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第一話 始まりと共通ルート 幕間劇場

「は~、スッキリした~♪」


「下ネタか! 朝からナニをしてたんだ大雅ちゃんは! お姉さんに隠れて、一体ナニをしてたんだ~!」


「練習だよっ!! やめてよ朝から変な疑いをかけるの」


 土曜日。


 この世界に高校二年生として生まれ変わって、初めてのお休み。


 そんな素敵な記念日を、日課である朝のランニングで始め、朝の7時頃に家の玄関へ笑顔で帰ってくると、今起きたのだろう、姉。


 仲島マリアと、玄関先でバッタリと出くわし、変な言いがかりを受けるので、それは真剣に否定する。


「また朝から走ってたの? 好きだね大雅ちゃんも」


「昔からの日課だからな、好きでやってるだけだよ」


「アメリカで世界チャンピオンしてたくらいなんだし、少しくらいサボっても良いんじゃない?」


「そう言うなよ、これだけはやめられないんだ♪」


 パジャマ姿のまま、やれやれと俺の事を見つめるマリアに。

 俺はタオルで顔を拭きながら答える。


 朝のランニングは景色も綺麗だし、空気が澄んでるから。

 めちゃくちゃ気持ちがいいんだよ。


 それに、ボクサーなら誰でも朝から走ってるもんだ。


 何も、俺が特別努力をしているわけじゃない。


 多分、同じクラスの涼花さんとかも。

 朝には走ってるんじゃなかろうか?


 てことは? 

 朝に走ってたら、涼花さんとどこかで会えないかな?


 何か、朝のランニングがより楽しみになってきたぞ~♪


「あ、そうだ。後で街に出てみない? 大きなショッピングモールがあるんだって」


「うん分かった。シャワー浴びるから待ってて」


 靴を揃え家に上がると、マリアにそんな事を言われるので、俺は彼女に小さく頷きながらお風呂場へ向かい、ささっと汗を洗い流した。


 風呂場から出てドライヤーで髪を乾かすと。

 温かい風に目がシャキッと覚めて。


 やはり朝のランニングとシャワーは格別だと、感動すら覚える。


  ☆☆☆


「あ、準備できたよマリア」

「ん~、それじゃあ行こっか♪」


 そしてコートやGパンを身につけた所で、リビングに入り姉に声をかけると、彼女も身支度を終えたのだろう。


 同じくコートを着たマリアが。

 ジャラジャラとカギや財布を持ちながら出てくる。


「それにしても何で急に街へ行こうだなんて思ったの?」


「あんたボクシングしてるくせに、グローブもシューズも持ってないでしょ? あたし素人だから、何が良いのか分からなかったの。一緒に見に行こ?」


「え!? 悪いよそんな、バイトして買おうと思ってたくらいなのに」


 家を出発すると、家の前に広がる坂を道なりに下りながら。

 マリアに純粋な疑問をぶつけてみる。


 すると、いつになく優しい顔で言葉を続ける姉に。

 俺は目を見開きながら腕を振るが、彼女は気にするなとばかりに笑い、俺の先をトコトコ歩いて行く。


「この世界に生まれ変わった、お祝いみたいな物よ。その代わり、恋もボクシングも、頑張りなさいよ?」


「……あ、ありがとう」


 これまでの一週間。


 俺は家でも部活でも、体育館シューズや軍手をはめて練習していた。


 ボクシングをするのに、体育館シューズでは足首が固定されず危険で、軍手ではサンドバックを本気で叩けず、非常に困っていた。


 そんな俺を陰で見守っていてくれたのだろう。


 いつになく優しい笑みを浮かべてくれるマリアに、久しく忘れていた家族の温もりを感じ、心から嬉しく思う。


 でも、ボクシングシューズとグローブを買えば。

 結構な値段になっちまうぞ。


 お金とか、大丈夫かな……。


「マリア、お金とかどうするの?」


「知らないおじさんとデート行くから、大丈夫♪」


「パパ活だな? それは、パパ活ってやつだなあっ! やめて! 俺の為にそこまでしなくて良いから」


 なのでまた純粋な疑問をマリアにぶつけると、彼女は遠い目をしながらそう答えるので、俺はショックのあまり、姉を抱きしめてしまう。


「ふふふ、冗談に決まってるでしょ♪ お母さんにお金もらったのよ、あんたがボクシング始めたって言ったら、お母さん驚いてたわよ?」


「今俺が一番驚いたよ。まあ、そういう事なら良いか。後でお母さんにお礼言わないとな」


 だけど今のは、マリアの悪い冗談だったようだ。


 ブラウンの美しい髪を揺らしながら。

 懐から厚い財布を取り出すマリアに、心底安心する。


 でもホント、あの綺麗なお母さんにはお世話になりっぱなしだ。

 帰ったらお礼言わないと……。


 ☆☆☆


「うわ~、綺麗な街ね」


 母や姉の優しさに感謝する事しばらく。


 トコトコと坂道を下って行くと、駅の周囲に大きなショッピングモールや、街路樹の並ぶ美しい街並みが目に入り、多くの買い物客や家族連れを見る。


 こんなオシャレな街に、Gパンで来た事を少し後悔したが、もういい。俺にオシャレは無縁だという事を、俺はよく理解している。


「さて、スポーツ用品店は三階みたいね」


「ホントに色んなお店が入ってるんだな、ここに来れば何でもありそうだ」


 そしてそんな綺麗な街を進みながら、お目当てのショッピングモールに着くと、入り口付近にあった案内板を見ながら、その建物へと足を踏み入れる。


 ショッピングモールは、全部で7階建て。


 ビルの様に大きなそのショッピングモールの中には。

 服や雑貨、化粧品類から。


 学生が使うような文房具、ボクシングのグローブまで取りそろえた、大きなスポーツ用品店まであった。


「それじゃあ、どのグローブにする? これ何てどう? シュッシュ♪」


「こら、店の中でやめなさい」


 すると早速、俺達姉弟は三階にあるスポーツ用品店に向かったのだが、店に入った途端。


 ズラリと並ぶグローブから一つを手に取り。

 俺に向かってパンチを打ち込んでくるマリアを止める。


「それにそれはプロのグローブだよ、俺達が使うのはこっちの、大きなグローブ」


「へえ、グローブにも種類があるんだ~」


 俺はマリアが腕にはめていた、8オンスというとても小さなサイズのボクシンググローブを。


 スポン♪ と取り上げると、店の奥。


 一番下の列に並んでいた、アマチュア専用と書かれた大きくて青いグローブを手に取って見せる。


「うん。プロのライセンスを持つプロボクサーと、俺達高校生みたいなアマチュアボクサーでは、安全性への考慮で、グローブの大きさは全然違うんだ」


「それと、俺達ボクサーにはプロアマ関係なく、厳格な階級制度が敷かれてるから、体重の違いによってもグローブの大きさは変わるんだよ?」


「ふふ、大雅ちゃんってさ♪ ボクシングの事になると、ホントよく喋るよね、童貞のくせに♪」


「童貞は余計だ」


 俺の普段の体重は60㎏前後。


 高校に在籍している内は、バンタム級と呼ばれる階級のアマチュア試合に出るので。試合に出る時は確か。


 52㎏~56㎏の範囲まで落とす必要があったはずだ。


 体重の規定はたまに変わる事があるので。

 大会の度に確認しないといけないけど。


「お、こっちのグローブの方がモフモフで可愛い、あ、こっちも良いな。見てくれ、猫のイラストが描いてるよ♪」


「ふふ、本当にあんたは、ボクシングをしてるっていうのに、子供みたいに可愛い顔してるわよね、殴られたりして、痛くないの?」


 今は多くのメーカーがグローブを作っているのか、色んな種類のグローブを前に、子供の様にはしゃいでいると、隣にいたマリアに、また優し気な目で聞かれるので。


 俺は彼女の質問に、夢いっぱいだという笑顔を浮かべながら答える。


「ボクサーでも、殴られたら痛いよ。人間だもん。だから相手から打たれない様に、普段から考えて練習するんだよ。一生懸命」


「そんな単純な物かしら?」


「単純な事ほど難しい。だけどどんな強いパンチでも、当たらなければどうって事はない。ちゃんと相手を見て、ガードしていれば大丈夫だよ」


「あんたの綺麗な顔を見せられたら、説得力あるわね」


 グローブが合うか、手にはめて近くの姿鏡を覗き込んでいると、俺のツルンとした顔を見て、マリアが笑っていた。


「そもそもあんたは、何でボクシングなんて始めたの? ハッキリ言って、ボクシングする様には見えないわよ」


 なのでそんなマリアの純粋な疑問へ。


 俺は先程までの楽しい空気から一変。


 幼い頃からの過去を思い浮かべながら。

 真剣に言葉を選び、彼女を見つめる。


「カッコイイ話でもないし、面白い話でもないよ?」

「それでも、聞いてみたいかな」


 すると彼女が俺の気持ちを汲み取る様に。

 真剣な表情でうなずくので、俺はゆっくりと口を開く。


「沖縄にいた頃、アメリカ人とケンカになったんだよ」

「え~! 大雅ちゃんヤンちーだったの!? ワル~!」

「違うわ! 仕方なかったんだよ」


 だけど腹立つ。人が真面目に話してるのに。


「でも、何でアメリカ人とケンカになったの? 中々アメリカ人と会う機会もないのに、ケンカにまでなるなんて」


「沖縄には、アメリカ軍の基地が沢山あるからな、それでアメリカの人が結構いて、会う事も多いんだよ」


「あ~~、なるへそ」


 俺の説明に、マリアは何か深い事情を察した様に頷く。


 念の為言っておくけど。

 アメリカ人が嫌いで、俺がケンカを売ったわけじゃないからね!?


 アメリカのジムでは、合衆国出身の仲間が沢山いたし。


 ジムの先輩だった50戦無敗で引退したアメリカ人とは。

 よくご飯を行く仲だった。


「で? どんな事があったの?」


「俺、姉がいたんだけどさ、姉ちゃんと二人で石垣島の街を歩いてたら、多分休暇中だったんだろうね。酒に酔った3人組の米軍に、姉ちゃんが絡まれて」


「うんうん、それで?」


「その、姉ちゃん、俺が言うのもなんだけど綺麗な人で、なんていうか、イタズラされそうになって……」


「イタズラって……ええっ!?」


 まあ、簡単に言うと。『お♪ 綺麗なねーちゃんがいるじゃねえか、ファックしてやるぜ♪』という事だ。


 俺の言っている意味が分かったのだろう。

 マリアは心底驚いた顔で口を押えていた。


「だから俺は何とかして姉ちゃんを守ろうと、そのアメリカ人に掴みかかったんだよ。だけどアメリカ人って体もデカいし、ボッコボコにやられたのよ、俺」


「だ、大丈夫だったの? 二人共」


「うん。俺がギャーギャー騒ぐから、近所の人達が集まって来てくれて、俺も小さかったから、すぐ病院に連れて行ってもらって」


「小さかったって、いくつくらい?」


「5歳の時だよ、幼稚園くらいかな」


「5歳の子供がよく、屈強な米軍と戦ったわね、しかも相手は3人組だったんでしょ? なんか、あんたが強くなれた理由が分かった気がするわ」


 たく、勘違いしてるぞマリア。


 俺が人よりも強いから、勇気があるから。

 体の大きな米軍相手に立ち向かえたんじゃない。


 相手が強かろうが、数が多かろうが。

 目の前で実の姉がそんな事になれば、誰でも必死で立ち向かうわ!


 だって、姉ちゃんが聞いた事もない悲鳴を上げながら。

 スカート引っぺがされてたんだもん。


 怖いとか、勝てないとか、言ってられないよ。


 何とかして助けようと思うだろ? 

 家族だもん。


「まあその時、米軍にボッコボコにされて思ったのよ、強くならないと、姉ちゃんとか、家族を守れないって。なら俺が強くなって、家族を守ればいいじゃないかって」


「いい子ね~、あんた……」


「だからその後、近所にあったボクシングジムに通って、体を鍛え始めたのがきっかけだよ、6歳の頃かな」


 そう、俺がボクシングを始めたのは、そんな戦後の様な。

 現代では到底考えられない様な過去があったからだ。


 もう、家族がやられるのは見たくなかった。


 なら、どうすればいいか?

 自分が強くなればいいと思った。


 俺の家は貧しくて、母親は朝も夜も働き詰め。

 家に姉や妹を守ってくれる男が、いなかったから。


「でも家族の為によく頑張ったというか、世界チャンピオンになって、アメリカにまで行ったわけでしょ? よく続いたよね」


「始まりはどうあれ、ボクシングが好きだったからな」


 マリアが驚かされるばかりだと明るいため息をつきながら。そんな事を言ってくるので、俺もにこりと笑って答える。


 何故自分がボクシングを続けられたのかを。

 ボクシングって凄い楽しいよって事を。


「まあ俺は、小さい頃から力が強くて、自分に対する痛みには強かったから、どんな練習にも真面目に取り組めたんだよね、そしたら周りも褒めてくれるし、勝てばもっと褒めてくれるから、嬉しかったんだ」


「世界中の強い相手と戦うのもワクワクする、それにボクシングって、世界で一番儲かるスポーツだって言われてるから、有名になれば一試合で数十億ってお金がもらえたんだ」


「俺が稼げば、家族に仕送りが出来る。仕送りが出来れば、働き詰めだった母さんを、休ませてあげられる。母さん。体弱いくせに、無理ばっかするから」


「ううう! お姉さんもう泣けてきたよ!」


 そうだ。ボクシングを始めた理由は、確かにひどい物だったかもしれないが、ボクシングを始めてからは、そりゃあつまずく事もあったけど。


 結構、成功出来た。


 まあもっと簡単に言うと、向いてたんだろうな。


 ボクシングが。

 自分に。


 人間、向いてる事なら続けられるだろうって話だ。


 もうボクシングを始めて、20年以上になる。


 20年も真面目に続けてりゃあ、勝てる様にもなるさ。


   ☆☆☆


『『『ありがとうございました~』』』


「あ、ありがとう。マリア……」


「ハイハイ。お母さんにもちゃんとお礼言いなよ」


 そして立派な青いグローブとシューズを手に、会計を済ませた俺達姉弟は、両手に袋を抱えながら、ショッピングモールのエスカレーターを下り、ゆっくりと帰路につく。


 その途中、気恥ずかしかったが、今日俺を誘ってくれた姉にちゃんとお礼を言うと、ニコニコとうなずかれた。


「だけどあんた、ボクシングばっかりしてないで、恋愛もしないとダメよ? 何でこの世界来たか分かんないじゃん」


「わ、分かってるよ」


 そうだよな、俺はこの世界へ。

 可愛い彼女をゲットしに来たんだもんな。


 ショッピングモールを出て、マリアにそんな事を言われると。

 改めて頑張ろうと心に誓う。


「じゃあ手始めに、ナンパでもやっとく?」


「な、ナンパはいいかな」


「もおおお~っ! そんなんだからいつまでも童貞なんだよ! もしこの世界でも童貞で終ったら、その時はお姉ちゃんの相手してもらうからね!」


「やだよ家族で気色悪い! 帰るよ!」


 だが、まだナンパをするには早かった。


 マリアの提案にやだと首を振ると、烈火の如く怒られるが。


 仕方ないだろう……。


 もうこの世界で出会った人の中から。

 この人にしようって人を、見つけてしまったから。


 だからまずはその人に、一生懸命アタックしてみようと思う。

 嫌われないかなとか上手くいくかなとか、思う事は多々あれど。


 勇気を出して、一生懸命向き合ってみようと思う。


 ボクシングの様に。


 ただひたすらに、ただ真っ直ぐに――。

最後までご覧頂き、ありがとうございます!

明日遂に! メインヒロインの攻略ルートに入ります♪

本編と言っても過言ではないでしょう! お楽しみに♪

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