第一話 始まりと共通ルート 神との出会い
「もしも~し、気がついた?」
「ん? お前は、誰だ? ……ここは?」
「ふはは♪ 私は神だ!!」
ふと暗闇で目を覚ますと。
目の前に白い羽衣のような物を身にまとった。
ドヤ顔の美女が立っていた。
そのドヤ顔の美女は、辺りの暗闇も相まって。
特別光り輝いて見えるが。
なんか、絶妙に腹の立つ顔をしている。
こいつと俺はこれが初対面だと思うが。
ファーストコンタクトでこういう距離の詰め方をしてくる奴は、大抵ヤバい奴だ。
たく、そんな事よりここはどこだ?
周囲を見渡してみれば遥か彼方まで続く暗闇に。
俺と目の前の訳の分からない女だけが浮かんでいる。
「まあまあ、そんな顔してないで、お姉さんがちゃんと教えてあげるから♪ まず、あたしの名前は~、そうね、考えてなかったわ、う~~~ん」
そして俺がその自称神様へ助けを求める様に視線を送っていると。
彼女は綺麗なブラウンのショートカットを揺らし、鼻筋の通った美しい。
お人形の様な白い顔に手を当て、心底考えた後。
「あたし、仲島マリアっていうの♪ よろしく♡」
「ウソつけ!! うわ~今俺、人間がウソつく所をハッキリ目にしたよ」
「人間じゃない神様! とりあえず、仲島マリアなの!」
俺は沖縄出身の南国ボーイだったが、あまりにハッキリとボケてくる目の前の美女に、精一杯の勢いでツッコむと。
自称仲島マリアさんは、可愛らしい両手をブンブンと振り回しながら声をあげるので。
まあ、とりあえず。
仲島マリアさんという事に、しておいてやろう。
「それじゃあ君が、何で今ここにいるのか、説明したいと思うんだけど、あなた水野大雅で間違いないわね?」
「おう、俺は水野大雅。沖縄生まれのプロボクサーよ。ていうか何で俺の名前知ってるんだ?」
そして半ば、この変な女といる状況を楽しみつつある俺は、懐から資料の様な紙の束を取り出しながら、色々と確認してくる目の前の美女に、うんうんと頷いて見せる。
するとそんな俺に。
彼女はとんでもない事実を教えてくれた。
「あんたね、前の世界でポックリ死んだよ♪ で、ここはあの世とこの世を繋ぐ時空の狭間。でね? 次あんたが生まれ変わる場所なんだけど~」
「うん待って待って~? 人の不幸を物凄いポップに発表したよね。……えっと、仲島さん?」
「マリアで良いわよ、何? どこに疑問を持ったの?」
「全部だよ! 仲島マリアって神様が出てきた所から! 今まで全部! え? 俺……本当に死んだの?」
「だから死んだって! しつこい!」
しつこい!?
パニックに陥ってる人間に対して、しつこい!?
最早段々面白くなってきたぞ。
何だこの状況は。もしかして、……夢?
それにしては意識もハッキリしているし。
俺達の周囲を覆う漆黒の空間なんて、とても現実世界だとは思えない。
そんな光景に、彼女の放ったあの世とこの世を繋ぐ狭間という言葉が、段々と胸に突き刺さって来る。
じゃあ俺、本当に死んじまったのか……?
「じゃあ分かったわ、先に何で、大雅ちゃんがここにいるのか説明してあげるから、ケツの穴かっぽじってよく聞きなさい?」
「耳の穴な、汚れちまうよそれは」
そして俺が段々と事態の深刻さを感じ。
茫然自失と冷や汗を流していると。
マリアがまた資料を取り出しながら、教えてくれる。
「水野大雅。27歳。沖縄出身のプロボクサー。バンタム級、スーパーバンタム級、フェザー級という、三つの階級で世界チャンピオンになった、世界三階級王者」
「プロデビュー以来、18戦18勝18KO無敗。史上類を見ない強打により、KOを量産。そのあまりの強さから、日本国内では対戦相手が見つからず、若くしてボクシングの本場アメリカに転身」
「まるで猫の様な幼い顔立ちとは裏腹に、強豪渦巻くアメリカで、外国人選手を次々に打ち倒すその姿から、海外では地獄の猫を意味する“ヘルキャット”と呼ばれ、親しまれていた」
「だが、主な活動拠点がアメリカだった為、日本での知名度は0っと……♪」
「うっせ! 最後のは余計だ」
でも、そんな事がなんの関係があるんだよ。
「だけど、日本人として史上3人目の4階級制覇、スーパーフェザー級の世界戦を控えていた時に、白血病で倒れて、アメリカはネバダ州の病院に入院してるわね」
「あ、そうそう。そうなんだよ。まあ今は医療技術も進んでるから、すぐに復帰出来る予定だったんだけど、そこから先が……」
「で、その時入院してた病院へ、あんたが出られなかった試合に多額の金額を賭けていた、ギャンブル狂いの男がやって来て拳銃で撃たれたみたいね、犯人はボブ。ヒャー♪ オモロ~♪♪」
「オモロない!!! 何で人の不幸をそんな楽しそうに笑うんだよ」
「アッハッハッ! だって! ……ボブだよ?」
「関係あるかあっ!! 世界中のボブに謝れ!」
まあ、だけど、確かにそういう最後を遂げたなら。
明るく笑い飛ばしてくれた方が、良いのかもしれないな。
こいつのおかげで、悲壮感も何も感じないし。
「でもあんた、ホントに凄いわね、高校時代は夏のインターハイ、秋の国体を三連覇して、高校六冠を達成。学生時代の戦績が、58戦56勝53KO2敗」
「日本で初めて、プロアマ通して90%以上のKO率を叩きだしたハードパンチャーで、連続KO記録の、日本記録も持ってるんだ~!!?」
「ま、まあな、自慢じゃないが、ボクシングだけは誰にも負けなかったんだ。小さい頃から練習頑張ってたし、何よりも好きだったから」
「ホントだ。だがその強さの秘訣は、膨大な練習量にあった……」
だが、続いて手元の資料を目を丸くして読み上げるマリアに、俺は少し照れ臭かったが、素直に嬉しかったので、俺は腰に手を当てながら、誇らしげな笑みを浮かべる。
まあ、プロになる前、アマチュア時代には何度か負けた事もあるから。
無敵ってわけではないんだけど、それでも世界で通用するレベルにはいたつもりだ。
「そして生涯獲得ファイトマネーが、日本人アスリートとして過去最高の、53億9000万円!? だがそのほとんどを家族や、地元沖縄へ匿名で寄付するなど、人々の為に尽力していた。……アンタ、優しい人ね~オヨヨ」
「優しくなんてないよ、ただ、皆が喜んでくれるから」
「ぷっ♪ だけど! 生涯を通して彼女がいた事はなく、彼女いない歴=年齢の、童貞と♪」
「そ、それは関係ないだろ!!? ていうか、何て資料まで集めてんだ!」
俺が誇らしげな表情を浮かべながら胸を張っていると。
不意にマリアが意地の悪い笑みを浮かべながら、俺のコンプレックスを声高らかに読み上げるので、俺は顔を真っ赤にしながら必死にやめさせようとする。
「悲し~! こんなにも成功してたら、普通一人くらいいそうなのに」
「仕方ないだろ! 前はボクシングに必死で、そんな、恋愛する余裕なんてなかったんだよ」
「ホントに~? 何か致命的な欠陥があるんじゃないの~?」
またこいつは、痛い所をついてきやがる……。
マリアの手に握られた資料を奪い取ろうとするが、目を覗き込むように顔を近づけてくるマリアに、俺は思わず動きが止まり、顔をそらしてしまう。
なので……。
「お前の言う通りだよ。その、俺、女の子が苦手なんだ」
正直に、思っている事、出来ない事を伝える。
「ふーん、そっか、恥ずかしいの?」
「まあそれもある。女の子と何喋って良いかも、よく分かんないし。そもそも俺と喋ってて、女の子は楽しいのかな~とか、不安になったり」
「……そかそか、他には?」
「あと、家が貧しかったんだ。そのクセ兄妹が沢山いたから、これまでお世話になった分、家族とか、特に母さんとかに、仕送りというか、恩返しがしたくて」
「ふふ、大雅ちゃんってさ、やっぱ優しいよ」
すると先ほどまでふざけた空気を醸し出していたマリアが。
うんうんと優しい笑顔で話を聞いてくれるので、少し泣きそうになる。
俺は、十人家族の長男だった。
下の弟や妹なんて、まだ幼稚園だ。
ただでさえ生活に困っているというのに、俺の母親は嫌な顔一つせず、グローブを買ってくれたり、ボクシングジムに俺を通わせてくれたりと、俺に精一杯尽くしてくれた。
俺には夢を叶えて欲しいと、笑顔を浮かべながら。
だからそんな母に、俺は恩返しがしたかったんだ。
親にとっての幸せ。
それは子供が夢を叶え、活躍する事だと信じ。
日本だろうがアメリカだろうが、リングで戦い続けた。
そしたらまあ、恋愛に時間を割く余裕もないし。
そもそもボクシングが出来るだけで幸せだったので。
恋愛をしようと、本気で頑張れなかった。
だから綺麗な女性を見たり、カップルを見ても。
良いな、羨ましいなとは思っていたが。
これ以上の幸せは、求めてはいけない。
好きな事が出来て、家族が幸せなら、それでいいじゃないかと自分を抑え込んでいた。
本当は、自分も恋人を作って――。
温かい家庭が、持ちたいと思っていたのに――。
「じゃあここで、あたしから堤防があります!」
「提案な、何をせき止めてるんだ?」
そして俺の話をひとしきり聞き終わったマリアは。
細くて綺麗な眉をキリリとあげながら、声高らかに宣言する。
「もう一度人生をやり直して、彼女を作ろ~♪」
「ウソだろう? 本気で言ってるのか?」
「本気も本気よ、それに、ボクシングだってやり切ったわけじゃないんでしょ?」
目の前の美女から放たれる、そんなとんでもない提案に。
俺は思わず目を見開き、動揺のあまりオロオロと後ずさりしてしまう。
でも確かに、三階級を制覇する世界チャンピオンになったとはいえ。
夢であったボクシングも、まだまだやりたかったし。
もっと上を、目指せたと思う。
「ごほん! よく聞きなさい! 人間よ!」
すると一つ咳ばらいをしたマリアは、両手を広げ。
神々しいオーラを放ちながら、俺に道を示してくれる。
「もしも、もう一度人生がやり直せるとしたら、もしも、愛する人と出会える世界に行けるとしたら!」
「あなたは、一体どうする?」
マリアの言葉に、俺は今まで感じた事ないほどの胸の高鳴りを感じる。
そりゃあ、もう一度人生をやり直す事が出来て。
愛する人が隣にいてくれるなら。
どんなに幸せかって思うよ。
だけど、俺にそんな事……。
「無様に倒れたまま、そのまま死んでしまうのか? それとも、もう一度立ち上がって、這い上がってみるか?」
「何? 自分には無理だって? そんな事な……ゲホゲホ! オエッ! あ~この喋り方キツイわ。もう、普通に喋るね?」
だが初めて見せるマリアの神々しい姿は、のどに負担があったのか。
涙目になってせき込んだ彼女は、元の話し方に戻って……。
「そんな事ないよ。大雅ちゃんだったら、絶対に出来るって、お姉さんは知ってるから」
「最高に楽しい世界を用意したんだ♪」
「あたしも一緒についてってあげる。一緒に行こ?」
見た事もないほど優しい笑顔を浮かべ。
俺の手を取ってくれる。
なので俺は、もう一度人生をやり直せるのなら。
前の人生では叶わなかった。
恋人を作るという夢が叶うのなら、もう一度。
いや何度だって、頑張って見せる。
そう熱い思いを胸に抱いた俺は、目の前で優しく微笑むマリアに、力強くうなずいて見せた。
「……そう。あなたならそう言うと思っていたわ」
この時のマリアは慈愛に満ち、本当に神秘的で。
彼女が神だと名乗ったのは、あながちウソではなかったのだと確信する。
「きゃっほー♪ それじゃあ初めにしようと思っていた説明をするわね! あんたが今から生まれ変わる世界は、美少女が沢山いるギャルゲーの世界!」
「攻略出来るヒロイン達は、全員女子高生でーす♪」
「いやちょっと待て! それは確かに嬉しいけど、俺27歳だからさ、凄い問題がない?」
だが俺がうんと頷いたのを皮切りに、楽し気な笑顔でまたとんでもない事を言い出すマリアへ、思わず声をあげる。
「あんたも高校生に生まれ変わらせてあげるから、何の問題もないわよ、ちなみにあたしも、あんたの姉として生まれ変わるから、一つ屋根の下、よろしくねん♪」
「それじゃあ行くわよ! 次会った時は、姉弟じゃ~♪」
「あああ~っ! まだ心の準備が……」
俺がいつまでも迷っていると、痺れを切らしたマリアが抱きついてきて、俺をそのまま羽交い絞めする様に、暗闇の中突如として出現した光の渦へと引きずり込んでいく。
すると辺りを眩い光に包まれた瞬間。
俺の意識は、そこで途絶えた――。
《ジリリリリリ♪》
「……んん? ここは? あああ~っ!?」
そしてまた、暗闇の中でまどろんでいると、突然耳元で目覚まし時計の音が聞こえたので、俺はまだ眠い目をこすりながら、もぞもぞと枕元にあった時計を止める。
すると気がつく。
自分がTHE、男子高校生! という部屋にいる事に。
辺りを見渡すと、本棚に並ぶ少年漫画や、テレビ。
家庭用ゲーム機、壁際に立てかけられた、大きな姿鏡。
それと大きな勉強机の上には、パソコンの他に。
学生カバンや、紺色のブレザー制服まで見つけた。
「え? ホントに生まれ変われたのかな? せーの、あ! 若くなってるっ! スゲ~~ッ!!」
なので、まずは壁際にあった姿鏡の前に立つと。
ヒョイと鏡を覗き込んでみる。
すると、身長や天パのモフモフ頭はあまり変わらないが。
丸くてネコの様な顔の、肌がもうツヤツヤ♡
パジャマ姿のまま、思わずオネエの様にクネクネと体をくねらせながら。
さわさわと自分のほっぺに手を当ててしまう。
本当に、高校生の頃の俺だ!
「おっはー♪ 生まれ変わった?」
俺が鏡に見惚れていると。
続いて俺の部屋に、扉を勢いよく開いて入って来るマリアと再会する。
マリアは白い羽衣の様な姿から。
上は紺のブレザー、下は青いチェック柄のスカートをはいた制服姿になっていた。
「まあ見ての通り、あたしもあんたのお姉さんとして生まれ変わったから、二人とも17歳の、高校二年生よ♪ 年子って設定だから」
「設定って言っちまったよ! 名字も違うのに年子の姉弟だなんて、凄い家庭環境だな」
そしてマリアは俺の部屋に入ってくると、間髪入れずに教えてくれる。
「細かい事は良いのよ、それでこれからは、この家の近くにある《兵庫県立、世界高等学校》って学校に通うから、すぐ制服に着替えて。今日は1月7日、始業式よ♪」
「あたし達姉弟は、休学から復学するって形で、クラスに入るから♪」
そう言うとマリアは笑顔で部屋から出て行ったので、俺は少し戸惑いながらも。
机の上に置かれていたブレザーに袖を通し、カバンを手に、自らの部屋を出る。
すると俺達の部屋すぐ脇にあった階段を降り、俺は一階に向かうのだが、上に俺達の部屋があるという事は、これからこの家が実家になるという事だろうか?
てことは、俺の母さんもいるのか?
あの人沖縄の石垣島から一歩も出た事ないらしいんだけど、どうすんだろ?
『あら、大雅くんおはよう。ご飯出来てるわよ』
「誰~? この綺麗な女の人~」
だが一階の扉を開きリビングに入ると、腰ほどまで届く綺麗な黒髪をゆらす。
エプロン姿の美女に、心臓が止まりそうになる。
「この世界での~♪ あたし達のお母さん。こっちの方が良いでしょ?」
そりゃな! 育ててもらって悪いけど、俺の母さんはこんな綺麗な人ではなかったよ!
俺があまりの衝撃に背筋を正していると。
先にテーブルについて朝食を食べるマリアが口を開く。
「ごめんよ前の母さん! さようなら!!」
なので俺はマリアと共に食卓につき。
色々な意味で手を合わせながら、朝食にありついた。
まあ、石垣島にいる俺の母さんも。
俺が幸せになれば、分かってくれるでしょう♪
☆☆☆
「さ! ご飯も食べた所で! これからはあたしが恋愛についてのサポートをしてあげるから」
そして、美味しい朝食を腹いっぱい食べた後。
遂に家を出た俺達二人は、家の前から続く坂の上にある。
兵庫県立、世界高等学校の校舎へと共に歩みを進める。
「それじゃあ、夢と希望に満ちた学校生活! 甘酸っぱい恋と青春の園へ! 弟よ、共に出発だあああ~っ!!」
「お、おーっ!」
そして俺の隣にいたマリアは、俺の手を取り。
高らかに学校生活の始まりを告げながら。
俺を連れ、坂を駆け上がっていく。
同じく学校に向かっているのだろう。
同じ制服を着た学生に何事かと笑われたが、そんな小さな事、俺にはもう目に入らない。
坂をマリアと共に駆けていると、目に映る全てが輝いて見えて。
これからの青春に、夢と希望で胸がいっぱいになった。
これから、本当に頑張ろう!
何か、良い事がたくさん待っている気がするから♪
明日! いよいよヒロインの一人が、メインで登場します♪
良かったら、お楽しみください♪