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旧陽動部隊。ベスの別行動。






三人称視点



 マウンティス外側の入り口は、縦十メートル横十二メートルのトンネルのようになっている。山には似つかわしくない黄金のアーチがあり、見れば見る程に疑問符が浮かぶだろう。

 決して狭くはない入り口だが、大量のヘイズスパイダーで埋め尽くされていた。そこへ最初に辿り着いたのは、陽動部隊のリーダーのヴォイドである。


「魑魅魍魎か⋯⋯うじゃうじゃと鬱陶しい⋯⋯」


「早速あれを使いますか?」


 ヴォイドの背後には黒い狼の姿があった。その大きさは五メートルを超え、黒いオーラが滲み出ている。

 フレイガースを代表する精霊の中でも、その狼の強さは頭一つ抜けていた。


「毒の投入タイミングはダーキナフに任せる。が、少し入り口を掃除してからになりそうだな」


「御意に」


 ヴォイドが巨大化を始めると、下にいたヘイズスパイダー達が気がついたようだ。

 寧ろ気が付かない訳が無い。灼熱の燃え盛る太陽が、増殖し巨大化しながら落ちて来ているのだから。

 ヴォイドはそこにいるだけで、最終兵器と呼べるかもしれない。マウンティスの入り口付近にあった森が、一瞬のうちに炭化して崩れ落ちてしまったのだから。


「街の中じゃ使えんが、ここなら遠慮はいらないな」


 何せ周りは敵だらけだ。そのヴォイドの呟きを聞いて、ダーキナフはげんなりしながら距離を置く。

 ダーキナフを除けば、ヴォイドの部隊は炎系精霊で固まっている。闇精霊のダーキナフには、相性が悪いと言えるだろう。


「熱いより寒い方がマシだな⋯⋯」


 その呟きは誰も聞いていなかった⋯⋯





 朝日よりも眩しい太陽が、マウンティスの入り口に落ちている。その場所へ突っ込んで行けるほど、ビビは熱さに強くはない。


「陽動作戦⋯⋯いや、フレイガースの場所がバレているのなら、最早陽動にはなっていないな⋯⋯いくら派手に動いたとしても、向こう側の敵がこちらに来る筈がない」


 そんな状況で、何をするのが一番良いのだろう。マウンティスの精霊を助ける事が優先だが、防衛部隊も救出部隊も動く予定である。

 勝手にしゃしゃり出ると場が混乱するだけかもしれない。そう結論を出したビビは、眼下に溢れるヘイズスパイダーの群れを睨んだ。


「この救出が終われば、他の国へも行くのだろう? 最終的にはこいつらを排除しなければ問題は解決しない。なら単純に今日の救出作戦が終わるまで、出来る限り数を減らす方が良いんだろうな」


「確かにそうでゲスね⋯⋯シルフ様が蜘蛛のボスを探してるとの事でゲスが、雑兵は少ない方が楽でゲス」


「⋯⋯お前はそのキャラでいくつもりか? 天然系葉っぱ娘だと思っていたんだがな」


「ゲッスッス。何か面白くてつい⋯⋯天然は計算でゲス」


「⋯⋯好きにするがいい」


 マリーの花が左右に振られている。犬の尻尾かとビビは思いながら、どこから攻撃するかを考えていた。


 何処を見ても敵が沢山いる。巨大な個体は見えないが、なんといっても数が多い。


(あね)さん、やるなら広い所が良いな」


 ボーネイトがニヤリと笑う。


 実際、平地となる開けた場所は沢山あった。ヴォイドが森を焼き払ったせいで、スペースだけは出来ている。

 もう一度ヴォイドがその技を使ったら、味方に焼き殺されたりはしないだろうか?


「大丈夫だ。我が溶けぬ氷で皆を守る」


 雪月虎が宙を歩くように前に出る。鋭い視線でそう言ったが、ビビはベスの表情に気が付いた。

 一人ベスだけが心ここにあらずといったように、マウンティスの入り口をチラチラと確認している。

 知らない仲では無いし、この状態で戦闘に入るのも危ないだろう。また魅了で支配しても良いが、もしもの時に後悔して欲しくない。


「ブラーティス、ウィディガー、ベス、オルカタ」


 ビビが呼ぶと、闇の鷹ブラーティス、緑色の長い毛の狼ウィディガー、ベスと空間を割いてオルカタが顔を出した。


「オルカタの空間移動を使い、お前達はマウンティスの中を支援しろ」


「おい、ビビ⋯⋯それは⋯⋯」


「もう陽動作戦では無いし、救出部隊の到着はまだ時間がかかるだろう。マウンティスの中ではベスに従ってくれ」


「了解した」

「わうわう!」


 ベスは煮え切らない顔をしながら、全員に一度頭を下げた。


「すまない。恩にきる」


 その言葉を最後に、オルカタが三人を空間の裂け目にしまい込んだ。


「良いとこあるじゃない?」


「五月蝿い。あんな状態のベスじゃ足手まといだからな」


「可愛くな〜い」


 ニヤニヤしながらビビをからかうアイセア。睨み返すと他の精霊達もニヤニヤしている。

 ベスの事情は皆が知るところなので、ビビの気遣いは直ぐにバレてしまっていたのだった。


「もう⋯⋯知らん⋯⋯」


「赤くなりながら言われてもねぇ」


 アイセアがビビの頬を突っついた。鬱陶しそうにビビがその手を払い除ける。


「良し、あそこにしよう」


「あからさまな切り替え乙」


「お前から殺ってやろうか?」


「まあまあ落ち着いて二人共」


「「あ゛?」」


「ひぃ⋯⋯」


 ビビとアイセアのじゃれ合いに、ボーネイトが仲裁に入ったが玉砕した。そんなボーネイトの肩に手を置くマリー⋯⋯慰めてもらえたのかと思い振り返ると、彫りの深い顔でドヤ顔しているのが目に入った。








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