アークの陽動部隊。迫る気配?
こんばんは。僕は今、ビビとアイセアさんに撫でられたり食べ物をもらったりしています。
場所は城の中庭で、芝生に座って精神集中をしていました。それなのにどうして邪魔するの?
膝の上には頭に花を揺らすマリーが座り、僕の集中力を極限まで削いでくるんだよ。
ああ、気になるぅ〜⋯⋯気にならざるを得ない。
ビビから差し出される葡萄⋯⋯食べざるを得ない。
アイセアさんの撫で回し⋯⋯それはちょっと擽ったいから止めてね? 本当に。
時刻は深夜二時。もうそろそろ陽動部隊が、ハリボテ城に移動を開始する時間になります。
睡眠はしっかりとったから大丈夫。精霊界の葡萄も食べたから元気いっぱいです。
中級精霊さん達も集まってきた。皆僕の部隊の子達だから、僕が責任をもって預からなきゃいけないんだ。
水の惑星っぽい見た目のバブリン。
緑色の毛が長い狼、ウィディガー。
闇が鷹の形に具現化したような見た目のブラーティス。
白く発光する馬、シャニガル。
砂が人の顔の形になるジュスルン。
雪のようにふわふわした虎、雪月虎。この子はもう少しで大精霊になるらしいよ。
何故か小さな火竜っぽい見た目のアムラ。
僕の膝の上に座る女の子、マリー。
赤雷を纏う大きな兎、ヴォルティム。
美しいレイピアの形をしたシャムシェル。最初は精霊さんだと気がつけなかった。勝手に浮いて動くからドラシーと友達になれるかも?
空間を操る珍しい精霊さん、オルカタ。見た目は灰色のローブを着た四頭身のおじいちゃん。お菓子が好きみたいだね!
体を刃物に変える褐色黒髪ショートのお姉さん、アクセイラ。
骨を操る不思議な精霊ボーネイト。十二歳くらいに見える少年で、この中でもトップクラスに強いらしい。アイセアさんも含めてらしいから、精霊さんの強さは格だけじゃないみたいだ。
そしてビビとアイセアさん。僕を合わせて十六人だね。
こんなに沢山の仲間を連れて戦う事になる。皆の得意な事、苦手な事を聞いて、しっかりと頭に叩き込んだ。
もう耳から湯気が出そうなくらいに頭を使ったよ。誰一人失いたくないし、僕は皆の部隊長なんだからね。
マリーを膝から降ろし、僕はゆっくり立ち上がる。
「僕の陽動部隊に入ってくれてありがとうございます。ずっとビビと二人でやってきたので、こんなに沢山の仲間と戦う事は初めてです。細かい指揮は難しいと思います。なので、今回の作戦では、皆の協力をお願いします」
「ふん。元よりそのつもりだ。よろしくな、アーク様」
肩に闇の鷹が舞い降りる。ブラーティスには重みが無いんだね。
「アーク様の力になれるように頑張ります」
レイピアのシャムシェルが、僕の腰あたりに勝手に装備される。ドラシーからムスッとした感情が伝わってきたよ?
「俺、頭良くないけど頑張るよ」
骨使いのボーネイトが僕の頭をぽふぽふと叩く。
「全て斬り裂いてやんよ」
アクセイラが微笑んだ。手を握ってから開くと、指がギラりとした刃物に変わる。皆頼もしいなぁ。
「アーク様の元で学ばせていただく。イフリート様と完全な契約を結んだその器、しかと見届けさせてもらおうぞ」
火竜の精霊アムラが頭を下げた。
まだ誰がどんな性格なのかを把握した訳じゃない。今僕が皆の隊長として認められているのは、イフリンに存在の格を鍛えられたからだよね。
「げっへっへっへ。親分⋯⋯あっしは嬉しいでやんす。末永く使って下さいまし! 馬車馬の如く!!」
「マリーはちょっと落ち着いて」
やっぱり変な子だなぁ。一人だけテンションが違うもんね。
「わふわふ。ぅウォーン」
「ウィディガーもよろしくね」
緑色のフサフサした長い毛をもふもふする。この狼さんは中級になったばかりで、力はまだ一番弱いみたい。注意して見ておかないと。
宙を漂うバブリンが、小さくプルプル震えていた。
他の皆も大丈夫そうだね。
そんな時だった⋯⋯知っているっていうか、物凄〜く良く知っている気配が近づいてくる。
え? でもそんな事ってある? ここは精霊界だし、いるはずないと思うんだよね⋯⋯
「まさかね⋯⋯」
「いや、これは間違い無いんじゃないか?」
ビビが気配のある方向を見ながらそう言う。
もし本当にそうなのだとしたら、僕は
「ちょっと行ってくる!」
「ああ、私達はハリボテの方へ移動しておくよ」
「うん! 皆もまた後でね!」
僕は走り出した。とっても久しぶりな気がして目頭が熱くなる。
会いたかったんだ⋯⋯こんなに会いたいと思っていたなんて知らなかった。
ベスちゃん⋯⋯僕はここにいるよ!
城の塀を飛び越えて、街の屋根を走って行く。
僕の気配が変わっちゃったからかな? ベスちゃんは気がついて無いみたい。
「ベスちゃーん!!」
勢いを落とさないままに、僕は街の城壁すらも飛び越えた。
重力に任せて落下する体。そんな事は気にせずに、両腕をいっぱいに広げてそのまま落ちる。
「ベスちゃん!」
「え? アーク!?」
咄嗟にベスちゃんが受け止めてくれた。僕はベスちゃんの首に抱きつく。
「アーク、何故こんな所にいるんだ?」
「⋯⋯」
「アーク⋯⋯」
ちょっと今は答えられそうに無い⋯⋯なんでこんなに安心するんだろう? 目から涙が溢れて来るんだよ。
「会いたかった⋯⋯ベスちゃん⋯⋯」
色々な事が頭の中に蘇る。ドラグスを離れて寂しかった事、プレッシャーにいつも耐えていた事、皆が良くしてくれるけど、やっぱりドラグスに帰りたかった気持ちが、ベスちゃんを見て溢れ出したんだ。
「そうか⋯⋯よしよし⋯⋯もう心配ないからな⋯⋯」
「うぅ⋯⋯」
ベスちゃんに会えて良かった⋯⋯本当に会いたかった⋯⋯
優しく背中を撫でられたけど、僕は暫くギュッと抱き着いた。




