精霊のアーク
お待たせしました(´;ω;`)
訓練の結果、イフリート様と随分仲良くなれた気がするよ。
「ありがとうね。イフリート様」
「はっはっは。よせよせ、イフリンで良い」
凄いでしょ!? ここまで仲良くなれたんだよ!!
あれから何年も修行した気がするんです⋯⋯存在の格を上げるって事が、如何に大変なのかを身をもって知りました。
もうボロ雑巾ですよ? クタクタに煮込まれた麺のようになりました。火加減強め。
そのお陰で、精霊体転化ってスキルが無くなっちゃったんだ。上手く言えないんだけど、普段から半分精霊の体になっちゃったんだよ。
そのせいで普段から自然の力の流れを感じます⋯⋯頭がおかしくなった訳じゃないから安心してね! これならきっとヘイズスパイダーの親も倒せると思う。見た事ないからわからないんだけど、この体が規格外過ぎるんだ。
控え目に言って、僕強くなり過ぎた気がするんだよ。色々と応用出来る体になっちゃって、ベスちゃんとも普通に戦えそうな気がする。
父様や母様に、いったいどれくらい近づけたかなぁ? せめて勇者様を超えないと、二人には近づけない気がするんだよね⋯⋯だって、僕には父様と母様の力の底が見えないんだ。
きっと力を隠すのが上手いんだろうね。深いぃ⋯⋯
「本当の意味で人間をやめてしまったな⋯⋯良かったのか?」
何を心配しているのかわからないけど、微笑みながら頷いておく。
人間かどうかなんてつまらない事だと思うんだ。僕の大好きなビビは吸血鬼だし、ベスちゃんもドワーフだもん。
妖精、精霊、魔物、獣人、人間、皆心をもっているんだよ。だから、こうやって話し合う事が出来れば、皆分かり合えると思うんだ。
「一応半分残ってます。それに、何になっても僕は僕ですから」
「⋯⋯確かに⋯⋯確かにな。そうであった! はっはっはっは! ──ハアッ!」
「ッ!」
──ゴアァァアッ!!
イフリンが不意打ちに正拳突きを繰り出してきた。その威力は笑えない程に強い。
白く輝く激しい炎を纏わせた拳は、手加減抜きの必殺技だね。
直接触ったら死んでしまうよ⋯⋯でも僕も研鑽を積んできたんだ。
自然の気、魔力、気力を均等に混ぜ合わせ、全身を薄らとコーティングした。唸る拳に手を翳し、受け止めた瞬間に力を込める。
僕の立っていた地面にヒビが入り、網目状に広がっていく。イフリート様の炎は、左右に分かれて後方へ抜けた。
ふぅ⋯⋯危なかった⋯⋯イフリンはまったく!
「びっくりしたよ! イフリン! いきなり過ぎ!」
「はっはっはっは。鍛えた甲斐が有る」
笑っちゃってまったくもう⋯⋯床が溶けてるじゃん。駄目だよ? イフリンの炎は強過ぎるんだからね! 外ではやらないと思うけど、もう少し気をつけて欲しいな。
ドラシーを背中に佩剣して、僕とイフリンは部屋の外に出た。階段を上りきると、巨大な石柱の間から明るい空が見える。
まだ昼間なんだ⋯⋯外にある芝生に寝っ転がったら気持ちよさそうだなぁ。ずっと星空の見える地下にいたから、外の風景が久しぶりな気がするよ。
んんんんー!! 僕は帰って来たよー! まずはお風呂にでも入ろうかな? その前にビビはどこにいるんだろう?
「なあアーク。お前はフィアンセとかいるのか?」
「フィアンセ? 結婚相手ですか?」
「そうだ」
んー⋯⋯そこら辺、よくわからないんだよね。イフリンは僕の答えを待っているみたい。でも⋯⋯
「ちゃんと考えた事は無いんですよね。結婚ってどういうものなんでしょう⋯⋯父様や母様は仲が良いですが、どういう事なのかわかりません」
「はっはっはっは。まだ子供だものな」
「むぅ⋯⋯」
「すまんすまん。悪気はないのだ。でもそうか⋯⋯わかった」
もう! イフリンはまったくもう!
イフリンは怖い顔を笑顔にしている。それ余計に怖いやつだよ?
僕はまだまだ身長が小さいな⋯⋯踵を伸ばすのにも限界があるし、早く大きくなりたいよ。
目標はベスちゃん! ベスちゃんより大きくなったら、ギルドの中で持ち運ぶんだ。散々やられてきたからね。ふっふっふ⋯⋯仕返しする日も遠くない筈!
でもベスちゃんは力が強いからなぁ⋯⋯おんどりゃあ〜ってされたら僕吹き飛ばされちゃうよね。
庭に出て、自然の空気を肺に満たす。ポカポカした陽気と、花の香りに包まれた。
良いね。とても焦げ臭いな⋯⋯え? 焦げ臭い?
庭の隅で、黒焦げになって倒れているビビを発見した。芝生の上でうつ伏せになり、体から白煙が立ち上っている。
僕が焦って駆け寄ると、ビビの体がピクリと反応した。
「ちょ! ビビどうしたの!?」
「アーク⋯⋯もう⋯⋯駄目だぁ⋯⋯阿呆が下手くそ過ぎでな⋯⋯」
ビビは顔も上げずに、地面に突っ伏したまま返事をする。
次の瞬間だった。ビビが雷に包まれたかと思ったら、その直ぐ隣にアイセアさんが現れる。ビビと同じ体勢で⋯⋯
アイセアさんも辛そうだけど、ん⋯⋯
「下手くそはあんたじゃないの⋯⋯魔力と自然の気は違うんだから⋯⋯」
これはあれかな? ビビとアイセアさんが精霊契約したんじゃない?
多分予想は正しいと思う。アイセアさんビビと同じく、うつ伏せで地面に顔を擦り付けている状態だ。
二人とも疲労困憊って感じだけど、僕だってその気持ちはよくわかるよ。イフリンを受け止めれるようになるまでに、いったいどれだけ苦労した事か⋯⋯
「下手くそ阿呆ビリビリ精霊⋯⋯」
「感度最悪鈍感吸血鬼⋯⋯」
二人はどんどん仲良くなってるよ!(確信)
「夕方には作戦会議をする。ただ真正面から行くわけにもいくまい。その会議にはアークも参加して欲しいんだ」
ノーム様の国を助けるにあたり、リスクが少なくなるように会議をするんだね。
「畏まりました。でも僕みたいな部外者が、そんなに重要な会議に出席してもいいのでしょうか?」
「フッ、そんな小難しく考える必要は無いぞ? 夜には始めるからな」
「はい」
「ふはは。随分と大きくなったじゃないか」
イフリンはしゃがむと、僕の頭を激しく撫でた。
僕の身長は変わっていないと思うけど、イフリンは僕の中身を見ているのかもしれないね。
「それではな」
イフリンに歩く頭を下げて見送った。
昔みたいに圧倒的な差は感じない。それでも、まだ少し遠い気がしちゃうんだよね。
イフリンの背中には、実力以外にも計り知れないものが見えるんだよ。それが何かはわからないけど、尊敬出来ると思うんだ。
「さてと、ビビ回収してお風呂だね」
ビビを連れて城のお風呂に入る。アイセアさんは通りかかったオンミールさんに預けたよ。なんか少しよそよそしい感じがした。
お風呂は朝にも入ったんだけど、僕は久しぶりな気分なんだ。ビビも黒焦げだったから丁度良いよね。
結構広いお風呂場なんだ。三十人とか一気に入っても余裕があるよ。
ビビは完全に脱力しているので、抱っこすると首がかくんと傾く。体を洗うのも大変だったね。
湯船に抱っこしたまま浸かると、ビビが面倒そうに瞼を上げる。
「世話になった」
「いいえお嬢様。これくらいいつでもやらせていただきます」
「ふふ⋯⋯はたしてアークは五年後も同じ事が言えるかな?」
「え? 五年後? 何かあったっけ? その頃は十一歳だよね?」
「その頃になれば⋯⋯ん?」
ビビの顔が近づいてきた。
「瞳の色が薄くなったか? 髪の毛もライトブラウンになっているぞ? 存在感も違うようだ」
「うーんとね⋯⋯訓練してる途中だったんだけど、急に体が半分精霊になっちゃったんだ」
「そうか⋯⋯あ、アークはそれで良かったのか?」
「もちろんだよ。これで少し寿命が伸びたんじゃないかな?」
ビビが動かない腕をゆっくり動かして、僕の首へ巻きついてきた。
「どうしたの?」
「あ、アーク⋯⋯」
「ん?」
「す、すす⋯⋯」
「す?」
「す⋯⋯」
す? す⋯⋯う?
「き⋯⋯」
「き?」
ビビの顔が真っ赤になっている⋯⋯何だかわからないけど、激しい心臓の鼓動が伝わってくるよ。
「大丈夫? ビビ」
「だだ⋯⋯大丈夫⋯⋯大丈夫」
大丈夫って言われても、全然大丈夫そうには見えなかった。
何を言おうか考えていたら、そのまま首がチクリと痛む。そのせいで、続きの言葉が頭から抜けてしまったんだ。
何を言ってあげれば良かったのかな? すきって、そんなに言えない言葉なんだろうか?
僕の言う好きと、ビビの言うすきでは、大きく意味が違ってくるのかな?
そんな事を考えながら、僕はビビの背中を撫でる。ビビは将来一緒に冒険する仲間であり、戦いについて来てくれる戦友であり、楽しい事を一緒にする友達であり、寝食を共にする家族でもある。
*
会議まで時間が出来たので、トラさんを探しに街へ出た。人間の街に似ているけど、お店の数などは極端に少ないね。
精霊さんは生きていくのに、絶対に必要な物が無いんじゃないかな? だからお店みたいな建物を見つけても、コレクションの展示場みたいになっているんだね。
戦闘の痕跡が残る城下町。ヘイズスパイダーの残骸を見つけ、とりあえず無限収納へ回収していく。
精霊さんとすれ違うと、僕を見て深々と頭を下げていく。昨日はもっと気安く接してもらえたのにおかしいな⋯⋯皆どうしちゃったのかな?
疑問に思っていると、蜘蛛に捕まっていた女の子を見つけた。頭にお花が生えた精霊さんだね。ちょっと声をかけてみようかな。
「こんにちは」
「⋯⋯」
お花の女の子が僕を見て固まっている⋯⋯あれ?
「こんにちは」
「⋯⋯」
「おーい」
「⋯⋯」
どうしたんだろう。忘れられちゃったのかな? それとも他人のそら似かな?
「人間さんがああ!!! 精霊様になってるうぅぅう!!!」
大袈裟な反応が返ってきて、びっくりしたけどホッとした。
「あはは、良かった⋯⋯反応がなかったから、知らない精霊さんかと思ったよ。体が半分精霊になったんだよね。でも今までと変わらないから、これからよろしくね。君の名前は?」
「へへー! よ、よろしくお願いしますだ! わだすの名はマリーと呼んでくだせぇ⋯⋯親分!」
「え? 君はそんなキャラだったっけ? 親分?」
「精霊は格上には従います! それも、イフリート様みたいに大きな存在に、憧れぬ精霊などおりませぬ! どうか親分と呼ばせてくだせぇ!」
⋯⋯そんな感じなの? マリーさん? マリーちゃんって感じの見た目だね。
右を見ると、僕を物陰からチラ見している精霊さんがいた。左、後ろと振り返ると、皆目をキラキラさせている気がする。
「選り取りみどりですぜ、親分。ゲッヘッヘッヘ⋯⋯どの子持って帰りますかい? じゅるり」(ゲス顔)
「マリー⋯⋯本当に、君がどんな子なのかわからなくなったよ」
憧れかぁ。僕が父様や母様を見るような感じかな? そうだとすれば、なんかちょっと擽ったい気持ちになりますね。
「確かにアークは雰囲気が変わったよ。私でもわかるくらいなんだ。精霊にはもっと良くわかるだろう」
「精霊さんにそういうのがあるとは知らなかったよ。でもなんかちょっと嬉しいかな? ちょっと偉くなったような気がする」
「アークは既に有名人だろう? ただ、名前だけじゃアークだと気がつかれないだけさ」
なるほどね。確かにそうかも⋯⋯
マリーちゃんの頭を撫でてあげた。
良かった⋯⋯ゲス顔から普通の顔に戻ったね。
「またねマリーちゃん」
「へい。またなの〜」
きっとこれから大きな戦いになると思う。マリーちゃんや他の精霊さんも全員守らなきゃね。
トラさんを見つけたら、今後の話をしようと思う。
五章の区切りとさせていただきます。
六章からは投稿が不定期になってしまう事をお許し下さいm(*_ _)m
毎日1話か2話。文字数も2000くらいになるでしょう。頑張って書きますので、これからもよろしくお願いいたします。




