精霊の体、過酷な精神圧縮修行。
100話まで走り抜けたった\( 'ω')/
「オンミール⋯⋯」
イフリート様がそう言っただけで、オンミールさんが床に片膝を着いた。それだけ空気が重く感じたんだよ⋯⋯僕も、ここにいる全員がそうだと思う。
それは怒りからでは無い。わかっているんだけど、身が竦んでしまうんだ。アイセアさんも片膝を着いたけど、ビビだけは堂々としていた。
ビビはプライドが高いからね。でも姿勢は正している。
「アークは本気だ。わかるな?」
「⋯⋯わかります。ですが、本当に部屋を使われるのですね?」
「そうだ。オンミール、キコノコ、ビビ、アイセア、全員外に出ていろ」
「「「ハッ!」」」
「え? 何? ちょ⋯⋯」
枝帽子さんはキコノコさんなんだね。オンミールさんとキコノコさんが出ていく中で、ビビはアイセアさんに引っ張られていた。
「アイセア、これから何をするんだ!? おい」
「少し黙ってなさいよ! アークがやるって言ったんだから!」
「そうだが、何をするかぐらい教えてくれ」
「外に出たらね⋯⋯」
ビビは抵抗していたけど、イフリート様へ文句も言えずに部屋を追い出される。大きな扉が閉まると、僕とイフリート様だけになった。
「これからする訓練は、普通のものとはわけが違う。今ならまだ引き返せるぞ? どうする?」
「やります!」
「即答か⋯⋯気は進まんのだがな⋯⋯本当に⋯⋯いいんだな?」
「ッ!」
何⋯⋯これ?
イフリート様の体から、生命力の塊のような何かが溢れ出した。見た目はマグマのようであり、太陽のようなプレッシャーを放っている。
存在感のスケールが違うよ⋯⋯そこにあるのは絶対的な何かだ⋯⋯
「ふむ⋯⋯察したか⋯⋯これがアークの目指そうとしている先。その片鱗だ」
その何かが全身にまとわりつくと、イフリート様の体が赤い鎧に包まれた。いきなりの事に驚いていると、辺り一面に激しい炎が溢れ出す。
「私は炎の化身。焼き滅ぼせぬ物は無い。良いか? 忘れるな」
「熱い⋯⋯くうぅ」
顔を両腕で覆い隠しながら、僕は後ろへ飛んで大きく距離を離した。燃え盛る炎の勢いは強く、周囲を完全に塞がれてしまった。
「すまんな。これでも少し力を解放しただけだ」
──ガチン!
何かが噛み合った音がした。その瞬間、ドームのようだった天井が夜空へ変わり、外に出たかのように星が瞬いている。
凄い⋯⋯何が起きているのかわからない⋯⋯真子ちゃんと会った時みたいに⋯⋯いや、それ以上に絶対的な力の差を感じてしまうよ。
これが、イフリート様なんだね⋯⋯でも、僕は負けたくない!
「剣はどこかへ置いておくと良い。精霊の体になって目の前に来い」
「はい!」
それなら仕方ない。ドラシー、暫くここで待っててね。
『⋯⋯』
ドラシーを床に置くと、悲しげな感情が流れてきた。
ごめんね。⋯⋯って、ドラシーだってこの前強くなったばっかりじゃないか。ちょっと行ってきます。さあ! 強くなるぞ!
「“精霊体転化”」
一瞬の輝きを放ち、体が精霊のものへと切り替わる。
やっぱり魔力が抜けていく感覚があるんだ。どれくらいの時間この状態でいられるのかわからないけど、イフリート様の言う通りにしよう。
「お待たせしました」
「ああ、では始める⋯⋯」
──ドゴン!
僕の体が吹き飛ばされた!? いきなり過ぎてびっくりしたのと、強烈な痺れに奥歯を噛み締める⋯⋯何をされたのか見えなかったんだ。
腕を振りきった状態のイフリート様が、ゆっくりその体勢を元に戻した。
僕は多分殴られたんだね⋯⋯全然見えなかったよ。
⋯⋯左腕がおかしい⋯⋯? これ、折れてる⋯⋯?
腕の輪郭がボヤけたような感じになっていた。動かそうにも感覚が無い⋯⋯思えば精霊の体でダメージを受けたのは初めてだよね。
「回復の魔法は使うな。まずは体を徹底的に痛めつける必要がある。ゆっくりなんてしていられないのだろう?」
殴られる事が訓練になる? 何て無茶苦茶⋯⋯? でも、殴るイフリート様だって痛いに決まってる。感情の見えない平坦な声だったけど、少し辛そうな感じがしたんだから。
これは僕が決めた事なんだよ。そして、イフリート様は僕の想いに応えようとしてくれている。それなら、引く訳にはいかないよ。
「それが、必要なんですよね? 僕のために、ありがとうございます」
「⋯⋯」
怖さもあるよ。どうされちゃうのかわからないんだもん⋯⋯それでも全てを呑み込んで、イフリート様を強く見詰め返した。
「はぁ⋯⋯人間の覚悟とは、かくも強いものなのか⋯⋯? 刹那を生きる人の子よ。お前の気持ちが本気なのならば、最後まで無事に耐えきってみせよ」
「はい!」
「この訓練の目的は、アークの精霊としての器を強化するためのものだ。体が壊されれば、それを補おうとして器に変化が起きる。荒療治だが確実に目標へと近付けるだろう」
なるほど⋯⋯それが理由なんだね。
僕は破壊されてボヤけた左腕を見ると、確かに少しずつ修復され始めているのがわかった。
これが精霊の体なんだ。痛いという感じではないんだけれど、慣れない痺れるような感覚が続いている。
「器が大きく成長すれば、今のように魔力が溢れ出す事もあるまい。例えるなら、アークは小さな紙コップのようなものだ」
「それはとても弱そうですね⋯⋯」
「生まれたばかりの精霊と変わらないな。では始めるぞ」
「はい! よろしくお願いします!」
*
僕は体を何度も破壊され、治る暇もなく打たれ続ける。
模擬戦形式で立ち合っているから、普通の戦闘訓練にもなっているよ。かなり手加減しているのがわかるけど、それでも拳が見えないくらいに速いんだ。
「“岩砕脚”」
──ドゴォンッ!!
「効かぬわ!」
イフリート様は本当に強い。体術をいくら叩きつけても、動じた様子が全くないのだから。
あまりにも速い高速戦闘に、僕は時々上下左右すらわからなくなる。激突すれば小爆発が起こり、僕だけがダメージを受けるんだよ? 不公平だと思うなぁ。
たまに休憩を挟みながら、体の具合を確かめる。体がある程度回復すると、室内をひたすら走らされたりもした。
生身とは違う感覚だけど、少しずつわかるようになってきたよ。体が痺れる感覚は結構辛いんだけどね。
*
⋯⋯あれから何時間経ったのかな? そういうのもおかしな話だけと、体感的には何十、何百日も経ったような気がするんだ。でも今はお腹が空かないんだよ。
体に重りをつけて走り、イフリート様の炎に炙られる。これがかなり辛かったんだ⋯⋯だからチョコを食べて回復するんだ。お腹空かないけど、甘い物は別腹だよね。
回復したらまたひたすら体を壊される。このどうしようもない過酷さが、ベスちゃんとの訓練を思い出させる。
今僕は⋯⋯充実してる? リア充ってやつ? 何か違うような⋯⋯
もう大変なんだよ。嫌な感じではないんだけど、ジンジンするような痺れが体に溜まっていくんだ。はわわわ⋯⋯早くどうにかしないと! このままじゃ中身がでちゃう! 気がする!
「これは⋯⋯馬鹿な⋯⋯」
イフリート様が手を止めた⋯⋯どうしたんだろう? もう終わりなのかな? そんなわけないよね⋯⋯僕はまだまだ大丈夫。
今のうちに体を治してしまおうかな。壊されてボヤけた体の輪郭が、元通りになるようにイメージをする。
「アーク。もう体の再生が出来るようになったのか?」
「まだちょっとだけですよ?」
「そのちょっとが出来ない精霊は多い。それと、器もかなり成長したようだ」
そう言われても、自分の器とかよくわからないよね。手をぐーぱーして確かめたけど、見た目的には変わらないかな?
体から痺れが引いていく。壊されている時にも修復に挑戦していたんだ。だからイフリート様がそれに気がついたんだね。
「私が驚いているのは成長速度ではない。それも確かに人並み外れているが、驚愕すべきは精神力だ。この部屋は成長効率を千倍まで高めるかわりに、精神的疲労が何十倍にも増す筈なんだが⋯⋯」
「精霊的疲労ですか?」
「わかって無いなら気にせんでいい。恐ろしい子供だな⋯⋯外ではまだそんなに時間が経っていないだろう。ノームの所へ着くまでに、私を体に宿せるくらいまで格をあげるぞ」
「はい! イフリート様!」
こうして僕は強くなるために頑張ったんだ。本当はね、喋るのも面倒なくらい辛いんだよ。でも今はとても楽しいから、いつまでだって耐えられる気がする。
一人で訓練してた時は、何度もやめたいって思ってたんだよ。今はイフリート様が一緒に訓練に付き合ってくれてるんだもの。こんなに嬉しい事はないんだよ。
イフリート様かっこいい(*º∀º*)




