登録繁忙期です!
おはよーございます! 運動着に着替えて、寝ている父様と母様に小さく行ってきますと呟いた。ミト姉さんから水筒を受け取ると、外の冷たい空気を肺いっぱいに吸い込む。
今日も良い天気ですね。朝の訓練頑張っちゃいますよ。
*
雑木林の藪の中を全速力で駆け抜けながら、見つけた食用の野草などを摘んでいく。栄養がある物を沢山集めて、母様や皆に食べてもらうんだ。
出来れば兎や野鳥を捕まえたいけど、気配察知を使っても中々見つからないんだよ。彼等はきっと隠密スキルを使っているに違いない。
スリムになったクレアさんは直ぐに見つかるのに⋯⋯是非ともクレアさんには野生を取り戻してもらいたい。
もう雑木林の中は完全に僕のフィールドです。何処に何があるのかわかっているので、欲しい食べ物は直ぐに手に入るんだ。
雑木林の中には、暗黙のルールがあります。決まりでは無いんだけど、縄張りみたいなものもあるんだよ?
孤児達の活動する魚狙いの川沿いエリアと、主婦達が猛者のように徘徊する山菜エリアだ。
その二つには極力近付かないようにしているよ。僕が活動するのは最奥のエリアだから、普通の人はあまり来ない。
たまに訓練をしながら、川に入る孤児達に危険がないか見守ったり、主婦達に山菜の場所を教えてあげたりする。皆喜んでくれるんだ。
訓練から戻ると、収穫物をミト姉さんに渡す。これで昼食がバージョンアップするんだよ。
初めてギルドに行った日から、既に一ヶ月の月日が経過していました。親しい人も出来て嬉しいです。やっと僕も冒険者らしくなってきたね。
あれからもギルドでは色々な事があったんだ⋯⋯外から来た冒険者に弄くり回されたり、ライノス達にしつこく指名依頼されたり、ミラさんに弄くり回されたり、受け付け嬢さん達に弄くり回されたり、かっこいいポーズの人がかっこ良かったり、町案内を依頼されて仲良くなった旅芸人さんに弄くり回されたり、教会のシスターと神父様に弄くり回されたり、ミルクさんにとりあえず頭を下げたり、クレア探したり。
うん。大変な毎日だね。でも楽しくて幸せだな。
今ではステータスとスキルも全体的に成長しています。
*名前 アーク
種族 人族
年齢 4
出身地 ドラグス
魂魄レベル 1
体力 183
魔力 155
力 69
防御 20
敏捷 111
残金 2215ゴールド
武術系スキル
初級剣術レベル3
剣技“パワースラッシュ”、“ウェポンスナッチ”
初級短剣術レベル3
短剣技“クイックシャドウ”、“シャドウウォーリアー”
初級体術レベル4
体技“二段跳び”、“岩砕脚”
初級弓術レベル2
弓技“ディスタントビュー”
魔法系スキル
生活魔法レベル1
“クリーンウォッシュ”
火魔法レベル2
“ファイアバレット”、“ファイアスネイク”
水魔法レベル2
“バブルボム”、“ウォーターフォール”
風魔法レベル1
“エアークエイク”
土魔法レベル1
“ヘキサゴンストーン”
光魔法レベル1
“ライト”
補助スキル
魔力感知レベル5、魔力操作レベル5、魔力消費軽減レベル3、探索レベル3、気配察知レベル5、尾行レベル3、隠密レベル4、悪路走行レベル4、荷運びレベル4、忍耐レベル4、苦痛耐性レベル2、礼儀作法レベル4、暗視レベル2、自然回復力向上レベル5、敏捷強化レベル5、筋力増強レベル3、分割思考レベル6、投擲レベル3、料理レベル2、解体レベル2、回避レベル2、危険感知レベル2
ユニークスキル
恩恵の手引書
称号
猫の天敵、お姉さん殺し、町のアイドル
ステータスが結構上がったんだよね! スキルと称号と体の成長のお陰かな。実は冒険者ランクもEになっているんだ。
カードが鮮やかな銅色になっていたので、おかしいなと思ってミラさんに聞いてみたんです。ライノス達の指名依頼を何度もこなしたから、それでポイントが溜まったんだって。
でもそれっておかしいんじゃない? って思ったんだけど、あれは明らかにGランクの依頼じゃないし、Eランク依頼として受理していたそうです。
道理でお金が良いと思ったんだ⋯⋯所持金が2000ゴールド超えちゃったし、僕今凄いお金持ちだよ! 食事無しの普通ランクの宿屋が50ゴールドだから、四十日も滞在出来ちゃうね!
まだ魔物の討伐とかした事ないんだけど、魔物を倒すと魂魄レベルが上がるって話なんだ。レベルが上がれば強くなる⋯⋯でも魂魄レベルを上げるのは後回しにしよう。今は沢山訓練を頑張って、スキルを沢山増やす事を考えていこう!
あ、あれから頑張ってギブが剣術スキルを授かったよ! ライノス達も剣術スキルを授かりました。僕もうかうかしてたらやられちゃうよ⋯⋯大人の体だから皆力が強いんだよね。スキル増えただけでも凄まじいのさ! 羨ましい⋯⋯首から下だけでもマッチョに成長しないかな? 想像したら変な人だったよ。
新しいスキルなんだけど、剣術と短剣術と弓術の新しい武技を覚えました。
まず剣術、新しいスキルの名前が“ウェポンスナッチ”。これは、相手の武器を魔力を込めた剣で絡め取る技だね。意外と強力なスキルだと思うよ。成功率は相手の腕力次第だけどね。
次は短剣技の“シャドウウォーリアー”。
これは数秒だけ本体と同じ見た目の分身を作れる技なんだ。実体はないから見掛け倒しだけど、駆け引きに使える優秀な技だと思います。ただ分割思考のスキルが無いと、自由に動かすのも大変なんだよ?
弓技の“ディスタントビュー”。
これを使うと遠くまで見通せるようになるよ。弓を装備して無くても使えるから、このスキルはとても嬉しいね。
体術のレベルアップも嬉しかった。技は覚えなかったけど、体のキレが増したんだ。
初級武術はレベル5になると中級武術になります。
中級武術を覚えれば、“気力操作“のスキルを習得出来るんだ。技の威力の調整や、肉体の強化が出来るんだよ。
僕が魔力操作でやってるなんちゃって身体強化よりも、ずっと良いスキルなんだよね。
やっぱり僕のユニークスキルが優秀だって事がわかる。ここまでの情報が誰に聞かなくてもわかっちゃうんだからさ。スキルの情報に関しては、僕の右に出る人はいないと思う。全ての正解を知っているのだから、貴族様よりも良い先生がついている感じかな。
朝食を食べながら考え事をしてたせいか、ミト姉さんにチョップをいただきました。ご馳走様です。
風と土の魔法も使えるようになりました。直ぐに光と闇の魔法を覚えて無属性魔法を覚えたかったんだけど、闇魔法の取得に苦戦中で無属性魔法はまだ先になりそうです。
闇魔法の取得条件が、夜の月光を二千時間浴びる事なんだ⋯⋯夜更かしは怒られるから、暫く無理かもしれないね。
*
ミト姉さんから二度目のチョップを有難くいただき、僕は冒険者ギルドにやって来ました。
いつも通りミルクさんに頭を下げようかと思ったのに、ギルドの前は人人人人人だらけ! え!?
「何事!?」
「アーク〜来たのか〜よしよし」
「うわ⋯⋯ベスさん」
「ベスちゃんと呼べと言っただろう?」
「うぅ⋯⋯ベスちゃん⋯⋯」
ベスちゃんはBランクの凄い冒険者さんです。でも出会い頭に僕を捕まえるのは止めて欲しい。
見た目は可愛い十二歳の女の子。水色のセミロングの髪の毛で、ハーフアップにしているんだ。中身は二百歳越えのドワーフさんです。
「今日は人が凄いですね」
「アークは初めてなんだな。あれは昨日学校を卒業したばかりのルーキー達だよ。あれを全部試験しなきゃならないんだ」
「すっごく大変じゃないですか⋯⋯」
「うむ。そのせいで全員がピリピリしている。この時期は宿でダラダラして出てこない奴もいるくらいめんどくさい。他のギルドも就活ラッシュで忙しいだろう⋯⋯何処のギルドも有望な新人が欲しいけど、無条件で加入させるわけにはいかないからな。冒険者は人気があるからこんなにごった返しちゃうのさ」
んー、そうだね。錬金術ギルドに錬金術スキルを持たない人が入っても意味が無いように、冒険者ギルドも戦闘に役立つスキルがないと意味がないもの。
「大変だなぁ。キジャさんもミラさんも大丈夫かなー?」
「相当イライラしている筈だ。ミラにアークの姿を見せてあげるか」
この人達全員試験するとか半端じゃないね。順番待ちする人達が、ギルドの外まで長く続いているよ。
僕はベスちゃんに抱っこされ、ぬいぐるみのように持ち上げられた。これ、一ヶ月くらいずっとなんだ⋯⋯もう慣れちゃったよ。ベスちゃん怒ると凄く怖いし、されるがままの境地ってやつ? 僕は悟りをひらいたのさ。
ギルドの中は戦場のようだった。十六歳前後の男女で埋め尽くされている。
受け付けに並ぶ長蛇の列に目眩さえ覚えるよね。ちなみに受け付けの窓口は普段四つあるんだ。でも今日は酒場のテーブルを利用して、倍の八つになっていた。
何時もは受け付けを担当してないお姉さんも、臨時の受け付け嬢をやっているみたい。
あ! ミルクさんいる! すっごいキメ顔してるよ! 何で? 黄色い歯が輝いて見える!?
列の整理に冒険者も雇われているみたい。ミルクさんは椅子に座っていつも通りワインを傾けている。
ベスちゃんが人混みを縫うように進み、いつもは入らない受け付けカウンターの内側に避難した。
「ふぅ。ここまで来れば安心だな」
「あ、ミラさんだ」
ベスちゃんは僕を抱えたままミラさんの近くに移動する。
ここからミラさんを眺めるのは初めてだなー。やっぱり部屋にいる時より大人っぽく見えるよ。ギルドの制服のせいだろうか?
「君可愛いね。どうだい? 試験合格した後、俺と食事でも──」
「仕事がありますので、また今度お願いします。試験会場は八番です。次の方どうぞ」
「ちょっ!!」
ミラさんは顔に笑みを貼り付けて、どんどんと人を捌いていく。絶対心は笑っていないよ。目が怖いもん⋯⋯
ギルドの受け付け嬢さん達は、登録に来た若い人達に食事や遊びに誘われたりで余計に忙しそうだ。
「お前達。癒しを持って来たぞ」
「あ! アークちゃん!」
「アークちゃんだって!?」
「わ! アークちゃんだ!」
「アークちゃーーん!」
はいアークです。受け付け嬢さん達が振り向いちゃったので、僕の方が邪魔しているみたい。
ベスちゃんが癒しを持って来たって言ったけど、僕まだ癒し系の魔法使えないよ? ベスちゃんが使えるのかな? 神聖魔法が使えたら、回復支援してあげれるのにな。
「みんな大丈夫ですか? チョコ食べますか?」
「うぅ⋯⋯これで頑張れる!」
「わ、私も⋯⋯もう大丈夫! 頑張れるわ!」
「戦いはこれからよ!」
「「「「おー!」」」」
あれ? 皆元気になっちゃったよ? まだチョコあげてないのに⋯⋯
「ぃよし! ここはもう良いだろう。あまりいても邪魔だしな。次は試験会場でも見に行ってみようか」
「ベスちゃん。試験会場って何処にあるの?」
「試験会場って言ってもギルドの訓練場だよ。例年通りなら、訓練場の中を九つに分けて試験をしているだろう。中ではギルマスも額に皺寄せて唸ってるんじゃないか?」
「大変そう⋯⋯キジャさんも試験の様子を見るんですね。強い人集まるかなぁ」
「ふふふ。粒揃いだと良いけどどうだろうか。アークみたいにびっくりするような奴はいないだろうな」
ベスちゃんが早速試験会場へ移動する。
ギルドの訓練場の中は、白い線で区切られて九つのブロックに分けられていた。その中の八つが試験をする会場で、一つが試験官の休憩所になっているみたい。
そこには以前教会で見た事のある神父様と、いつも優しい笑顔を浮かべるシスターさんがいた。
神父様達は怪我人が出た時に、神聖魔法を使う回復要員なんだろうね。今は暇そうに椅子に座っていて、ゆっくりと紅茶を楽しんでいるみたい。
休憩所で休んでいる試験官はまだいないみたい。キジャさんと神父様達は、試験の様子を見ながら雑談しているよ。
テーブルにお菓子が置いてある! ズルいです!
「よ! ギルマス」「キジャさんおはようございます」
「お? ベスとアークか。何してんだ?」
「私はアークに登録繁忙期のギルド案内だな」
「僕はギルドに来たらベスちゃんに捕まりましたぁ」
「ん〜! もう逃がさんぞ〜。んちゅ〜」
「わー! ベスちゃんちゅーは止めてー!」
「よいではないかよいではないか」
「んぬぬ、ぬぎゅぎゅ⋯⋯」
「たく⋯⋯ベスがいると騒がしいな⋯⋯」
キジャさんは落ち着いている。僕は大ピンチの真っ最中なのに!
今日はギルドがこんな状態じゃ、依頼を受けるような余裕も無さそうだよね。
「アークは暇か?」
「一応依頼を見に来たんですけど、まだ何も受けてないのでベスちゃんを引き剥がしたら暇です」
「アーク! 私とのデートはどうなったんだ!?」
「そんな約束してません!」
「ベス。執拗いのは嫌われるぞ」
「はうあ!」
キジャさんの一言でやっとベスちゃんが離れてくれた。久しぶりに地面を踏んだ気がする。ありがとうございます!
「アーク、試験官の交代要員をやんねーか? Dランク依頼なんだが、アークならいけんだろ?」
「ええ! 僕が試験官ですか!? いきなり過ぎて心と髭の準備ががが」
「髭の準備ってなんだよ⋯⋯」
僕が試験官? 想像がつかないな⋯⋯さあ大変だ! 僕に試験官が務まるのだろうか?
「何事も経験だぜアーク。やり方を教えてやる」
「は、はい! よろしくお願い致します」
1ゴールドは百円位の価値だとお考え下さい。
銅貨、1ゴールド
大銀貨、10ゴールド
銀貨、100ゴールド
大銀貨、1000ゴールド
金貨、1万ゴールド
大金貨、10万ゴールド
白金貨、100万ゴールド




