精霊界の世界コア
僕とビビは、建物の更に奥へ案内されるみたい。リーゼちゃんが僕達に頭を下げ、先に皆の所へ戻ると言った。
「またね、リーゼちゃん」
「アークちゃんがどんな風になって戻ってくるのか楽しみだわ」
「どういう事?」
「頑張ってきてね」
背中を押されて僕は歩き出した。振り返るとリーゼちゃんが笑っている。無理に今聞かなくても、後で教えてもらえば良いかな?
ぺたぺたと黒狐様に着いて行く。白い土壁が続き、ずっと一本道になっているね。
小さなロウソクの灯りを頼りに、辿り着いた場所は行き止まりでした。
どうしたのかなと思っていたら、栞さんが壁の隅を押し開く。
あれは隠し扉だ!? 良いなー⋯⋯僕も隠し扉欲しいな⋯⋯狭くても良いから秘密の部屋みたいな場所が欲しい。でも何処に?
前にミラさんが『家買うの?』って聞いてきた事があったけど、自分の家本当に買っちゃおうかな? 領主様の御屋敷には、隠すも何もスペースが無いもんね。
ビビと僕の家。ちょっと楽しみな気がする。朝ビビと一緒に起きて、まずは血を吸われるでしょ? 次は一緒に歯磨きをして顔を洗う。
その次は雑木林で朝食の食材集めをして、ビビと軽く戦闘をするんだ。スキルの強化も忘れちゃ駄目だよね。十歳になるまでは、スキルを均等に強化する予定なんだ。
帰ったら汗を拭いて、エプロンをつける。ビビと一緒に厨房へ立って、朝食と昼食のお弁当をいっぺんに作っちゃうよ。
考えたらワクワクするけど⋯⋯でもちょっと待ってね? まだ屋敷の部屋が殆ど使われてないんだよね。せっかく二人のお部屋をもらったのに、直ぐ使わなくなっちゃうんじゃ勿体ない。
自分の家を建てるにしても、時間がかかるだろうとは思う。魔術師さんに頼めば早いかもだけど、僕には魔術師さんへ繋がるツテが無い⋯⋯
「アーク。何を考えてるんだ?」
「ん? ビビと二人で住む家があったら楽しいかなって思ったんだ」
「え? は、そ、それは⋯⋯良いかも⋯⋯しれない⋯⋯」
ビビの顔が赤くなっちゃってる? 何で? いつものビビなら『必要無い!』とか『いらん!』って言うと思ったんだけど⋯⋯
「ただの思い付きだったんだけど、ビビが欲しいなら家買っちゃうよ?」
「アークと二人の家⋯⋯欲しい⋯⋯」
左手の小指をそっと握られた。買う必要はあまり無くても、ビビが欲しいなら買う価値がある。僕が旅に出ちゃった後は、妹のアーフィアに譲れば無駄にならない。
アーフィアのぷにぷにした頬に触りたいな。
「ドラグスに帰ったら、二人で住む家を探しに行こうか」
「うん」
ビビが欲しがる物は手に入れたいね。あまり見せないビビの笑顔が見れたんだ。
「仲が良いな」
黒狐様が振り返る。その顔は微笑んでいて、堅いイメージが和らいだ。
ビビと手を繋ぎながら、さらに暗い廊下を歩いて行く。もうどれくらい歩いたかわからないね。地下へ繋がる階段が現れて、どうやらまだまだ歩きそうだ。
「今向かっている場所には、この精霊界の核があるんだ」
「精霊界の核? ですか?」
「この精霊界の維持に欠かせない物で、創造神様自らが作り上げた物だ」
僕とビビはびっくりしたよ。神様が作った物を、直接見る事になるなんて⋯⋯あわわ⋯⋯ちょっと恐れ多いです。
「びっくりしたかい? 確かに人間には縁遠いお方かもしれないな。この世界の頂点に立つ神様だからね」
「僕には想像もつかないです⋯⋯食事の時に祈りますが、会った事がある人はいませんでした」
「そうだな⋯⋯後でわかりやすく説明しよう」
それから三十分くらい階段を下りて、またさらに真っ直ぐな道を三十分は歩いた頃だろうか⋯⋯目の前には青銅の大きな扉があり、様々な動物の絵が彫り込まれていた。
「迷宮の扉に少し似てますね」
「デザインは似てるかもしれない。これには転移機能はないから安心してくれ」
黒狐様の前へ栞さんが進み出る。扉を両手で押し開くみたいだね。
扉が開き始めると、隙間から激しい光が溢れ出した。ビビが少し苦しそうな顔をしたので、慌てて背中で光を遮る。
「大丈夫!? ビビ──」
「大丈夫⋯⋯」
よろめく体を抱きとめたら、肌が少し焼けているみたい。気休めかもしれないけど、厚手の毛布でビビを包む。
「忠告をし忘れていた。この光は魔の者を浄化する光だ。それと同時に心も洗われる。魔物によくある殺人欲求が、この光を浴びると消え去る筈だ」
「そうか⋯⋯そういう事だったのか⋯⋯」
ビビは僕を押し退けると、厚手の毛布を剥ぎ取った。光を自ら進んで浴びて、体から煙を上げている。
「ビビ!」
「大丈夫だアーク。良く見ろ」
ビビの体に薄らと魔力の膜が出来ているみたい。焼かれながらも高速で再生して、呼吸を調えるように息を吐いた。
「良い気分だアーク。色々スッキリしたよ」
強がりで言っている訳では無さそうだね。そしてビビの白い肌も、少しずつ焼けなくなってきているみたい。
「適応が早いな⋯⋯今後が楽しみだ。中へ行くぞ」
「はい!」
「はい」
ビビの雰囲気が少し変わった気がするよ。上手く説明出来ないんだけど、一回り成長したような? そんな感じがした。
──ビュァァア!
巻き上がるような突風に晒されて、栞さんの袴がバタバタと靡く。僕は眼前に広がる光の正体に、息をする事も忘れてしまった。
「凄いだろう?」
「「⋯⋯」」
僕もビビも言葉が出てこなかった。それは巨大なクリスタルで造られた惑星のような物で、全体像がまるで見えてこないくらいに大きい。兎に角デッカイ!
直径二キロメートルはあるのかな? もしかしたら、四季山でこれをすっぽり覆ってるのかな?
「これが精霊界の要。世界コアと呼ばれる物だ」
「「⋯⋯」」
あまりにもスケールが違う⋯⋯何て言えば良いのかわからないけど、本当にとても綺麗だよ。
見れて良かったと思った⋯⋯こんな巨大な物が、何も触れずに宙に浮いている。七色の光を帯びながら、それがゆっくりと横回転しているんだ。
凄いです。父様、母様。僕は今冒険者してますよ。
「これが失われれば、この精霊の世界は消えて無くなるだろう。魔族を捕らえに行きたいが、私はここを離れる訳にはいかない⋯⋯創造神様より与えられた役目があるからな。それで君達を呼んだんだ」
「それは⋯⋯?」
「アークは自然の力を操り、気力、魔力、スキルの力を同時に使う事が出来と聞いた。まずはその力を見せて欲しいんだ」
黒狐様の雰囲気が変わった⋯⋯まだ何もしてはいないのに、僕はその場で膝を着いてしまう。隣りのビビも僕と同じような有様だ。
何て重圧なの⋯⋯こんなの感じた事が無い⋯⋯まるで⋯⋯いや、違う⋯⋯これは⋯⋯
恐怖では無い⋯⋯正体不明の何かが、僕を押し潰そうとしているみたい。
今わかったよ⋯⋯僕は⋯⋯神様と対面しているんだ。
アークよ、はよ恋心を知るのじゃ( ´灬` )




