精霊の体は凄いです
新章もよろしくお願い致します。
トンテンカンテントンテンカンテンと、響く槌の音を想像していたんだ。でも実際は、ヘイズスパイダーの吐いた消化液の除去をしているところみたい。
トラさんどこかなー? 時計塔の修理を手伝うって言ってたけど⋯⋯
精霊さんに見つかると、僕は崇められたりするようになっちゃったんだ。完全に隠れるのは無理だけど、今はこっそりと動いているの。
物陰に隠れるのって楽しいよね! 何でビビは真顔なの? 楽しくないの?
振り返って頭を撫でてあげると、少し頬が緩んだ気がする。
「いいから! アークはトラを探すんだろ? 早く見つけてしまえ」
「うん。そうだね」
そうでした。色々忘れるところだったね。
精霊さん達は様々な容姿をしている。水が人型になったような精霊さん、闇が牛の形をした精霊さん、さっきのマリーみたいに、桜の枝が頭から生えた精霊さんもいるね。
一旦作業を止めて、皆で休憩をするみたいだ。トラさんは猫だから、直ぐ見つかるかと思ったのに⋯⋯
「アーク。あそこにいるぞ?」
「ん?」
ビビの指差した方向を見ると、一人時計塔の隅っこに腰掛けるトラさんがいた。
皆と一緒にに休憩すれば良いのにな⋯⋯あんなに離れた場所にいなくても⋯⋯
「⋯⋯ちょっと行ってくるね」
「結局出て行くんだな」
「ちょっとやりたい事があったからさ」
皆の前に出ていくと、精霊さん達がギョッとした顔になった。
僕が半分精霊になったのを皆知らないからね。でも驚かせちゃって申し訳ないです。
「こんにちは」
「人間が⋯⋯精霊に!?」
「こんにちは!」
「こ、こんにちは」
様々な反応だね。トラさんも僕を見てびっくりしているみたい。
とりあえずこの消化液をどうにかしないと⋯⋯蜘蛛は、口から麻痺の毒とか吐き出して、獲物が暴れないようにするって聞いた事がある。
この消化液も、それに近い毒ならば、僕の魔法でどうにか出来るんじゃないかな?
「ちょっと試してみても良いですか?」
「えーと、何をなさるのでしょうか?」
精霊さん達の中から、女性型の精霊さんが進み出てくる。
多分着物ってやつだね。勇者様の絵本で出てくるけど、リアルで見るのは初めてだなぁ。
紺色の着物で、流水をイメージした刺繍がされていた。フクロウのお面をつけていて、青い髪をアップでまとめている。
多分水の上位精霊さんかな? オンミールさんやアイセアさんと同じくらいの存在感があるね。
「ちょっと魔法を試させて下さい。もしかしたら消化液がなくなるかも?」
「それはとても有り難いお話です」
「やってみますね。トラさーん!」
トラさんの名前を呼んで手を振ると、びっくりしてから瞳を彷徨わせる。
「ちょっと来て」
「うにゃあ⋯⋯わかったにゃ」
別にトラさんいなくても良かったんだけどね。
トラさんを目的の場所に立たせて、僕は肩によじ登る。左手に魔力、気力、自然の気をかけあわせて、魔法の範囲と質を上げさせてもらったんだ。
難しいコントロールになるんだけど、イフリンと沢山練習したんだから。
「いくよ。“キュアポイズン”」
僕の放ったキュアポイズンが、何十倍にも強化されて消化液に降り注ぐ。消化液は瞬く間に綺麗になり、透明な水へと変化した。
「凄いにゃ! アークはにゃんでも出来るのにゃ?」
「何でもは出来ないけど、これくらいならね。乗せてくれてありがとう」
ふふふ⋯⋯やっぱり凄いよ精霊の体はね。自然の気を混ぜると、威力が何倍にも膨れ上がるんだ。
上位精霊さんも驚いているね。あ、ビビも驚いてる。
「神々しい光でございました。まるで神々の操る魔法のようで、ドキドキしてしまいましたわ」
「えへへ、これで作業も楽になりますね。“ドライミスト”」
僕がもう一度魔法を唱えると、そのドライミストもかなりの威力を発揮した。
水溜まりになっていた消化液も、瞬く間に蒸発してしまう。
弱くてドラシー頼りになっていた魔法も、全てがバージョンアップしたんだよね。
しかも火や炎の魔法は、イフリンのお陰で威力が桁違いに上がったんだ。
トラさんから降りて、その手をギュッと握る。ピンクの肉球がぷにぷにしてる。
「うにゃ? どうしたんにゃアーク?」
「別に?」
これで作業は捗るよね。精霊さん達の輪に入ると、御礼にフルーツを差し出された。
お城で見たカラフルな葡萄があったので食べてみると、色んな味の生クリームみたいで美味しかったよ。
この体になって、精霊さんから凄く好かれる体になっちゃったみたいだね。遠巻きに眺めていた精霊さんも、少し話をするだけで嬉しそうにしてくれるんだ。
「皆またね」
「ええ。ありがとうございました。アーク様」
着物の精霊さんと握手をして、その場を離れる。
最後にトラさんをもふもふしておいた。あんまりこの場所にいても、作業の手が止まっちゃうだろうからね。
それにトラさんも、精霊さん達の輪に入れたみたい。良かった。
「ありがとにゃ。アーク⋯⋯」
「お仕事頑張ってね。トラさん」




