閑話 マリーの裏表
ちょっとした閑話ですが、精霊界のゴタゴタが終わった後、これに関連するお話を書きたいと思います。
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side マリー
アーク様と別れ、私は路地裏に入りました。
いけない⋯⋯ちょっと危ないところだったわ。
アーク様が優しくて、ちょっと泣きそうになっちゃったの。
キャラじゃないのよ⋯⋯でも、甘えてみたくなっちゃった⋯⋯アーク様は太陽のように暖かくて、とても純粋な想いの塊のような人なのよ。
初めてアーク様と会った時、私は殺されそうになっていたの。頑丈な蜘蛛の巣に捕らわれて、いくら頑張っても抜け出せなかった。
怖くて怖くて、形態変化が出来る事も忘れていたわ。もう少しアーク様が遅れていたら、私は食べられていたのよね。
その時の事を思い出したら、少し体が震えてしまう。
本当に怖かった⋯⋯でも、あの時の光景は衝撃的でした。銀色の風を纏った人間の子供が、白い蜘蛛を倒しながら走って来たんですもの。
そして私は助かった。この恩は決して忘れません。絶対です。
それから走って飛んで走って飛んで、私は街中を駆けずり回りました。助けてくれた子供の魔力が伝わってきて、まだ激しく戦っているのを伝えてくる。
魔力が爆発的に膨れ上がったりして、私にはその子供の底がわからなかったわ。人間として、末恐ろしいものがあると思いました。
私はその少年に、陰から頑張って下さいとエールを送る。私には確認したい事があったから、兎に角走って走って走りまくりました。
走って飛んで走って飛んで⋯⋯あれ? もう蜘蛛もいないみたいですね。
走って飛んで走って飛んで⋯⋯走って飛んで走って飛んで⋯⋯
おかしいな⋯⋯おかしいおかしいな⋯⋯何でどこにもいないの? パパとママ。
途中から気がついていました。そうなんじゃないかって思っていました。
パパとママは食べられたんだって⋯⋯わかっていても、認めたくなかったのよ。
不思議と涙は出なかった⋯⋯そのかわり、激しい怒りの感情に支配されました。
私を大事に育ててくれたパパとママ⋯⋯こんな別れ方になるなんて⋯⋯
許さない、許さない許さない。私はあの蜘蛛を許さない。力が弱いのはわかっているけど、私もあの蜘蛛を倒すんだ!
戦いは苦手だったんだけど、私は戦闘員募集へ志願したの。あの蜘蛛が殺せるのならば、私は喜んで火に飛び込みます。
「マリー」
「⋯⋯」
こっそり決意を固めていた私の前に、ボーネイトがやって来ました。今は放っておいて欲しかったのに⋯⋯何で来ちゃうのよ。
「仕方の無い子だな。君は」
ボーネイトとは付き合いが長く、一緒に遊ぶ事はよくあった。下を向いて顔を逸らした私を見て、溜め息を吐きながら抱き上げてくる。
「大丈夫だよ。俺がついてる」
急にそんな事を言われて、私はびっくりしてしまったわ。パパとママが消えちゃった事は、暫く秘密にするつもりだった。だからボーネイトに何も話していないのに⋯⋯それなのに。
⋯⋯バレない訳がないか⋯⋯ボーネイトは、私の両親とも仲が良かったのよね。もしかして、ボーネイトの戦う理由って⋯⋯?
私のためかも⋯⋯そう考えたら、少し顔が熱くなった。勿論それだけの理由で、アーク様の部隊に参加しているとは思わないけど⋯⋯
俺がついてる。ボーネイトのその言葉が、私の胸に深く突き刺さった。
凄く嬉しかったんだ。一人じゃないって思えるだけで⋯⋯でも、私は決めたんだ。蜘蛛を全部倒すまで、絶対に泣かないって決めたんだから!
「へっへっへ。礼を言うでやんす」
「素直じゃないなぁ」
まだね、心の整理が出来てないの。どう悲しんだら良いのかわからなくて、考えだしたら動けなくなりそうで⋯⋯
迷惑ばかりかけてごめんねボーネイト。御礼にとっておきの物をあげるわ。五回に一回相槌を打つ素晴らしい物なんだから。




