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18やっぱりあまり眠れなかった

 マティアス様と夜、家にふたりきり。

 部屋で寝台に寝転がり何度目かの寝返りをうつ。

 なんで緊張しているんだろう?

 一緒に暮らして二ヶ月近く、特に何にもなかったのに。

 きっと、額に口付けられたせいだ。

 なんであんなことされたんだろう?

 当初の予定では諦めてもらうはずだったのに、これでは私が彼に惹かれてしまう。

 そもそも悪い印象はなかったし、惹かれたとしてもおかしな話ではないけれど。

 で、でもまだ十ヶ月くらいあるし、私が朝苦手なところとかちょっとだらしないところとかきっと目につくようになって嫌になるはず、きっと。

 あ、でもマティアス様をみていて嫌なところが思い付かない。

 どうしよう。

 などと考えつつ何度も寝返りをうち、いつの間にか眠っていた。


「エステル様、朝ですよ。今日はお仕事でしょう?」


 なんていうリュシーの声に朝起こされることになったのはきっとマティアス様のせいだ。





 顔はあらったものの、髪の手入れも着替える間もなく私は食卓につく。

 マティアス様は普段着姿だった。

 スーツじゃないということは、今日はお休みなんだろうな。

 寝間着姿のままの私を見て、マティアス様は微笑んで言った。


「おはよう、眠れなかったの?」


「んー……まあ……」


 と曖昧に答える。


「ははは……そっか。俺も余り眠れなかったけれど」


 その理由について聞こうという気力はなかった。

 ご飯をいただいている間に頭は覚醒していき、今日は世間が休日であることを思い出す。

 あぁ、だからマティアス様は私服なのね。

 いくら一緒に暮らしているとはいえ、さすがに寝起きの格好で出てくるのはどうかと思ったけれど、もう開き直ることにした。

 朝食の後、私は着替えをして身だしなみを整え一階へと下りた。

 廊下を行くと、玄関前で当たり前のようにマティアス様が帽子を手に待っていた。

 あぁ、今日も送ってくださるのね。

 当たり前か。

 リュシーが奥から出てきて、一瞬不思議そうな顔をするけれど、頭を下げて言った。


「いってらっしゃいませ、エステル様、マティアス様」


「あ、ええ、行ってきます」


「はい、行ってきます」


 リュシー、きっとうちの親にこのこと報告するんだろうなあ。

 マティアス様が私を教会まで送って行ってるってこと。

 そういえば、毎月のお父様からの使者が来なくなったなあ。

 きっとマティアス様がいるからよね。

 そんなことを考えながら私は家を出た。

 家を出てすぐ商店街なわけだけれど、お店の大半はあいていない。

 一部のお料理屋さんや持ち帰りの飲み物などを売る露店などがあいているくらいだ。

 休日と言うこともあり出勤や登校する人々の姿は少なかった。

 

「今日はお休みだから結婚式があるの?」


「はい、まあ、休日はほぼ必ず一件は入ってますね。今は気候もちょうどいいですから」


 暑くもなく寒くもない。雨も少ない時期なので、結婚式は増える。


「結婚式って参列したことないんだよね。兄もまだ結婚していないし」


「あぁ、そう言えばそうですね。でも婚約されているのではないのですか?」


 マティアス様とお兄様は五歳くらい離れているはずだから二十六位だろうか。正直二十五をすぎて結婚していないのは非常に珍しい。


「そうなんだけれど、まだ兄にその気がないみたいで」


 と言い、マティアス様は笑った。

 と言うことは、兄より弟であるマティアス様を先に結婚させるつもりだったのだろうか?

 ……まあ、弟や妹が先に結婚してはいけない、というわけではないけれどどうかな、とは思ってしまう。


「エステルさんもお兄様がいるよね」


「はい、おりますが」


 そう、実は私には三つ上の兄がいる。

 学校に通うので家を離れていて、今年で卒業のはずだけれど来年家に戻ってくるかは知らない。


「まあ、兄はそこそこ遊ぶ人なので学校で恋人作っているとは思いますけれど」


 どうせ将来親の決めた相手と結婚するだろうから今のうちに遊んでおけ、というのが兄の信条だ。

 見た目は悪くない上にこの国の公子だからけっこうもてるようで、文字通りとっかえひっかえだという噂を聞いた。

 いつか女性に刺されるのではと思うけれど、そう言うことにはなっていないらしい。


「恋人かあ。兄からはそう言う話を聞かないけれど。俺はそういう相手を作らなかったな」


「鍾乳洞に行ったとき、そんな話をされていましたっけ?」


「うん、まあ、俺はいつか縁談とか来て結婚するものだと思っていたし。けれど君が実は婚約者だと知った時は嬉しかったなあ。まあ、その理由はどうかと思ったけれど」


「賭けの結果ですからねえ。いったいなぜそんな賭けをしたのかよくわかりませんけれど」


 母親は呆れた顔でその時のことを話してくれたな。とはいえ、母もその現場に立ち会ったわけではないらしい。

 ただ大喜びで父が、婚約者を手に入れた、とかなんとか言って来たそうだ。


「……って、嬉しかったってどういう意味ですか?」


 危うく聞き流しかけたマティアス様の言葉を思い出し、私は問いかけた。

 すると、マティアス様は私の顔をじっと見て言った。


「俺は、君がいいと思っていたから」


「そ、そ、そうなんですか」


 そう言うことを真正面から言われると気恥ずかしい。

 マティアス様の顔なんて見られなくなってしまった私はの歩幅は自然と広くなってしまう。


「周りに女性がいなかったわけじゃないけれど。一年に一回しか会えなくて、会うたびに君は変わって行って。それを楽しみに思う俺がいたんだよね。友人に『気になる相手はいないか』と聞かれたとき、真っ先に君が思い浮かんだから。俺はエステルさんに惹かれているんだなって気が付いたんだよね」


 あぁ、もう恥ずかしくてまともに聞いていられない。

 いつもより早足で歩いたためか、思ったよりも早く教会にたどり着く。

 早く神官の服を着て落ち着こう。

 私はマティアス様にさっと頭を下げてお礼を言い、教会の中に急いで入って行った。

 すると、神官のアンヌ様が私を見て首をかしげた。


「おはよう、エステルさん。顔が紅いけれど大丈夫?」


 え、嘘。

 私は必死に首を横に振り、


「なんでもありません!」


 と言って足早にその場を通り過ぎた。

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