四族会議
(俺自身の正体、父さんと母さんのこと、龍王との出会いほんとに濃い一日だった。)
話のあとになって気づいた時には夜遅かったため、リュートはじいやに案内され、一室をあてがわれていた。
龍の暮らしなのだからどんな大きな部屋が待っているのかと期待していたが、今まで住んでいた家とさほど変わらないほどの広さだった。
どうして?と思い聞かずにはいられなかったリュートはじいやに聞いた。
答えは驚くべきものだった。
「リュート様は我々龍の生態に詳しくないみたいなので説明させて頂きます。」
「確かに、何も知らないな……。それと、様ずけはやめてくれ」
「ふふ、何を仰られますか!あの竜王様に気に入られただけでなく、まさか親子になられては我々にとってあなたはただの龍人では無くなったのです。」
「そうなのか?」
「はい、ですのでこれからはリュート様とお呼びさせていただきます。話の続きをしても?」
頷き、了承伝えじいやが話を続けた
「我々龍の中には゛人゛になることが可能なのです。」
「え、人に?」
「えぇ、そうです。違う点としては身体能力が元が龍ゆえ、非常に高くなっていますね」
それからも話が続き、まとめるとこうなる。
身体能力の高い人間になることができ、人間社会に適応することが可能なようだ。ただ人間になることができる龍は限られた存在で、龍の中でも上位に位置している種族、またはそれだけの実力を持ち合わせた龍が変化できるようだ。
それが部屋の広さに関係しているようだ。上位の龍達は少しでも自分の存在を隠す、または他に生息する動物や魔物の場所の節約のために人になるようだ。
その事に感心を持つとともに、龍人と人間に化けた龍の違いが気になり始め、じいやに聞いてみた。
「大雑把に言ってしまえば本来の姿の違い、でしょうか。まず、龍人の中には龍になることが出来るものもいます。ただ、龍人とは希な存在です。それに龍を目覚めさせるのは相当のリスクが伴います」
「龍を目覚めさせる?」
「えぇ、そうです。龍人の中に眠る゛龍゛としての力を呼び起こす事を目覚めさせるといいます。その目覚めの一番の高みが゛龍化゛です」
「なるほど……つまりは、龍と龍人の違いはそういうことなのか」
「ほっほっほ。流石はフィリム様の子ですな」
じいやはホッコリとした顔でそう言った。リュートも悪い気がしなかったため特に気にすることもなく話は続いた
「そうなのです、龍は龍、龍人は龍人、そこが違いでございます。ちなみにリュート様は既に目覚めをおこなっていますよ」
龍になった覚えがないリュートは今の一瞬で自分に恐怖を覚えた。
もしかしたら無意識のうちに龍になってしまったのではないか、と。
「安心してくだされ。先程も言ったでしょう、龍を目覚めさせ、その一番最後の段階が龍化だと。」
「……あ、そうか」
「そうです。一時的に身体能力が格段に引き上がったのも、龍を目覚めさせることで起こるのです。」
竜王に巨大な犬との戦いについて話していた時に、周りが遅く見えたという話をしたらリュートの身体能力が飛躍的に上がったことによるものと、脳の処理能力が上がったことによることが原因で起こった現象であることを教えて貰っていた。
さらに巨大な犬ついても教えてもらった。魔物という動物とは違う生き物で、動物や人など構わずに喰らってしまうバケモノの事を言うそうだ。その中でも上位に位置していたのが『ケルベロス』という、リュートが戦った巨大な犬だった。
「ただリュート様の場合は少し事情が異なります。」
「父さんと母さんが特別なんだもんな」
「えぇ、そうなります。龍人でも9歳に目覚めた例などありませんし、そのうえ上級魔物を瀕死まで追い詰めるなど前代未聞です。」
「そ、そうだったのか」
「それほどまでに自分が特別であるということを自覚してください。それと、これから先にますます強くなり、恐ろしい程の実力を手にするかと思われます。」
じいやが言うには、龍の頂点に立つ王と互角に戦うことが出来た龍に、人類の最高峰にいた最強の勇者とのあいだに出来た子供だけでも恐ろしい程の力を宿しているのは間違いないことで、さらにはその2人に並び立つ程の強者に生きる術や魔法などを教えてもらうならば確実に強くなると。
それは流石のリュートでも分かり、この時から自分の力について考えるようにした。
いつかはここを離れ、誰かと出会い、友人が出来て、将来は家族ができるかもしれない。そう考えただけでも自分のコントラールは大事に思えた。
でも、リュートはそれも大事だが、親代わりである龍王やその仲間も家族と同じであり、犠牲をしても守りたいとも思った。そのために力を学ぼうと。
「俺は強くなって、もう魔物からも誰からも大切なものを奪わせない。全部守れるくらい力をつけるんだ」
「ほっほ……、いい心がけですな。応援してますぞ、リュート様。」
「あぁ、ありがとう。今日はもう寝るよ、案内ありがとう」
「いえいえ、おやすみなさいませリュート様」
そして話は冒頭に戻り、リュートが今日1日を振り返っているところだ。
(明日はこの国ちゃんと見てみたいし、あの木の麓まで行きたいな)
そう考えてるうちにリュートは眠ってしまった
じいやはリュートを部屋に案内し話を終えてから、龍王のいる部屋に向かった。もちろん、人間の姿でだ。
じいやの見た目は名前の通り、顔にしわがあるが優しい顔持ちのおじさんだ。
ノックをし、反応があるまで待つ。すぐに反応があったため、じいやです、といい部屋に入る。
そこには人が30人入っても余裕のあるぐらいの広さがある部屋に繋がっていた。リュートがあてがわれたのは、この部屋の半分ほどの大きさだった。
その部屋には既に9人の人間に化けた龍が既に集まっていた。そこにじいやを合わせて10人だ。
長い一つのテーブルを挟み、お互い向かい合っている。テーブルの先端にも席がそれぞれ一つあり、じいやはその二つのうち一つに座った。
そして正面には龍王が、やっときたか、というような表情で既に座っていた。
龍王の人間の姿は、身長185cmほどで金髪。髪型は短めである。顔も女受けするとは誰もが思うイケた顔だ。
「さて、全員揃ったところで話を始めよう。まずはお前達に言っておくことがある。」
龍王が話を開始した。
「龍王様!どうして人間なんかを我らの国に呼んだのですか!あなたはあの悲劇を繰り返すと言うのですか?!」
「全くその通りだ。いったいどういうつもりなのか説明願いたい。」
2人の龍が龍王に怒りの眼差しを浮かべていた。
「まぁまつのだ、ライ、ザルガ。その説明を今からするのだ、黙って聞いていろ」
「わかりました……」
「お願いしますぞ」
「龍王の名をかけ宣言しよう、聖龍が死んだ。」
その一言で場の空気が凍った。誰もが今の発言が聞こえなかったかのような。はたまたその現実を受け入れることができないだけなのか。
誰も一言も話さない。唯一知っているじいやは龍王を見つめていた
「そしてそれに繋がるのがリュートなのだ。龍の意思を、聖龍の意思をリュートが継いでいた。」
龍の世界では゛意志を継ぐ゛というのは親である龍が亡くなり、子にその魔力を受け渡すことだ。
その言葉を聞いた龍達は確信に近いものを感じた。そしてさらに現実を突きつけるかのようにじいやが動く
「龍王様の言ってる事は本当ですぞ。私の目でも確認いたしました。」
「そんな…」
「……つまりは、リュートという人間は聖龍様のご子息である、ということですな」
その場にいた龍達はさらに驚いた。だが今の話を冷静に聞けていれば他のものも気づいてたであろう。
「そうだ。聖龍の意思を継いだ、それだけで我々がリュートを守るのに値しないか?」
龍王がそう言うと他の龍達は真剣な表情で考え始めた。
その中で先程声を荒らげていた方のライが口を開いた
「確かにそうです。聖龍様がいなければ今の私達はいないでしょう……。あの災厄を乗り切れたのは龍王様と聖龍様がいてこそのものだった。私はリュート様を守るのに賛成です」
「ありがとう、ライ」
するとザルガも賛成した。そして龍王はもう1人の龍に目を向け、こう言った
「メディア、お前はどうなんだ?」
その視線の先にはピンクの髪で長髪の、肉付きのいい体をした女がいた。それがメディアだ。
「まぁ、ヴァネルが言うなら従うだけね」
「そうか、ありがとう。」
龍王を含みこの場にいる龍は、龍の中でも上位に存在する強力な龍たちが集まっていた。
その中でもライ、ザルガ、メディアは龍王派に属する龍の中でも最上位に位置する龍だった。
炎を司る龍の長がライ、雷がザルガ、風がメディアだ。
もちろん、龍王を認めない龍たちもいるためここにいる種族の龍以外にも存在する。
「3人全員の賛成を取れたな。ではこれを決定事項としよう。リュートは我々が保護をする。いいな?」
「はい」
「うむ」
「りょーかい」
「それでだが、私はリュートの親代わりになった。それも忘れるなよ?」
それぞれが無言でうなづいた。
「よし。ではこれからの事を話そう、まずはリュートについてだ。リュートは龍人だ、だが特殊なんだ。」
「特殊というと?」
3人を代表してライが質問したようだ。そして龍王は答える
「9歳にして龍を目覚めさせた。」
「な?!」
「そんなことが……」
「冗談はやめてくれる……?」
「無論冗談などではない。私はリュートから龍の波動を感じたから助けに行けたのだ。それも、ものすごく強力だった。私にも匹敵しよう。」
3人は息を飲み龍王の言葉を待った
「要因はあるにはあるが、一番は聖龍の意思を継いだこと、そしてリュートの父であるギルダーツの根源を与えられた結果だろう。」
「……勇者様が?」
「そうだ。リュートが強力なのは容易に想像できよう。聖龍と勇者の子なのだ。恐らくこのまま成長していけば私など遥かに越えよう。」
「流石にそこまで到達できますかな?」
今度はザルガが口を開いた。
「あぁ、間違いなくな。龍人の特徴を知っているだろう?中の龍が目覚めてからが本当の龍人としての力が目覚めるのだ。」
「龍骨格生成期に入るわけですな……」
「そうだ。これも異界からやって来た勇者の知識によって分かったことだが、龍が目覚めてからきちんとした骨が、肉が作られるようだ。」
「なるほど、そう考えれば恐ろしいですな……」
龍王はそこでだ、と言ってある提案を3人の龍にした。
その内容は今までに試みたことがなかったことのため驚愕だった。
「リュートを我々が育てよう。そして16歳になったらメディアが管理する学園に転入させる。」
ここでの提案を詳しくいうとこういうことになるだろう。
最初に龍王のヴァネルが親でありあらゆることを教える。ザルガは剣術や武術を、ライは魔力に関係する知識を、メディアは魔術一般を教える役割が与えられた。
そして16歳になった時、メディアが人間としての地位を確立させた「王立魔闘学園」の学園長をしている学園に転入させこの世界に解き放とうという計画だ。
ここで言うと、メディアは学園長、ライは王都の聖騎士団長、ザルガは魔術協会の会長である。
「まぁ、そんな感じだな。明日から頼むぞみんな。」
「は、はぁ……」
「私が直々に教えることが出来るなどなんと誉れか……」
「ヴァネルの為なんだからね、感謝しなさいよ、全く。」
そうしてこの日を持ってリュートの人生が決まったのだった。
そして龍王は並々ならぬ真剣な空気を作り、話を続けた。
「そしてこれが本題だ。よく聞くのだ。恐らくだが、今回のは………」
それから話は夜を超え、朝日が登るまで続いたのだった。
朝日が登り、リュートの部屋を光で照らし始めた。そして、その光はリュートの顔に到達し、明るさと暖かさで目が覚めた。
「ん、ん〜……。ふっ〜、もう朝か。」
するとノックが聞こえてきた。どうぞと言って許可をする。
するとじいやが入ってきた
「おはようございます、リュート様。朝食の用意が出来ましたので案内に来ました。」
「お、ありがとうじいや。」
そう言ってベットを勢いよく出ようとして勢いをつけて飛ぼうとした。だが体に力を入れた瞬間全身に激痛が走り、つい唸ってしまった。
「ほっほっほ。もう始まってしまったのですか、これは早いですな……。」
「え、何が……?」
「それは一種の筋肉痛のようなものです、その痛みを和らげるように朝食は出来ておりますぞ。だから頑張って行きましょう、リュート様」
「分かった。……っ!痛い……」
リュートは痛みを抑えながら懸命にじいやについて行った。そして大きな扉をくぐると、巨大な空間があり、長い机とその上に朝食らしきものが乗っていた。
リュートはじいやに案内された椅子に座り、周りを見渡していると金髪で長身の女が入ってきてリュートとは対角線上の席に座った。
「龍王みたいな色してるな」
無意識にそう言ってしまった。だが答えが予想を遥かに超えるものだった。
「ほう、よく分かったなリュート。そうだ、私は龍王のヴァネル、改めてよろしくたのむぞ」
「…………え?」
「なんだ?気づいたのだろう?」
「いや、え、まさか?!」
リュートが狼狽えていると、じいやが耳打ちしてきた
「あの姿が竜王様の人間になられた姿なのですぞ、リュート様」
「ほ、本当ですか?!龍王って女だったんですか?!」
本気で驚いているリュートが面白かったのかヴァネルが声を上げて笑い出した。
「くはははは!そんなに驚くことか?」
「そりゃー驚くだろ!」
「そうかそうか、それは良かった。なに、私達はもう親子なのだ。仲良くしようじゃないか」
こうしてリュートは朝から驚かされるのだった。