お買い物。ジェノシスライトとレフティスワルキューレ
デナートロスの人達も、どこか元気が無い気がするんだ。商売人は生き生きと働いています。
焼き鳥の芳ばしい匂いにつられ、繋いだ左手がグイグイ引っ張られちゃう。
「もう暫く食べてなかったもんね」
「や、焼き鳥は⋯⋯何て言うかその〜⋯⋯そ、そう! 栄養バランスが良いんだよ!」
「では健康のために購入致しましょうか。ビビお嬢様」
「そうしよう! そうすべきだと思う!」
これから皆で夕食だから、無限収納にしまう事になるけどね。
匂いの出処を探して歩いて行くと、屋台通りみたいな場所になってたんだ。
色々な食べ物があるや⋯⋯僕はリンゴ飴買おうかな。真っ赤でツヤツヤで綺麗だもん。
噛み付いたら果汁が溢れてきそうだよね。
焼き鳥屋の屋台のおじさんに、兎に角出来るだけ大量に焼いてもらう。甘辛いタレと、鳥肉の脂が混ざり合って炭火へ落ちる。
そしてジュワっとした音が耳に届いて、空腹感をより刺激してくるみたいだ。
ビビの目がキラキラしてる。おあずけにするのが可哀想だな⋯⋯
「一本だけ味見する?」
「あ⋯⋯うん。する⋯⋯」
店主のおじさんから一本だけ先に渡してもらう。
美味しそうな匂い⋯⋯間にネギが入ってるね。それを手渡すと、ビビはゆっくり味わって食べていた。
「やっぱり⋯⋯帰ったらあの鳥を⋯⋯」
「駄目〜」
あの鳥はもう家のペットなの。絶対食べちゃ駄目〜。
その後もビビと屋台を回る。焼きトウモロコシ、巨大イカ焼き、チリホットドック、鳥の揚げ物、何か大きな貝のパエリア、変にねじれた飴、後ビビ用に高いお酒、もう色々買いました。
「普通に小麦粉やバターも欲しいな。家に石窯作らなきゃ」
「そうだな。豆と米も買おう」
ビビが楽しそう。僕も楽しいな。
生野菜も果物も沢山買う。牛肉、もっちもち豚、鳥肉は大量に、お魚は新鮮に見えなかったからパス、後は〜⋯⋯
ミルクも沢山買うよ。チーズも色々欲しかったんだ。
「露店で手に入るのはこんなもんだろう。アークの剣を買いに行くか」
「ビビの服や下着も買わないとだね」
「下着は欲しいな。炭も石鹸も買わなきゃいけないな。大変だ」
「あはは。ビビ嬉しそう」
「そう⋯⋯見える⋯⋯?」
「うん」
「そうか。私は⋯⋯浮かれているんだな。アークのせいだぞ?」
そんな事言われても謝らないもんね。ビビもそんな風に言いながら嬉しそう。
服屋さんを見つけて、ビビの服を沢山買ったんだ。気持ちの良いベッドとソファーも別のお店で購入する。
パウンドケーキも焼きたてを沢山買ったんだ。丸齧りしてみたい⋯⋯ミト姉さんに見つかったらデコピンされそうだなぁ。
紅茶の茶葉とお砂糖もいっぱい必要でしょ? あ、チョコ売ってないね⋯⋯
最後に武器屋へやって来ました。
武器屋は、バススさんの店と比べるとかなり小さい。中は煙臭いし清潔感が無いなぁ⋯⋯
木のテーブルカウンターに肩肘をついて、僕を見下ろす中年のおじさんがいた。
「んだ? 子供が何の用だ?」
「こんにちは。手頃な武器を探してまして」
「うちには玩具は置いてねーな。カッカッカッ!」
玩具を買いに来たつもりは無いんだけどな⋯⋯あ、でも予算が心許無い。まだ27万ゴールドくらいあるけど、魔武器はちょっと手が出ないや。
そうなると、おじさんの言う玩具しか買えないと思う。
「すいません⋯⋯確かにお金は少ないです」
僕がそう言うと、おじさんが鼻で笑う。そしてタバコに火をつけた。
「アーク⋯⋯あれ、欲しい」
「え?」
ビビが武器を強請るなんて今まで無かった⋯⋯珍しいから何だろうかと思って見てみたら、銀色に輝く小さめな散弾銃のような物が置いてあった。
あれと似たような銃をお昼に見た! 勇者様が使ってた武器だよ!
その直ぐ隣にも、似たようなフォルムの拳銃が置いてある。こちらは拳銃にしてはかなり大きいと思うんだ。
「これが気になるのか?」
「はい。それはどうしたのですか?」
「質屋に赤髪の女が持ってきたもんなんだとよ。期限過ぎても取りに来ねえから、うちに今日流れて来たんだ。材質もわからねーし、弾を込める穴もねえ。今調べてるところなんだが、分解すら出来ねえ。そんな物で良けりゃ売るぜ」
おじさんは僕達を見ながら口角を吊り上げた。ビビが一目見て欲しくなる程に、その銃から滲み出る威圧感が凄い。
あれ、勇者様の武器じゃないかな?
「幾らだ? 店主」
「最低50万で売れって言われてんだ。どっちもなら100万ゴールドだな」
ビビがおじさんに値段を聞いたんだけど、返ってきた数字にがっかりだよね⋯⋯
本当だったら1000万ゴールド払ってでも欲しいんだけど、今の僕達にはお金が無い⋯⋯諦めるしかないのかな。
「幾らだ? 店主」
ビビの目が怪しく光る⋯⋯何故かさっきと全く同じ質問をするビビ。どうしたのかと思っていたら、おじさんがいきなり立ち上がった。
「これは質屋から流れてきた物で、両方合わせて1万ゴールドで仕入れました!」
「え? ビビ、何かしたの?」
いきなりの事にびっくりしたよね⋯⋯まさか1万ゴールドだなんて⋯⋯ぼったくり過ぎじゃないの!?
「魅了で正直に喋ってもらっただけだ。使い方も何もわからない物に、大金払って仕入れる馬鹿はいないだろ? だから50万ゴールドな筈無いと思ったんだ⋯⋯まさかここまでぼったくってるとは思わなかったが⋯⋯」
「僕も思わなかった⋯⋯」
ビビに交渉を任せて、2万ゴールドでお釣りまで返ってきたよ? ちゃんと黒字になるように払ってきたんだけど、ホルスターも用意してもらいました。
「本当に良いのかな?」
「1万5000ゴールドで買ってやったんだ。それにホルスターは別料金を払った。問題無い」
普通に考えればそうなんだけどね。せめて10万ゴールドは払ってあげたいような気もしたんだよ。
店の外に出て、銀色に光る拳銃を見る。何だかわからないけどかっこいいなぁ。
銃は剣とまた違う。それにしても、やっぱり不思議な感じがするんだよね。
【ジェノシスライト:使用者登録完了致しました】
「え? 今何か聞こえた⋯⋯」
「っ! 私もだ⋯⋯」
何これ? 急に手に馴染むような気がしたよ。
「ジェノシスライトって名前らしい⋯⋯使い方が何となくわかる!」
「こっちのはレフティスワルキューレ⋯⋯ふふふ。戦いが楽になりそうだ」
無性に試してみたいけど、引き金を引いたら絶対にまずい事になるのがわかった。ビビも名残惜しそうにしたけど、僕が一旦預かるからね。
銃は後で試す事にして、今はとりあえず収納しておく。日も落ちてきたので、ミズリさんとの待ち合わせ場所へ急いだ。
*
銀のトントントン亭にやって来ました! すっごく大きな食堂で、楽しげな音楽が流れています。
ランプが丁度良い薄暗さを演出していて、大きな笑い声とかも聞こえてくるよ。
「アークとビビとの出会いに」
「「「「アークとビビとの出会いに」」」」
『乾杯!』
「「かんぱーい」」
ミズリさんが豪快にエールを呑む。でも僕はオレンジジュースです。ビビはちゃっかりエール呑んでるよ?
お酒は美味しくない⋯⋯僕にはまだわからないなぁ。オレンジジュース美味しいと思う。
皆で豆とソーセージの塩茹でをつつく。ビビがメイドらしく料理を取り分けてくれるんだ。にゃんって言いながらね。
「ミズリさんは何処から来たの?」
「魔石を仕入れるのに、コットバールって街へ行ってからデナートロスへ来たんだよ。わたしゃ行商人でね、決まった家は無いんさね」
ミズリさんには子供とかいないのかな? 何となくだけど、それは聞いちゃいけないような気がしたんだ。
デールさんがビビにそっぽ向かれている。ペッパーさんとレイジさんは、これから大人のお店に行くんだって。大人の僕を誘わないのはどういう事?
ビビに知らなくて良い事だと言われたんだ。それと、九年待てとも言われたよ。
リーダーのゴノドンさんは大きなお肉を食べながら、エールを次々とオカワリしているね。
「アーク、ビビ、本当に宿は取らなくて良いのかい?」
「うん。僕達は行く所があるんです。ミズリさんはいつまでこの街に?」
「二泊はするさね。その後は⋯⋯」
その後は⋯⋯ね。
僕とミズリさんの最後の日になるんだ⋯⋯やっぱり寂しいな。
「おや? どうしたいアーク?」
ミズリさんが頭を撫でてくれた。少し表情に出ちゃってたかな? ぎこちないかもしれないけど、なるべく自然に見えるように笑顔で返さす。
「あはは。賑やかだねって思って」
「そうだねぇ。賑やかだね⋯⋯アーク、ビビ、二人が良ければ、私達に着いて来るかい?」
「それは⋯⋯ごめんなさい」
「謝る必要は無いよ。わたしゃ長生きするからね! またいつかどこかで会えるさね」
「そうですね」
いつか⋯⋯どこかで⋯⋯会える? 会えるのかなぁ⋯⋯
テーブルの上にミズリさんのしわくちゃな手があった。僕は何となくその手を触る。
皺を寄せてみたり伸ばしてみたり、僕自身何をしているのかわからなかったけど、ミズリさんは僕の好きなようにさせてくれる。
楽しい時間はあっという間で、僕達は解散した。
「アーク、おばあちゃんしようか?」
「良いよ。大丈夫だよ」
「そうか」
そんな事を話しながら家まで飛んで帰ったんだ。
家に帰ると、鳥さんが三十匹を超えていました。
読んでいただきありがとうございます(´>∀<`)
現在Twitterで、ビビの大人バージョンのアイコンを使っています。ヘッダーにはアークのイメージ画像もあります。
作者ページから見に行けるので、良かったら見てみて下さい。
なろうさんに載せてしまうと、著作権など引っかかる可能性がありますので、Twitterのみの公開となります。
自分は絵が描けないので、アプリを使って作りました(*^^*)
これからも頑張って執筆致します(っ ॑꒳ ॑c)




