迷宮の内側には○○がありました!
お姫様抱っこされたビビは嬉しそうだったね。ロープを歩いて渡って来る僕達を見て、兵士らしき人が唖然としていたよ。
「あ、危ないだろう? 落ちても死にはしないだろうが、滑車が無いやつには小舟を貸してるんだ」
「え?」
ロープに乗ったまま振り返ると、確かに小舟が端っこに浮かんでいた。
「すいません。見落としてました」
「いいよ。ってか怪我する前に早くこっちへ来い」
ロープを渡りきり、黄金のピラミッドへと着地する。ロープも何本か張られているみたい。小さな掘っ建て小屋があるなぁ。
「ここは冒険者の同行がいなきゃ入れないぞ?」
兵士さんが微妙な顔をしている。
冒険者の同行云々は初耳だけど、でも多分これがあれば大丈夫だよね。
「どうぞ」
僕はハルキバルさんからもらった許可証を見せた。それを見た兵士さんは、小さく一度頷く。
「なんだ。お前達は中の人か?」
「中の人?」
「ん? 違うのか?」
「中の人の意味がわからなくて⋯⋯」
「そうか、まあ気にしなくて良い。それも中に入ればわかるしな」
何だかわからないけど、とりあえず通行の許可は出たみたいだね。
すると、掘っ建て小屋の中から一人の兵士さんが現れた。大きく欠伸をして、太陽の光を全身に浴びている。
「何だ? 交代の時間か?」
「ああ、代わるぜ」
ここは数人の兵士さんで見張りをしているみたい。
「おじさん達はずっとここに住んでるの?」
「二ヶ月働いたら十日は休みもらえんだよ。だがここは楽しみが無くてなぁ⋯⋯皆やりたがらねえよ」
確かに何も無いね。ずっとここにいるのは嫌だなぁ。
僕は酒瓶を三本取り出して、それを兵士さんに手渡した。
「おい、これは⋯⋯」
「こんな物しか無いですけど、暇つぶしにどうぞ」
「良いのか!? 高そうな酒だが?」
「な! お前狡いぞ! 俺にも飲ませろ!」
「お前はこれから仕事だろうが」
「全部飲むなよな! 俺の分も残しとけよ!」
「保証は出来ねえな」
「くぅっ!」
兵士二人の掛け合いがちょっと面白かった。もう数本渡してあげると、二人共凄い笑顔になる。
「ありがとう! しっかり働いて飲ませてもらう!」
「ありがとうな。観光なのか知らねえが、気をつけてな!」
「うん。またねおじさん」
「また。にゃん」
兵士さん達と別れ、迷宮の扉に触れる。やっぱり人との出会いは良いものだね。仲良くなれたら嬉しくなるよ。
「ええっ!!!」
「これは⋯⋯こういう事か⋯⋯」
視界が切り替わり、僕は驚いて目を見張る。迷宮の中だというのに、小さな町のようになっていたんだ。
でっかい洞窟の大空洞のような場所で、松明の明かりが夥しい程に眼下に広がっている。
ガヤガヤした喧騒と、良くわからない肉の焼ける匂いが漂ってきた。
そうか、そういう事だったんだね。
「中の人⋯⋯兵士さんには、ここの住人さんだと思われたんだね」
「これは合法なのか? ようはギルドなどを通さずに売買をしてるって事だろ?」
確かにそうだ。でも、誰だって狩った獲物を食べたりすると思うんだ。そういうのまでいちいち罰せられたりしない。でもこの規模はグレーゾーンを通り越しているような気がするよ。
「ドラグスだと、迷宮から持ち帰った物は全て冒険者ギルドで買取になるよね」
「もしかしたら、スタンピードが起こった時の肉壁にするつもりかもしれない⋯⋯」
そういう事なんだ⋯⋯確かにここは迷宮だ。だから当然殆どが戦える人になる。
今気がついたけど、迷宮の内側もピラミッドになっていたんだね。外は黄金だったけど、内側は薄緑色に発光する石になっている。
不思議! わんだふぉーなにゃんだふぉー!
僕とビビはピラミッドの階段を下りる。獣人、人間、エルフ、ドワーフ、妖精、色々な人がごちゃ混ぜになっているみたい。
少しマウンティスを思い出しちゃうな。マウンティスの方が綺麗な場所だったけど、こっちの生活感のある町並みも好きだ。
町の中心には、高さ四メートルくらいある大きな看板が建てられていた。
「迷宮攻略ランキングだって」
「ふむ⋯⋯お、あいつらのチーム名があるぞ?」
ビビが看板のある場所を指す。
「ランキング五位、“獣の集い”三十二階層。これって凄いって事かな?」
「凄いんじゃないか? 一位は三十五階層⋯⋯ん?」
「あ」
一位の場所はチーム名になってはいなかった。その代わりに、二つ名と名前が書かれている。
「“大魔導士ハルキバル”だって。あの人も迷宮入ってたんだ⋯⋯」
「まだ四十階層へ入った者はいないようだな」
三十階層からは厳しいらしいからね。四十階層とかどうなってるのかな?
「とりあえず行くか?」
「うん! 迷宮探検レッツゴー!」
町の見物もしたいけど、迷宮を進んで強くなりたい。真っ直ぐ町を横断して、洞窟の奥へと進んで行く。
つもりだったのに⋯⋯
僕とビビは後ろから首根っこを掴まれた。何でそんな事をされたのかわからないよ。むむむ⋯⋯
「これ! お主ら! そっちは魔物が出るぞ!」
僕達を掴んで止めたのは、大きな体格の神父様でした。
迷宮に神父様とは珍しい? さっき神官のうさ耳女性はいたけど、中に教会でもあるのかな?
「僕達はこれでもぼうけ⋯⋯旅人です。自衛の手段くらいあるのですよ?」
「旅人? この町の冒険者の子ではないのか?」
「外から来ました。ハルキバルさんからいただいた許可証もあります」
「ハルキバル!? あ、あの大魔導士のか!? ただの子供ではないという訳か」
神父様が僕達から手を離す。心配してくれてありがとうございます。
「それならまずは転移所で登録をなさい。腕輪もつけてないと皆心配しますよ」
「転移所?」
確かドラグスの迷宮でもあったよね。
神父様に教えてもらい、僕達は転移所という場所へと向かった。転移所は沢山の人で賑わっていて、何かの大売出しでも見ているようだ。
転移所には沢山の扉があり、五の倍数の看板を提げた部屋があった。
「すいません」
僕は職員らしきおじさんに声をかける。
「なんだい? ここは子供の来るような場所ではないが⋯⋯」
「登録をしに来ました」
「は? あっはっはっはっは。子供が登録? 出来る訳がないだろう」
その人の声が大きかったから、僕達は沢山の人から注目されてしまった。
子供に見えるのは仕方ないよね。僕身長小さいし⋯⋯でも両手を使わなきゃ数えれない年齢なんだよ?
「入場の許可証もあります」
「そんな物、ここの住人なら皆持っているさ」
「どうしたら登録出来るのです?」
「本気なのか?」
コクリと頷いた僕達に、職員のおじさんが眉根を寄せる。少し考えた後に、近くにいた青年の肩を掴んだ。
「何ですか? タジモフさん」
「ラック。お前この子達に試験してやれ、どうしても迷宮に入りたいんだとよ」
「ええっ!? 本気なのかい?」
「はい! ちょっと迷宮を完全攻略しに来ました!」
「フッ⋯⋯フハハハ⋯⋯完全攻略って⋯⋯あはははは!」
僕がそういうと、近くにいた人達の反応は様々でした。顔をニヤケさせる人もいれば、イライラとした顔になる人もいる。
「はっはっはっは⋯⋯あ〜笑った。しょうがない。君達が迷宮に入っても大丈夫かどうか試験してあげるね」
「ありがとうございます!」
「ございます。にゃん」
やったね! 試験したらいよいよ迷宮探検に行けるんだ。
ニヤニヤするラックという名の青年さんに着いて行き、僕達はグラウンドのような場所へ案内された。
今この滑車を購入すると、なんと! おまけでもう1個滑車がついてきます!
まだマイ滑車を持ってないそこの貴方! 大丈夫です! 私も持っていません。




