住む場所探しは大変でした。
昨晩は木の洞を見つけて眠ったんだ。狭かったおかげで少し体が痛い⋯⋯流石に何があるかわからない場所で寝るのは危ないから仕方ない。
何かがくれば気配でわかるけど、念には念を入れる事にしたんだ。
ビビと毛布に包まって、“オプティカルカモフラージュ”で姿を消した。これで魔力がわからない動物には、僕達を発見する事が出来ないんだ。
そう思ってぐっすり寝たんだけど⋯⋯
「⋯⋯」
木の洞の出口に、黒くてデッカいモフモフした何かの前足が見える。
困ったなぁ⋯⋯匂い対策はしてなかったから? 犬っぽい何かが外で待っているのかも⋯⋯
ビビの体が少し動いた。起きたのかな?
「アークぅ⋯⋯ちゅー⋯⋯」
いつものように、ビビは寝ぼけているみたい。
ちゅーって言われても⋯⋯どうしよう。僕からちゅーした事は無いんだよね。
僕の腕の中で、目を閉じながら顎を上げるビビ。直ぐ近くにある顔を見ていたら、何だか少しドキドキしてくる。ちょっとおかしいかも⋯⋯どうしちゃったんだろう⋯⋯
薄ピンク色の唇に、ゆっくり口を近づけていった。ビビのお願いだったら、僕は出来る限り叶えてあげたいと思うよ。
ゆっくり唇と唇が触れ合うと、柔らかい感触が伝わってきた。少しして口を離すと、ビビの表情が幸せそうに緩む。
そんな顔を見てしまったら、ちゅーするのも悪くないと思えるよ。
「アークぅ⋯⋯私は酸っぱくない⋯⋯」
「どんな夢みてるの?」
ビビはそのまま寝ちゃったんだ。本当に⋯⋯どんな夢みてるのかな? モフモフした前足みたいなのが気になるけど、僕ももう少しだけ眠ろう。
ジャン⋯⋯zzZ
*
おはようございます! 良い朝です! ただね、やっぱり木の洞の出口にはモフモフがいる。
モフモフだな〜モフモフの〜モフモフだぁ〜。
ビビが起きていたみたいで、僕の顔を覗き込んでいる。綺麗な青い瞳が瞬きして、少し恥ずかしそうに頬を染めた。
「お、おはよう」
「おはようビビ。良く寝れた?」
「うん⋯⋯ずっと抱いててもらって、安心したのかも」
安心した? 僕もビビがいて安心するよ。
ムギュっと抱きしめて、頬でサラサラした銀髪に触れる。気持ち良い⋯⋯でも今日はお風呂入りたいね。昨日あんなに動いたんだもの。
「ビビはどんな夢を見ていたの?」
「ッ!!! わ、私! 何か言ってた!?」
「い、言ってないよ?」
ビビがあまりに取り乱したので、少し誤魔化しておこうと思った。本当にどんな夢を見ていたんだろう。
「その⋯⋯昨日の事なんだが⋯⋯その、すまなかった」
「昨日の事?」
「首閉めて、き⋯⋯キスした事だ⋯⋯その、そんなつもりじゃなかったから⋯⋯」
昨日のね⋯⋯あれはびっくりしちゃったよね。首を絞められたのは苦しかったけど、それを気にしているのかな?
「僕は全然“気にしてない”よ」
「!」
「これっぽっちも気にしてないからね」
「⋯⋯」
僕の言葉を聞いて、ビビがショックを受けたように固まっている⋯⋯何でなのかな? 全然気にしてないのにな。
この後ビビに血を吸われたんだけど、いつもより痛かった気がしました。
木の洞からほんの少し顔を出す。モフモフの正体を確かめなきゃいけないよね。
綺麗な黒い体毛が、夜空のように煌めいて見える。
「凄く綺麗だね」
「狼か? 昨日の奴とは違うんだな」
狼は静かに寝息を立てていた。めちゃくちゃ大きいね⋯⋯今なら触っても大丈夫じゃないかな?
僕が何をしようとしたのかを察知したビビが、間に割り込んで首を横に振る。
「こんなに大きいんだ。懐いたら大変だろ?」
「うぅ⋯⋯確かに。ドラグスに連れていけないよね」
「どちらにせよ、まずは家を建てなければならない。⋯⋯私とアークだけの⋯⋯」
「え?」
「いいから行くぞ」
「うん。わかった」
*
それから五日間が経ちました。
色々な場所を見て回ったんだ⋯⋯家を建てたいのに、何処へ行っても大きな狼さんに見つかっちゃうんだ。嗅覚って侮れません⋯⋯
なかなか良い場所が見つからなくて困ったんだけど、滝の裏側に洞窟を発見しました。
隠れ家的な雰囲気で良いなと思う。ビビも気に入ったみたいだけど、住みずらいに決まってるよね。
暗い、多湿、騒音、それに蝙蝠が出入りしているみたい⋯⋯流石にここには住めないなと思ったよ。
「良い場所なんだがなぁ⋯⋯」
「ここは遊び場になりそうだよね」
さらに洞窟の奥へ入って行くと、光が射し込んでいる場所を発見する。でも普通には通れなそうだ。
「私が向こう側を見てこようか?」
最近ビビが使えるようなった霧化をするのかな? でもそれだと僕が見れないんだよね。
「多分大丈夫。直ぐに通れるようにするね」
狭くて通れなさそうにみえるけど、これくらいなら何とかなりそうな気がするよ。
隙間に手を差し込んで、スライドドアのように隙間を拡げた。これは力技ではなくて、ノーム様と契約したから出来るようになったんだ。
限度はあるけど、今なら岩も地面も自由に動かせるんだよ。
「アーク⋯⋯いつの間にそんな事が出来るようになったんだ?」
「ビビが寝ている間かな?」
「私がサボっていたみたいに聞こえる!」
「ノーム様と契約した時、ビビ寝てたからね。あの時はビビ進化してたから、僕の膝を枕にして寝てたんだよ?」
「全然覚えてない⋯⋯私はあと何回進化するんだろう⋯⋯」
それは僕にもわからない。今度吸血鬼に関する本を探してみよう。
洞窟の中から、光に向かって階段を作った。手摺りもつけて、ちょっと本格的な石造りの階段に見える。
「ん? 花の良い香りがするな」
「ちょっと待って。僕も行くよ」
ビビを追いかけて階段を駆け上がると、一面が綺麗なお花畑になっていた。
黄色い花、青い花、白い花、赤い花。
花の名前はわからないけど、とっても良い所だね。
「アーク! ここにしよう! 私達の家!」
「うん。水辺も近いし良さそう!」
ここは多分滝の上になるんだろうね。山の隙間から水が流れて来てるんだよ。
ここなら狼にも見つからないし、家を建てたら畑も作れそうだ。
──バサバサ⋯⋯
僕とビビの頭の上を、大きな影が横切った。
⋯⋯また何か問題かな? 僕は溜め息を吐きながら、そっと音のする方へ振り返る。




