表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
107/214

決戦前夜






 朝の寒い風にパジャマをはためかせ、僕はベランダに座っていた。


 精神を鋭く研ぎ澄まし、深く己の内側に入っていく⋯⋯もっともっと奥深くへ⋯⋯


 ふわりと髪の毛が銀髪へと変わった。これは以前の魔気融合身体強化のレベル3と酷似しているけど、荒れ狂う銀の奔流を纏ってはいない。


 ここまで自然に発動出来るようになったのは、イフリンとの訓練によるところが大きいね。


 父様、母様、僕はここまで出来るようになりましたよ。早くAランク冒険者になって、三歳の頃の父様に追いつきたいです。


 魔力、気力、身体強化、自然の気⋯⋯その全てをかけあわせると、迸る紫電がシールドのように身を包んだ。


 現在、体にきていた負担は、全くと言っていい程に感じていない。これは僕の新しい力で、“Sスタンダード”と名付ける事にする。


「うん。良い感じだね」


 何事も反復が大事なんだよ。さて、将来のためにもビビを起こそうかな。


 部屋の中に入ると、すやすやと寝息を立てるビビがいる。温かい紅茶を取り出して、部屋の中を明るくした。

 ベッドの縁に腰掛けて、ビビのサラサラした前髪を優しく撫でる。


「朝ですよ。ビビお嬢様。起きて下さいませ」


「んむぅ⋯⋯あと⋯⋯五⋯⋯ねん⋯⋯寝ゆ」


「五年はだーめ。んー⋯⋯仕方ないなぁ」


「うぅ⋯⋯」


 無理矢理抱き起こして紅茶を飲ませた。覚醒したビビと、寝惚けたビビのギャップは凄い。

 いつもの凛々しいビビも良いけれど、今のぽわんとした感じも可愛いと思うんだよね。ほんの短い時間しか見れないのが残念だと思うよ。


 三色団子を取り出して、ビビの口元へ持っていく。


「はいビビ。あーん」


「あーん⋯⋯」


 パク。





 僕の陽動部隊は、ビビ、アイセアさん、中級精霊さんが十四体の構成になったみたい。

 アイセアさんが別部隊にならなかったのは、ビビと契約したからみたいだね。


 作戦の時間が刻一刻と迫る中、細かい打ち合わせがされていた。


 場所はまた野外の演劇場みたいな場所で、昨日と同じくイグニス様に睨まれています。

 人間が嫌いなのか僕が嫌いなのかはわからないけど、今度ちゃんと話しをしたいと思う。


 空が茜色に染まり、緊張感が高まってきた。


「では作戦の最終確認に入る。まず、陽動部隊が先行する形で、後方にはダミーのフレイガースを浮かべる事にした」


 ダミーのフレイガース? それって可能なのかな? 昨日と同じく、今日もゴウザさんが話を進めてくれている。


「ダミーって言っても、そんなに大きな街を直ぐ用意なんて出来ないだろ?」


 白い鹿みたいな見た目の精霊さんが、僕が気になった事を聞いてくれた。


「作るのは一回り小さい張りぼてだ。だから攻撃をされたらバレてしまうだろう⋯⋯そこは頑張って守り抜いてくれ⋯⋯としか言えんな。マウンティスの周辺の詳細が届いたんだが、山の裏側には蜘蛛がいないらしい。陽動部隊が表で戦ってくれているうちに、タイミングを見てフレイガースは背後から頂上まで駆け上がる」


「そうか! それなら!」

「ああ、きっと見つかるリスクは少ない!」


 なる程。じゃあ作戦前にはダミーに乗り移って、二手に分かれてマウンティスへ行くんだね。

 一つ気になるのは、敵の司令官がどう対処してくるかかな? ヘイズスパイダーは命令で動いている筈だから、ダミーが見破られたら危ないかもしれないね⋯⋯


「今土精霊が急ピッチで作っているが、完成するのは明日の作戦時間ギリギリになりそうだ。各自アイテムを忘れないように。それと⋯⋯最後に一言言わせて欲しい」


 ゴウザさんは周りを見渡した。何が言いたいのかは、その変な顔でわかってしまう。


「私、ゴウザも戦いに出たい気持ちでいっぱいですが、私では足手まといになってしまうでしょう。悔しいですが皆に託します。大精霊の皆様、そして力を貸して下さるアーク殿、ビビ殿。絶対に生きて帰って来て下さい!」


 ゴウザさんが頭を下げた。強い気持ちが伝わってくる⋯⋯僕も出来る限り頑張ります。一応Bランク冒険者ですからね!


 自分が冒険者だった事を忘れていた気がするよ。何でだろう? 昔はもっと自由だった気がするな。


「ねえビビ」


「ん? 何だ?」


「ドラグスに帰ったらさ、皆でピクニックしようよ」


「ふふふ⋯⋯そうだな。また髭マスターから小遣いをせびろうじゃないか」


 決まりだね。美味しい物食べて、ミラさんや皆と楽しい事したいなぁ。


「なーにニヤニヤしてるの? 私も混ぜてくれない?」


「アイセアさんこんばんは」


 アイセアさんはいつもドレスが綺麗だね。笑顔で嬉しそうに近寄ってきた。


「アーク隊長さん。中級精霊の皆に挨拶に行きましょう」


「わかりました。隊長とか経験が無いので、何かあったらフォローしてくれると助かります」


「わかっているわ。さあ、手を──」

「繋ぐ必要は無い」


 ビビが目の前に割り込んできちゃったよ。険悪そうに見えるけど、やっぱり二人は仲がいいんだろうね。


 明日は戦いだ⋯⋯全力で頑張ります!






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] アークは止まることを知らない。 なぜならストッパーとなるべき人物たちがほら吹きだから!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ