作戦会議(後編)
何だかとっても視線が気になったんだ。イフリンの隣に立つ女の精霊さんが、ずっと僕を見ているような気がする? うーん⋯⋯絶対見てるぅ⋯⋯
僕何かしたかな?
そのまま暫く見つめ合っていると、ニコっと微笑んできたよ。右手を上げて、小さく手を振ってきたんだ。
どうしよう⋯⋯無視するのもちょっとね⋯⋯可哀想だよね?
僕も手を上げて、小さく振り返してあげる。すると、今度は手をぎゅっぱぎゅっぱしたので、僕も真似をしてあげた。
「アーク。何をしているんだ?」
「イフリンの奥にいる女の精霊さんがね⋯⋯」
顎でビビの視線を誘導すると⋯⋯あれ?
女の精霊さんに手を振り返してたのに、何故かイフリンまで小さく手を振っているよ?
僕がイフリンに手を振っていると勘違いしたのかもね⋯⋯今は凄く仲良くなったからなぁ⋯⋯これはそっとしておこう。イフリンのイメージが壊れちゃうよ。
何とも言えない気持ちになったけど、僕のせいじゃないと思いたい。でもなんかごめんなさい。
「アークはまた女を引っかけて⋯⋯全く⋯⋯」
「え? どうしたのビビ」
「ごにょごにょ⋯⋯」
「?」
ビビが僕の腕を引き寄せる。僕何か悪い事したのかな?
今は置いておくとして、部隊分けの準備が整ったみたいだよ。
大きなテーブルの上にあった山が無くなり、代わりに魔物の皮紙が敷かれていた。
四隅を小さな釘で打ち付けて、丸まらないようにしているみたいだね。
「今回の作戦には、下級の精霊を出すわけにはいかん。秒で食われたら洒落にならんしな。まず、フレイガースはマウンティスの頂上に設置する。そこで防衛部隊の出番だ」
ゴウザさんが筆ペンのような道具を取り出して、豪快に絵を簡単に描いていく。
山なんて三角に見えるけど、この際上手さなんて関係ない。
「土の精霊が頂上まで穴を掘るそうだ。頂上まで来た精霊を、出て来た順に放り込む。そこを邪魔されないように、大精霊達には中級部隊を引き連れてもらいたい。上級の大精霊一体に、中級精霊を十五体だ。その部隊を二十組、更にフレイガースには三十組を残す。こっちはフレイガースを狙ってきた蜘蛛を倒す役割だな」
防衛に割く精霊さんは全部で五十組。という事は、防衛だけで八百体もの精霊さんが動くんだね。
「次に陽動部隊だが、出来るだけ派手に暴れて欲しい⋯⋯そしてこれを持って行くんだ」
ゴウザさんが取り出した物は、水筒のように長細い金属だった。
紙に僕の名前が書かれたので、僕は陽動部隊に振り分けられたみたいだね。
「これは虫系の魔物には効果が高い毒だ。これを洞窟の外からガンガン投げ入れて欲しい。風の精霊は、投げ入れられた毒を洞窟の奥まで送り込んでくれ。そして毒が効いてきたタイミングで、救出部隊の出番だ」
どんどん情報が書き込まれていくね。あの金属の中には毒が入っていて、それを使ってマウンティスの中まで届かせる。投げるだけで良いのなら、僕が沢山持っていけるよ。
毒が効いてきたら、狭い入り口の方から救出部隊が侵入するそうだ。
僕達はその場で戦いながら、新手を中に入れないようにする訳だね。役割は覚えた。ビビと一緒に頑張ろうかな。
「最後に予備戦力として二十組を待機」
防衛に八百体、救出に八十体、陽動に三百二十体、待機も三百二十体。僕も精霊さんの部隊リーダーをするみたい⋯⋯ちょっと緊張するな。
「ちょっと待てやゴラァ!」
いきなりの大声に、全員がそちらに目を向ける。すると、イフリンの目の前に、紅い髪の男性が立っていた。
この精霊さんは、きっとイフリンの縁者だと思う。
「どうして俺が部隊に入ってねーんだ! それに、人間に精霊を任せるなんてどうかしてる!」
その精霊さんは僕を指差して睨みつけてきた。
どうしてって言われても、僕は頼まれてここにいるのにな⋯⋯
「イグニス様。アーク殿は我々に協力を──」
「頼んでねえ! あいつが勝手にやってる事だろ!!」
何でこんなに睨まれなくちゃならないの? ゴウザさんが止めに入ってくれたけど、余計にエスカレートしているよ?
「下がれ」
「けど親父──」
イグニスと呼ばれた精霊さんが、イフリンに言われて激しく動揺しているみたい。
「下がれと言っている」
「⋯⋯」
流石に威厳があるよね。イフリンが止めた事で、何とか引き下がってくれた。
でもやっぱりまだ睨んでくるよ⋯⋯なんか面倒な事にならないと良いけど⋯⋯はぁ⋯⋯嫌われるのって辛いんだね。
作戦会議が終了となり、僕とビビは部屋に戻った。
ちょっとイグニス様と話がしたい⋯⋯でも今日の怒り方を見ちゃうと、明日にした方が良いかもだね。
「あんまり気にするなアーク」
「うん」
お風呂に入る気分にもならず、ビビと生活魔法で体を綺麗にした。
ちょっとモヤモヤしちゃったから、今日は早めに寝るとします。寝れる気はしないんだけどね⋯⋯
ジャンガ⋯⋯zzZ




