異世界を斬る! 体育教師の巻・其の2
「じゃあ、あたしが奴隷市場のシステムってものを教えてあげるから心して聞くのよ」
「わかりました。しっかり聞きます」
なかなか熱心ね。しっかり奴隷の気持ち良さを教えこんで、非正規労働者の少ないお給料をつぎこませるとしますかね。
「そもそもこの国じゃあ奴隷売買は違法ってことになってるんだけれど……なぜかこのお店には奴隷っぽい女の子がいっぱいいて、その女の子とお話できる時間をお店が提供してるのよ。で、客と奴隷っぽい店員の個人的な恋愛は自由にやってくださいという建前になってるのね」
「建前ですか」
まったく。法律で奴隷売買を禁止するなんて無理なのよ。事実、昔から奴隷市場があった場所ではこうやって奴隷売買ができるようになってるんだから。建前はどうあれ、本音はみんな奴隷売買をしたがっているのね。
これだから、お役人が決める法律ってのは嫌なのよね。その点、校則ってシステムはよくできてるわよね。あたしたち教師が好き勝手に決めて好き勝手に運用できるんだから。『学生らしい振る舞いを心掛けるように』なんて決めておけば、いくらでも生徒に難癖付けられちゃうんだから。
「まあ、実際は昔ながらの奴隷売買と何も変わっちゃいないわよ。ほら、あの女の子なんてどう? 奨学金を借りてまで大学を卒業したのはいいけれど、就職先にあぶれて非正規雇用。奨学金返済のために奴隷になっちゃったのよ」
「お詳しいですね」
そりゃあもう。あたしの学生時代は奨学金は返済不要の給付システムでしたからね。あたしの大学は教育大学だったから、学校の先生を10年やれば奨学金の返済はチャラになったのよ。お国のために滅私奉公したんだからそのくらいの特権当然よね。
でも、絶賛不況真っただ中の現在じゃあそんなおいしい話はなくなっちゃったみたいね。そんなバブル真っ盛りにお役人が『景気は良くなる一方だ』なんて楽観的に決めたシステムが破綻しないはずがないのよ。事実こうして奨学金返済できなくて奴隷になってる女の子がごまんといるんだから。
そんなかわいそうな女の子を公務員のあたしが奴隷として買いたたく快感と言ったら。何物にも代えがたいんだから。
「あの女の子もいいわよ。本来ならば高校生でもおかしくない年齢なんだけどね。小学生と中学生の妹が一人ずついてね。『妹の修学旅行の代金を稼ぎたい』っていう理由で奴隷になってお金を稼いでるの。泣かせる話じゃない。妹にクラスメイトといっしょに修学旅行にいってほしい。そのために自分から奴隷になるんだから」
「高校に行きながらアルバイトじゃあだめなんですか」
「駄目に決まってるじゃない。うちの高校ではアルバイトは禁止なんだから」
「『うちの高校』? あの女の子は先生の高校の生徒さんだったんですか?」
「そうよ。あたしが退学処分にしたんだもん」
「……」
思い出すわあ。あの子が早朝の新聞配達をしているところを、奴隷市場でハッスルして朝帰りのあたしが見つけた時のあの子の顔を。『お願いします。見逃してください。うちは貧乏で、こうしてアルバイトしないと妹たちは修学旅行にもいけないんです』なんて言ってたっけ。
バブル絶頂期を満喫して公務員になったあたしと違うあの子が、アルバイトをしないと妹が修学旅行にもいけないのはかわいそうだし、早朝の新聞配達なんてえらいと思うけれど……校則は校則だもんね。しっかり退学処分にしないと。
そのかわりにあたしがあの子を奴隷として買って、その代金で妹さんが修学旅行に行けるんだからそれでいいじゃない。いや、修学旅行。生徒のいい思い出になる行事よね。あたしたち教師は旅行会社からリベートたっぷり受け取って、現地で現地の奴隷を買いあさる思い出もできるし。いいことづくめよね。
「あの女の子は? 運動で鍛えた体がいい感じよ」
「奴隷なのに体を鍛えられるんですか?」
「奴隷と言っても、先月まであたしの顧問の部活の部員だったからね。あたしが決定権を握っている指定校推薦の枠が欲しいからって、あたしの言う事なんでも聞いてたのよ。ついつい面白くなっちゃって、オーバーワークなトレーニングさせてたら一生モノの故障をしちゃってね。当然だけど部活は退部よ。故障者なんて必要ないから」
「部員のメンタルケアとかなさらないんですか?」
「メンタルケア? なにそれ。部活なんて、教師が威張り散らすだけのものなのに、なんでそんなことをする必要があるのよ。言っとくけど、これは生徒に社会の厳しさを教えるための愛のムチなんだからね。社会に出たら理不尽なことはいっぱいあるんだから、それに慣れさせるために教師は理不尽に威張り散らす義務があるのよ」
「そうなんですか」
そうよ。それにこうして奴隷として買うというアフターケアもしてるじゃない。故障したところをいじめるプレイがまた楽しいのよね。