第一話 始まりと共通ルート 斎藤涼花編
「校長の話ってさ、何であんなに長いんだろうね? だからハゲてんだよ。毛根ごと死んだらいいのに♪」
「スゲー口が悪いな!!? 話長いだけでそこまで言うかね、俺は久しぶりの始業式だったから、結構楽しかったよ? マリアも朝から怒らないの」
2020年1月7日、朝の11時頃。
兵庫県立、世界高等学校の校舎に足を踏み入れた俺とマリアは。
体育館で行われた三学期の始業式を無事に終え。
他の学生と共に、ゾロゾロと二年の教室がある、西館校舎へと向かっていた。
一年と二年の教室は西館。
三年の教室やボクシング部、生徒会室は、渡り廊下を渡った、東館にあるらしい。
「さてさて、ここがあたし達の通う教室。2年1組よ」
「ドキドキするな。こ、こんにちは~初めまして」
そして手すりのついた階段を一つ二つと上がっていくと、西館二階の。
学年で言えば二年のフロアにたどり着き《2―1》と書かれたクラスを見つける。
そのクラスへ、ゾロゾロと入っていく同級生に交じり。
マリアが意気揚々と入っていくので。
俺も緊張とドキドキで早打つ胸の高鳴りを感じながら、その教室へと入る。
すると、板張りの床に並んだ机や椅子。
席に着く学生達が目に入り、教室の前にデカデカと設置された黒板や教卓に。
ひどい懐かしさを覚える。
「大雅ちゃん、あたし達の席はこっちだよ」
「おう。……な、何だよ、お前が後ろなのか」
「その方が良いでしょ♪」
そしてマリアに案内されるまま、教室後ろ、窓際の席に向かうと。
マリアがすぐ後ろの席に腰を下ろすので、俺はその一つ前の席へ。
俺の席は、窓際、後ろから二番目の席。
これは俗に言う、主人公の席という奴だろうか?
席に腰を下ろし、キョロキョロと教室内を見渡していると。まだ先生が来ていないからか、学生達は楽しそうに談笑し、中には走り回って暴れている坊主もいる。
『見ない顔だな! よろしく』
「あ、初めまして、こちらこそよろしくお願いします」
『あっはっはっ! 真面目な奴だな、俺達同級生だろ?」
キョロキョロと辺りを見渡していると、突然右隣の席にいた男の子から話しかけられる為。俺は思わず敬語で挨拶してしまい、ケラケラと笑われてしまった。
そうか、同じクラスにいるって事は、同い年なんだもんな。
敬語で頭下げたりなんかしたら、そりゃあ笑われちまうよ。
「俺の名前は水野大雅。見ない顔なのは多分。休学中だったからだ。よろしく」
『へえ、そうなのか。ま、仲良く頼むぜ♪』
めっちゃ良い奴やんこいつ。
俺がマリアに教えられていた通り、休学中だったと告げると。
俺に話しかけてきたこの男子高校生は、うんうんと頷いてくれる。
なので、これも良い機会だと、少し質問する事に。
「そうだ俺、ボクシングしたいんだけど、この高校にはボクシング部ってある?」
『お、お前、ボクシング部に入るのか!? 2年の3学期から?』
「う、うん、やっぱりダメかな? これまではちょっと事情があって、部活に入れなくて……」
すると俺の質問に、心底驚いたその少年は、本気かという顔をしていたが。
俺が小さく頷くと、少し声をひそめながら教えてくれる。
『そういう事ならダメではないだろうけど、この高校は毎年の様に全国大会に出場してる、ボクシングの超強豪校だ。卒業生からも、何人も世界チャンピオンが出てる。そんな所に途中から入るなんて、お前、ついて行けるのか?』
「それは、頑張ってついて行くよ。それに、強い人が沢山いるなら、練習もはかどるだろうし」
『……おいおい、マジかよ』
その男子高校生は、信じられないとばかりに俺の顔を見ながら、やめておけと首を振る。
『じゃあ教えてやるよ、あいつを見ろ』
するとその男子生徒は、急に俺の肩を抱く様に近づいてくると。
教室廊下側、前から3番目の席に座る。
黒髪ショートカットの、綺麗な女子生徒を指さす。
その女の子は、周囲と話す事もなく、ただ静かに本を読んでいるが。
どこか、研ぎ澄まされた空気を感じる。
『あいつの名前は斎藤涼花、見た目や声色は確かに物静かだが、全国大会優勝者が群雄割拠してる、この世界高等学校ボクシング部で、1年の頃から副部長を務める、正真正銘のヤベー奴だ』
『6歳の頃からボクシングを始めて、今の今まで生涯負けなし。2年の時点で5度も全国大会を制覇してる。“天才”斎藤涼花と聞けば、ここいらの地元で知らない奴はいないぜ? お前、そんな奴と戦いたいのか?』
「……天才、か。なら余計。戦いたいかな」
『なっ!?』
その男子高校生が、一生懸命に説明してくれるので、俺も真剣な表情を浮かべてうなずく。
するとその少年は、大口開けて驚いていたが、もう言う事はないと。
俺の肩をポンポンと叩いてくれる。
『そこまで言うなら止めやしねーよ、おい斎藤! こいつボクシング部に入りたいんだってよ!』
「……ん? うちの部に?」
そして親切にも、廊下側に座る斎藤涼花さんへ。
その男子高校生が声をかけてくれるので、ここはもう行くしかないと。
俺は教室にまだ先生が来ていないのを確認し、席を立って彼女の元へ話をしに行く事に。
「きゅ、急にごめん。ちょっと話をしたくて……あ!」
『『『キャー! これ令和仮面ズの新曲じゃん!』』』
だが俺が涼花さんの元へ、机と机の間を縫うように歩いていると、彼女の一つ手前の席に座る女の子が、勢いよく椅子を引いた事で、俺はその女子生徒の椅子につまずき。
涼花さんの目の前で大きくバランスを崩す。
「……だいじょ……、~~っつ!!?」
すると前のめりに倒れこんだ俺を。
涼花さんは慌てて手を出して支えようとしてくれたが、間に合わず。
俺は顔面から、涼花さんの太ももの上へとダイブしてしまった。
すると顔に当たる、柔らかくて温かい感触に加え。
フルーティーで澄んだ甘い香りに、とてつもない幸せを感じるが……。
「……ぐ、こんのっ!!」
「だあああああ~ごめんっ!! わざとじゃないんだ! 見てただろう!?」
顔を上げると。
さっきまでのクールな涼花さんはまるで鬼の様な形相になっており。
物凄いキレ味の左ストレートを、俺の顔面に打ち込んでくるので。
俺は頭一個分ほど右に顔をずらし、何とかそのパンチを避けて見せる。
「……ん? 君、もしかして」
『ハイハイ皆! 席に着いて! HR始めるわよ』
すると涼花さんが何かを察した様な顔をする中。
タイミング悪く教室に先生らしき女性がやって来るので。
俺はすぐさま立ち上がって席に戻る事に。
「ごめん! 後でちゃんと話すから」
席に戻る前、勢いよく頭を下げながら涼花さんの顔色をうかがうと、一応分かってくれたのか、クールビューティーな顔に戻りながら、小さくうなずいてくれる彼女に安心する。
えへへ♪ 可愛いしチョー優しい♪
『えーっとそれで、今日は始業式だけだから、今日は午前で学校は終わりなんだけど、軽く皆にも紹介するわね』
そして席に着き、大人しく先生の話を暫く聞いていると。
不意に先生が俺達二人の方へ視線を送り。
『窓際後ろの二人が、水野大雅君と、仲島マリアさん、これまで休学してたんだけど、これからは皆と一緒に過ごす仲間だから、仲良くしてあげてね。ご姉弟らしいわ』
『『『ざわざわ……』』』
俺達の紹介を明るくしてくれるのだが、姉弟なのに名字も違うわ、顔も全然似てないわで、クラス中が何か、ざわざわとしだす。
『ハイざわざわしない! 世の中には色々な家庭や事情があるの、ちなみに二人へ自己紹介をすると、私の名前は、北村凛々子。このクラスの担任よ、よろしくね』
だがそんないたたまれない空気を、パリッとしたスーツを着込み、綺麗な黒髪ポニーテールを揺らす北村先生がまとめてくれると、クラスも次第に落ち着きを取り戻していく……。
☆☆☆
『それじゃあまた明日ね、気をつけて帰りなさいよ?』
そして手短なHRが終わると、元気に挨拶をして、登校初日を無事に乗り切ったと安堵する。
なので一息ついた俺は、同じクラスの皆がゾロゾロと教室を出ていく中。
今度はつまずかない様に注意しつつ。
廊下側の席でカバンを肩に担ぐ、涼花さんの元へ。
「さ、さっきは本当にごめん! 話があるんだけど、いいかな?」
「……うん」
すると俺は、流れる様に美しい黒髪ショートカットの間から。
少し鋭いがぱっちりとした目で見てくる彼女に、改めて頭を下げ、本題を切り出す。
「俺、その、ボクシング部に入りたいと思うんだ。だから、ボクシング部の顧問の先生が誰か教えてくれないかな? 自分で職員室に……」
「……それなら、今から部活あるけど、一緒に来る? 先生なら、部室にいると思うから」
「ホントに!? なら、ついてっても良い?」
「……うん」
「ありがとう! 恩に着るよ」
今日は学校が午前までしかないから。
急いで職員室に顧問を尋ねに行こうと考えていたのだが、流石強豪校。
これから部活があると静かに言う涼花さんへ。
俺はやったと嬉し気な笑みを浮かべながらついて行く事に。
『おいおい、あいつホントに大丈夫かよ。死んじまうぞ……』
「ふふ♪ うちの大雅ちゃんは、ああ見えて超強いから、大丈夫だよ。……お姉ちゃん先に帰ってるからね~!」
「うん、頑張って来るよ!」
そして涼花さんと共に、クラスを出ようとしていると。
後ろからそんな声が聞こえてきたので、軽く返事をかえしておいた。
ボクシング部の部室があったのは、渡り廊下を渡った先にある、東館の二階奥だった。
チラホラと上級生らしい学生さん達をかき分けながら、その部室の前まで行くと、既に練習を始めているのか、キュッキュッとステップを踏む軽快な足音と、サンドバックを叩く音が聞こえてくる。
「「こんにちは~!」」
なのでその部室へ、涼花さんが大きな声で挨拶しながら入っていくので。
俺も彼女に続き、精一杯の声で挨拶しながら、ボクシング部の部室へと足を踏み入れる。
『『『ういっす!』』』
すると四角い大きなリングを部室中央に見る中、その周りで練習する、数十名の部員達が一斉に挨拶を返してくれるので、俺はもう一度深く頭を下げる。
周囲を見渡すと、壁際に積まれたグローブやミット、天井から吊り下げられたサンドバックがいくつも見え、中央のリングの中では、二人の選手がグローブをつけ、真剣な表情で打ち合っていた。
みんな一心不乱、真面目に練習しており、昔の様にボクシングはヤンチャな若者や、不良がする物という雰囲気を一切感じない。
強豪校独特の、ピリピリはしてるんだけど、皆真面目で明るい、そんな印象を受ける。
『ふぉっふぉっ、ガードが下がっておるぞい』
「……あの、先生」
『ん? お~涼花君よ、それと……、はて? 誰じゃったかのう?』
そして練習する部員達の邪魔にならないよう。
部室の奥へ歩みを進めると、部屋の中央に置かれていたリングのそばで杖をついて立っていた、白いひげのおじいさんに涼花さんが声をかける。
すると、髪も眉もひげも白い。
まるで神様の様な見た目をしたそのおじいさんは、ゆっくりと俺達の方を振り向き。
優し気な笑みを浮かべるが、見覚えのない俺の事を不思議に思ったのだろう、首を傾げている。
こんな優しそうなおじいさんが、ボクシング部の顧問なのか?
こ、こう見えて、怒ると怖かったりして!
「……その、この人が、うちの部に入りたいらしくて」
『うちの部に、のう……』
「え、えっと……2年1組の水野大雅です! 訳あって休学していたのですが、この度復学する事が出来たので、ボクシング部入部を希望します! よろしくお願いします!」
すると、涼花さんが気を利かせて俺に話を振ってくれたので。
俺は背筋を伸ばし、簡単に自己紹介をした後、全力で頭を下げる。
『こんな時期にか? また随分急な』
すると当然、2年の3学期に入部をするというのは、あまりに珍しいのだろう。
あごひげに手を当て、深いため息をつくおじいさん先生に、俺は不安にかられる。
『ふむふむ、君はあれか? ボクシングの経験はあるのか?』
「ハイ。その、……昔」
『そうかそうか、じゃあ仮入部という事で、今日からここで練習して行きなさい。朝練も勝手に参加して良いから。わしの名前は武藤義文、皆からはよっちゃん先生と呼ばれておる♪ よろしくの』
だけど凄い優しい!
見た目は優しそうだけど、中身は怖いのかと思ってたら、心も凄い優しい!
もう、本物の神様に見えてきた♡
『まあ、正式に入部するには簡単なテストがあるんじゃけどの、それはまた今度で良いじゃろう』
だが、強豪校らしく、入部にはテストがいるらしい。
どんな事をするんだろう? ちょっとワクワクするな。
『それじゃあ涼花君、更衣室を案内してやりなさい』
「……はい。じゃあ行こっか」
そしてそんな優しい、武藤義文先生。
もとい、よっちゃん先生の言葉で、涼花さんが行こうと声をかけて来る為。
俺達二人は、すぐ近くにあった《更衣室》と書かれた扉を開き、部室の更に奥へ。
「……ここでみんな着替えてるの。今日は? ジャージとかある?」
「一応持って来たけど、女の人も、一緒の更衣室なの?」
「……うん。ボクシング部の女部員は、私とマネージャーだけだから。マネージャーは今日は休みだけど」
更衣室に入ると、ロッカーや長椅子、縄跳びや筋トレ器具が並ぶ中。
どこを探しても女子更衣室や仕切りさえもなかったので、涼花さんに軽く聞いてみると。
涼し気な表情で彼女は答える為、俺はまさかと胸を高鳴らせながら……。
「え? もしかして、涼花さんも今から俺と一緒に着替えるの?」
「……パンチ!」
「ぐえっ!!」
夢と希望に胸を膨らませて口を開いてみるのだが。
その瞬間。俺の言葉を鼻で笑った彼女は、俺の腹に重いパンチを打ち込んだ後。
スタスタと更衣室を出ていき、バタンと扉を閉めていった。
「あ~そういう事。……男女交代で着替えるって事ね」
少し考えれば分かりそうな物だが、ここまであまりに上手くいっていたので。
マリアが何か、一緒に着替えるイベント的な物を用意してくれてるのかと思ったのだが。
ギャルゲー人生も、そう甘くはないよね♪
その後。
俺が学校指定のジャージに、体育館シューズという姿で更衣室の外に出ると。
涼花さんも交代で更衣室に入り。
制服姿とは違う、黒の練習着姿で出てきた。
なのでそんなスポーティーな姿に変身した彼女の隣で。
俺も久しぶりにボクシングの練習をする事が出来。
非常に有意義な放課後を過ごす事が出来たのであった♪
今日は久しぶりの練習だったので、入念なストレッチと、縄跳び、ステップや防御の確認を軽く流す程度だったけど。
涼花さんみたいな可愛い子が隣にいるということ。
そして学生時代しか体験出来ない。
部活動に参加しているという事実が、たまらなく、嬉しかった――。
☆☆☆
「その、す、涼花さん! 今日はありがとう。色々案内してくれて」
「……別に、大した事じゃない」
「そう? 俺は結構、嬉しかった……」
そして夜の7時。
部活が終わると。部員達がワーッと一つにまとまって下校して行く中。
涼花さんの姿を発見したので、俺もその集団に勇気を出して加わると。
あまり上手く話す事は出来なかったが、涼花さんとそんな言葉を交わしながら、一緒に帰る事が出来たのであった!
年齢=彼女いない歴。
世界最強の童貞の俺としては、格段の進歩と言えよう♪
明日からまた、頑張るぞ~♪
ご覧頂き、そして!
こんな初投稿のペーペーの私目を評価して頂き、誠にありがとうございます♪
明日! また新たなメインヒロインの登場です♪ ではでは~♪