暴れん坊魔法使い・体育教師の巻き・其の2
ふう、ショウグン様ったらステキだったなあ。普段の姿のショウグン様も格好良かったけれど、あたしと同じ格好に姿をシミュレートしたショウグン様にもドキドキしちゃったなあ。
あたしと同じステータスなのに、なんであんなエレガントな戦闘ができるんだろう? あ、いけない。ショウグン様のことを思い出したら、なんだか体がほてってきちゃったわ。こういう時は……奴隷を買って好き放題にするに限るわね。なにせ、不況まっただ中の今、はした金で体を好き放題にできる奴隷なんていくらでもいるものね。
ええと、立ちんぼ立ちんぼと。一切れのパンしか買えないようなはした金で、あたしのはしたない欲望を満たしてくれる立ちんぼ奴隷はと……
あ、いた。いかにも就職に失敗して非正規労働者となった結果、職にあぶれて明日のパンどころか今日の命もどうなるかわかったものじゃない幸薄そうな女の子が。あの女の子に決めたっと。なにせこの世界はショウグン様しか男がいないからね。ショウグン様に相手をされないようなわたしのような庶民は、女の子同士で欲望を発散するしか方法がないのよね。
それでも、あたしは勝ち組公務員の体育教師だからマシなのよね。奴隷を買えるだけの給料が税金からもらえてるんだから。ほんと、バブル時代に公務員になって良かったわ。あたしみたいな無能、今の時代に生まれてたら間違いなくあの奴隷と同じ境遇になってただろうから。
「いくら?」
お、あたしが値段を聞いたら、この奴隷の女の子、卑屈な目をしてあたしを見上げたわ。『これで今日も生き延びられる』とでも思っているのかしら。親方日の丸で、定年までの給料が保証されているあげくに、退職金がたっぷりもらえる公務員のあたしにはそんな気持ちちっともわからないけれどね。
「10ゴールドで、本番もオッケーです……」
たったの10ゴールドで本番もできちゃうの。リーズナブルにもほどがあるじゃない。バブル時代に就職して、そのあと不況が続いて本当に良かった。大学時代にあたしを『公務員にしかなれない無能』なんてあざけっていた連中はザマアミロとしか思えないわ。きっと民間で苦労しているんでしょうね。
「それじゃあお姉ちゃんといいところに行こっか、お嬢ちゃん。名前なんて言うの?」
「名前なんてありません。好きなように呼んでください」
あらあら、名前もないなんて。このお嬢ちゃん、産まれながらの奴隷なのね。きっとドMに違いないわ。お姉さんがたっぷりかわいがってあげるからね。あああ、もう我慢できないわ。
「『好きなように呼んでください』なんてかわいいこと言うじゃない。じゃあ、ちゃっちゃと済ましちゃいましょうか。そこの路地裏でやっちゃうわよ」
「ろ、路地裏ですか? ホテルとまでは言いませんが、せめて公衆トイレとかではいけませんか」
「なによ、この公務員様であるあたしに指図するっていうの? あんたは奴隷なのよ。何様のつもりなの」
「す、すいません。お客様のしたいようにしてください」
よろしい。そういうしおらしい態度こそ奴隷のあるべき姿よ。それにしても……
「あんた、不幸を絵に描いたような外見してるわね。いったいどんなステータスしているの? ちょっとステータスオープンしてみなさいよ」
「は、はい。ス、ステータスオープン」
ちから 7
すばやさ 9
たいりょく8
ちせい 6
うん 0
「うわ、あんた何このステータス。全部1桁じゃない。というよりも、うんが0って。そんなステータスじゃあ奴隷になるのも無理ないわね」
「す、すいません」
うわあ、この奴隷のお嬢ちゃん。ステータスの低さをあたしにからかわれて謝っちゃってるよ。きっと、産まれてこのかた卑屈に謝りっぱなしの人生歩んできたのね。
「いいわ。うんが0のあんたに、うんが99の人生がどんなものか教えてあげるわ。まず、小中学校は腕っ節が強いというだけでスクールカーストの頂点に立ってたのよ。お勉強ができるイヤミなガリ勉ちゃんをここぞとばかりにいじめ抜いてきたのよ。教科書をビリビリに破ってやったり、ノートに卑猥な落書きをしてやったりしてたのよ」
あたしがちょっかいかけてもろくに抵抗できないあの今にも泣きそうな顔。今になって思い出してもゾクゾクするわ。
「そして高校、大学ね。スポーツ推薦で決まりよ。試験なんて、部活名と名前だけ書いておけばそれで合格よ。1年の時はバカな先輩を適当におだてて気に入られて、2、3年になったら後輩をいびり倒せるんだから楽しい学生生活だったわ。あんた、高校や大学にいったことあるの?」
「ありません」
うわ! ってことはまさかの中卒! うんが0だとこうなっちゃうのか。あたしはうんが99でよかった。
「そしてそのまま体育教師ね。で、あたしが公務員の体育教師になったとたんにバブル崩壊よ。バブルの絶頂期は、公務員なんて安月給の負け組職業だったけれど……バブルが崩壊したとたんに公務員は安定した高収入が約束された上級国民になったのよ。新卒1年目の中学の同窓会はそりゃあ気分がよかったわ。なんでだと思う、お嬢ちゃん」
「なんでですか」