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試験官は大変です。





 試験は採点役と戦闘役の二人で審査をするらしい。全部で八ブロックあるので、試験官は最低でも倍の十六人必要な計算になる。


 戦闘役はまず相手に攻めさせて、得意な武器や魔法などを実戦の中で使用してもらう。次にこちらも軽く攻撃し、反応速度や対応力を見させてもらうのだ。

 それを見た採点役は、椅子に座って各項目ごとに点数をつけていく。僕が担当するのは戦闘役の方だね。


 明らかに採点役の方が楽そうに見えるけど、体を動かすのが好きな冒険者は戦闘役の方をやりたがるそうだ。

 でもずっと戦闘役をするわけにもいかない。向こうはいくら素人とは言え、ずらりと列をなしているのだから⋯⋯体力と魔力には限界があるんだからね。


 ヘトヘトになる前に、採点役と交代するか休憩所で一度休みを取る決まりになっているらしい。

 僕は休憩所に来る疲れた試験官と交代して、その間を繋ぐ役割をお願いされたわけである。

 休憩所に来た試験官は、錬金術ギルドの回復ポーションを飲まされるみたいだ。ポーションを飲んで三十分くらい横になれば、体力も魔力も全回復するんだって。


「と言うわけだ。簡単だろ?」


「了解しました。頑張りたいと思います」


 僕がキジャさんに試験をやってもらった時の事を思い出す。


 キジャさんはまず僕に攻撃をさせ、自分から攻めて来なかったのにはそういう理由があったんだね。キジャさんからの攻撃は、僕の反応速度と対応力を見るためだったんだ。


 それから二時間ベスちゃんとゆっくりお話をしていた。誰も来なくて暇だったんだけど、やっと一人の冒険者が休憩に歩いて来ました。

 彼は確かDランク冒険者のクレスさん。このドラグスで知っている人は知っている有名人冒険者さんだ。


「ぅぇえ! 何でここにベスが⋯⋯」


「あ? 呼び捨てか?」


「はいぃ、すいませんベス様」


「よろしい」


 クレスさんはベスちゃんに重力魔法で生き埋めにされてたからね⋯⋯顔がかなり引き攣っているよ。


「いいからさっさとポーション飲んで休め」


「はい! マスター!」


「受け持ちは何番だ?」


「六番です!」


「そうか。仕事だぞアーク」


「畏まりました。頑張らせていただきます!」


 気合いを入れてさあ行くぞ〜! おー!


「頑張ってねアーク」


「はい! ベスちゃんは皆に迷惑かけないように大人しくしているんですよ? 大丈夫ですか?」


「うぅ、だ⋯⋯大丈夫⋯⋯」


「約束ですからね? では行ってきます」


 僕は六番の試験会場に向かった。すぐ近くだけど、人が多くて移動も大変だよ。爆発音や武器のぶつかり合う激しい音などが聞こえてくる。ちょっと楽しそうだな。


 六番会場に到着すると、採点役の席にいたのはギルドの受け付け嬢さんだった。

 採点役が受け付け嬢さんだと、交代しながら休憩出来ないもんね。だからクレスさんは最初にダウンしちゃったんだろう。


「よろしくお願い致します」


「あら、アークちゃんが試験官するの? やり方はわかる?」


「キジャさんに聞いたから多分大丈夫です。間違ってたら教えて下さい」


「わかったわ。どんどんやっちゃって! 待たされるのが辛抱出来ない子ばかりだから」


「了解です」


 一つのブロックは十数メートル四方くらいしか無い。訓練場は結構広いけど、こんなに分割しちゃったら狭くて当たり前だろう。その中で戦闘をするわけだから、色々注意が必要だね。


 六番の列に並んでる人達を見てみると、普段おじさん冒険者を見慣れてるせいか若く見える。僕に若いだなんて言われたくないだろうけどね。


 ふぅ⋯⋯油断せずに集中してやりましょう。頬をパンパンと二回叩いてから、僕は会場の中央に足を踏み出した。


 試験が中々始まらないことに業を煮やしていた若者達が、僕の姿を見て目を見開いている。

 待たされた苛立ちは何処かへ飛んで、僕が何者なのか考えているのだろう。


 少し緊張するよぅ。でも頑張ろう。さ! 始めるとしますか。


「僕は試験官のアークです。よろしくお願い致します」


「あ、どうもターキで⋯⋯へ? 試験官?」


「はい。僕は冒険者なのですよ。得意武器と魔法を教えてもらえますか?」


「鞭と火魔法、召喚魔術⋯⋯いや、てかマジ? 俺、緊張でおかしくなっちゃったのかな?」


「これでも今年五歳になるんですよ? 子供に見えるかもしれませんがね」


「勘違いじゃなく子供だった! 良いのかこれ!?」


 受け付け嬢さんは手で丸サインを出した。それを見てもまだ半信半疑っぽい顔をしているよ⋯⋯この登録に来た人はきっと悪い人じゃないね。名前はターキさんだったかな? 僕の事を心配してくれているんだ。

 でもこんなんじゃ全力は出せそうにないな。それで不合格になれば可哀想だ。この後の試験にも差し障るし、僕の力を見せておこうか。


 魔力操作で体を無理矢理活性化させると、青い光が体から溢れ出しす。膨れ上がる力を制御しつつ、体を解すように動かした。


 上に高くジャンプしてから宙を蹴り、真下に向かって跳躍する。そこから勢いを生かした全力の“岩砕脚”を地面に向けて叩きつける。


 ──ズドーン!


 あまりの衝撃に、地面に二メートルのクレーターが出来上がった。衝撃に大気がビリビリと震え、それを見ていた人達が驚愕の顔になる。


「これでもEランク冒険者なのですよ? 遠慮しないで良いのです。全力で試験に挑んで下さいね」


「は、はい! 失礼しました!」


 うんうん、僕はこれくらいしか出来ないけどね。父様がやったらきっとこの町が無くなってるよ?


「行きます!! 召喚! “ロングホーンビートル”」


「おお!」


 ターキさんは背中から大きな丸めた羊皮紙を取り出すと、それが空中に浮き上がり解けるように広がった。そこには複雑な文字と魔法陣が描かれていて、魔力を流すと光を放ち始める。


 光は宙に歪みを作り出し、放電しながら空間に穴を開けた。

 のっそりとその穴から何かが這い出して来る⋯⋯黄金色の縦長な体で、顔は蜂のようだが長い触角がある。ギチギチと音を立てる口⋯⋯ああ、虫嫌いさんが見たら卒倒すると思うくらい怖い。


「その召喚魔法陣はターキさんが書いたのですか?」


「そ、そうです!」


 これは期待出来そうだね。受け付け嬢さんは青い顔してるけど、しっかりと評価はしてくれているだろう。

 僕は魔法陣をよく知らないけど、これは結構凄いんじゃないかな? 大口叩いて負けちゃったら恥ずかしいよね。頑張らなくちゃ。


「何時でもどうぞ」


「はい!」


 ターキさんはロングホーンビートルを盾にして、後ろから魔法を放つようだ。

 あの召喚魔獣は結構強そう。刃引きの剣で倒せるだろうか? キジャさんみたいに全部正面から叩き潰さなきゃいけないのかな?


 まずは攻撃を受ける事に専念しよう。


「はあああ! “ファイアバレット”」


「“バブルボム”」


 魔法は魔法で迎撃する。避けたら流れ弾が危ないと思ったからだ。


「くっ! なら! “エアーショット”」


「“ヘキサゴンストーン”」


 “エアーショット”は風のレベル2の魔法だ。僕はまだ使えないけど、目に見えない強力な属性魔法弾である。魔力感知がないと避けるのは困難だ。僕には魔力感知があるから対処は簡単だけどね。


 “ヘキサゴンストーン”は、空中に六角形の岩のシールドを作り出す魔法だ。結構頑丈だからこれを壊すのは大変だよ。


 土魔法のレベル1の魔法だけど、かなり使い勝手がいい魔法だね。


「土魔法まで⋯⋯な、ならば! はぁぁああ! “ファイアスネイク”!!」


 “ファイアスネイク”は火の大蛇に敵を襲わせる魔法だ。本来なら一匹の大蛇をしかける魔法なのに、小さな蛇が百匹くらい地面の上に出現する。


 ターキさんはとっても器用なんだね。きっとイメージで魔法を改良したんだろうな。僕もあれ真似出来ないかな?


 魔法はイメージで大きく変化する。ターキさんはそれを上手く使ったんだ。あれを一匹ずつ迎撃するのは大変だよ? 僕もイメージを込めた魔法で対抗するしかない。


 集中して魔力を練る。イメージは広く弱くである。


「降り注げ! “ウォーターフォール”! レイン」


 “ウォーターフォール”は、滝のように落ちる水を敵にぶつける魔法だ。これをターキさんみたいに魔法を改良して、極地的な豪雨を作ってみた。

 やってみるもんだね。実験は成功して、火の蛇は全て消火されたのだ。ターキさんまでずぶ濡れにしちゃってごめんなさい。


「そんな⋯⋯馬鹿な⋯⋯」


 そろそろ防御能力のチェックである。攻撃しますよって言おうかと思ったけど、咄嗟(とっさ)の対応力も見なければいけないのでやめた。


 僕はターキさんへ向かってジグザグに走り出す。“ファイアスネイク”が消されて動揺した隙に、短剣技の“シャドウウォーリア”を発動しておいた。

 分身を使って左右から素早く走り寄ろうとすると、ターキさんもやっと気がついて迎撃の姿勢を整える。


「俺は右、お、お前は左を! 何で増えてるんだよ!」


「キチキチ」


 ターキさんが召喚魔獣に命令を出す。

 どうやら召喚魔獣には分身が対応させられて、本体の僕をターキさんが迎撃するようだ。


「うおおお!」


 ターキさんは焦りながらも正確に鞭を振るって来る。こんなに間合いのわからない武器は初めてだよ。それに軌道が読めない⋯⋯鞭の先端も速くて見えない! ゴクリ⋯⋯僕が生唾を飲んだ瞬間──


 ──バチィィイン!


 死角から迫った鞭が運良く外れ、踏み固められた地面に振り下ろされた。


「チッ!」


 あれが当たったら酷いことになりそうだ。ちょっと怖いけど、不規則に動いて足を止めないようにしなきゃ⋯⋯


 鞭はどんな風に見極めたら良い? “シャドウウォーリア”には使える時間が限られてるし、分身体は幻影だからバレたら無視されて本体を狙われるだろう。


「らあああああ!」


「⋯⋯」


 ターキさんは猛ラッシュをかけるように鞭を振るう。走り回る僕に鞭が当たらず、明らかに焦っているみたいだ。

 その焦りのお陰で攻めが大雑把になっている。これはターキさんの勝手な自爆だね。


 ──バシンッ! ダン! ズダダンッ!


「当たれ! 当たってくれ!」


 ごめんね。僕も段々目が慣れてきたよ。ターキさんの消耗のお陰もあるんだろうけど、何とか鞭の軌道が見えるようになってきた。


 息を細く吐いて集中力を高めていく。魔力操作の擬似身体強化を体に施した。


 地面を踏み割る勢いで飛び出し、ターキさんへ一直線に迫る。そうなるとターキさんは鞭を複雑に振るう余裕なんか無い。

 頭から真下に振り下ろされた鞭を見て、僕は少し頬を緩めた。


 これを待っていたんだ!


「“ウェポンスナッチ”!!」


 渾身の力で振り下ろされる鞭と、僕の魔力を孕んだ剣が激突する。


 ──ズバアアン! ギャィイン!


 だけどここで誤算が生じる。僕の使っていた鉄の剣が折れてしまったのだ。

 あともう少しの距離なのに⋯⋯剣が無ければ勝負にならない。僕は一度下がるか一瞬考えたけど、“ウェポンスナッチ”の効果はしっかりと発動していたようだ。

 手から滑り落ちた鞭に驚いて、ターキさんは僕から視線を外してしまった。それが勝負の決め手になっちゃったみたいだね。


 僕は高くジャンプをする。その心の隙はターキさんの今後の課題かな。


「はっ! 何処だ!」


 ターキさんの後ろに音も無く着地して、背中をぽんぽんと優しく叩く。敵から目を離しちゃいけませんよ。


「なっ⋯⋯」


「お疲れ様でした。とても良かったですよ。ターキさん」


 振り向いたターキさんは、絶望した顔になり膝を地面につく。とても悔しそうな顔で、目尻に涙を浮かべていた。


「お、俺は⋯⋯何がいけなかったのでしょうか? 学校では誰よりも努力して、毎日毎日遊ぶ暇なく訓練してきました。でも結果はこのザマです! アークさんに何をしても届きませんでした⋯⋯才能が無いのはわかってます⋯⋯でも、強くなりたいんです。強くなりたいのに⋯⋯」


 その気持ちは痛い程よくわかった。それは僕の心の声と同じだったからだ。何でこんなに絶望的な差があるのだろうか⋯⋯どうすれば父様と母様に追いつくことが出来るのだろうか?

 ターキさんの潤む瞳を見ていたら、僕も目がうるうるしてくる。


 でも駄目! ここで諦めちゃ駄目なんだよ!


「ターキさんは強かったです。それに、僕はターキさんと同じように毎日悩んでいます」


「え?」


「僕も同じなんですよ。いくら努力しても、全然目標の背中が見えて来ないんです」


「お、俺だって努力してきたんですよ! お金を稼ぐために、毎日頑張ってきたんです!」


「お金ならこれから沢山稼げますよ。ターキさんに夢はあるのですか?」


「はい。叶えたい夢があります⋯⋯」


「それがあればこれからも努力していけますね。“努力しない者は苦労を語り、努力する者は夢を語る”。ターキさんが夢を語り続ける限り、その道は絶対に途切れはしない。だから頑張りましょう。足を止める理由に、才能なんか関係ないのだから」


 僕が父様と母様の凄い武勇伝を聞いて、自分との差に凹んでいた時、クライブおじさんが一冊の本を持ってきてくれたんだ。そこに書いてあった言葉に、救われたのを思い出した。


 ターキさんの心の支えにも、今の言葉が役に立ってくれることを願います。


「⋯⋯⋯⋯師匠」


「え?」


「師匠と呼ばせて下さい!! そして俺のことはターキと呼んで下さい!」


「えええ!?」


 そんな僕とターキの前に、一人の女性が立ちはだかった。何とも言えない顔で僕とターキを見下ろしている。


「そういうのは後にしてくれるかな? 今死ぬほど忙しいからね」


 そうだった⋯⋯今は仕事中なんでした⋯⋯


「「すいませんでした!」」


「次の方どうぞ〜」


 この受け付け嬢さんは本当に逞しい! 是非師匠と呼ばせて下さい!







(「 `・ω・)「 乁( ˙口˙ 乁)

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