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ベスとドラゴン






side ベス



 煌々と照りつける太陽に、私は小さく舌打ちをする。

 フードを目深に被り直し、季節外れの猛暑にイライラした。


 クオーネの元へ早く⋯⋯


 焦り過ぎも効率が落ちるよね⋯⋯重力魔法で飛んでいたけど、直ぐへ降りて木陰に座った。少しの休憩を挟み、ポーションで無理矢理魔力を回復する。


 この世界は広い⋯⋯街から街でもかなりの距離があるんだ。その中には人の踏み入れぬような場所もあり、珍しい物も発見出来たりするんだ。


 早くアークが育ってくれれば、そんな場所を冒険してみたくなるよ。

 ふふふ⋯⋯私はいつまでアークの姉さん分でいられるかな?


 アークの成長の早さに、ドラゴンスレイヤーだってうかうかしていられないだろう。

 私なんてあっさり抜かれ⋯⋯いやいや、まだまだだ。私はまだアークの先輩でありたい。だが、もしかしたらもうベルフは抜かされているんじゃないか?


 あいつも実力はAランク相当はあるんだがな⋯⋯自己主張が下手でいつまで経ってもBランクだ。きっと誰かに活躍をかっさらわれたりしているのだろう。不憫なやつだな。


 さ、休憩もここまでにしようか。


 包囲磁石を取り出してみたけど、針がグルグルと回転してしまっていた。魔力の濃い場所ではよくある事なので気にはしない

 地図を取り出して、見える山から現在地を割り出す。太陽の位置と時計を見て、目的地の方向を割り出した。


 少しグリフォンの住処を掠めるか? まあ襲われても良いか⋯⋯たまには豪華な鳥肉も食いたいからね。


 寄りかかっていた木陰から立ち上がると、魔物の気配が近づいてきた。


 間の悪い⋯⋯


 愛用の魔戦鎚“ゴルディス”を取り出して、軽く振ると衝撃波が放たれる

 周りの木が薙ぎ倒されて、戦いやすいフィールドを作った。


 今向かって来ている魔物は雑魚では無い。この反応は⋯⋯


「ドラゴン⋯⋯ね⋯⋯」


 私の頭上を大きく旋回したドラゴンは、二十メートルくらい離れた場所に着地をする。


「殺るの? 殺らないの? チビ助」


「チビ⋯⋯だと⋯⋯? お前がそれを言うかドワーフの娘」


 ドラゴンの全長は三十五メートルくらいだと思う。成竜はもう少し大きいから、実力は下の上あたりね。

 勝てなくはないけど、今は戦いたくない事情がある⋯⋯控えめに言って、


「吹っ飛ばす」


「⋯⋯」


 ああ、駄目だ⋯⋯心がケバケバする⋯⋯アークが足りない⋯⋯弄り倒したい。


「こんな物騒な娘だとは⋯⋯喧嘩なら買うがお互いにそれどころでは無さそうだ。忠告だけしておく」


「忠告だと? 竜が私に?」


「そうだ。だが少し違う⋯⋯全人類への言葉だと思え」


 何を言っているんだ?


「それなら何処ぞの国にでも行けば良いだろう?」


「それではその国が混乱するではないか」


「知った事か」


「⋯⋯ここまでコケにされた事は無い⋯⋯だが話をせねばなるまい」


 面倒な事だな⋯⋯仕方ない。聞こう⋯⋯


「現在、ワイバーンを配下にしようとするテイマーがいる」


「⋯⋯そんなのは昔からよくいただろう? わざわざ忠告しに来る事態なのか?」


「そのテイマーは、正規の方法を(もち)いない⋯⋯配下に出来る数は無限だと思われ、恐るべき支配力を秘めている」


 テイムとは、そもそもとても難しい⋯⋯絆を結び、主人と認められなければならないからだ。

 頭の良い高位の魔物には使えずに、欠陥の多さばかりが目立つ職業と言える。


 テイムされた魔物は、基本的に主人に従順になる。様々な要望に応え、主人の命を第一に考えて行動するんだ。そのために、当たりを引けばかなりの戦力にはなるけど⋯⋯


 私の頭の中で、点と点が線になる。つまりはそういう事だ⋯⋯今回の魔物の事件は、全部そいつが起こしたって事じゃないのか?


 テイムで魔物のボスを支配下に置けば、その下の魔物は全て従うだろう。そうやって配下を増やし、所構わず暴れさせれば良い訳だ⋯⋯


 怒りが湧き上がってくる⋯⋯でも今は冷静にならねばならん。優先順位を間違えてはいけないんだ。


「理解したか? ドワーフの娘」


「理解はした。そいつは今何処にいる? 特徴は? 男か女か」


「⋯⋯見た目は成人手前の男⋯⋯神出鬼没な奴だ。正確な位置はわからん」


「⋯⋯」


 今直ぐには無理だが、クオーネを探した後にでもケジメをつけさせようと思ったんだけど⋯⋯この駄竜⋯⋯ろくな情報持ってない。


「とりあえずワイバーンの件は了解した。こちらの欲しい情報でもあったな」


 さて、もう用は済んだだろう。


 私が魔力を練り始めると、尻尾を一度地面に叩きつける。


「話はまだ終わっていない。そいつは魔族との繋がりもあるんだ。それに、恐らくは勇者だと思われる」


「何!? 勇者だと!?」


「そうとしか思えぬのだ⋯⋯あの支配力、多分我々竜族にも有効だ」


「ッ!!! 馬鹿な! 竜が支配されたならば⋯⋯」


「人間達は生き残れんだろうな⋯⋯我だけでも、小さな国を滅ぼすくらいは容易い。もし成竜が、古竜が、名持ちの竜が、竜王様が支配されてみろ。人間の世界など一日で滅ぶ事になる。その力次第では、我等が上位種の龍神様まで支配されるやもしれぬ。忠告はしたぞ? 我等とて、ただ支配されるを待つつもりは無いが」


 これは⋯⋯大変な事態になる⋯⋯しかし何故勇者が魔族と繋がっているんだ?

 そんな事は問題では無いな⋯⋯急ぎ王都のグランドマスターへ文を出そう。


「さらばだ娘よ。しっかりと伝えたからな」


「さっきの話、何人ぐらいが知っている?」


「お前で三人目だ⋯⋯だが、最初の二人は気絶していたな⋯⋯」


 それじゃ三人じゃないだろ⋯⋯阿呆。


「驚かせないように、魔術で人化すれば良いだろうが、阿呆駄竜め」


「う、五月蝿い! 我はまだ人化が出来ぬぅ!」


「早く大人になれよ。チビ助」


「⋯⋯くっ、お前の名は何という?」


「ベスだ」


「そうか⋯⋯その名、覚えておこう。我の名はファベリス! いつかお前を食う名前だ」


「さっさと去ね。お前のせいで仕事が増えたんだ」


「ふはははは!」


 ──バァブォン⋯⋯バァブォン⋯⋯バフン⋯⋯


 竜が飛び立っていった。時間もあまりない⋯⋯直ぐに手紙を作らなくては。


 王都のグランドマスター、近隣のギルドマスターと髭にも書こうか。



 良し。


「“ハイパーメタルグラディエーター”」


 私は重力魔法を唱えた。これは金属の上級兵を創り出す魔法で、かなり難しい命令でも遂行する事が出来る。

 極めて重そうな体だけど、素早さは四足魔獣並という壊れ性能だ。Cランクの魔物でも、暫くの間食い止める事が出来るだろう。


 それを六体呼び出して、二体ずつのペアにさせた。


「手紙頼むわね」


 それだけ言えば十分だった。直ぐに飛び出して行き、風のように走り去る。


 私も急がなくちゃ⋯⋯


 クオーネ⋯⋯絶対無事でいてね。






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