戦闘開始は唐突に
一気に増えたので一応前書きに(*^^*)
雷を纏うドレスの美人、アイセア。
水の惑星っぽい見た目のバブリン。
緑色の毛が長い狼、ウィディガー。
闇が鷹の形に具現化したような見た目のブラーティス。
白く発光する馬、シャニガル。
砂が人の顔の形になるジュスルン。
雪のようにふわふわした虎、雪月虎。
何故か小さな火竜っぽい見た目のアムラ。
僕の膝の上に座る女の子、マリー。
赤雷を纏う大きな兎、ヴォルティム。
美しいレイピアの形をしたシャムシェル。
空間を操る珍しい精霊さん、オルカタ。
体を刃物に変える褐色黒髪ショートのお姉さん、アクセイラ。
骨を操る不思議な精霊ボーネイト。
水玉の浮かぶ湿地帯を横切って、偽フレイガースは飛んでいく。
本体のフレイガースと分かれ、向こうとの連絡手段に僕の携帯通信魔導具が選ばれた。
何かあった時には連絡するそうだけど、基本的に使う事は無いと思う。
陽動部隊のリーダーはヴォイドさんだ。この精霊さんは、先日のフレイガース防衛戦でも活躍していたね。
現在、僕達陽動部隊は、全員が城壁の上に出揃っていた。
こうして見ると壮観だよね。それぞれが隊ごとにまとまっている。
精霊さんは回復に飴を食べるらしいよ。
火飴、水飴、闇飴など、自然の気を取り込んだ特別製らしいけどね。
回復魔法も受け付けるから、多少大きな怪我をしても大丈夫。
でもヘイズスパイダーに食べられたらと思うと、油断なんか出来る訳が無い。
飴はそれぞれ三つずつ。僕は部隊長として予備を持たされた。
「びっくりしたぞ? アーク」
「ん? どうしたの? ベスちゃん」
「イフリンがイフリート様だったとは⋯⋯伝説と言うのも生温い⋯⋯神域の存在ではないか」
「???」
イフリンはイフリンだよ? 僕の友達なんだけど⋯⋯
「ふぅ⋯⋯あれはな、エルダードワーフ、ハイエルフ、龍や龍人でさえ、敬意をもって頭を下げるような存在なんだ。私も精霊界は初めてだったから、まさか四大精霊が王をしているなど知らなかった」
少し遠い目をしているベスちゃん。僕がそのイフリンと精霊契約をしていると知れば、どんな反応をするのかな?
今回の戦いで、その力を使う事があるかもしれない⋯⋯なるべく温存したいけどね。
「部隊長、一旦集まってくれ!」
ヴォイドさんの大きな声が聞こえ、その場に大精霊さん達が集まっていく。
僕も行かなくちゃ。
「この湿地帯を抜ければ、いよいよマウンティスまで目前だ。我々は到着次第存分に暴れるぞ。対蜘蛛の毒噴出投擲弾は、私達が責任をもって投げ込む。マウンティスの民がフレイガースに収容されるまで、出来れば撤退はしたくない。敵の数は無限と見紛う程に大軍だが、もう無理だと思うところまで粘るぞ! 沢山の精霊の命がかかっているんだ! だが、お前達も絶対に生き残ってくれ!」
『ぉぉぉぉおおお!!!』
気合いの雄叫びを聞いて、とても頼もしく思うよ。大きな戦いでは、士気を高めるのは大切だよね。
「先陣を切るのはこのヴォイドだ。お前達はその後に続け!」
『うぉぉぉぉおおお!!!』
とりあえず、毒を投げるのはヴォイドさん達がやるみたいだね。
僕は部隊に戻り、一度全員を横一列に並べる。ちょっと緊張してきたな。
「今ヴォイドさんから話がありました。基本的に僕達は陽動部隊なので、戦闘は派手にやっちゃって下さ──」
突然空気が変わり、ほんのり肌寒い風が頬を撫でた。それと同時に、沢山の蠢く気配を捉える。
「いくぞーー!!!!」
ヴォイドさんが早速飛び出した。それを見た精霊さん達が、雄叫びを上げながら飛び出していく。
ちょっと出遅れちゃった。
「では皆! 打ち合わせしたとおりに頑張るよ!」
『おー!!』
「“テンペストウィング”!」
暴風魔法のテンペストウィングを唱える。精霊の能力でも飛べるけど、併用した方が格段に速いからね。
飛び出そうとしたその瞬間、強烈な魔力の波動を感知した。
「な!?」
「避けろ! アーク!!」
ベスちゃんの叫び声が聞こえ、僕は大きく横に飛ぶ。黒いレーザーのような攻撃が、僕の立っていた場所を蒸発させた。
なんて恐ろしい威力なの? そんな事よりも、
「皆!? 大丈夫!?」
「大丈夫だ! 皆避けれた!」
ビビの声に安心する。今のは何だったんだろう?
「避けましたか⋯⋯やれやれですね」
遠くの空に、黒い燕尾服に身を包んだ人がいた。見ただけでも背筋が凍りつきそうな程に、内包する魔力が兎に角濃い⋯⋯小さな呟き声のように感じたけど、僕達皆が聞こえていたようだ。
「くぅ⋯⋯街が⋯⋯」
黒いレーザーは、偽フレイガースを真っ二つに割ってしまった。ボロボロと崩壊しながら、ハリボテの街が二つに分かれる。
これじゃ作戦が台無しになる⋯⋯いや、そもそも襲ってきたって事は⋯⋯
「動きはチェックさせていただいてました。実に浅はかですね」
その人は薄らと笑みを浮かべながら、ベスちゃんの事を見下ろしていた。
「あの時はしてやられましたが、今度は逃がしませんよ」
「知るか阿呆! ストーカーは妄想だけで済ませるのが大人ってもんだ!」
「⋯⋯計画にイレギュラーはいらないんですよ。ん? 子供と吸血鬼までいるのですか⋯⋯」
燕尾服の男が、僕とビビを見ながら笑っている。ベスちゃんが額に青筋を浮かべ、僕達を庇うように前に出た。
この男の人は、ヘイズスパイダーに精霊さんを襲わせている人なんだよね? もしそうであるのなら、絶対に捕まえなきゃいけない⋯⋯
「ベスちゃん下がって。あの人は僕が拘束する」
「何を言うアーク! あれは魔族だぞ? 戦っては──」
「大丈夫」
僕はゆっくりと体を上昇させた。作戦がバレているのならば、もう力押しするしか皆を助ける方法が無い。
「ビビ」
「わかってる」
何も言わなくても、ビビは僕の考えを理解してくれているみたい。
「一応作戦がバレていた事を、携帯通信魔導具でフレイガースに教えてあげて。安心第一でね?」
「アークも無理はするな。隊は任せろ」
「うん」
服のボタンを外し、ビビが大人の姿に変わった。ちょっと厳しい戦いになりそうだから、綺麗なレイピアのシャムシェルを腰から外す。
「シャムシェル、ビビのサポートをお願い。アイセアさんも」
「了解しましたアーク様」
「わかったわ」
「ブラーティス、ウィディガーはベスちゃんの補助。バブリン、シャニガルはアクセイラと組んで。ジャスルンはアラムと、マリーはボーネイトとペア。雪月虎とヴォルティムもペアで、オルカタは緊急事の伝令をお願いします。皆ビビに従ってね!」
「ちょっと待てアーク!」
心配そうに僕を止めるベスちゃん。
でも、これは僕に任せて欲しいかな⋯⋯
「無理はしないよ? ただ、今は速さが大事だからね。ちょっと戦ってくる」
この人を捕まえれば、きっと何かの手がかりが掴めると思う。
沢山の街が襲われた理由も、絶対に聞いておかなきゃいけないでしょ。もしこの人が魔物を操っていたのなら⋯⋯
「強いて言うならば、用があるのはそこのドワーフなんですがね⋯⋯全員始末するのは変わりませんが」
「そんな事はさせないよ? 計画が何か知らないけど、絶対に止めてみせる⋯⋯“ベヒモス”」
僕は魔装ベヒモスを身に纏い、竜のような篭手をギラりと光らせる。
アークが厨二病を発症したかもしれぬ⋯⋯




