クオーネと子供達。マウンティスの戦い。
ゴツゴツとした地面を背に感じつつ、自然の気を体内に取り込んでいく。寝っ転がったり座ったりした方が、自然の気は集めやすいんだ。
体の怠さが抜けてきました。でも焦りは禁物だよね。しっかりと体調を整えなくちゃ。
乾いた風が前髪を揺らす。遠くから爆発音が聞こえてきて、思わず上半身を起こした。
ビビ達頑張ってるかな? ベスちゃんの友達も見つかったら良いな。
『イフリン。そっちの状況はどう?』
『こちらも戦闘が始まったな⋯⋯どこに隠れていたかわからんが、フレイガースへ取り付こうと糸を飛ばしてきている。だが心配はしなくて良いぞ。防衛部隊に切札もあるんだ。それに私もいるからな』
まあ確かにそうだね。僕は僕の仕事をしなくちゃ。
戦闘が終わるんじゃないかって少し期待してた⋯⋯ヘイズスパイダーを操っていた人を倒しても、命令は解除されないらしいね。
あの人が直接指示を出さなきゃいけないのか、実は操っている人は他にいるのかはわからない。
ノーム様が戦っているヴァンパイアロードが司令官なのか、もう一人いるって言ってた魔族の人が操っているのかも?
どうにかして止めたいな⋯⋯
『気をつけよアーク。まだ始まったばかりだからな⋯⋯ノームが倒しきれんやつがいるのはわかっているだろう?』
『うん。ヴァンパイアロードでしょ? わかってるよ』
まずはビビと合流しよう。
*
三人称視点
ノームの国マウンティスは、山であって山ではない。ノームが作った遊び場のような場所で、規模が大きく山のように見えるのだ。
なので内部構造が普通の山とはまるで違う。山の中心には卵形の空洞があり、そこには広大な街が作られていた。
街の天井には、光り輝く魔水晶が散りばめられている。それのお陰で、薄暗いが安心するような雰囲気になっていた。
砂金の湧き出す綺麗な湖、収穫し放題の豊かな畑、精霊酒を作るための大きな工場、全体的にレトロな感じのする建物が並ぶ。百歩歩けばオープンな酒場があり、普段はお祭り騒ぎの良い場所になっていた。
ヘイズスパイダーが来るまでは⋯⋯
現在、下級精霊と中級精霊が、入り口とは反対側の壁際に集められていた。
全員が恐怖の表情で身を寄せ合い、震えている者も少なくない。
街に入り込んだヘイズスパイダーに、どれだけの精霊が食べられた事か⋯⋯大精霊達が反撃に出るまでに、かなりの時間がかかってしまったのが原因だ。
そもそも争いの無い精霊界で、こんな事になるとは誰も予想していなかった。
それを責められる者はいないだろう⋯⋯だがその事実を呑み込むのには、受けた被害が大き過ぎる。
「慌てないで〜慌てないで〜。もう直ぐ開通するからね〜」
モグラのような精霊が、瓦礫の入った袋を次々運び出していた。全員が見守る先には横穴があり、上り階段が作られている。
不安にそれを見守る者達の中には、一歳くらいの赤ん坊を背負った土の大精霊クオーネがいる。そのクオーネの周りには、ハナノギ村から助け出した人間達がいた。
村長の一人娘ディシア、その将来の婿クーレイト、村の小さな子供達が五人。これだけだ⋯⋯
「クオーネ様⋯⋯」
「ディシア、大丈夫よ。私から離れないでね」
「はい⋯⋯」
無理に微笑むクオーネ。その顔には疲労の色が濃く現れていた。
ハナノギ村が魔物に襲われ、大切な人達が沢山死んでしまった。何とか逃げのびた精霊界では、またも魔物に襲われる事になる。
クオーネには強い責任感があった。皆を助けなきゃ、しっかりしなちゃと考え、まだ一度も泣いていない⋯⋯
そんなクオーネを見ているからか、子供達もずっと緊張したままになってしまっていた。
「守らなくちゃ⋯⋯」
「⋯⋯」
今にも折れそうなクオーネの背中を、ディシアが心配そうに見詰めている。
力が足りないのはわかっている。頼りないのもわかっている。それでもクオーネの力になりたくて、ディシアも子供達も黙っていた。
それしか出来なかったからだ。力になれない事が悔しかった。
クーレイトが溜め息を吐き、不器用な二人を見守っている。
何か言ってやるべきだろうか? そう考えてみても、かけてやれる言葉も無い。だからせめて何かあった時は、体を張ってでも皆を守ろうと考えていた。
「おやじ、おふくろ、俺は絶対ディシアを守るよ⋯⋯」
誰にも聞こえない声で、クーレイトは静かに決意を固める。
*
ヘイズスパイダーの群れは、街を半分以上攻め落としていた。やつらは蜘蛛の特性を生かし、床、壁、天井と立体的な動きでとても素早い。
大精霊達は苦戦をしながらも、何とか後方へ抜かれないように力を尽くしていた。
「東、一二三番は泉の脇まで後退!! そこで防衛線を張り直せ! 西の六番が抜かれそうだ! 中級精霊を増員しろ!」
それを可能にしていたのは、ムーディスと呼ばれる精霊のお陰だろう。
ムーディスは刀の大精霊で、ノームの片腕とまで言われている。
見た目は年老いた戦士のようであるが、決して侮る事など出来ない。彼に刀を振らせれば、光すら置き去りにすると言われているからだ。
鋭い眼孔にキレる頭、並外れた統率力と、凄まじいまでの存在の格。ムーディスに憧れる精霊は多く、沢山の信頼を集めていた。
ノームがヴァンパイアロードと戦うに至った理由が、このムーディスの存在が大きい。
ムーディスがいればマウンティスは任せられるし、ノームではマウンティスの中で戦うには力が強過ぎる。
「ここは通さんよ⋯⋯」
ムーディスがボソリと呟いた。すると、何もいなかった場所に、透明化していた特殊なヘイズスパイダーが現れる。
「儂は刀の大精霊。見られた時は、斬られた後だと考えろ」
その言葉を聞く者は無し。強いて言うならば、細切れになったヘイズスパイダーが聞いていた。
「変なのもいるぞ! 油断するな! 必ずペア以上でかかるんだ!」
「「「はい!」」」
気合いを入れ直す大精霊達。ムーディスがそこにある限り、限界を超えて尚戦う意志を見せるだろう。
ムーディにしようと考えたら、右から左に何かが来そうだったのでムーディスにしました(っ ॑꒳ ॑c)




