ちょっとワクワクしちゃいます
ミズリさん達と別れてから、ビビと家に帰りお昼まで一緒に寝ました。
なんかビビがすっごく優しかったんだ。大人の姿になって、ずっと抱いててくれたんだよ? ん〜⋯⋯元気全開です!!
ありがとうビビ。もう寂しくないよ。
一昨日デナートロスに行ったはいいものの、あれから次の指示が無いんだよね。黒狐様は何をさせたいんだろう。
どうしたら良いのかわからないし、考えたって仕方ない! だから息抜き? に、ちょっと迷宮に行ってみようと思うんだ。
*
と言う訳で、僕とビビは迷宮の前にやってきました。一応冒険者ギルドにも寄って、追加の30万ゴールドをいただいてから来たんだ。
変な時間に起きたから、ちょっと変な眠さがとれない。今日の夜はしっかり寝ようと思う。
ギルドマスターのハルキバルさんからもらった許可証を、いつでも出せるようにポケットへしまう。
「ここが迷宮なんだね」
「そうみたいだな。どれくらいまでやるつもりだ?」
「新しい指示が来るまで! 指示がなければ完全攻略しちゃう!」
ハルキバルさんに聞いたら、三十階層までは探索済みなんだって。そこから先はCランクの魔物が彷徨いているから、上位冒険者じゃないと入って行くのは難しいらしい。
国とギルドで管理をしている迷宮らしいけど、破壊出来るならして欲しいそうです。
場所もそんなに近く無いし、必要経費ばかり膨らんじゃうんだとか。それでスタンピードの警戒もしなくちゃいけないから、損な部分ばかりが目立つそうです。
迷宮の場所は大きな窪地になっていて、中には緑色の水が溜まっていた。
何だかちょっと見ていて面白いな。中心には黄金のピラミッドがあって、そのてっぺんに迫力のある扉が鎮座している。
ピラミッドなのに、歴史的な価値があるのか無いのかわからない⋯⋯黄金のピラミッドには、汚れて灰色になったロープが張られている。
「これ何だろう?」
「滑車を使って向こう側へ行くんじゃないか?」
「でもロープが水平だよ? これじゃあ進んでいってくれないよね⋯⋯体の反動を使って進むのかな?」
「ふむ⋯⋯それだとロープの真ん中らへんから上り坂になるのではないか? いくらピンと張られていても、ロープが撓んでしまうからな」
「想像したら大変そうだね⋯⋯」
そんな話をしていた僕達に、十歳くらいの獣人の男が近づいてきた。ガゼルのようなかっこいい角が生えているね。革鎧を着て大きなリュックを背負っているよ。
街の外で人を見る事は少ない。街道ならまだわかるけど、ここは街道から外れた迷宮の前だ。珍しいなと思って見ていたら、その獣人さんが急にドヤ顔をしてくる⋯⋯
「何だーお前ら、マイ滑車も持ってねーのか?」
何そのローカルなネタ!? マイ滑車自慢なんてされた事ない!
「も、持ってないです⋯⋯」
「へっ⋯⋯これだから田舎者のガ──」
──ゴン!
獣人の人が唐突に殴られる。その頭を殴ったのは、同じくガゼルのような角をもった獣人の大人だった。
直ぐ近くには、チーターのような尻尾をもつ獣人さんと、うさ耳の生えた神官の女性。それと一昨日会った黒い革鎧の人がいた。
「お前は見習い冒険者で荷物運びなんだぞ? 勝手に先に行くなといつも言っているだろう!」
「だってこんな所に子供がいるから」
「子供だぁ?」
大人のガゼル風の獣人さんがこちらへ向く。僕とビビを上から下まで眺めると、小さく首を傾げた。
「君達は何だ? 魔物の彷徨く外界で、私服で武器すら持っていない。近くに護衛でもいるのかな?」
ビビがメイドの格好だからかな? 僕が護衛付きで守られるような人物に見えるのだろうか。
一応武器は持っているんだけど、防具が無いのは確かに変だよね。
「護衛はいません。これでも僕達は戦えますので、心配しなくて大丈夫ですよ」
「はあ!?」
小さい方のガゼル風の獣人さんが、僕の言葉に反応した。
睨みつけてきたんだけど、何か気に障ったのかな? ビビが僕を庇うように前へ出る。
「子供だけで外へ出ただと? 外がどんなに危ない所なのかわかってるのか!?」
「えと、君は?」
「俺はAランクパーティー“獣の集い”の荷物持ち! ロイだ!」
「Aランクパーティーだったのですね! 凄いです!」
良いなぁ。僕も早くAランクになりたいなぁ。毎日訓練頑張らなきゃね!
僕の魂魄レベルは現在111なんだ。フレイガースでの戦いと、マウンティスの戦いで上がったんだよね。
「ロイは下がれ。そいつらは子供だが、ハルキバルさんに頭を下げさせていたやつらだぞ?」
「えっ! 大魔導士のハルキバル様に!?」
黒い革鎧のおじさんが、ロイという名の子供を止めてくれた。
怖くは無いんだけど、大きな声で何かを言われるのは嫌なんだ⋯⋯静かになってくれた事で、ホッと胸を撫で下ろす。
ハルキバルさんって大魔導士って呼ばれてるんだね。ロイさんは目を見開いて僕とビビを見ているよ。
チーターみたいな人も、うさ耳の女の人も僕達を見ているみたい。
「心配は無用と思って大丈夫なのかな? それならこちらが先に渡らせてもらっても良いか?」
「はい。どうぞ!」
大人なガゼルさんに返事をすると、全員が滑車を取り出している。
皆マイ滑車持ってるんだ⋯⋯あれをどうやって使うの?
真っ先にロイさんが滑車をロープにかけると、握りの部分にあるレバーを引いた。
すると、プシュっという効果音を発しながら、勢い良く滑車が回り始める。
魔術の気配は無いみたい。どうなってるのか気になるなぁ。
“獣の集い”の人達は、あっという間に向こう側へ渡った。
「ちょっと楽しそう⋯⋯」
「マイ滑車が欲しいのか?」
んー⋯⋯マイ滑車はいらないかな。
「とりあえず、僕達も迷宮の中へ行こっか」
「そうしよう。元々ロープなどは不要だったんだ」
僕はビビをお姫様抱っこすると、ロープの上に飛び乗った。もしバランスが崩れも、落ちないように飛べば問題ない。
「よし。迷宮攻略頑張るぞ!!」




