タルブ政変~アキト達の暗躍~ 1
続きです。
5万PV越えました!
御覧いただいた皆様には感謝を。
更新頻度が遅い作品ではありますが、引き続きお付き合い頂けると有り難いです。
◇◆◇
何が起こったのが分からないのか、グスタークさんとシュタインさんはポカーンッとしていた。
まぁ、それはそうだろう。
全て上手くいったっーーー!!!
と、思っていたら、「それは全部『悪夢』でしたぁっ~!」って言われてもねぇ~。
とは言え、ここは紛れもなく『現実』である。
「な、何がどうなってっ・・・!?」
「なっ、何なんだっ・・・!?」
「残念ながら、ここは全てが終わった後のグスターク公太子殿下の私室などではなく、『結論』の出る前の『貴族院』の『議事堂』ですよ。時系列的に言うと、あなた方がありもしない『陰謀論』をでっち上げてドルフォロ公太子殿下とディアーナ公女殿下を貶めようとしていた所、でしょうか?」
「は、はぁっ・・・?っ・・・!!!???」
「な、何を、言って・・・!っ・・・!!!???」
彼らからしたら、突然現れてそんな事をのたまう僕に戸惑い呆れた様子であったが、周囲の状況を認識すると、思わず息の飲み込んだ。
そこには、彼らの行いを全て見ていた『貴族院』の『議員』達が、彼らに厳しい目を向ける姿があったからである。
まぁ、中には肩身の狭そうな様子を見せる『議員』の姿を見る事が出来るが。
おそらく、彼らはこの2人と結託した者達であろう。
もちろん、そこには『処罰』した筈のドルフォロさんとディアーナさんの姿もあった。
まぁ、『現実』には『処罰』などされてないから、そこにいる事は何ら不思議はないんだけどねぇ~。
「そういう事だ、グスターク。お前達は『罠』にハメたつもりだったんだろうが、逆にハメられたんだよ。此方の『英雄』殿の『力』によって、な・・・。」
「な、何が起こっているのか・・・。」
“事情”を知っているドルフォロさんは、先程とはまるで別人の様に落ち着き払った様子でそう述べ、今だ“事情”を把握しきれていないディアーナさんはオロオロと混乱していた。
まぁ、ディアーナさんには悪いが、彼女の『知性』や『弁舌』は僕も評価しているが、いち『政治家』としては、そのあまりに真っ直ぐな性格故に『腹芸』は御世辞にも上手いとは言えないレベルだ。
それ故、彼女に“事情”を明かしてしまうと、ボロが出る可能性もあったので、彼女には先程までこの『仕掛け』の事は黙っていたのであった。
まぁ、「敵を欺くにはまず味方から」と言う諺もあるので、それで一つ納得して頂けると有り難いなぁ~(棒)。
いやいや、後でちゃんと謝りますよ?
当方、『土下座』も辞さない所存であります。(T_T)ゞ
「いやいや、ドルフォロ公太子殿下。貴方も見事な『演技』でしたよ?」
「ハハハッ、かつての自分を参考にしているだけだよ、アキト殿。『演技』、と言うほどのモノではないさ。」
ドルフォロさんは、自嘲気味にそう言った。
僕とドルフォロさんが場違いな会話を交わしていると、ワナワナと震えたグスタークさんが声を張り上げた。
「え、『英雄』、だとっ・・・!?では、き、貴様がっ・・・!!!」
「おっと、これは申し遅れました。僕は『リベラシオン同盟』の『独立部隊』にして、『冒険者』パーティー・『アレーテイア』を率いるアキト・ストレリチアと申します。以後お見知りおきを。」
~~~
歴史上の『英雄』、あるいは『偉人』と呼ばれる者達の中には、通常であれば絶対に勝ち目のない絶望的な戦力差を覆して勝利する者達や、完全なる『詰み』の状態から窮地を脱して、後に奇跡的な逆転劇を繰り広げる者達が存在する。
まるで、『物語』の『登場人物』かの様なその『人生』は、その後多くの者達を魅了し、今日に至るまで語り継がれていくのであった。
もっとも、穿った見方をすれば、元々『歴史』と言うモノは、『勝者』、あるいは時の『為政者』が築いてきたモノであるから、大袈裟に『脚色』されていたり、あるいは『捏造』されている『逸話』や『伝承』も往々にしてあるだろう。
しかし、それでも、そうした“何か”を持つ者達は、歴史上に確実に存在しているのである。
近年では、そうした者達を、持っている、と表現していた。
それは、時として『運』とか『巡り合わせ』、『宿命』とか『加護』などと呼ばれるモノを、もしかしたら、アキトが持つ『英雄の因子』と同様のモノか、あるいは、それに似た様な作用をもたらす“何か”を、その者達も持っていたのかもしれないが。
まぁ、それはともかく。
話を元に戻そう。
今回の『ヒーバラエウス公国』で起こったグスタークらによる『政変』にしても、本来ならば、如何にアキトと言えど、事前にそれを知る事など出来よう筈がなかった。
なぜなら、単純にそうした『情報収集』をする為の人手が圧倒的に不足していたからであった。
もちろん、ディアーナ暗殺未遂の件からも、その“裏”に彼女の兄弟であるドルフォロとグスタークの関与を疑うのも、これはある意味自然な流れであろう。
歴史的にも、『後継者問題』による肉親・親族間での骨肉の争いが起こる事例は枚挙に暇がない。
それ故、限りなくクロに近いグレーだとは認識していた訳だが、生憎、アキト達は『リベラシオン同盟』の『独立部隊』にして、『冒険者』パーティー・『アレーテイア』として、極少人数で『ヒーバラエウス公国』を訪れている。
これは、あまり大勢で押し掛けて、『ヒーバラエウス公国』の者達を下手に刺激しない為に必要な措置であった。
まぁ、それ故に、長期的な『張り込み』が必要な『内偵調査』は実質的に不可能になってしまったのだが。
いくらアキト達が、この世界における『トップレベル』の『実力』を持つ『集団』と言えど、物事には向き・不向きがある。
逆に、その『実力』を遺憾無く発揮した例が『主戦派』一派の『貴族』達からの“裏”に関わる『極秘資料』の奪取であろう。
アイシャ達の感覚から言えば、パッと行って、サッと取ってくるだけの事(まぁ、それ自体、通常ならばほぼ不可能に近い事柄なのだが・・・)。
しかし、『張り込み』となると、24時間体制でずっと張り付いていなければならない。
アキト、アイシャ、ティーネ、リサの4人だけでは、ドルフォロとグスタークを含む周辺の『監視』、それにディアーナの『護衛』を同時にこなす事は、流石に現実的に不可能であった。
それに、確実な『証拠』がある訳でも無かった訳であるし。
故にアキトは考え方を逆転させて、“誘き寄せる”方策、言わば『情報戦』を仕掛けた訳である。
ディアーナを保護し、モルゴナガルを拘束して、更にアキト達にその余力が無かった事や、『ヒーバラエウス公国』の『治安当局』が信頼に足るか疑問だった事もあるのだが、アキトの『思惑』、『情報』をその“裏”にいる者達に伝える為の『伝達役』として、モルゴナガルに加担した者達を放置した訳である。
こうすれば、ディアーナ暗殺が失敗した事や、モルゴナガルが拘束された事が相手に伝わる。
当然、その真偽を確かめる為に、あるいは、モルゴナガルを“切り捨てる”為に、その相手の息の掛かった者達が、ほどなくして密かに『派遣』されてくる事だろう。
それらを拘束して、『情報収集』する事が目的なのであった。
少人数でありながらも、最大の成果を上げられる様に、効率を重視して考え出した『戦略』であった。
もちろん、アキト達の『力』あって、はじめて実現可能な『戦略』ではあったが。
しかし、人手不足はやはり最大の『ネック』でもあった。
それ故、アキトも更にその裏をかかれて、後手に回る羽目に陥るところであったのだ。
人手と言う点に置いては、グスタークやニコラウスの方が、アキトを確実に上回っているのだから。
だが、生憎アキトには、そうした物理的な弊害すら凌駕する『チート』持ちが存在した訳である。
誰あろう、セレウスとアルメリアである。
もちろん、これは『魔道人形』であるエイルがニコラウスの手に渡った事を懸念しての『情報提供』だった訳であるが、それによって、アキトは通常ならば知り得ないグスターク、シュタイン、ニコラウスの『企み』を知るに至ったのである。
もっとも、セレウスとアルメリアの見解では、彼らの手を借りずとも、今現在のアキトならば、自力で『世界の記憶』に『アクセス』して、そうした『情報』を引き出す事が可能な様だが。
まぁ、それはともかく。
その『情報』さえ分かってしまえば、いくら少人数と言えども、アキトには対処する術はいくらでもあった。
とは言え、アキト達はセレウスとアルメリアに絶対の信頼を置いてはいるが、客観的に見れば、グスタークらが何か企んでいる『証拠』を握っている訳でもない。
それ故、逆に『政変』を最大限利用して、数々の問題を一挙に解決してしまおうと試みた。
アキトお得意の『結界術』と『幻術系魔法』を駆使して、自ら自分達の『企み』を、周りの者達に暴露する様に仕向けたのであるーーー。
◇◆◇
アキトがまず行ったのが、首都・『タルブ』近郊に『精霊石』を設置する事であった。
通常ならば、それほどの広範囲を丸々カバーする事は不可能に近いのだが、『限界突破』を果たした今現在のアキトならば、それも可能であった。
アキトはそれと意識してはいなかったが、かつてアルメリアが『シュプール』に用いていた『領域干渉』と同じモノを、『精霊石』を起点として擬似的に再現して見せたのである。
それによって、『精霊石』の損耗も最小限に抑えられ、何より、その『フィールド効果』を、ただ『幻術系魔法』に掛かりやすくするだけに限定した。
それによって、大規模な『物理的現象』を伴う『フィールド効果』の『変質』とは異なり、それほどの広範囲をカバーする事が可能となったのである。
その後は、ティーネにアンブリオ大公の治療と“事情”の説明を密かに行わせていた。
ティーネは、『隠密技術』の超一流の『使い手』であるし、更にアキトに匹敵する『薬学』の『専門家』でもあった。
セレウスとアルメリアの『情報提供』から、アンブリオ大公に、おそらく『毒』が盛られている事を鑑みれば、この人選も当然の事であったのだろう。
・・・
「ご就寝中に失礼します、アンブリオ陛下。」
「・・・何者か・・・?今更、この老いぼれの命を狙う輩もおらんと思うのだがな・・・。」
深夜のアンブリオの寝室に、ティーネは苦もなく侵入を果たしていた。
ティーネの呼び掛けに、アンブリオはうっすらと目を明け、弱々しくそう誰何していた。
その覇気のない様子に、内心ティーネは焦りながらも、順を追って“事情”を説明する事にした。
「私の名はエルネスティーネ・ナート・ブーケネイア。『リベラシオン同盟』の『独立部隊』にして、『冒険者』パーティー・『アレーテイア』を率いるアキト・ストレリチアの『従者』に御座います。」
「『リベラシオン同盟』のアキト・ストレリチアだと・・・!?確か、『ルダ村の英雄』と名高い、あの・・・?」
「ハッ、その通りに御座います。」
『リベラシオン同盟』や『ルダ村の英雄』の名は、もちろん『ヒーバラエウス公国』の『貴族』達の中には知らない者達も存在したが、アンブリオはディアーナやグスタークと同様に、その存在を知っていた。
僅かに目を見開き、興味深そうにティーネを改めて凝視したアンブリオ。
その様子に、内心ティーネはホッとしながらも、話を続けた。
「まずは御報告までに・・・。ディアーナ公女殿下は御無事であります。今現在は『リベラシオン同盟』の守護のもと、『グーディメル子爵家』の保護下にあります。どうぞ、御安心下さい。」
「な、なんだとっ・・・!!!そ、それほまことかっ・・・!!!???ご、ごほっ、ごほんっ、ごほっ・・・!!!」
ティーネの言葉に、飛び起きんばかりの勢いでアンブリオは上体を起こす。
が、流石に弱っている身体には堪えたのか、大きくむせこむのであった。
「だ、大丈夫ですか?・・・あまり御無理をなさらないで下さいね。アンブリオ陛下は、今、『毒』に犯されているのですから・・・。」
「ごほっ、ごほっ・・・。な、何だとっ・・・!?」
一度に大量の『情報』が飛び込んで来て、流石にアンブリオも処理仕切れなかった。
ティーネは、アンブリオの身を案じながらも、あまりアンブリオの身体を刺激しない様に、一つ一つ丁寧に説明していくのであった。
「実は・・・。」
「ふむ・・・。そんな事が“裏”で起こっておったのか・・・。」
「はい、残念ながら・・・。しかし、このまま陛下をただお救いし、『首謀者』達を糾弾したとしても、知らぬ存ぜぬを貫き通してうやむやにされるのかオチである、と言うのが、我が主、アキト・ストレリチアの見解です。明確な『証拠』がある訳でもありませんしね。」
「・・・うむ、その通りだろう。『政治家』と言うモノは、己の保身に長けているモノだ。『英雄』殿の見解も、おそらく間違ってはおらんだろうな・・・。」
フゥッ、と溜め息を吐き、アンブリオはアキトの見解に同調していた。
『政治』の世界は、ある種究極の“騙し合い”の世界である。
事『交渉事』・『折衝事』において、どれほど“上手く”『知略』や『話術』、『駆け引き』などを駆使して、“相手”の優位に立てるか。
極論を言えば、それが『優秀』な『政治家』の『資質』であると言えた。
そしてそれは、アンブリオももちろん承知している。
『政界』は、『海千山千』の『狸親父』達が跳梁跋扈する世界だ。
明確な『証拠』でもない限り、いくら“疑惑”を掛けられようとも、涼しい顔をしてそこらで雑談を交わす様が目に浮かぶ様であった。
面の皮が厚い、あるいは、神経が図太い、と言うのも、そうした者達に必要な『資質』の一つであろう。
まぁ、あくまで表向きは、であるが・・・。
「しかし、御安心下さい。我が主は、すでに『対策』を打っております。『首謀者』達はすでに“袋のネズミ”なのです。まぁ、本人達はそれに気付いていないでしょうが・・・。」
「なんとっ・・・!?」
「陛下にも、それに御協力頂きたいのです。もちろん、御自身のご子息の一人を『処罰』する行為なので、私達も強要するつもりは御座いませんが・・・。」
「・・・。」
若干渋い顔をするアンブリオ。
ディアーナを溺愛しているアンブリオではあるが、他の子供達、ドルフォロ、グスターク、ベネディア、ニアミーナにも、それなりに『愛情』を持って接してきた、つもりだ。
しかし、一国の長として多忙を極めるアンブリオには、子供達と十分に過ごせる時間を確保出来なかった事も、また事実である。
それに、以前にも言及したが、アンブリオ大公夫人、ディアーナ達の母親に当たる人物はすでに亡くなっていた。
それ故、ディアーナを除く子供達の『教育』を、アンブリオは他の者達に任せていた経緯があった。
その“隙”を突かれたのである。
ベネディアとニアミーナに関しては、生まれる前から『政略結婚』、つまり『ヒーバラエウス公国』を出る事が最初から決まっていたので、ある程度の介入は受けたものの、その『思想』や『人格形成』に多大な『悪影響』をもたらされる事も無かった。
何より、ディアーナの時にも言及したが、姉妹仲が非常に良かった事も良い方向に作用したのだろう。
しかし、残念ながら、ドルフォロとグスタークに関しては、『洗脳教育』や『思想教育』を用いられ、その『思想』や『人格形成』に多大な『悪影響』をもたらされる結果となった。
何より、身近な人達からの『愛情』に飢えていた事もあいまって、『承認欲求』を過剰に求める様になっていたのである。
『承認欲求』とは、「他者から認められたい、自分を価値ある存在として認めたい」という欲求であり、「尊敬・自尊の欲求」とも呼ばれている。
『承認欲求』は、努力へのモチベーションにもなるが、強すぎるとお金や地位に執着する様になる事もある。
特に『愛情』不足で育つと、『承認欲求』が強くなる傾向にあるそうだ。
逆に、諦めてしまい、承認を全く求めなくなる事もあるそうだが。
まぁ、そこら辺は個人によっても差異があるし、『精神』に関わる事柄であるから、非常に複雑怪奇なのである。
ドルフォロは『承認欲求』を諦めてしまったタイプであった。
このタイプは、ある意味では非常に操り易いのであるが、またある意味では、『欲望』が薄く、そこを刺激する事が出来ないので、彼の『行動原理』を予測する事は困難を極める。
一方のグスタークは、典型的なお金や地位に固執するタイプであり、勝手に動かれる可能性も高いが、その『行動原理』が分かり易いので、コントロールする事は非常に容易であった。
それ故、シュタインはドルフォロからグスタークに乗り換えた経緯があった。
とまぁ、そうした経緯でドルフォロとグスタークは歪んだ形で成長する事となった訳であるが、その反省がディアーナに活かされる事となった訳である。
しかし、アンブリオに全ての『責任』があると言うのは些か酷な話ではあるが、ドルフォロやグスタークがそうなったのは、彼にも間違いなく遠因があった。
その末での、もちろん『他者』に唆された事もあるのだが、グスタークは『ヒーバラエウス公国』の国民達をも巻き込んだ『政変』を実行しようとしているのである。
一国の長としては、我が子だからと言って特別扱いは出来ない事態にまで発展していた。
「一人の親としては思うところはあるが・・・、我が子の暴走を止められなかったのもまた事実・・・。親としても、一国の長としても、私自ら引導を渡してやるのが本来であれば筋であろう・・・。いや、貴殿らの『力』を借りなければ、それすら出来ない私が言う事ではないが、な・・・。」
「・・・心中お察しします。」
自嘲気味に呟くアンブリオに、ティーネは目を伏せて何と言ったら良いか分からずに、そう曖昧に答えるしかなかった。
ここら辺は、アンブリオ自身の問題だ。
彼がそう決めた以上、ティーネが口出しする事でもなかった。
しばし、無言のまま考えを纏めていたアンブリオであるが、幾分空気が和らいだ印象をティーネは受けていた。
それ故、このタイミングで話を先に進める事とした様である。
「では、まずは陛下に盛られた『毒』を『解毒』してしまいましょう。」
「・・・うむ。やらねばならぬ事が出来た。私もこのまま床に臥している場合ではないだろう。すまぬが、よろしく頼む。」
「了解しました。では、こちらの『ポーション』を御服用下さい。」
そう言ってティーネが差し出したのは、例の『シュプール印』の『体力回復ポーション』であった。
これは、以前にも言及したが、アキトがアルメリア直伝の『知識』に加え、ティーネ達『エルフ族』の持つ独自の『薬学』の『知識』や、『鬼人族』・『ドワーフ族』の『知識』をも融合させて作り上げた、もはや『万能薬』とも呼べる代物で、もちろん、『不老不死』や『死者』の『蘇生』などの『効果』は見込めないが、病気や怪我には絶大な『効果』を発揮する代物であった。
即死系の『毒』には流石に『効果』はないが、それ以外なら、例え通常ならば助からないモノでも効果覿面であった。
「これは、すごいっ・・・!」
一気に『ポーション』をあおったアンブリオも、その『効能』を実感していた。
ポカポカと身体が温かくなり、何やら全身に力がみなぎってくる様な感覚に陥る。
実際に全身の細胞が活性化していて、アンブリオの長年の『政務』疲れや、『毒』による身体機能の低下を回復していく。
「とりあえず、これで陛下に盛られた『毒』は無害化出来ました。しかし、油断は禁物です。栄養をしっかり取って、しばらくは安静になさって下さいね?」
「う、うむ。分かった。」
何だかお母さんみたいだなぁ、などと考えながらも、アンブリオも久しく自分にそう言い聞かせる者がいなかった事を思い出していた。
実際、見た目はともかく、実年齢はティーネの方が遥かに上なので、そのアンブリオの感想もあながち間違ってはいないのだが。
「それで、私は具体的に何をすれば良いのかな?」
「陛下には事前の『根回し』に御協力頂きたいのです。それさえ済んでしまえば、正直陛下の『出番』はほとんど無くなりますが・・・。まぁ、重要なのは、陛下が居なくならない事ですから、その意味ではすでにその目的は達成した事になりますね。」
「ふむ・・・。それだけで良いのか?」
「陛下は病み上がりですからね。それに『根回し』が重要なのは、今更陛下に申し上げるまでもないでしょう?」
「・・・まぁ、その通りだな。」
「それでは、『資料』を纏めたら、また後日改めて参上致します。『ポーション』も置いていきますので、食事の後に服用して下さいね。後、陛下が快復した事を“相手”に知られない様に、床に臥せっている『演技』は御続け下さい。」
「う、うむ。」
「それと、此方を。陛下が『リベラシオン同盟』を信用して下さったのは有り難いのですが、やはりディアーナさんの現在の状況が分からないのは不安だろうと、我が主からの、心ばかりの『贈り物』で御座います。」
「何だ、これは?」
ティーネが懐から取り出したのは、以前アキトが幼馴染み達の成長を、密かに観察していた時に使用した『精霊の眼(受信機)』であった。
もちろん、対をなす『精霊の眼(送信機)』は、ディアーナが持っていた。
〈アキト様から頂いた物ですけれど、これは何なのかしら?何やら特殊な『魔道具』の様ですけれど・・・?〉
〈さぁ~?正直おにーさんの『知識』は幅広すぎて、ボクでも着いていくのがやっとだからなぁ~。それに、ディアーナ様に贈られた物だし、ボクが勝手にバラす訳にはいかないでしょぉ~?〉
〈リリアンヌ様、流石にそれは・・・。〉
〈リリ、それは勘弁して頂戴。私もアキト様に嫌われたくありませんわ。〉
〈おにーさんなら、そんな事で怒らないと思うけどねぇ~。まぁ、特に悪い物ではないだろうし、見た目もキレーだから、置物として置いとけばぁ~?〉
〈そうですわね。〉
「こ、これはっ・・・!?」
ティーネがおもむろに『精霊の眼(受信機)』を操作すると、アンブリオの寝室に一つの『映像』が浮かび上がった。
生憎、先程も述べた通り、今現在の時刻は深夜なので、数時間前の『録画映像』ではあるものの、そこには間違いなくディアーナとリリアンヌ、レティシアの姿が映し出されていた。
アキトは、数々の研究とリリアンヌとの交流の末に、この世界の『技術』を用いて、向こうの世界の『記憶媒体』を再現する事に成功していたのである。
もちろん、それを見た事もないアンブリオの目には、摩可不思議なモノに写っただろうが、散々心配していたディアーナの元気な様子に、そんなモノも吹き飛んでしまった。
「生憎これは、彼女達の数時間前の姿ですが、間違いなく彼女達自身の姿で御座います。言葉で伝えるより、実際に御自身の目で確認した方が分かりやすいだろうとの、主なりの気遣いで御座います。」
「あ、ああ・・・。何だか不可思議な現象ではあるが、確かにこれを見せられたら納得せざるを得ないな。私がディアーナを見間違える筈がない。確かに、ディアーナは元気にやっておるんだな?」
すでにティーネの言葉を信用していたアンブリオだが、ダメ押しとばかりに『証拠』を突きつけられては、信じざるを得なかった。
「はい、それは間違いなく。生憎、『執務』に追われておいでですので、元気かどうかは保証しかねますが、身の危険に晒される事はございません。」
「ふむ、であるか・・・。察するにディアーナにも、私の力不足の“しわよせ”が行っているみたいだな。すまぬ事だ。」
「しかし、それも、この件が済むまでの辛抱で御座います。」
「・・・うむ、そうであるな。」
「それでは一旦私は失礼させていただきます。陛下も、今は御自愛なさって下さい。」
「うむ。」
アンブリオの『肉体』と『精神』の復調を確認すると、ティーネはそう告げて再び姿を消すのだったーーー。
「ところで、これってどうやったら止まるんだろうか・・・?」
ガールズトーク(?)を繰り広げるディアーナ達を眺めながら、アンブリオはポツリッと呟く。
しっかりしている様に見えて、意外とティーネは細かい所でポンコツであったーーー。
誤字・脱字がありましたら、ご指摘頂けると幸いです。
ブクマ登録、評価、感想等頂けると幸いです。是非よろしくお願いいたします。
また、もう一つの投稿作品、「勇者の師匠は遊び人っ!?」も、本作共々、御一読頂けると幸いです。