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かっこいい冒険者達




 ライノス、ロド、バイオ、彼等は訓練場に寝転がり、ゼェゼェ息をしながら胸を上下させている。


「ライノス。体力が厳しくなってからも、萎えないやる気は素晴らしいと思います。性格が直情的すぎるところは良くないですが、ライノスが強くなればロドとバイオにも良い影響を与えるでしょう」


「······」


 言い返したいが言い返せない。また立たされるからね。そんな顔してるよ。

 僕は今立派な先生だもの。ちゃんと出来てるかなぁ? それっぽく言えてるだろうか?


「次ロド。剣の振り方が雑すぎます⋯⋯全力大振りはここぞと言う時にとっておきなさい。それもいつでも使える物でもないですよ。パワーを生かすにはどうしたらいいか、考える事を覚えるようになりましょう」


 ロドは最後の方は笑っていたね。きっと剣術が嫌いじゃないはずだ。いつか絶対強くなると思うよ。


「次バイオ。好機を見逃さず、そこをつけるのは素晴らしいと思います。ライノスとロドの良い手本となるでしょう。体力はもう少し欲しいですね。あと、バイオも少し直情的な感じがします。顔はポーカーフェイスですが、目でバレますからね? もう少し精神面を鍛えた方が良いと思います」


 こんな感じで良かったかな? ちゃんと先生出来てたかな? 僕も汗だくでシャツびっちょりだよ。楽しかったなぁ。


「本日のご利用ありがとうございました。今日の訓練はここまでにしますね。次回もあれば依頼をお受け致しますので、気軽にギルドまで御相談下さい。それではお疲れ様でした」



side ライノス



 体が起こせねぇ。指にピクリとも力が入らねえ。


「なんだったんだ⋯⋯彼奴は⋯⋯」


「わからねぇ。だが、つええ⋯⋯」


「ええ、完敗ですね」


 ロド、バイオも寝っ転がったままだ。ここまで消耗したのはいつ以来だろうか? 無茶苦茶体が重てえが、何だかちょっと爽やかな気分だ。


 彼奴の⋯⋯影響なんだろうな⋯⋯ムカつくぜ。


「彼奴、名前なんだっけか」


「アークですよ。まったくとんでもない⋯⋯」


「ああ、そういう名前だったか」


 バイオは何時も頼りになるが、今日は揃ってこのザマだ。でも、悪くねえと思っちまってる。


「次だ⋯⋯次こそ剣を抜かせてやる!」


「そうだな」


「はい。このままじゃ終われませんね」


 そうだ⋯⋯こんなんじゃ終われねえ。こんなもんじゃ足りねえよ。


「追加報酬どうします? ケーキがどうたら言ってましたが」


「ハンッ!! 書類にも纏めちゃいねえ、しかも一方的な言い(ぶん)じゃねえか! 無視だ無視」


「くふふ······ええ。そうですね」


「俺はやるぞー!!」


 遅れてロドにも火がついたようだ。このままじゃ終われねえからな。バイオは俺達の気持ちを代弁してくれた。


 俺達は子供の頃、大列を組んで移動する行商人仲間だったんだ。そんな繋がりがあって、何時も一緒に遊んで一緒にご飯食べて過ごしていた。

 一緒に親の手伝いをして荷降ろしをして、兄弟同然のように集団生活をしていたんだ。


 あんな事件がなければ、もっと違った人生だったに違いない。


 よくある話しさ⋯⋯街道を挟み込むように盗賊が現れたんだ。その規模が大きく、盗賊の人数は五十人以上⋯⋯こちらは雇ったEランク冒険者の護衛八人と、戦える商人が十人弱だった。

 二倍以上の戦力差で俺達は囲まれてしまったんだ。


 もちろん急に襲われたわけじゃない。戦闘前にちゃんと交渉する時間はあった。だけど、女は全部置いていけと主張する盗賊に、こちらは頷く事が出来なかったんだ。


 あわや一触即発って時に、冒険者の護衛は一斉に逃げ出した。それで元々危うかった戦力差が一気に開く事になる。まだ頑張って交渉を続けていたのに、それがきっかけとなって戦闘へなだれ込む。


「騙そうとしやがったな! 男は殺せ!!」


「ま、待ってくれ。誤解だ! 私達はそんな⋯⋯」


「うるせえ!」


 騙そうとしたと言いがかりをつけられ、男達は嬉嬉として盗賊に殺される。父親の首が落とされた光景が、あの時は理解出来なかった。

 女達はどうなったかわからねぇ。いや、使い道は一つしかねえだろう。

 そして俺達子供は全員捕まり、闇奴隷として売られたのだ。


 だが俺達三人は、王都の商会長に助け出される。俺達の悲報を聞いて、方々手を尽くしてくれたらしい。

 それでも救い出されたのは俺達三人だけだったんだ。殆どが外の国へ流されて、力のあった商会長ですら手が出せない場所へ運ばれてしまったらしい。

 バイオには小さい妹がいた。俺には口うるさい姉がいた。

 その時の事を思い出すと、やっぱり冒険者は許せねえんだ。許してしまえば、死んだ親父や拐われた母さんと姉ちゃんを裏切るような気がしてよ。

 バイオもロドもそうだ。


 だけどアークとの戦いでは、憎しみ以外の感情があった気がする。それが余計に腹立たしい!


「明日もやったるぜボケが!」


「全力、全開」


「ええ。絶対に倒しましょう。でも午前の市場終わらせてからですよ?」


「わかってるよ。休んだら商会長に顔向け出来ねえ」


 アークの指導は的確だったと思う。彼奴の教えで彼奴をぶっ飛ばしてヒーヒー言わせてやる。くっくっく、想像するだけで楽しみだな。



side アーク



 ブルブル


「どうしたの? アークちゃん」


「今、寒気がしました」


 僕はミラさんに依頼達成の報告をした。そして何故か背筋に悪寒が走る。ナニコレオカシイナ?

 きっとどこかで過去の回想をしていた人が僕にヒーヒー言わせるとか言ったに違いない。


「アークちゃん⋯⋯汗びちょびちょじゃない。それじゃ風邪ひくわ。ギルドの奥に女子寮があるから一緒にお風呂入りに行きましょうか」


「大丈夫です。すぐ乾きますよ」


「駄目です。それじゃあ体冷えちゃうでしょ? 何かあってからじゃ遅いんです」


「でも⋯⋯面倒⋯⋯」


「ん?」


「うぅ⋯⋯」


 強引なミラさんに腕を掴まれて、僕はギルドホールからドナドナされていく。


 何処まで連れて行かれるのだろうかと思っていたら、一分もしないで到着しました。

 どうやらギルドに隣接(りんせつ)された建物が、働く職員の女子寮になっているらしい。

 古い二階建ての安宿を改築したものらしく、一部屋一部屋はそんなに広くないそうだ。

 ミラさんの部屋に連れられて入ると、ベッドにタンス、可愛い丸テーブルと椅子が二脚ある。大きなクマのぬいぐるみがベッドに置いてあって、抱きついたら気持ち良さそうだ。

 ミラさんはタンスを開けて、中を漁り始めた。


「服は洗わなくちゃいけないから、干してる間はこれを着て」


 生活魔法で汚れは落とせるけど、濡れた服を乾かす魔法は覚えていない。んー⋯⋯しょうがない⋯⋯でもなぁ。

 渡されたのは白い透けたネグリジェと紫の紐パン。ネグリジェは上下に分かれるタイプの物で、それを上だけ渡された。僕がこれを着たらワンピースになりそうだ。

 でも⋯⋯


「女の子っぽいのやだよぉ⋯⋯僕乾くまで裸でいるよ」


「お風呂入った後、湯冷めしちゃうでしょ? 少しの辛抱なんだから、ちゃんと着なさい」


「んー⋯⋯わかったよぉ⋯⋯」


「そう。偉いわね」


 何だかミラさん元気になってる気がする? 僕のいないところでお菓子食べたね!?(確信)


 ミラさんに案内されて、とても大きな脱衣場にやって来た。ミラさんも一緒にお風呂に入るみたいだ。僕一人でもちゃんと湯船に浸かって百数えるんだけどな。


 お風呂の扉を開けると、色の綺麗なタイル張りになっていた。


「わー。凄いね」


「そうでしょ?」


 お風呂場は結構広かった。元宿屋ってのは伊達じゃないって思ったよ。

 ミラさんに頭と体を洗ってもらい、僕もミラさんを洗ってあげる。ミラさんの髪の毛は長いから手入れが大変そうだな。亜麻色の髪でお尻辺りまで伸びている。

 他の受け付け嬢さんも何人か入って来て、何だかとてもチヤホヤされたよ。母さんとミト姉さんとお風呂に入ってるみたいな気分になった。

 シャンプーが目に入ったら痛いから、シャンプーハットを置くようにキジャさんに直談判しよう。

 お風呂でちゃんと百数えたのに、ミラさんに抱きしめられて抜け出せない。


「気持ち良いね。アークちゃん」


「もう出たい⋯⋯ちゃんとあったまった」


「だーめ」

「次私が抱っこしたい」

「こっちにも来て。アークちゃん」


 その後、渡されたネグリジェを着た僕に、化粧をしたがるミラさんを躱しながら服が乾くのを待つ。


「逃げちゃ嫌よ。アークちゃん」


「化粧は嫌〜」


 ギルドの女子寮に来てからだと思うけど、ミラさんの性格が少し変わった気がするな。ギルドの受け付けにいた時は大人な雰囲気のミラさん。自分の部屋に戻ると、少し子供っぽいミラさんになるんだ。すぐ抱っこしたがるしね。

 僕の方が大人かもしれないよ?


「ね〜ね〜アークちゃん。泊まっていかない?」


「駄目です。夜ご飯までに帰らないと怒られます。父様と母様が良いよって言ったら、今度遊びに来ますね」


「絶対! 絶対だからね!」


「わかりました?」


 なんだろう? 僕とミラさんってこんなに仲良かったっけ?

 そんなに僕と一緒に遊びたいのかな? 父様と母様の冒険譚を聞かせるチャンスだね!


 その後、乾いた服を着てミラさんと一緒にギルドへ戻った。ライノス、ロド、バイオが少し心配だったからね。


 三人はあの後、僕への指名依頼をして帰ったらしい。明日も訓練やりたいだなんてちょっと嬉しいな。

 受けるかどうかは僕が決めて良いって言われたけど、報酬が100ゴールドとケーキらしいので、しかたなーーーく、本当にしかたなーーーく全力で受ける事にする。


 明日の予定は決まったね。僕も回避と危険察知スキルが欲しいから助かるよ。

 町の外に出るようになってから、魔物で練習するにはリスクが高いからね。


「おう。アーク。さっぱりしたじゃねーか」


 僕が酒場のテーブルでミラさんから依頼の話を聞いていたら、キジャさんが通りがかって声をかけてきた。


「はい。すっきりしました」


「良かったな。ミラに洗ってもらったのか?」


「はい」


 ザワザワザワザワ⋯⋯ギルド内が蠢いたと錯覚する程に、場の空気が一変した? ような気がする。


「明日も依頼あるんだろ? 早めに帰って休めよな」


「はい! ありがとうございます!」


「俺はまだ仕事があるからよ。またな」


「頑張って下さい」


 キジャさんが二階に上がる。

 さっきの変な雰囲気は何だったのだろうか? 気のせいかもしれない。

 さて、そろそろ帰ろうかな。空も夕陽に染まり出したからね。良い子は暗くなる前に帰るんだよ。


「やあやあやあ、奇遇だーね! アーク君。僕の名前はハイド、Dランク冒険者ーーーさ!!」


 僕が帰ろうとすると、目の前にハイドさんと名乗る人が立ちはだかった。喋りながら言葉に妙なアクセントを作り、その瞬間にかっこいいポーズを決めてくる。


 なんてかっこいいポーズなんだ!


「待て待て! 俺は⋯⋯くっ! まだEランクだが、将来有望な魔剣使い。その名もファイあぶふぉ!」

「待つのはお前だアホ! 俺はDランク冒険者のザンザス! さっきの話を詳しく聞かせてもらいたい。ほれ、銀貨だぁああ痛たたた」

「横入りしないでいただきーーーーたい!!」


 か、かっこいい!!


「馬鹿はほっといて、俺とあっちで話そうぜ。ほれ、俺は大銀貨だグフェ⋯⋯ごぼ⋯⋯」

「お風呂で君は何を見たんだ! 俺はDランク冒険者クレス! この町で知ってる人は知っている有名人さ!」


 それ有名人なの?

 代わる代わる冒険者が話しかけてくる。何時も遠巻きに僕を眺めていた人達だ。

 登場する瞬間は、皆キラキラの笑顔で渋く前歯を光らせていた。

 急にどうしたんだろうね。でも悪い気はしないかな。


 ──カツカツカツ。


 どこからともなく足音が聞こえてくる。それと同時にどこか雰囲気のあるおじいさんが現れた。


「散れーい雑魚共が! 儂はCランク冒険者、迅雷の大魔法使いアボスである。歳若き小さき物よ。そしてヴァルハラに至りし勇者よ!!! お主はその至宮で何を見た!」


 迅雷って、風魔法の上級魔法だ。凄い! そして、それ以外の言葉の意味がわからない! 凄い!


「ハッ!!」


 かっこいい!!


「えーと、皆いっぱいでわかりません。質問があるのですか?」


「くっ! 伝わらんかったわい⋯⋯」


「そうーーーさ!! 風呂で見てきたものーを!! かたーーーり!! たまーーーーえ!!」


 かっこいーーーーー!


「んーと、おっぱいがいっぱいだった!」


「「「「「ぐはぁ!!」」」」」


 先輩冒険者達は前屈みになり、いきなり鼻血を噴き出させた。


 何処か負傷してしまったの? 何で? どうして? 僕のせい? 僕は何もやってない! 僕悪い事してないよ!?


 僕が混乱していたら、目の前に女の人が割り込んできた。女の人と言うよりも、見た目は十二歳くらいの可愛い女の子に見える。ドワーフなのかもしれないけど、すらりとしていて普通の人に見えるな。


 その人は僕に背中を向けて、男冒険者達をギロリと睨む。そして迸る魔力が······え?


「いい加減にしろーー! “ヘヴィーグラビティーデスプレス”」


 ──ズドーーーーーン!!


 あわわ⋯⋯凄いものを見た。複数の人型の穴がギルドの床に空いている⋯⋯近くにいたミルクさんまで!

 今のは重力魔法だ。土系の上級魔法⋯⋯まさかそれを町中で見る事になるなんて。


 女の人が振り返ると、ふわりと水色の髪が踊った。そして片膝をついて僕の頭をキュッと抱き締める。


「怖かっただろう? さあ、お家へお帰り」


 いえ、怖いのは貴女ですよ。どうしよう⋯⋯逆らわない方が良さそうだ。なんか肋骨が頬っぺたにゴリゴリするな。

 チラッとミラさんを見ると、手のひらで額をおさえながら目を瞑っている。


 ──ガダン!


 いきなりの大きな音がホールに響いて、僕はちょっとびっくりした。

 キジャさんが階段も使わずに、二階から飛び降りてきたようだ。その顔は冷静そうに見えるが、おでこに青筋が浮かび上がっている。


 もう展開についていけないよ! 次から次へとなんなんだ〜! あわわ。


「くおーら!! ベス! てめえ! なんて魔法ぶっ放しやがる!!」


「んげっ! ギルマス!」


「大通りでケツ叩き一万回で許してやるからよぉ。ちょっとついて来いや!」


「ふ、巫山戯んな! 乙女の尻を公衆の面前で晒せるかアホー!」


「誰が乙女だゴラ!! 二百歳越えの悪ガキ年増がーーー!」


「いーーーやーーーー!」


 キジャさんがベスと呼ぶ女の子を引きずって行く。

 一言で言うなら嵐だ。これが冒険者なのかな? そう思うと心の底から笑いが込み上げてきた。


「ふふ。ははは。あはははは」


「レア! レアな笑い方だわ! アークちゃんが!」


 ひとしきり笑い、ミラさんともう少しだけお話してから家路につく。


 今日は大変だったけど、冒険者って本当に楽しいや。かっこいいポーズの人もかっこ良かった。

 とっても面白かったなぁ。あ〜⋯⋯冒険者になって良かった。






 モチベ維持のため、ブクマ、評価、感想等いただけると嬉しく思います(´;ω;`)


 これからもよろしくお願いします。


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― 新着の感想 ―
[一言] 読ませていただきました! アークくんの素直で伸びしろのありそうなところがすごく好感が持てますね。サクサク読めて今後の展開も気になります!
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