表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
100/214

アークの強い想い side ユシオン






 ビビの小さな息遣いが聞こえ、僕はゆっくり瞼を開きました。変な夢だったと思うんだけど、よく思い出せないや⋯⋯イチゴが沢山あったと思ったんだけど、イチゴ何処行っちゃったの?

 ビビの独特な良い匂いがする⋯⋯安心するぅ⋯⋯


 んんんんんんんーーーーー!



 良い朝ですね! おはようございます! ビビは僕が寝た時の体勢のまま、ずっと抱いていてくれたみたい。ちょっと嬉しいな⋯⋯これなら寂しくないよ。ありがとうねビビ。


 あれ? でも何でパジャマ着てないの? 昨日寝た時は着ていたのに⋯⋯今は大人の姿に戻っているから、体が締め付けられて苦しかったとかかな?


 ビビの肌は気持ちが良いね。すべすべしていて柔らかい⋯⋯このままじゃまた寝ちゃいそうだよ。それは駄目。


 するりと腕から抜け出して、ベッドの上で伸びをする。


 はぁ。気持ち良いなぁ。


 精霊界で初めての朝だ。ビビはまだ寝ているね。僕が起きたから、かけてあった物が腰の辺りまでずれていた。ちょっと寒そうだな⋯⋯白い肌が外気に晒されている。


 肌触りの良いシルクの掛け布団を引っ張って、肩の上までかけてあげたんだ。吸血鬼は風邪をひかないらしいけど、そのままじゃ可哀想だから。


 気持ち良さそうに眠るビビの横に座り、銀髪の髪を優しく撫でる。父様や母様みたいに強くなったら、ビビと一日中ゴロゴロしてるのも良いな。先は長いけどね。


 眠気を覚まそうと思い、ガラス扉を開いてベランダに出る。気持ちの良い風が吹き抜けて、清々しい気持ちになった。


 とても広いベランダだね。並びにある隣の部屋から、ずっと横一列に繋がっているみたい。隣の部屋にはトラさんが寝ている筈だけど、大きなカーテンで中が見えないね。


 パジャマ姿のまま縁まで歩いて行くと、息を呑む程の美しい光景が目に飛び込んできた。


 城壁の外が雲海なんだよ。それが見渡す限り続いているんだ。遠くには雪山が⋯⋯あ、噴火してる山もあるよ。流石精霊界⋯⋯

 あの中を自由に飛んだら気持ちいいかもしれないね!


 うずうず⋯⋯ちょ、ちょっと、ちょっとだけなら?


 僕は直ぐに部屋の中へ戻ると、ビビに向かってジャンプする。


 うぅ〜いくよ!


「シェリーダイナマイトローリングトルネードプレス〜改!」


「ぐぇ!」





 二時間後、朝食やお風呂などを済ませた僕とビビは、枝帽子さんに案内をされていた。

 一応運動しやすいように、半袖長ズボンになっているよ。ビビにも着替えてもらって、ノースリーブに短パン姿です。一緒に訓練する訳じゃないけど、雰囲気って大事だと思います。


『⋯⋯』


 あ、ごめんね。ドラシーも着替えたかったんだね(鞘を)⋯⋯無いんだなぁ⋯⋯


『(´・ω・`)』


 トラさんは時計塔や街の修理をしに行くって言って、僕達より早くに出て行ったよ。凄くやる気に満ち溢れていたなぁ。何かしてないと落ち着かないのかもしれないね。でも無理して体を壊さないで欲しい。


 僕達は案内されてどんどん城の奥へ入って行く。とても豪華な内装から、天然石のような壁に切り変わった。


 少し空気がひんやりしているかな⋯⋯向かっているのは城の地下みたい。長い長い螺旋階段を下りて、行き止まりに大きな扉が現れた。


「ここ、イフリート、様、いる」


「ありがとうございます!」


 枝帽子さんがその扉を開いてくれる。中は結構広い⋯⋯? いや、結構って言うかめっちゃ広い部屋だよ! 多分空間魔法でスペースを拡げてあるんだと思う。この規模なら魔術かも?


 凄いなぁ。家にもこんな広い部屋が欲しいよ。


 地下室なのに、(およ)そ三百メートルと高い天井がある。円形でドームのようになっていて、直径千メートルくらいあるんじゃないかな? 壁際には大きな石柱が等間隔で並んでいて、何かの魔術が施されているみたいだ。

 普通なら折れてしまうと思うんだよね⋯⋯建築はわからないけど、魔術的なにかで強化されているのかな?


 どんな事するんだろう。訓練をするのだから広い場所の方が良いのはわかるけど⋯⋯


 部屋の中央付近には既にイフリート様が待っていた。その手前には、アイセアさんとオンミールさんが立っている。


 そこまで歩くのも時間がかかるよ。


「おはようございます! アイセアさん、オンミールさん」

「⋯⋯ございます」


「おはよう。来たな」

「おっはよーアーク。ついでにビビ」


「ついでだと?」


「はい! はい! アイセアさんとビビは喧嘩禁止!」


 軽く睨み合う二人の間に割り込んで、視線を遮るように手を上げた。


「アークみたいな人間初めてなのよ。独占しないで」


「断る」


 あらら。水と脂みたいな二人だな。助けてターキ! 僕に母様ポジションを教えて下さい。


 僕はアイセアさん嫌いじゃないよ。だからビビも仲良くなれる筈なんだ。


「アイセア。後でいくらでも時間があるだろう。アークはイフリート様の所へ行きな」


「ありがとうございます。オンミールさん」


 僕はオンミールさんに会釈をした。見た目は炎のカエルさんなんだけど、真面目でしっかりした人なんだよね。

 アイセアさんはまだよくわからない。親しみやすい話し方で、とても綺麗なお姉さんなんだ。

 体が帯電しているから、精霊さんだと直ぐわかるけどね。出来ればビビと仲良くして欲しいんだ。


「オンミールさん。二人をよろしくお願いします」


「わかってる」


 睨み合う二人に聞こえないように、小声でオンミールさんにお願いした。その後直ぐにイフリート様の前へ移動する。


 ドキドキするなぁ。イフリート様の顔怖いんだ。



「おはようございます! イフリート様」


「ああ、おはよう。良く寝れたか?」


「はい。朝までぐっすり寝れました」


「そうかそうか。はっはっはっは」


 何気なく挨拶を返されただけなのに、イフリート様の威厳が凄い。高貴と言うよりは神秘的で、僕は軽く息を呑み込んだ。


 きっと今でも力を抑えているんだろうね。生物として、根本的に何かが違うって言うのかな? 上手く説明出来ないけど、人間には手に負えない上位の存在なのかもしれない⋯⋯


 自然とひれ伏したくなる⋯⋯(かしず)いて、その偉大さを称えたくなってしまうんだ。


「イフリート様⋯⋯僕は強くなりたいです。守りたいものが沢山あります」


「⋯⋯精霊の力の使い方を教えると言ったのは私だ。契約をすれば、今よりずっと強くなれるぞ」


 契約⋯⋯それがどんなものなのか知らないんだ。でも⋯⋯でも、



「それでイフリート様より強くなれますか?」


「ん? 私より⋯⋯だと?」


「はい。僕は誰よりも強くなりたいです!」


 僕は真剣だった。誰よりも強くなりたい⋯⋯強くなって、父様と母様を超えたいんだから。

 イフリート様は(うつむ)くと、獰猛な笑を浮かべる。


「はっはっはっはっは。私の力を借りたがる人間はいても、私より強くなりたいと言った奴はお前が初めてだ。アーク⋯⋯面白い人間だな。はっはっはっはっは」


 その大きな笑い声に、ビビやアイセアさん達までがこちらへ振り返る。何かを言い合ってたみたいだけど、自然と口が止まったみたいだ。


「魔族でもない⋯⋯ましてや龍族でも勇者でもないただの人間が、私を超えたいと言うのか⋯⋯ふっ。だがそれは無謀だと思うぞ? 私は炎を(つかさど)る最上位の精霊だ。火の神と呼ばれる事もある。本気で私を超えるつもりなのか?」


 そんなの決まってるじゃないか。イフリート様より強くなれなければ、母様に追いつく事なんて出来ないんだから。


「強くなりたいんです。僕は⋯⋯誰よりも!」


「⋯⋯」


 僕の顔を見たイフリート様から、さっきまでの笑顔が消えてしまった。


 でもこれだけは譲れないんだよ。僕は──


「人間を捨てる気か?」


 イフリート様が重く低い声でそう言った。


 人間を捨てるってどういう事? よくわからないけど、それが⋯⋯


「必要なら」


「⋯⋯そうか。真剣なんだな⋯⋯ならその想いに応えよう。私はアークを本気で鍛える事とする。沢山の精霊を救ってくれた礼だ⋯⋯だが下手したら死ぬかもしれんぞ?」


 死ぬかもしれない。その言葉が懐かしく感じるね⋯⋯冒険者ギルドで、僕はあの時泣いちゃったんだ。でも今なら覚悟は出来ているよ。


 魔導兵、オーク、ゴブリン、僕は沢山の命をこの手で奪ってきたんだ。怖くない訳じゃない⋯⋯でも、それが僕の選んだ道なんだよ。遊びじゃないんだから。


 足踏みしている暇は無いんだ。昨日より今日、今日より明日。僕は強くなり続ける。それが僕の夢に繋がっているのだから!


「お願いします」



side ユシオン



 精霊界とは、神が精霊に創り与えた楽園だ。何人(なんぴと)にも侵されず、勝手気ままに過ごせる場所。


 気に食わないねぇ⋯⋯クックック⋯⋯ああ、気に食わない⋯⋯


 何故そんな場所が与えられたのか⋯⋯それは、精霊が世界のシステムを維持するための存在だからだねぇ。

 そのために割かれるリソースは大きい⋯⋯もう半端じゃなくねぇ。

 自然の“気”の力が扱えるようになれば、きっとあの英雄様の手助けになる。解析する魔導具も持ってきたし、全てが上手くいっているねぇ。


 あのイカれた小僧からもらったヘイズスパイダーは、ボクが精霊界の全てを手に入れるのに使ってあげるよ。


 あのお方は神になれれば良いらしい。ボクはそんなものに興味なんかないけど、一応配下としての働きは見せなくちゃねぇ。


 ここは精霊界の森の中にある開けた場所だ。開放的で気に入っているよ。


 大きなソファーとガラスのテーブルがあり、その上には料理がズラリと並んでいた。

 巨大な海老や、豪華なフレンチ料理⋯⋯はぁ、こんな料理は無駄なだけ⋯⋯この大きな海老一匹で十分だよボクは。


「如何なされましたか? ユシオン公爵閣下」


 部下のアルフレッドが顔色を伺ってくる。


 この男はハイスペックな魔族だ。料理、家事全般、攻撃魔術、剣術、何でもこなせる。役に立つ男ではあるけどねぇ⋯⋯


「ボクは無駄が嫌いなんだよねぇ⋯⋯海老以外下げちゃってよ」


 精霊界に来たのはボクを含めて三人だ。ボクとアルフレッドと、


「食わねぇなら俺が食うよ」


「良いよ。好きにしなよ」


 ロードに至った吸血鬼、レバンテス・フリードだ。戦闘面で言えば、魔族の中でもトップクラスなんだけどねぇ。

 見た目は吸血鬼なだけあって、文句のつけどころが無い。少しガサツなところもあるけれど、馬鹿ではないので気は合う方さ。


「なあユシオン。あの親蜘蛛、もう何が何だかわからなくなってんな」


「ひぃっひゃっひゃっひゃ⋯⋯薬が強過ぎたのかねぇ」


「精霊界の世界コアはまだ見つかんねーのか?」


「場所はわかってるんだけどねぇ⋯⋯手に入れる前に、力を使わせなくちゃいけないんだ」


「力?」


 何処から説明したもんかねぇ⋯⋯レバンテスの専門外だから、伝えるのが難しいねぇ。


 アルフレッドがブランデーを用意して、ボクの後ろに控える。


「精霊界の世界コアは、自然の気の力で動いてるんだけどねぇ。今それを回収しちゃうと、力の使い方がわからなくなるかもしれないんだよねぇ。ボクの予想では、精霊を三割消滅させる必要があるんだよねぇ」


「三割⋯⋯そうすると?」


「その世界コアが、減った精霊を増やそうとするんだよねぇ。その時には膨大な力が解放される筈なんだよ。その解析が出来れば、後は精霊界を自由に出来ると思うんだよねぇ」


「なるほどな⋯⋯それであの蜘蛛か」


 そう。精霊の存在を食べれるヘイズスパイダーなら、本来の面倒な方法に頼らずとも精霊を殺せるんだねぇ。


「ボク等はのんびり待ってれば良いよ。蜘蛛が後はやってくれ⋯⋯る?」


「?」


 魔導具“リアルタイムバトルボード”の駒が、予想と反する動きを見せていた。この魔導具で、精霊四大国の状況は把握出来ていた筈だ。


 なんだこれは⋯⋯おかしい。


 現在、ウンディーネの国は五%、シルフの国は六%、ノームの国は十二%の精霊を狩れていた。

 しかし、イフリートの国だけが異様に被害が少ないようだな。現在一%未満? ⋯⋯予想と全然違う⋯⋯それに⋯⋯


「動いているねぇ⋯⋯街が飛んでいるのかな?」


「飛ぶとかありか? 一度偵察には行ったが、そのようには見えなかったぜ?」


 ふむ。やっぱり勢いだけでは難しいのかねぇ。レバンテスは魔導具をうたがったけど、ボクにそんな失態はありえない⋯⋯


「これは、ノームの国に向かってるんじゃねえか?」


「この動きなら有り得るねぇ。蜘蛛はまだ大量投入出来るけど、こうやって飛ばれちゃうとねぇ⋯⋯」


「仕方ねえな。俺とアルフレッドの二人で、ノームの国に行ってみるとするか」


「アルフレッドは連れていかないでよ。ボクの世話当番がいなくなるからね」


「わかったよ。じゃあちょっと行ってくる」


 本気で言ってたわけでもないのだろう。レバンテスの顔が笑っていた。


「またね」


「おう」






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ