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どんな温泉が待っているのだろう






三人称視点



 アルフラにある高級レストラン“アロワナ”。そこで高そうな服に身を包んだ二人の冒険者が、昼間から値段の高い酒を飲んでいた。


 一人は落ち着いた佇まいで、優雅に食事を楽しんでいる。もう片方は、顔を醜く歪めていた。


「巫山戯んなよあのクソ餓鬼が⋯⋯」


「⋯⋯言葉が汚いですよ。ジルクバーン・フォルティーニ」


 その男はイライラを隠す様子も無く、出されたメインディッシュにフォークを振り下ろした。

 この男達は、冒険者でありながら貴族でもある。多少騒いだとしても、店も周りも何も言えずにいた。


「うるせえよ。何でここに何日も滞在しなきゃならねぇ! 二、三日で立つ予定だったじゃねえか!」


「仕方無いでしょう⋯⋯銀閃が行方(ゆくえ)をくらませたとなれば、アルフラの冒険者には手に余る案件だ。話によれば、銀閃は礼儀正しく品行方正。だとすれば、何らかの事件に巻き込まれた可能性が高いと見える。評判通りの人間ならば、連絡もせずに街を離れる事も無いだろうしな。それに、ヘイズスパイダーに殺られた可能性もゼロではない⋯⋯」


 ブローラード・ベルガルシア。ジルクバーン・フォルティーニ。アルフラの冒険者ギルドで、現在アークの捜索とヘイズスパイダーの討伐を任されている。


「あいつがあんな蜘蛛に殺られるかよ!」


「⋯⋯問題は子蜘蛛ではなく親蜘蛛だ。ヘイズスパイダーの親は、最低でもAランクとされている。討伐実績が無く、Aランクという情報すらあてにはならん」


 その二人の険悪な雰囲気に、店内ではカトラリーの奏でる音だけが響いていた。


「何処へ消えやがったってんだ⋯⋯」


「不明ですね⋯⋯そもそも、銀閃を最後に見たのは私達だ」


「⋯⋯」


 ジルクバーンは立ち上がり、未開封の酒瓶を左手の指に三本も挟みこんだ。

 ブローラードに何も言わずに店を出て行くが、ブローラードもジルクバーンを止めようとはしない。


「ジルクバーンがそこまで気にする少年⋯⋯興味深い」


 ブローラードは店員を呼び、新しい酒を注文した。





 冒険者ギルドの魔導飛行艇が、胡散臭い貴族に絡まれていた。そこを通りがかったジルクバーンが、指先で捩じ伏せて鬱憤を晴らす。


「お、覚えてろよー!」


「知るかタコが!」


 その間僅か一分の出来事。普段ならば見て見ぬふりをしていたが、憤りを覚えた自分に腹が立つ。

 貴族とは愚民の上に立つ者だ。そういう教育を受けてきたジルクバーンは、今の自分が抱える感情の正体に気が付かない。


「すまねぇ⋯⋯助かった」


「⋯⋯」


 魔導飛行艇の船長が、ジルクバーンに頭を下げる。


 頭を下げた船長を見て、妙に心の中がザワザワしてしまうのだ。


(喋りかけんじゃねーよ⋯⋯)


 ジルクバーンは船長を無視して、冒険者ギルドへと向かった。



〜冒険者ギルド〜


「おい」


「はい! 何でしょうか!」


「銀閃のアークの資料を寄越せ。あるだけ全ての情報だ」


「は、はいぃ!」


 冒険者ギルドの受け付けで、ジルクバーンが受け付け嬢を脅すように迫る。


 慌てて渡された資料をひっ掴むと、勝手に応接室へと入って行った。


 やる事なす事全てが嵐のような人間だった。それがジルクバーン・フォルティーニ。


 彼が色々な事に気がつき変わっていく事になるのは、まだまだ先の事になるだろう。



side アーク



 ベスちゃんを遠くから見つけて、こっそり背後から抱きついてみたんだ。スキルをフル活用しちゃったけど、ここまでしなくちゃバレちゃうからね。


「あ、アーク!」


「僕の勝ち〜。ベスちゃんの負け! えへへ」


「不意打ちか! 幸せの不意打ちなのか!?」


「?」


 何を言っているのかな? ベスちゃんはよく壊れちゃうからわからない。


「クオーネさんこんにちは」


「こんにちは。アーク様」


 ニッコリと微笑むクオーネさん。この場所は公園になっているみたいで、実にゆったりとした時間が流れていた。

 砂場で遊ぶ子供と、ベンチに座る若い男女がいる。


 少し気になって聞いてみると、クオーネさんが向こうの世界から連れて来たらしい。

 まだ家族を無くしたばかりの子供達で、少しも目が離せないんだとか。


「私に何が出来るかしら⋯⋯」


「何かをする必要は無いんじゃないかな?」


「どういう事?」


 クオーネさんは、精霊と人間の違いに戸惑っているらしい。


「難しく考えなくて良いんだよ。クオーネさんが一緒にいてあげれば大丈夫」


「それだけで良いの?」


「うん! ね、ベスちゃん!」


「そうだなぁ。私もアークさえいてくれれば──」


「ビビ! あっちにブランコある! 行こ!」

「仕方ないな⋯⋯」


「ッ!!!」


 ブランコって良いよね。行ったり来たりするだけなのに、何でこんなに楽しいのか。


 ベスちゃん達を温泉に誘ったんだけど、クオーネさん達は残るらしいよ。ベスちゃんは着いてきてくれるって。


「じゃあお昼にお城の中庭でね」


「わかった!」



 公園を離れ、時計塔にやって来ました。


 マウンティスの精霊さん達が協力をしてくれているみたいで、急ピッチで建て直されている。


 ⋯⋯んー⋯⋯前よりかなり豪華な造りになりそうだなぁ。


 時計塔には鐘が取り付けられるらしい⋯⋯それと展望台にもなるみたいで、完成予定の設計図が壁に貼られていた。


 悲しい事はあったけど、今はそれを楽しみに変えている。そんな精霊さん達を見ていたら、少し嬉しい気分になってきたよ。


 トラさんはいるかなー? 何をしているのかな?


 精霊さんの数が多かったから、トラさんを探すのに苦労した。


「トラさーん」


「アークにゃ?」


 また一人でいたみたいだね⋯⋯


 トラさんを呼ぶと、顔を上げてこちらを見た。その手にはスコップがあり、雑草の処理をしていたらしい。


「ねえトラさん温泉行かない?」


「温泉にゃ? でも仕事がにゃ〜⋯⋯」


「それなら大丈夫! “クレイゴーレム”」


 クレイゴーレムは土の魔法だ。使うの久しぶりだね。こういう単純作業にはピッタリだと思うんだ。


「んっっぱあ」

「んーっま!」

「んまうぅ!」

「んぱあ」

「まっま!」

「んまう?」


「こんにちは皆さん。この敷地内には、景観を乱そうとする悪い雑草がいるのです!」


「んま!?」

「ま゛!!」

「んギギッ!」

「まむう!!」


「皆さんの力を貸して下さい!」


「まむんまう!!」

「んまんま!!」

「んんんまーー!」


「ではよろしくお願い致します!」


《んーま!!》

「んまう?」


 これで大丈夫。後はクレイゴーレム達に任せれば良いよね。


「オイラが行っても良いのかにゃ?」


「何で?」


「オイラがいると迷惑になるかもにゃ⋯⋯」


 それは何でだろう? ただ温泉に行くだけなんだけどね。


 トラさんは何か悩みを抱えているのかな? いつも一人でいる事に関係でもあるのかな? いつか僕に話して欲しいと思います。僕はトラさんの味方だからね。


「温泉に行くだけだから、迷惑になったりはしないよ? お昼にお城の中庭に集合してね」


「そうかにゃ⋯⋯? 温泉⋯⋯行くにゃ」


「うん! 待ってる!」


 これで皆には声をかけれた筈。街の観光も楽しかったなぁ。


 景色が綺麗な温泉楽しみです。どんな所なんだろう。


 温泉卵が食べたいなぁ。









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― 新着の感想 ―
[一言] ゴーレムってなんか言ってましたよね... 俺たちの時代がきた!でしたっけ?
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