わせない迫力がある。放心するラックさんが気になったけど、今はガジモンさんに着いて行こう。
転移所の中に豪華な部屋があり、大きな円卓に沢山の肉料理が並んでいた。
もう肉肉肉尽くし! 凄く食欲を刺激する匂いだね。
「もてなしと言えば肉と酒しか思いつかなくてな」
「いえ。僕達は迷宮を探検したいだけなのです。だから⋯⋯その──」
「そうだったのか⋯⋯ケーキも用意させてるんだが、無駄に──」
「もてなしを受けたいと思います!!」
もてなしは断るべきでは無いんですよ! ええ、絶対にね!
それから僕達はお肉を美味しくいただきました。ガジモンさんは、骨付き肉を丸ごと口に放り込む。
「肉に余すところなんかねえんだ。カッカッカッカ!」
本当に豪快だ⋯⋯鳥の丸焼きなんて、そのまま齧り付いてるよ。ビビはそれを、目からウロコとばかりに見詰めている。
真似しなくて良いからね? 鳥の骨は危ないんだから。
肉汁のしたたるステーキを、僕は小さく切って口に運ぶ。
「美味しい」
僕が厚切りのステーキを一枚食べる間に、ガジモンさんは大皿を五枚ペロリと完食した。
見ていて圧巻だったね。お肉は飲み物ですよ? と、言っているかのようでした。
生クリームたっぷりのホールケーキを沢山収納して、僕はとっても幸せです。
カーテンを掴んでクルクル回転しちゃうくらい嬉しい。
給仕の人が空いたお皿をどんどん片付けていく。御礼を言ったら笑顔を返してくれたんだ。
空いたテーブルの上を、滑らせるように何かを放られた。それは銀色のただのリングで、装飾品にしてはシンプル過ぎた。
「それを腕に付けて行きな。ボスを倒せば、転移所から星を与えられる。三人以下のパーティーでボスを倒せば金の星、それ以上の人数で倒せば銀の星だ。現在三十五階層まで探索が進んでいるが、三十五階層のボスは未討伐だ。五階層ごとにボスがいるから、トップ連中は皆六つ星になるな」
「了解しました」
リングに左手を通すと、それは僕の腕に吸い付くように小さくなる。見た目は硬そうだけど、引っ張るとゴムみたいに伸びるね。
「ハルキバルの推薦のようなものだしな⋯⋯一応全部の扉を使う事は許可する。だが、無理して死ぬような事にはなるなよ? 特に三十五階層のボスは情報がねえんだ。何層から行くんだ?」
迷宮ボスとの戦闘では、倒さない限り抜け出す事が出来ない。だから余程の自信が無いと、階層の主には挑戦出来ないよね。
「一層から順番に行きたいと思います! 星がもらえるって素晴らしいです! ふんす!」
「そうか。わかったぜ。もし三十五階層のボスに挑む時は、一言報告をしてくれよな。新しい転移ゲートを持って行って欲しいからよ」
「わかりました」
あはは。楽しみだな⋯⋯やっと迷宮探検が出来るよね!
星を集めて腕輪をキラキラさせたい! ランキングも上げて、いつかマイ滑車を手に──
「滑車はいらん」
こうして僕とビビの迷宮探検が始まりました。
お肉食べたいなぁ(っ´ω`c)
ローストビーフ大好き侍ヾ(:3ヾ∠)_




