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拍手小話2 お願い

 俺とエステルで商店街へ買い物に出ると、珍しい露店を見つけた。

 それは、遠く離れた国の装飾品らしく、露天商はこの辺りでは見かけない髪色をしていた。


「いらっしゃいませ」


 焦げ茶色の髪のその露天商は、にこやかに笑い俺たちを迎えた。

 売られている装飾品は、どれも布でできているらしく、小さな花なども布を折って作られているようだった。

 それに、色とりどりの丸い石で作られた腕輪が売られている。


「どれも綺麗ですね」


 エステルは目を輝かせてそれらの装飾品を見つめている。

 すると、店主は満面の笑みで言った。


「そうでしょう? ご自由にお手に取ってご覧ください」


 その言葉をきき、エステルは腕輪をひとつ手に取った。

 それは青い石を基調としたものだった。

 彼女の目の色と同じ、澄んだ色をしている。

 そして、彼女はもう一つべつの緑色の腕輪を手に取る。

 その緑は、春に芽生える新緑によく似た色をしていた。


「すみません。この二つをいただけますか?」


「はい、ありがとうございます」


 エステルが代金を支払うと、店主は腕輪を小さな紙袋に入れてエステルに手渡した。

 露店を離れると彼女は紙袋から緑色の石の方を取り出す。

 そして、彼女は俺の方をくるっと振り返り、手を差し出した。


「手、貸してください」


「手?」


 不思議に思い、俺は思わず彼女の手と顔を交互に見詰める。


「だから、手です」


 手、というのは手だろう、とかいうわけのわからないことを考えながら、俺は言われた通り右手を差し出した。

 すると、エステルは俺の手を取り、緑色の腕輪を俺の手に通した。

 って、え?


「差し上げます」


「え? あ、あ、ありがとう」


「あの、これ、天然石でお守りになりますからいいかなと」


 お守りと言う、思いがけない言葉に俺は心底戸惑う。

 彼女はそのまま俺の手を握りしめ、


「この間みたいに、無茶をしてほしくないので」


 と言った。

 この間、と言うのは腕を刺されたときのことだろうか?

 俺は、エステルにもう一つの腕輪を貸してほしいと頼み、それを受け取った。

 そして、エステルの手を取り、


「じゃあ、俺も。君が、無茶をしない様に」


「私はそんなことをしないですよー」


 などと言い、彼女は笑う。

 けれど本当の願いは違う。



 ――俺の為に、命を削るようなことはありませんように。

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