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第一話 始まりと共通ルート 清水氷華編

「おはよう大雅ちゃん♪ ……ゴポ♪」


「何が出たんだよ!? 今、お前の口から何が出たんだよ!?」


 1月10日。


 朝日の煌めく6時50分。


 昨日の様に学校を忘れるだなんて事もなく。


 最早日課の早朝ランニングを終えて家に帰ってくると。


 一階のリビングに入り朝食を取ろうとするのだが、先にテーブルに着いていたマリアが、笑顔で口から謎の物体を放つ為、大声で怒る。


「年を取ると朝は色々あるのよ♪ ハイ。食パン」


「そうだな。俺の母さんも昔、冷蔵庫でサイフを冷やしてた時があったよ。ジャムもちょーだい」


 だが、それ以上は追及しまい。


 俺も制服に袖を通しながら、同じく紺色のブレザーを着るマリアの対面に座ると、お皿に乗った食パンを渡してくれるので、俺はテーブルの上に並んでいたバターやジャムを塗りながら、食パンを頬張る。


『『『キャー♪ 氷華様ー♪』』』


 するとテレビをつけていたのか、突如として聞こえる黄色い歓声に、リビング端に設置された薄型TVへ視線を送る。


『世界高等学校3年、清水氷華(しみずひょうか)選手! 若干18歳でありながら、フィギュアスケート世界大会を三連覇です!』


 画面を見ると、黒を基調とした煌びやかな衣装をまとう美しい女性が、スケートリンクの上を颯爽と滑りながら、客席に向かってにこやかに手を振っていた。


 それを実況なのか、スーツを着た男性が二人。


 額に汗をにじませながら、解説しているのが見える。


『氷上の魔女、清水氷華と言えば、今や世界中の人が知る所ですよね』


『6歳の頃から、国内外を問わず負けなし。今後数年間、彼女に勝てる選手なんていないんじゃないですか?』


「世界高等学校って、俺達と同じ学校じゃないの?」

「そうだよん。あの人、あんたの一つ先輩だから」

「まさか、こんな凄い人も攻略出来るって言うんじゃ」

「出来るよ? 頑張り次第だけど」


 出来るかあっ!!


 画面の奥で、腰に届く程の藍色をおびた黒髪を揺らす。


 恐ろしい程の色気をはらんだ流し目をする美女を目の当たりにし、まさかとマリアに尋ねてみると、あっさり頷かれるので、俺は色んな意味で背筋が伸びる。


『氷華選手! 今日の試合を終えて一言!』


「試合で勝つ事以外に、私は興味がない。私は試合で勝つ為に生まれてきたのだ。結果を出せなければ、私は死んでいるのも同然だ」


 そして勝利者インタビューなのか、大勢の記者に囲まれて取材を受ける清水氷華と呼ばれたその美女は、若干18歳とは信じられないオーラと色気を醸し出しながら、画面越しでも伝わってくる。


 ハキハキした口調と目力で、力強く答える。


「だが試合を通し、少しでも皆を勇気づける事が出来れば、それ以上の幸せはない。私がこうしてスケートを滑る事が出来るのは、応援してくれる皆がいてくれるからこそだ。ありがとう。皆、感謝している」


 だが、まるで剣の切っ先をこちらに突きつけてくる様に話していたその美女は、根は心底優しいのか、インタビューの最後を、まるで聖母の様な優しい笑みを浮かべて締めくくる。


「はあ~♪ まるであたしみたいね♪」


「どこがだよ。ていうか、こんな人にどうやって声かけるんだよ! 無理だぞ俺!」


 そんな少し感動する場面を、俺の真向かいにいたマリアが腹の立つ笑みを浮かべながらしめるので、俺はまた烈火の如く声をあげる。


「相手が超アスリートの絶世の美女だからって、気負う必要はないわよ、普通に話しかけたら返してくれるわ」


「そ、そうかな~……?」


「当り前よ、相手だって一人の人間なんだから、真面目に声をかけて、答えてくれないわけないじゃない」


 そういう物なのだろうか?


 確かに、さっきのインタビューでは、初めは少し怖いぐらいのオーラがあったけど、話せば根は優しいというのが印象的だった。


 言われてみれば。

 話しかけて、答えてくれない人間の方が世の中少ない気がする。


 だけど、俺なんかが話しかけて良いのかな?


「見た目が怖い人は、中身は優しいものよ。それに、あんな怖いくらいの美人。美人過ぎて逆にモテないわよ」


「え~? ホントかよ~」


 マリアの解説を聞いていると、確かに美人過ぎてモテない人が世の中にいると、聞いた事がある気がする。


 スペックが高すぎて、声かけづらいのかな?


 童貞である俺は、全ての女性に声をかけるのが怖いので、そこは何とも理解し難いが。


「それじゃあそろそろ♪ 学校でイこう♪」


「学校へ行こうな? やめろ、少しだけ言葉を変えて変な感じにするのは」


 そして朝食を食べ終えた俺達姉弟は。

 マリアのそんな最低な言葉と共に家を出発。


 現役女子高生が多数! 在籍する♡


 世界へ羽ばたく人材を育てるがモットーの。

 世界高等学校へと向かう――。


  ☆☆☆


『え~、で、あるからして、高校生活というのは、人生の中でひと際輝く、まるでワタシの頭の様な時期で……』


「オモンないぞ~! このハゲ~ッ! 殺すぞ!!」


「やめなさいマリア! ハゲに家族でも殺されたんか」


 学校に着くと、金曜日という事もあり。


 体育館に集まっての全校集会が行われたのだが、そこで繰り返される、頭の輝く校長先生の長話に、俺のすぐ隣に並んでいたマリアが遂に切れ、大声で騒ぎ始めるので止める。


「貴様らあああ~っ! 何を騒いでいる!!」

「ひょ、氷華先輩!?」


 だが、流石に体育館中に響き渡る大きさの、ハゲ~! 

 を聞き逃さなかったのだろう。


 俺達全校生徒の前に並んでいた。

 生徒会執行部の中から。


 流れる様な美しい髪を揺らした、背の高い美女がやって来ると、今朝テレビで見た顔に、俺は思わず背筋を伸ばしながら声をあげる。


「貴様らに、一つ言いたい事がある!」

「は、はい! 何でしょう?」


 すると左腕に《生徒会長!》と書かれた腕章を付け。

 はち切れんばかりの大きな胸をそらした氷華先輩に、俺は何を言われるのだろうと縮みあがるのだが……。


「生きとし生ける毛根に! 全て先立たれ! 一人この世に残される者の気持ちを! 貴様らは考えた事があるのか!? 貴様らで言えば! 親が死んだのも同然だあっ!!」


 マリアの……、死ねハゲはっ! 

 というセリフが引っかかったのだろう。


 そんな言葉を、シンと静まり返る体育館で。

 真剣に言い放つ先輩に、少し笑いそうになる。


「ハゲは! 自分のハゲをネタにする事でしか、アイデンティティを確立出来ない、可哀そうな生き物なのだ! クソみたいに面白くない校長の話も、笑ってスルーしてやればいいだろう?」


「アイツは奥さんも、子供も孫もいるから、後は死ぬだけの未来しか待っていない可哀そうなハゲ……」


『『『みんな! 生徒会長を黙らせるんだ!』』』


 そして、静まり返る体育館の中。


 悪気はないのだろうが、俺達の何倍もひどい言葉でハゲを。

 校長をディスり始める氷華先輩に、これはいけないと思ったのだろう。


 前に並んでいた生徒会執行部が、何人もやって来て。

 先輩を外へ連れ出そうとするのだが……。


「む? 私の邪魔をするのは誰だ? 今私は、生徒を正し、あのハゲの仇を取っているんだ。邪魔をするなら~、貴様らも皆殺しだあああ~!!」


『『『キャー!!』』』


『もういい氷華君! ワタシは気にしていないから!』


 だが、氷華先輩はとてつもなく強かった。


 フィギュアスケーターとはいえ。

 世界的アスリートだから身体能力が凄まじいのだろう。


 俺達の目の前で、次々に生徒会執行部を投げ飛ばしていく美女に、周囲から悲鳴が上がり、それと共に壇上に立ってスピーチをしていた校長が、急いで止めに入って来た。


 まったく、一言ハゲと叫んだだけで。

 誰がこんな騒動に発展すると予想できただろう?


「何か、綺麗だけど面白い人ね♪」

「ああ、だけど、後で謝りに行こうな?」


 校長先生の静止の言葉に、やっと落ち着きを取り戻した先輩は《生徒会長!》と書かれた腕章を綺麗に付け直し。


 またいつもの色気のあるクールビューティーな表情に戻って。

 俺達へ目を光らせていた。


 そんな少し変わった。


 いや、世間と少しずれた先輩を見ていると、アスリートの人って、天然の人が多いのかなと親しみを持つ。


 俺も沖縄生まれのボクサーだからか。

 よく天然なんでしょ? って言われるんだよ。


 だけど、この一連のやり取りで確信した事がある。

 きっと氷華先輩には、彼氏はいない!


 綺麗だけど、何か絶対いない気がする!


  ☆☆☆


 《キーンコーンカーンコーン♪》


「キンコンカン♪ マリアちゃ~ん♪」


「うっとおしい! やめろ! 少しは静かに出来ないのか、お前は」


 昼。


 全校集会での《ハゲの乱》を乗り切った俺達姉弟は。

 教室に戻って授業をいくつか受けた後。


 昼食の時間を告げるチャイムを聞く。


 するとチャイムが鳴った瞬間。


 俺の後ろでしょうもないギャグを言い放つマリアに、俺は心底嫌気がさす。


「お昼ご飯食べに行くわよ、下に食堂があるから」


 するとマリアに腕を引かれ、俺達が向かった先は。

 西館校舎と東館の、丁度真ん中辺りにある別館。


 学生食堂。

 俗に言う《学食》という物に入る。


 中に入ると、広い館内の端まで伸びる机と椅子の列。


 そして白いエプロンを付けた、THEおばちゃんと呼べる見た目をした店員さん達を見ると、どうしようもない懐かしさを覚える。


「どこもいっぱいだな、どうしようか」

「あそこにしよ? 面白い人もいるし」


 マリアは焼肉定食。

 俺は生姜焼き定食をトレイに乗せる中。


 お昼時という事もあり、空いている席が見つからず右往左往する。


 すると不意にマリアが見つけた席に、というかその席の近くに座っていた人物に、俺は大丈夫かと冷や汗を流す。


「氷華せんぱ~い♪ 一緒にご飯食べましょ?」

「お前らは……、朝の」


 その席にいたのは、美しいロングヘアーを揺らす。氷華先輩だった。


 彼女の座っていた席は学食でも真ん中辺りだというのに、彼女を中心として、半径数メートル以内には誰もおらず。


 だけど皆、遠巻きで彼女を見ているという。


 動物園のパンダ状態。


 そんな先輩に臆する事なく、マリアが彼女の前に腰を下ろすので、俺も続けとばかりに彼女の前へ。


 すると、座ってみて分かる。


 氷華先輩の神々しいまでのオーラと色気に。

 もう眩しくて前が見えない。


 そりゃあ皆、中々座れないよ。

 こんな、キラキラした人の近くになんて……。


「せんぱいは? 何食べてるんですか?」

「カツカレーと、ラーメンだな」

「へえ~、そんなに食べて太らないんですか?」

「無敵かお前は! そのガサツさは何なんだよ!」


 だが俺が、先輩に目もあわせられず下をうつむいていると、俺の隣でバクバク肉を食べながら、氷華先輩にそんな失礼な事を言い出すマリアに、俺はもう泣きそうになる。


「すみません先輩、朝だけならまだしも、昼まで」

「ふふ、別に構わん。今ちょうど暇をしていた所だ」


 だけど優しい!


 18歳とは思えぬオーラの先輩に、俺も何か話さなければと勇気を出して頭を下げる。すると先輩はにこりと優しい笑みを浮かべてくれた。


 ホント、一流のアスリートなんだろうな。


 スケートリンクにいた時の顔とは、まるで違う。


「そうそう自己紹介がまだでした。あたしの名前は仲島マリア、こっちが弟の水野大雅で、二人共二年生です♪」


「私は三年の清水氷華だ、よろしくな」


 そして勢いそのまま、マリアが俺の肩を抱きながら自己紹介してくれて、先輩も優しく答えてくれるのだが。


「氷華せんぱいも凄いみたいですけど。うちの弟も凄いんですよ? ボクシングしてて、めちゃくちゃ強いんです♪ ね? 大雅ちゃん♪」


 世界的なアスリート相手に、何て事言い出すんだこいつは!?


 話を振ってくれるのはありがたいが、突如としてキラーパスを放ってくるマリアに、俺はもう、どんな顔をして良いか分からない。


「ほう、そうなのか?」


「め、めちゃくちゃ強いかは分からないですけど、ここ十年は、負けなしで……、少しは自信が」


「凄いじゃないか、可愛い顔をしているのにな」


 だけどやっぱり優しい!


 普通ならそろそろ失礼だろうと怒られそうな物を、目の前にいる氷華先輩は、ホント聖母の様に優しく笑ってくれるので、俺は真っ赤になって照れてしまう。


 うちの聖母とは大違いだ!


「では、将来はプロボクサーになるのか?」


「はい。プロになって、世界チャンピオンになります」


「ほう。そこまで言い切る人間は久しぶりに見た。そうか君はいい目をしているな。優しいが、真に強い者の目だ」


 超アスリートを前に、簡単に世界を口にするな! と怒られるかもと思ったが、本当に決めている事なので。


 氷華先輩の目をジッと見ながら答えると、彼女は美しく整った顔をうんうんと頷かせ、そしてまたにこっと笑ってくれた。


 ていうかさっきから! 凄いニコニコしてくれる!


 これは元から、先輩がそういう人なのだろうか?


 それとも、俺の顔がおかしいのだろうか?


 後者でない事を切に祈る。


「それでは、気が向いたら生徒会に来い。私はこの学校の生徒会長をしている。強い男は好きだぞ?」


「あ、ありがとうございます……」


 勇気を出して話しかけて良かった。


 お昼を食べ終えると、氷華先輩は色気のある流し目を浮かべながら自らのトレイを持ち、席を立ってにこやかに去っていく。


 そんな彼女に。

 俺が心底顔を赤くしながら下をうつむいていると……。


「ふふ、ボクサーが下を向いていてはやられてしまうぞ? こんな風にな……バーン♪」


 そして氷華先輩は、少しお茶目な様だ!


 去り際。


 俺のそばを通りながら、左拳で俺のアゴをチョコン♪ と小突いてくる先輩と目が合うと、俺はもう、色々な意味でドキッとしてしまい、早打つ鼓動が抑えられない。


 今のをアゴクイならぬ、アゴチョコと名付けよう♪

 ソフトM業界で、これから流行るかもしれない。


「ふふふ♪ ホント綺麗だけど、面白い人だったね」


「ああ」


「先輩に話しかけてあげたんだから、お姉さんに少しは感謝しなさいよ? 内心怒られないかドキドキしてたんだから」


「え? そうだったの? あ、ありがとう……」


 そして先輩の小さくなっていく後ろ姿を見ながら。


 隣のマリアにそんな事を言われると、彼女が一応、先輩とのきっかけを作ってくれた事を知り、思わず頭を下げる。


 マリアも、色々考えてくれてるんだな、これはいつかお礼しないと。


「それじゃあお礼に、お姉ちゃんにチュー♪ して」

「や、やめろ! ファーストキスなんだから!」


 だが前言撤回。


 焼肉を食べた後の口でチュー♪ っと顔を近づけてくるマリアに、俺はさっさと席を立って教室へ戻る事に。


 それにしても氷華先輩か、綺麗な人だったな~♪

 また会うのが楽しみだ♪


 それにしても明日は土曜日か。


 この高校生活初の、お休み♪


 何をしようかな? 今から楽しみだ♪



ここまでご覧頂き、誠にありがとうございます!

本日でメインヒロインの共通ルートが終了です♪

一度、幕間劇場なる物を挟んだ後、

遂にメインヒロインの内一人を攻略する本編が始まります♪


あと、今回は機能を確認する為。

予約投稿となりました!

ではではまた明日~♪

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