逃亡と森探し
狼の数は〜⋯⋯うん、十匹だね。
脅威度はどれくらいかな? 魔力はあまり感じないみたいだけど。
「アーク⋯⋯何かおかしくないか?」
ビビが狼を見ながら首を傾げる。
おかしいってどういう事? 普通の狼じゃ⋯⋯
──ドドドドドド!!!
地面が揺れ、その振動が嫌でも足から伝わってきた。
何これ? どういう事?
その振動はどんどん大きくなり、狼もどんどん大きく⋯⋯
「え? あれ? 滅茶苦茶デカい!! 家よりデッカい!!」
「逃げるぞアーク!」
僕は咄嗟に背中のドラシーへ手を伸ばした。でもそこには今何も無い。
そうだ! ドラシーもベヒモスもノーム様に預けたんだった!
「アーク! 早く!」
ビビに二の腕を掴まれる。
「う、うん!」
急いで僕達は逃げ出した。でもどんどん音が大きくなるし、草原に隠れる場所はどこにも無い。焦って対策を考えていたら、ビビが僕の後ろへ回った。
僕を背中から捕まえたビビが、一気に空へ舞い上がる。それと同時に、僕達のいた場所が狼の群れに呑み込まれた。
「ふわぁ〜間一髪。ビビ飛ぶの速くなったね」
「私も進化しているんだ⋯⋯それより」
狼は僕達を見上げている。飛んで行ったら着いて来ちゃうかな? それに様子が変かも⋯⋯
「尻尾振ってるね」
「戯れられても困るってもんだ⋯⋯」
身の危険を感じるサイズ差だよ⋯⋯戯れられたらどうなっちゃうんだろう。
「さて、どうするアーク」
「匂いは届いてないと思うんだ⋯⋯だから」
僕は更に上空にある雲を指さした。雲の中を飛べば、見失って追って来たり出来ないよね。それを見たビビは、説明をしなくても理解してくれたみたい。
「なるほどな。そうしよう」
「うん。じゃあ僕も自分で飛ぶね」
「いや! いい! その必要は無い!」
ビビは急いで服のボタンを数箇所外すと、僕を抱え直して大きくなった。
髪の毛も解き、綺麗な銀髪が風に靡く。
「どっちへ行こうか」
「ビビの好きな方で良いよ」
「わんコロには悪いが、逃げさせてもらう事にしよう」
ちょっと危ないだろうしね。でも背中に乗ってみたかったな⋯⋯一匹だったら遊べたかもしれないけどね。
*
雲の中から時々地上を見ながら、休まず二時間飛びました。僕はビビの腕の中で、干された布団のようになっている。
「お、森を見つけたぞ」
「良かった。せめて木が欲しかったんだよね。家を土だけで作らなきゃいけなくなるところだった」
「アークとの家なら何でも良い⋯⋯土に穴を掘っただけの家でも私は良いんだ」
ビビが僕を抱え直してくれる。もしかしてビビは土が好き? 家を建てたら地下室も作ろうかな。
あ、
「針葉樹林だ。家作りやすいかも」
「そのようだな。家を作るのに良さそう」
ビビの赤黒い羽根が小さくなると、ゆっくり高度が落ち始めた。
「ビビはどういう風に飛んでるの?」
羽根を動かす素振りをしなくても、高度を自由に変えるんだよね。
「どうと言われてもな⋯⋯生まれつきだし」
謎は謎のままでした。みすてりあすぅ⋯⋯
因みに精霊が飛ぶ方法は、体の中のツブツブをぶわぁっとさせると飛べるんだ。簡単でしょ?
地面へおりて、大きな針葉樹を見上げた。平均的に高さ三十メートルはあるね。木の種類まではわからないけど、これならしっかりとした家を作れそうだよ。
「ちょっと太くないか?」
「確かにね。少し小さいのにしようか」
「そうだな。目安は?」
「ギリギリ抱ける太さのやつかな?」
「じゃあ私が切るから、アークが木を選んでくれ」
役割分担が終わり、丁度良い太さの針葉樹を探す。僕とビビは一日中フル稼働して、五十五本もの針葉樹を確保した。
枝も綺麗に落とし、真っ直ぐ並べて段積みする。これだけあると迫力あるよ。
「ビビ。ログハウスの建材に生木を使って大丈夫なのかな?」
「わからん。一応アークの水魔法で乾燥させると良い」
作りたい家のイメージはあっても、それがどのように作られているのかわからない。
僕もビビも大工じゃないからね⋯⋯詳しくわからないのは仕方ない。こういう時は感でやるしかないんだよね。
どうせなら良い家建てたいな。家建て終わったら、次の指示が書かれた紙が出てきたりする?
「建てる場所が決まったら、その時にまた考えよう」
──キュルルル⋯⋯
お腹が空いたと思っていたら、お腹自ら訴え出てきました。ごめんね⋯⋯和菓子食べてっきりだったよ。
「夕飯どうする? 何か探す?」
とは言ったものの、何処に何があるのかわからない。ビビも同じ事を考えたらしく、軽く首を横に振った。
「ある物で済まそう。そうだな⋯⋯焼き鳥とかが良いんじゃないか? 深い意味は無い」
「ソウデスネー」
ビビは焼き鳥だね。あ⋯⋯焼き鳥もうあまりストックが無いや⋯⋯今回の分はあるかな。
「どうかした?」
「焼き鳥の在庫が無くなるみたい」
「何だと! 由々しき事態だ⋯⋯食べる物が無いと言うと⋯⋯」
「無くなるのは焼き鳥だけね? 食べ物は沢山あるから大丈夫だよ?」
好物が無くなるのは寂しいよね。鳥を見つけたら捕まえなくちゃ──?
背筋に悪寒が、
──ボバババババババ!!
「「ッ!!!」」
高速で何か重たい物が迫ってくる。いきなりの事に驚きながら、僕とビビは真上にジャンプした。
──ボワァァア!
それは漆黒の大鎌だった。周囲の木を物ともせずに、僕達の真下を通過する。
何!? いったい誰が?
地面に着地すると、大鎌の通った場所に生えていた木が次々と倒れた。無闇な自然破壊は駄目なんだよ? あまり人の事言えないけどさ⋯⋯
大鎌は大きな弧を描き、ある場所へと戻っていった。
「きひ。きひひ⋯⋯残念でーす!!」
不気味な女の人の声が聞こえてくる。戻ってきた大鎌を、流れるような動作でキャッチをする。それを両手でクルクル回し、そのままダンスをするかのように振り回した。
全身真っ黒なローブを羽織り、狐のフードを目深に被っている。そしてその人の背中には、大きく『1』の文字が見えたんだ。
謎が謎を呼ぶ⋯⋯黒狐様の試練が始まりました(´>∀<`)




