なんかちょっと進展しちゃう二人。
*
side ミザネ
もう嫌だ! 嫌だ嫌だ私は!
今の戦闘で大事な衛星の殆どを失い、戦闘用ボディーの首狩り一号機ちゃんまで壊されてしまった。
「あんなに強かったのね⋯⋯うふふ」
隣りで栞が笑っている。てか笑い事では無いんですけど!?
ここは黒狐様が作った亜空間の一つで、広さは二十メートル四方ある。迷宮コアを使用せずに作った部屋だけど、結構何でもあって便利なんだ。
「お疲れ様。ミザネ」
「黒狐様!」
「人の身であれは恐ろしいな。ミザネがもう少し頑張ってくれたら、ちゃんとした戦闘も見れただろう」
「無茶言わないで下さい。雰囲気が変わった時は、黒狐様を相手にしているようでしたよ」
この部屋にはいくつもディスプレイがあり、そこから二人は様子を見ていたようだ。首狩り一号機ちゃんを動かすため、私は操縦カプセルへ入っていた。
寝汗で背中のスーツがべっとりと張り付いている⋯⋯直ぐにでもシャワーが浴びたいな。
「はいミザネ」
栞から冷たい果実酒を渡されて、それを一気に飲み干す。
「ん〜んまい!」
はぁ〜生き返った⋯⋯果実酒美味いわ。疑似体験だとしても、イフリートを宿した人間とか洒落にならないね。
「とりあえず最初の予定はクリアだ。全身霧化が出来る吸血鬼は少ないが、それが使えるようになればとんでもない武器になるからな。血晶魔法の便利さに、並外れた生命力。それが揃った吸血鬼は、上位種族でも相手にするのは難しいだろう。⋯⋯全身霧化を覚えるためには、必死になってもらわなくちゃいけない。だからアーク君にも事前に説明出来なかったんだ」
「それはわかりますが、見ていて辛かったです⋯⋯私は」
栞が肩を落として項垂れる。私は良い気分だったけどな⋯⋯衛星落とされるまでは⋯⋯
ああ〜金がかかる〜⋯⋯それよりも作るのに時間がかかる⋯⋯
「アークの人間性を見る必要があった。仕方なかったと思ってくれ」
まあそういう事だな。黒狐様だってやりたくてやった訳じゃないんだろう。六本角の魔族と戦うには、今のアークでは心許ない。なにせ相手は⋯⋯
「ユシオン⋯⋯かつて龍王を討ち取りし者」
*
side アーク
ビビいたー。良かった⋯⋯もう、どこ行ってたの?
『ごめんねイフリン⋯⋯ありがとう』
『心配したぞ? もう少し心を鍛えねばな』
『ごめんなさい⋯⋯』
『怒っている訳では無い。だが気をつけろ』
『うん!』
イフリンとの話も終わり、ホッと胸を撫で下ろす。暫くビビに抱き着いていると、お腹が空いていた事を思い出した。
「すまんな。再生するまでに時間がかかってしまったんだ」
「生きててくれたなら良いよ。こんなに嬉しかった事は無いよ⋯⋯」
「私もアークが無事で嬉しい。アークと離れるのは嫌なんだ」
ビビは自分の右手を見ると、契約した時の青い宝石の指輪を撫でる。僕もそんなビビを見て、背中の後ろで指輪に触れた。
「ビビと一緒にいれるだけで、僕は幸せな気分になれるんだよ」
「⋯⋯わ、私も⋯⋯そうだな⋯⋯」
いったん離れると、ビビは子供のサイズに戻って服を着た。ポーションケースも収納袋も全部燃やされちゃったけど、僕の無限収納にも少し入ってたんだ。
金銭的には痛く無いんだけど、また買い揃えるのが大変だよ。あの空からの攻撃のせいで、ビビは私物の全てを失ってしまったんだ。
今のビビは珍しく女の子の格好をしている。イグラムで着てた水色のメイド服なんだ。
「これをまた着るとはな」
「にゃんは?」
「着るとはなにゃん⋯⋯」
ビビとっても可愛い。変身魔術を覚えたら、ビビに猫耳をまた生やしてみよう。お尻から猫尻尾も生やしたいな。
「そろそろ移動するか⋯⋯にゃん」
どこまでも続く黒い大地が、殺風景で寂しく感じられる。
「ちょっと待ってね。確認しないとだから」
「確認?」
鎌の人は完全に潰されているみたい。頭とか全てぐしゃぐしゃだけど、金属や魔石などが中に入っていた。
この人は魔導具だったとか?
何だかわからないけど、神様に祈りを捧げる。バススさんに見せたら何かわかるかもしれないね。一応収納にしまっておこう。
弔った方が良いのだろうか?
太陽が完全に沈み、星の明かりが増え始める。
「暗くなってきちゃったね」
「家を作るのは明日だな。にゃん」
「⋯⋯寝れる所を探しに行こっか」
僕がイフリンの力を乱暴に使ったせいで、辺り一面が焦げて真っ黒になっちゃってるんだ。
自然破壊は良くないよ⋯⋯ちゃんと反省しよう⋯⋯
*
今度は僕がビビを抱いて飛んで行く。交代しただけなんだけど、ビビは嬉しそうにしてくれたよ。
三十分くらい空を飛んでいたら、綺麗な小川を見つける事が出来ました。
「ビビ、あそこで休む?」
「良さそうな場所だな。そうしよか」
「にゃんは?」
「もう良いんじゃないか? にゃん」
それはわからないなぁ。
僕とビビは川辺に降りた。針葉樹の落とした枝を乾燥させて焚き火にする。
今日は疲れちゃったよね⋯⋯ねみゅいなぁ⋯⋯でもお腹空いたから何か食べなくちゃ。
テーブルと椅子を地面に置き、買い集めた料理を取り出した。
ビビはラストの焼き鳥と、精霊酒を出してあげようかな。僕はステーキを食べよう。美味しいパンとサラダも出して、ビビと一緒に分けたら良いよね。
「アーク⋯⋯」
「ん? どうしたの?」
食事の準備をしていたら、ビビが少し顔を改めた。
「あ、ありがとう⋯⋯アークの気持ちが伝わってきて、私は助かったんだと思う」
「僕の気持ちが伝わった?」
「そうだ。とても嬉しかったんだ」
「?」
気持ちならいつも伝えてるのに?
ビビは僕の目の前まで来ると、僕の“首”を掴んでちゅーしてきた。
え? 苦しいんですけど!?
顔を真っ赤に染めながら、ビビからされた苦しいちゅー⋯⋯僕はこの先忘れないかもしれない⋯⋯




