作戦会議(前編)
城のとある場所。僕とビビは星空の見える演劇場のような場所にいた。
舞台の上には椅子があり、真ん中にイフリンが既に座っている。そしてその近くには、イフリンと似たような気配の精霊さんが二人立っていた。
もしかしたらイフリンと縁のある精霊さんなのかな? 少し気になったけど、必要があれば紹介されるだろうね。
その二人は、片方が女性で片方が男性。イフリンよりも人型に近く、亜人の一種だと言われれば信じてしまいそう。
二人共鮮やかな紅い髪が綺麗で、美男美女と言えるかもしれない。
イフリンのように凄い存在感があって、普通の大精霊さんより何倍も強そうに見える⋯⋯
流石にイフリンと並ぶとは言えないけど、間違いなく最強の一角と言えるんじゃないかな?
僕とビビは、舞台ではなく客席の方に座っています。会議が始まるまで、大人しくおやつを食べています。
テーブルは無く段になっていて、自由に座れるようになっているんだ。
ちらほらと強い気配を放つ精霊さん達が集まってくる中で、美味しい葡萄を頬張っている。
舞台と客席の間には、大きなテーブルがあった。その上には山の模型があり、何をするのかと思っていたけれど、そろそろ準備が整いそうだね。
「これより、作戦会議を始める。参謀として私、ゴウザが任される事になった」
二足歩行をする亀の精霊さんだ。ゴウザと名乗ったその精霊さんは、多分水の中級精霊さんだと思う。
強そうな印象は無いけれど、歳経た老獪な考えがあるのかもしれないね。
「これは皆良く知っているな。ノーム様の国、マウンティスだ」
ゴウザさんが杖のような物を取り出して、その山の麓へ向ける。そうすると、その麓が拡大されて、大きな洞窟の入り口を映し出した。
模型かと思ってたんだけど、土の精霊さんが魔術で作り替えているみたい。
「マウンティスは、出入口がここにしかない⋯⋯元々戦いを想定してはおらなんだ。そのせいもあり、現在は籠城するしかなくなっておる」
また土精霊さんが魔術を行使すると、夥しい数のヘイズスパイダーが出現する。
それを見た精霊さん達が、ザワザワと口を開き始める。
「そうなるのも仕方ない。他に抜け道もあるにはある⋯⋯が、そこから少しずつ逃がしたとしても、回り込まれたら皆食われてしまう。これが今のマウンティスの状況じゃ」
マウンティスは山の中にある国なんだ。少数を外に出せる抜け道って、通風口のような感じかな? 精霊さんに酸素が必要かわからないけど、そういう道があるのかもしれない。
抜け出した少数の精霊さんが見つかれば、多勢のヘイズスパイダーに囲まれちゃうよね。戦闘に長けた大精霊さんが護衛についたとしても、壁もない場所で庇いながらじゃジリ貧になる。
「アーク⋯⋯食べ過ぎだぞ?」
「もぐもぐ⋯⋯」
葡萄を収納しました。ついつい手が止まらなくなっちゃうよ。
「ノーム様は何をしているんだ?」
「そうだ! ノーム様がいれば、その蜘蛛など楽に倒せよう」
声を上げる精霊さん達。もしイフリンと同じだけ戦えるのなら、ヘイズスパイダーが何匹いても楽に倒せる筈⋯⋯僕もそう思うんだけど⋯⋯
「今ノーム様は手が離せないそうだ⋯⋯」
「そんな⋯⋯」
「他にやるべき事があるって言うのですか?」
「ノーム様⋯⋯どうして」
「⋯⋯」
ゴウザさんはそっと目を伏した。小さく息を吐くと、混乱していた精霊さん達を見渡した。
「ノーム様は⋯⋯現在吸血鬼の王、ヴァンパイアロードを相手に戦っていると報告があったのだ」
「ヴァンパイアロードだと!?」
「何故そんな魔物が精霊界に⋯⋯」
「それだけじゃない⋯⋯事態はもっと深刻だ。シルフ様から伝えられた情報だと、他に高位の魔族の反応が二つあるとの事だ」
一気に会議室は沈黙した。魔族という単語だけで、これだけの精霊さんが黙っちゃうなんて⋯⋯
僕はまだ魔族を見た事がないけど、真子ちゃんから恐ろしい敵だって聞いてるんだ。もしかしたら、僕以外は直接見た事があるのかもしれない。
魔族かぁ⋯⋯何をしに精霊界へ? そもそもどうやって入ったのか⋯⋯わからない。
もしもの時は真子ちゃんを呼ぼう。危ない状況なら、きっと力になってくれるよね。
「魔族の二人は、今は動いていないとの事だ。ヴァンパイアロードは強敵だが、ノーム様が引き付けて下さっている」
⋯⋯ノーム様でも倒せないんだね⋯⋯それほどまでに、ヴァンパイアロードが強敵なのかな?
「ねぇ。ビビならヴァンパイアロードと戦える?」
「流石に楽には倒せないと思う。ステータス的には相手が全てを上回るだろう⋯⋯」
それもそうだよね⋯⋯あれ?
「もしかしてさ、今回魔物を操っている敵って⋯⋯」
「⋯⋯その可能性もあるな」
「そっか⋯⋯絶対に捕まえたい」
「無理は禁物だ。魔族は未知数なんだぞ?」
「うん。わかってる。でも、襲われたら戦わなくちゃだよね」
「それは⋯⋯」
ビビが僕の左手を掴む。心配してくれているんだ⋯⋯でも僕は負けないよ。
優しく手を握り返して、ゴウザさんに姿勢を戻した。
「マウンティスの民は、全員フレイガースに収容する事になった。そこで、救出部隊と陽動部隊。さらにフレイガースの防衛部隊の三つに戦力を分ける」




