表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
デタラメな冒険譚が僕にくれたもの〜憧れを追いかける少年〜  作者: まあ(ºωº э)З
第七章 いきなり始まるスローライフ?
147/214

紅の勇者様






 デナートロスの街は、頑丈そうな高い壁に囲まれている。その城壁の上では、フル装備の兵士さん達が巡回しているみたいだね。


 なんだか少し様子がおかしいかも? 入場の順番待ちの列が、さっきから一向に進まないんだ。


「何かあったのかねぇ?」


 ミズリさんが溜め息を吐いた。これからやらなきゃいけない事が沢山あるんだと思う。

 ビビもどこか鋭い目付きになっているね。チキンサンド美味しかった?


「俺、ちょっと見てくるよ」


 冒険者のペッパーさんが、軽い動作で馬車から降りる。ミズリさんは穴あきチーズとハムを取り出して、薄めたワインを皆に配った。


「お前さん達にはジュースがあるよ」


「ありがとうございます」


 馬車の中の小さなパーティーだね。小腹が空いてたから丁度いいな。

 スライスされた穴あきチーズを、弾力のある柔らかいハムに包んだ。食べた事がないお肉かも?


「いただきます」


 ワクワクしながらまずは一口。


「⋯⋯っ!!!」


 なに⋯⋯これ! ハムなのに伸びる!


「ひょっひょっひょ。モッチモチ豚のハムは初めてかい? このデナートロスでしか売ってないハムなんさね」


「もむむ。もっもっも!」


 本当に凄い⋯⋯噛む度に幸せが溢れてくるみたいだよ。それがチーズと合わさって、濃厚な旨味が溢れ出しているんだ。


「美味しいです」


「街の肉屋で見てくると良いさね。昔は幸運鳥(こううんちょう)の卵が名産品だったんだけど、今では手に入らないらしいからね」


 ミズリさんが肩を落とした。よっぽど好きだったのかな?


 知らない物を食べるって言うのは、旅の醍醐味だと思うんだ。


「ちょっと残念ですね。幸運鳥とか見てみたかったな」


「頭の良い鳥らしくてね、無理に捕まえると卵を産まなくなるとか聞くね」


 そんな話しをしながら、気がつけばお昼もとっくに回っていたよ。帰ってきたペッパーさんは、馬車の中の残り香を敏感に察知する。


「外の様子はどうだったんだ? ペッパー」


「レイジ⋯⋯その前にこの匂いはいったいなに──」


「待ちくたびれちまったぜ⋯⋯なあ皆」


「いや、だから何か美味そうな匂い──」


「腹減ったなぁ⋯⋯ペッパー。今は食べ物の話はよしてくれ」


「そうか⋯⋯そういう感じ何だな? デール」


 ちょっと気まずいな⋯⋯僕も食べちゃったしね。


 その時、巨大な魔力が近づいて来てる事に気がついた。


「な、何だこれは⋯⋯」


 魔法使いのレイジさんも気がついたらしい。


 僕とビビは、馬車の外へ飛び出して警戒する⋯⋯この魔力の大きさは、Aランク並の魔物かもしれないよ?


 どよめきがどんどん大きくなる。僕達と同じように、魔力を感知出来る人がいるんだね。


「何かおかしいさね! アーク、ビビ、中へお入り!」


「魔物が近づいて来ています。多分Aランクの魔物かと」


「Aランク!? そんな化け物が⋯⋯嘘だろう⋯⋯」


 嘘だったら良いのに⋯⋯僕だってAランクの魔物とは戦闘経験が無いんだ。それもこんなに人がいる場所で、守りながら戦わなきゃいけないなんて⋯⋯


『聞け! 城壁の中へ退避せよ! 入場手続きは後回しだ!』


 城壁の上から、少し偉そうな鎧の兵士さんが叫ぶ。魔物が近づいてきているから、人命を優先したんだね。


「私達はどうする? アーク」


「勿論たたか──わ!」


 戦うと言おうと思ったら、馬車の中から伸びてきた手に掴まれた。一瞬ミズリさんかと思ったけど、ドノゴンさんに僕達は引き上げられたみたい。


「早く行くぞ! デール!」


「おうよ!」


 デールさんが馬に鞭を振るうと、嘶きと共に馬車が走り出す。


「馬鹿な事はするんじゃないよ! わたしゃ子供が死ぬのは一番見たくないさね」


 涙目のミズリさんに抱きしめられる。僕は負けないから大丈夫って言おうかと思ったけど、その顔を見たら何も言えなくなっちゃったんだ。


「心配すんな! この国には勇者様がいる!」


「その通り! きっと今に出てくるさ!」


 ドノゴンさんとデールさんがそう言った。


 勇者様が何とかしてくれる。それはわかるんだけど、被害が減らせるなら手を出したくなるんだよね。


 列に並んでた人が収容されると、分厚い鉄格子が降りる。さらにその上から分厚い扉で閉ざされた。


 大丈夫かな? 心配だよ⋯⋯あんな扉なんて、Aランクの魔物には意味が無いよ。


「ビビ⋯⋯」


「もしもの時は⋯⋯だな⋯⋯にゃん」


 ミズリさんの背中を撫でる。抱きしめてくれるこの人を、僕は置いて行けそうもないや。


 魔力の反応がどんどん大きくなっていった。何があったとしても、僕はこの人達を助けたいな。


「クソ! アークデーモンだ!」


「砲撃開始!!」


 城門の上から、沢山の魔法の光が見える。魔導具による砲撃なのかも? 耳を(つんざ)ぐような轟音と、激しい振動が伝わってきた。

 それで不安が増したのか、ミズリさんの抱きしめてくる腕にも力が入る。


「ミズリさん、大丈夫。僕達はここにいるよ」


 とは言ったものの、魔物が何かを始めたみたい。いざとなれば助けに行かなきゃ、この国の兵士さん達が死んじゃうよ。


 閉じた城門の上に、黒い塊が浮かんでいた。あれを放たれたら被害が凄い事になりそうだ。


 僕なら何とか出来るんだよ。やらない訳にはいかないんだ。


 唇をギュッと噛み締める。ミズリさんの腕から抜け出そうと思った時、空から赤い何かが連射された。


 ──バルルルルルルル⋯⋯


 赤い光は空を駆け抜けて、黒い闇の魔球を討ち滅ぼす。


「勇者様!」

「勇者様だぞ!」

「助かったぁ」


 兵士さん達は安堵の顔を浮かべている。空には一人の少女が重力魔法で飛んでいるみたい。


 赤く長い髪は濡れていて、バスタオル一枚を体に巻き付けていた。少女の右腕には、見た事も無い銀色の筒が握られているよ。


 あの人が勇者様なのかな?


 常識外れの強さだと思った。あの人が出てきて間も無く、外の魔物は倒されたみたい。


 じっと見つめていたら、勇者様が僕の方へ顔を向けた。


 え?







 ちょっと遅くなっちゃいました。

 沢山読んで下さりありがとうございます(´;ω;`)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ