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異世界を斬る! 体育教師の巻・其の4

「それではただいまより裁きを開始する」


 きゃ。この世界でたった一人の男性のオブギョウ様じゃない。この世界の全ての女の子のあこがれのオブギョウ様。直接お裁きをしてもらいたくての、無銭飲食や強制わいせつが後をたたないオブギョウ様。おかげで『ちんけな犯罪はオブギョウ様は取り扱わない』なんてお触れが出されたオブギョウ様。


 そんなオブギョウ様がなんで、教師であるあたしが無罪放免、逮捕歴抹消になることがわかりきってるこんな事案を取り扱うのかしら? なんだか勤労アルバイト新聞配達少女に勤労オーバーワーク故障者少女も引っ張り出されたし。


「そこのもの、奴隷になる前は新聞配達をしていたそうだな」


「そ、その通りです、オブギョウ様」


 あら、なによ。なんで勝ち組公務員であるあたしよりも先に奴隷ふぜいがオブギョウ様に声をかけられるわけ?


「なんでも、妹の修学旅行代を稼ぐためにやむなくしたとのこと。その心がけはたいへんにあっぱれである。ゆえに新聞配達奨学生制度を導入した。しかし、そちが法を破ったのは事実。罰を与えなくてはならん。そこでそちに新聞配達所の住み込み勤務を命ずる。小学生に中学生の妹も一族同罪ゆえ、住み込みで新聞チラシ折り込みを命ずる。もちろん義務教育だから学校にはしっかり通わせた上でな」


「オブギョウ様。それってわたしを奴隷から解放してくださる上に、妹といっしょに暮らせるようにしてくださるってことですか? ありがとうございます。奴隷となって自殺しようとも思いましたが、残される妹のことをおもって踏みとどまったんです。それがこんなことになるなんて」


「ふむ、そちの妹を思う気持ち。この世にまだそんなものがあったとは思わなかったぞ」


 あの、オブギョウ様。そんな奴隷身分の売女なんかよりも、体育教師を長年つとめあげたあたしの無罪放免が先じゃないんですかね。


「もうひとりのそちは部活動中に体を壊したそうだな。見せてみよ」


 え、もうひとりって……あたしの存在は無視ですか、オブギョウ様。


「なるほど、なるほど。ステータスオープン!」


 ちから  999

 すばやさ 999

 たいりょく999

 ちせい  999

 うん   999


 スキル シミュレーション・現実世界転生


 えええ、全てのステータスが999! ステータスの上限って99じゃないの!


「シミュレート。1年前のそちのステータスになれ。記憶は現状維持で」


「あ、オブギョウ様。故障した体が元に戻りました。これで前みたいにスポーツを楽しめます」


「それは良かった。スポーツは楽しむためのものだからな。けして、先輩や教師が威張り散らすためのものじゃないぞ。『こんなこともできないのか、この無能』なんて言われるためのものじゃないんだからな」


 あの、オブギョウ様。『こんなこともできないのか、この無能』なんてセリフは、あたしが一回の授業に10回は言ったセリフなんですが。


「そちたち二人が奴隷になった原因はある人物らしいが……」


 あら、二人とも。なによ、その視線は。恩師に向かってその白い目。年長者に対する敬意ってものがないんじゃないの。


「なるほどなるほど。裁かれるべきはそこの体育教師のようだな」


 そんな、なにをおっしゃられるんですか、オブギョウ様。あれ、あたしオブギョウ様に体育教師だって自己紹介したっけ……そうか。きっとあの二人が前もってオブギョウ様に有る事無い事吹き込んであたしを悪者に仕立て上げたのね。


 体育教師というだけであたしを目の敵にして、でまかせで糾弾しようとしたのね。なんて恩知らずな奴隷。あんなやつら、やっぱり学校を追い出して大正解ね。


「オブギョウ様。そんな奴隷の言うことを信じてはいけません。奴隷のような社会の最底辺と、体育教師てしてお国に滅私奉公してきたあたし。どちらを信じるかは明らかでしょう」


「そうだな、明らかだな」


 やっぱり。オブギョウ様はあたしの味方ね。オブギョウ様ならわかってくれると信じてたわ。


「そこの体育教師が有罪だ」


「えええ、どういうことですか、オブギョウ様」


「黙れ、このステータスウインドウを忘れたとは言わさねえぞ。スキル発動! シミュレーション! ステータスオープン!」


 ちから   12

 すばやさ  17

 たいりょく 21

 ちせい   23

 うん    11


 スキル ショートスリーパー


 あああ、このステータスは。それにオブギョウ様が見覚えのあるロリっ子に。


「そう言うことだ。貴様が今までの卑劣な行いをペラペラと得意げに話すのを、この耳でしかと聞いたのだからな」


「それではあたしは有罪なのですか。依願退職なのですか。あと5年はがきんちょの生徒相手に威張り散らせると思っていたのに」


「何を甘いことを言ってるんだ。貴様のようなクズが依願退職なんてできるはずがないだろう」


「そ、それでは懲戒免職ですか? ここまで勤め上げてきたのに、年金も退職金もパーなんて」


「それも甘い考えだ。貴様は氷河期世代に転生するんだ」


「あたしが氷河期世代に転生? そんな、バブルの絶頂期だったからあたしみたいな無能でも公務員になれたのに、氷河期世代に転生したら奴隷になるしかないじゃないですか」


「馬鹿め、貴様が転生するのは現実世界だ。そこには奴隷なんてシステムはない。貴様は冷暖房が完備され、3食に毎日の風呂が約束された奴隷以下の人生を送るのだ。食事の時間もろくに取れない、サービス残業当たり前、シャワーすら1週間に1度浴びられれば良いという人生をな」


「そんな過酷な人生をあたしに送れというんですか?」


「そういうことだ。特殊スキル現実世界転生発動! トラック召喚! このクズを跳ね飛ばしてしまえ!」


 ブロロローーー!!!


 これで税金を食いつぶす社会にダニが一人減ったのでした。めでたしめでたし。

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