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『英雄の因子』所持者の『異世界生活日記』  作者: 笠井 裕二
揺れる『ヒーバラエウス公国』
97/383

タルブ政変~紛糾する議会~

続きです。


今回は難産でした・・・。

政治描写や心理描写は難しいですね。



◇◆◇



「父上っ!!!???お目を開けて下さいましっ!!!」


ディアーナは、アンブリオ崩御の知らせを受け、『グーディメル子爵邸』から『宮殿』に大急ぎで戻り、物言わなくなったアンブリオ大公と対面していた。

途中、しばらく行方が知れず、『暗殺』の“噂”すら出ていたディアーナの姿に驚きの表情をした者達と何人かすれ違った気がしたが、生憎今現在の彼女には、それらを気にする余裕は無かった。


流石に一国の君主だけあって、今にも動き出しそうなほど綺麗な状態にされて大きな天蓋付きベッドに安置されたアンブリオに、ディアーナは泣きすがっていた。

アンブリオは、白髪混じりの50代後半の男で、しかし、長年の政務疲れからか、それよりも年老いた印象であった。

君主にあった『立場』にも関わらず、その身体は痩せ細っている。

よほど、“心労”が絶えなかったのであろう。


今現在、『宮殿』にはディアーナの兄である、第一公太子ドルフォロと第二公太子グスタークの姿もあった。

しかし、その場には、ディアーナとアンブリオの二人のみである。

これは、ディアーナとアンブリオの()()を二人の兄が気を使って席を外した訳ではなく、『宮殿』で働く者達の配慮であった。


すでに一応の挨拶は、気もそぞろながらもディアーナは二人の兄と交わしていた。

しかし、『主義』・『主張』の観点からは、この三人は政治的に対立する『立場』にある。

故に、いくら“身内”とは言えど、それぞれの『後ろ楯』となる『派閥』の『貴族』達の手前、一緒にいるのは色々と不都合が多いのである。

それを理解している『宮殿』で働く者達は、ディアーナ達がなるべく顔を合わせない様にと気を使っているのであった。

『立場』のある人間と言うのは、様々なしがらみなどもあって、案外不自由なモノなのである。


「なぜ、この様な事に・・・。」


その美しい顔を涙で濡らしなから、ディアーナはポツリと呟いていた。


「・・・アンブリオ陛下は、ディアーナ公女殿下の行方が分からなくなった時から、少しずつ覇気を無くされていったのです。よほど、公女殿下の身を案じていたのでしょう・・・。」


と、その問いに答えを返す者がいた。

アンブリオの信頼も厚かった、『宮殿』の侍従長であり、自身も『貴族』の一人でもある男だった。


(わたくし)の・・・、せいですか・・・?」

「そんな、滅相もないっ!私も“噂”は小耳に挟んでおります。何があったのかは詳しく存じませんが、公女殿下が姿を隠したのにはそれなりの理由あっての事でしょう。陛下とて『政界』に生きる者。それくらいは、容易に想像がついた事でしょう。しかし、たまたま“間”が悪かったのです。元々陛下もかなりのお歳でしたし、それから体調を崩されて・・・。」

「・・・なんというっ・・・!」

「ディアーナ様っ!お気に病む必要はありません。誰のせいでもないのです。人は生まれいずれば、やがて死が待ち構えているのです。しかし、その『()()』は親から子へ、子から孫へと繋がれて行くのですから。その“灯火(ともしび)”を、決して絶やしてはいけないのです。陛下は常々仰っていました。ディアーナが私に成り代わり、『ビーバラエウス公国(この国)』に『()()』をもたらしてくれるだろう、と。私も、その陛下の御言葉とディアーナ様を信じておりますれば。」

「・・・。」


しばらく、ディアーナのすすり泣く声が、その部屋には響き渡るのであったーーー。



◇◆◇



「クククッ、13号のヤツ、こんな事も出来たのかっ!!!ホントに良い拾いモンをしたもんだぜ。」


首都・『タルブ』の(くだん)の秘密の『拠点』にて、ニコラウスは下品な笑い声を上げていた。

その彼の目の前には、いつぞやの『()()()』の『()()』の様に、この場所からは遠く離れた筈の『宮殿』のディアーナの様子が()()()()()()()()

どうやら、エイルの『眼』に映したモノを、リアルタイムで『視聴』する事が出来る様である。

今現在では、満足に動きの取れないニコラウスにとっては、これは嬉しい誤算であった。


()()も上手く公女の心を乱すのに一役買ってくれたなぁ~。慰めるつもりが逆に追い詰めちまう。人の“心”っての、面白いモンだねぇ~。」


嫌らしい笑みを浮かべてニコラウスはそう呟いた。


()()』を失ったとは言え、ニコラウスはかつて『精神』を操る事にそれなりに精通していた。

故に、特に人を追い詰める事に関しては今でも長けているのだった。

『心理状況』が人に与える影響は、今更議論するまでもないだろう。

ニコラウスにとっても、『リベラシオン同盟(アキト達)』までも味方としているディアーナの存在は警戒すべきであった。

それ故、グスタークに“策”を授けたニコラウスではあったが、それに満足せず、追い討ちをかける様にディアーナを追い込んでいくのだった。


ただ、ニコラウスの発言からも分かる通り、この侍従長の男もニコラウスに唆されただけで、別にニコラウスの息のかかった者、と言う事ではない。

『宮殿』に密かに潜入しているニコラウスの部下を介して、ディアーナを慰めてやってくれ、と言ったに過ぎないのだ。

しかし、人の『心理』と言うのは複雑怪奇だ。

タイミングによっては、そうした慰めの言葉でも、良い方向にも悪い方向にも行くものである。

今回の場合は後者であった。


「ニコラウス様ー。御食事を御持ちしましたよー?」

「おうおう、ご苦労。」

「・・・何を御覧になっていらっしゃるんですかー?」

「ハハハッ、聞いて驚けっ!これは今現在の『宮殿』の様子なのだっ!!!」

「ありゃりゃ、そいつは凄いですねー!?」

「ハハハッ、俺にかかればこんなモノよっ!『ビーバラエウス公国(この国)』を()()()()()()()()、この俺なのだからなっ!!!」

「いやぁー、流石ですねー、ニコラウス様ー!!!」

「ハハハッ、そうであろう、そうであろう。」


エイルに代わって、ニコラウスの“世話役”を務めている何処か間延びした口調の侍女の女性に、ニコラウスは自慢気にそうのたまっていた。


確かに『資金力』・『影響力』・『武力』において、ニコラウスは今現在の『ビーバラエウス公国(この国)』を“()”から操っているのは、紛れもない事実である。

更に、エイルと言う『規格外』の『能力』を持つ存在に、今回の()が上手く事が運んでいる事によって、若干調子に乗るのも無理からぬ事であろう。

しかし、彼は『前提条件』を()()()()見誤っていた。

まぁ、これに関しては後述するとして、以前の焼き増しの様に、もはや『傍観者』としてニコラウスは、この奇妙な『舞台』を眺めていたのだった。


「さて、これで“仕込み”は終わった。さてはて、どんな面白い『見世物』になるだろうかねぇ~・・・?」

「それはそうと御食事ですよー?ニコラウス様は不自由な身体なんですから、介助が必要ですよねー?それが終わったら、お風呂に入って、早く就寝なさいましょー。もう遅くなりますからねー。」

「・・・お、おう。」


悪い笑みを浮かべて、ニコラウスはそう呟くのだが、それをスルーして侍女の女性は、甲斐甲斐しく世話焼き女房かお母さんの様にそう言うのだった。

それにはニコラウスも、何も言えず頷く他なかった。


かくして『舞台』は『ビーバラエウス公国(この国)』の『貴族院』の『議会』に移り変わっていくーーー。



◇◆◇



アンブリオ崩御から一夜明け、『ビーバラエウス公国(この国)』の『名門貴族』の者達は、続々と『宮殿』に集結していた。

君主に次ぐ『ビーバラエウス公国(この国)』の『統治機構』である『貴族院』の『議会』に出席する為であった。

もちろん、アンブリオの弔問に訪れる、と言う『名目』もある訳だが。

『議題』は、当然全員理解していた。

アンブリオに成り代わる、新たな君主を擁立する事である。


実際には、『貴族院』がすでに君主に成り代わる絶大な『権限』を有するに至っていた訳だが、これは何においても同じ事だが、内外に対する『顔』・『象徴』としては、どうしても『代表者』の存在は必要不可欠なのである。

『権威』が落ちたとは言え、アンブリオが最後まで君主として(()()()())一定の配慮や尊重を受けていたのも、この為であった。


さて、では話は戻るが、それぞれの『派閥』の者達は、当然自分の推している『後継者』を擁立したい訳だ。

何故なら、そうした方が()()()()()()()()が出来るからである。

そうした思惑が錯綜する中、いよいよ『議会』が開催される事となった。



・・・



「これより、『貴族院』・『議会』を開催する。」


そう重々しく告げたのは、『貴族院』・議長のルゲンと言う男だった。

議長と言うモノは、当然『公平』を旨としなければならない『立場』である。

事実、ルゲンも()()()は、どの『派閥』にも属さない『中立派』であった。


しかし、実際には、当然ながら各勢力から公式・非公式に関わらず接触を受ける『立場』でもある。

ルゲン自身も、ニコラウスを介して“()”から『根回し』を受け、『主戦派』に便宜を図る様にと金品などを贈られた訳であるが、彼はそれを突っぱねた。

しかし、そうなれば別の“手段”に切り替わるだけである。

ニコラウスが『ヒーバラエウス公国(この国)』に張り巡らせた『情報網』を駆使して、密かに調べあげられた彼の一族の者の『スキャンダル』を持ち出されて再度“()()()”されては、彼も首を縦に振らざるを得なかったのである。

それ故、今現在の彼は、限りなく『主戦派』寄りの『立場』なのであった。


しかし、政治的にはこれが特段卑劣な行いであると言う訳でもない。

『外交』や『交渉』と言うモノは、そうした手練手管を駆使して、いかに己の有利な方に持っていくのか、と言うのが普通だからだ。

以前にも述べたと思うが、『勝負』と言うのは、『試合』が始まる前から始まっているのである。

ならば、それらに対抗する手段は、常日頃から講じておくべきだろう。

政治的観点から見れば、彼はそれを怠ったに過ぎないのである。


さて、現状の『ビーバラエウス公国(この国)』の『派閥』の割合は、『主戦派』が5割、『反戦派』が3割、『中立派』が2割といった感じであった。

以前は『主戦派』が7割に迫る勢いを見せていたのだが、ディアーナが頭角を現してからは、少なくない人数が『反戦派』や『中立派』に流れていったのであった。

まぁ、そうした事も手伝って、(くだん)の『公女暗殺未遂』が起こってしまった訳なのだが。


しかし、それにも失敗し、ディアーナが『リベラシオン同盟(アキト達)』と繋がっている事も発覚した今となっては、ディアーナに『政治的カード(極秘資料)』を切られる前に、グスタークを中心とした『主戦派』一派は一気に勝負を決めるべく、最後の大博打に出るのだったーーー。


「皆様御存知の通り、先日アンブリオ大公が崩御された。それに伴い、諸々の『国葬』の日程などを取り決めなければならないが、その前に、新たな君主を擁立する必要が生じた。今回決定したいのは、その前段階。曖昧なまま据え置かれる事となった、正式なアンブリオ大公の『後継者』を『貴族院(この場)』で決定したいと思います。」


ルゲンの言葉に、ザワザワとざわめきが生じる中、『中立派』の一人が機先を制してこう発言をした。


「決めるも何も、第一公太子であらせられるドルフォロ殿下が跡を継がれるのが筋であろう。」


これは、グスタークとしても想定内の事態だった。

『中立派』を中心とした一派から、その言葉に賛同の声が上がる。

と、そこへ、『主戦派』の第一人者であるシュタイン・ド・オルレアン侯爵が“段取り”通り、待ったの声を上げた。


「あいや待たれよ。確かにドルフォロ殿下が跡を継がれるのが筋と言うモノであろうが、その『()』がドルフォロ殿下に果たしてありますかな?事は『ビーバラエウス公国(我が国)』の“将来”に関わる事ですぞ?現状の『ビーバラエウス公国(我が国)』を取り巻く情勢は極めて混迷の様相を呈しております。ここは、従来の考えに縛られる事なく、柔軟な対応が求められるのではないでしょうか?」

「うぅむ・・・。」


しれっとドルフォロを批判する文言を述べるシュタインだったが、当のドルフォロは顔をしかめるだけで沈黙を貫いていた。

と言うのも、シュタインの『発言力』はかなり強い。

今は勢力が若干縮小傾向にあるとは言え、『ビーバラエウス公国(この国)』の『最大派閥』を率いる者故に、それも無理からぬ事であろう。

それ故、ただ感情的に反発するのは悪手だ。

それが、ドルフォロにも分かっているのであった。


「それ故、私は第二公太子であられるグスターク殿下を推挙致します。」


ザワッとこの場に再びどよめきが起こった。

シュタインとグスタークが繋がっているのは、『ビーバラエウス公国(この国)』の『貴族』の間では周知の事実だ。

それを特段隠す事もなく、有利な『立場』を盗りに来たシュタインに、感心半分呆れ半分であった。

とは言え、シュタインも『勝算』なくそんな発言をしないだろう。

それ故、その場の『名門貴族』の者達は、シュタインの発言の“()”を読み取ろうとしていた。


が、そこに、『反戦派』の一人が、更にそれに待ったの声を上げた。


「その理論で言うならば、私は第三公女であらせられるディアーナ公女殿下を推挙致しますぞ?なぜならば、ディアーナ公女殿下はすでに『()()』を挙げておられるからです。近々正式な発表が成されるでしょうが、『ビーバラエウス公国(この国)』が長年抱えていた『食糧問題』の、解決の道筋を公女殿下は我々に示して下さいました。両殿下は、それほどの『()()』を挙げておられるのですかな?」

「な、なんだとっ・・・!?」

「そ、それが“事実”なら、確かに素晴らしい『()()』だがっ・・・!」

「ふ、吹いてるのではないのかねっ!?」


その者の発言に、その場は別の意味でどよめく事となった。



その『反戦派』の一人も、『グーディメル子爵邸』の『夜会(パーティー)』に参加していた。

それ故、『グーディメル子爵家』のリリアンヌ・ド・グーディメルが『開発』した、(くだん)の『農作業用大型重機』の『試作機』の御披露目にも、当然立ち会っていた訳である。

その者も、他の多くの参加者同様に、『農作業用大型重機』の『試作機』の『性能』に大いなる可能性を見出だしていた。

それ故、その者もいち早く『農作業用大型重機製作プロジェクトチーム』に参加を表明していたのである。

むしろ、『農作業用大型重機製作プロジェクトチーム』に参加しない事など、選択肢としてはあり得ない事だろう。

『農作業用大型重機製作プロジェクトチーム』に参加する事により、莫大な『利益』が約束される訳であるし、更には『政治家』としても評価が上がる可能性すらあるのだから。


もちろん、実質的な『()()』を挙げたのはリリアンヌ、ひいては『グーディメル子爵家』だが(本当は『リベラシオン同盟(アキト)』も半分以上貢献しているが)、ディアーナはリリアンヌの『資金提供者(スポンサー)』でもある。

それ故、間接的にディアーナの評価が上がるのも無理からぬ話なのである。



この発言には、グスタークも、驚愕の表情を浮かべ内心焦りを感じていた。

と言うのも、これに関しては完全に想定外だったからである。


これは、アルメリアとセレウスからの『情報提供』を受けたアキトが、『農作業用大型重』の『情報』を完全に極秘にしたからである。

まぁ、元々『農作業用大型重機(これ)』の『重要度』はかなり高いので、他の者達に奪われない為にもその『情報』を厳重に管理していた訳ではあるが、そうは言っても、ウルカやエイルと言った『S級冒険者』クラスさえ軽く越える『使い手』かつ、特殊な『能力』や『性能』を持つ相手には、その『セキュリティ』にもやや不安な点は存在していた。

それを事前に知らされたアキトが“本気”で封殺したので、この世界(アクエラ)に置いて、その『情報』を盗み出す、あるいは盗み見る事が可能な者達など、それこそ『高次』の『存在』である『神々』くらいのモノであろう。

ま、それに対しても対策を施していた訳であるが。

それ故、グスタークもニコラウスも、『農作業用大型重機』の存在の事は完全にノーマークだった訳である。


これは、かなり不味い状況であった。

生憎、ドルフォロとグスタークには、ディアーナ以上の『()()』など有りはしなかった。

さりとて、そのシュタインが発した()()を今更引っ込める訳にもいかなかった。

そうなれば、従来通り、必然的にドルフォロが『後継者』と成る事が確定してしまうからである。

さて、どうするっ・・・!

グスタークは必死に考えを巡らせた。

そして、ドルフォロを貶める『罠』をヒントに、ディアーナを追い落とす方法を閃いたのだった。



流れが怪しい方向に向かい、シュタインはグスタークの様子をチラリと窺った。

グスタークは小さく頷くと、おもむろに声を上げた。


「発言、よろしいかなっ?」

「な、何でしょう、グスターク公太子殿下?」


そのグスタークの一言に、ピタリッと静寂が訪れ、ルゲンはグスタークに先を促した。


「ありがとう、ルゲン議長。では、まず始めに。先程もどなたか発言した通り、その『()()』が本当ならば、素晴らしい『()()』だと私も思う。これ程の『()()』が挙げられるならば、ディアーナ(我が妹)こそ父上の『後継者』に相応しい。卿はそう主張する訳であるな?」

「は、はぁ、まぁ・・・。」


グスタークに鋭い目付きで睨まれ、その『反戦派』の『貴族』は肩身の狭そうに、しかし、曖昧にだが返事を返した。


「結構。・・・さて、私も本来ならば“身内”を追及したくはないのだが、これは『ヒーバラエウス公国(我が国)』に住まう全ての者達の為にも、私は心を鬼にして糾弾すべきだろうな・・・。まず・・・、ディアーナ。」

「・・・何でしょうか?」

「お前は、その『()()』とやらを、何処で手に入れたのかな?」


如何(いか)にも本意ではない『演技(フリ)』をしながら呟き、次いでグスタークは、挑戦的な目付きでディアーナに問い掛けた。

アンブリオの崩御の事実に、精神的に疲弊し、思考も上手く回らないディアーナだったが、それでも己を奮い立たせて、グスタークの質問に真正面から応えた。


「グスターク兄上も皆様も御存知ではないでしょうか?(わたくし)は、かねてより『グーディメル子爵家』の御令嬢、リリアンヌ・ド・グーディメル殿とは懇意にしておりました。彼女が、『農作業大型重機』、『ヒーバラエウス公国(我が国)』が長年抱えていた『食糧問題』に解決の道筋を示すであろう、偉大な『発明』を成し遂げて下さいましたわ。」

「『グーディメル子爵家』のっ・・・!」

「あの変わり者かっ・・・!?」

「・・・確かに(わたくし)にはそれほどの『才』は御座いませんわ。しかし、(わたくし)は彼女の『出資者』ですから・・・。」

「よい。それは皆分かっておる。如何(いか)に優れた『人材』を『()()()()()()。それこそが、『上』に立つ者に求められる『資質』だ。故に、それも確かにお前の『()()』であり『力』であろう。本当に、()()()()()()()()。」

「・・・何が仰りたいのですか?」


回りくどいグスタークの言葉回しに、若干イライラした様にディアーナは先を促した。


「では聞こう。本当に、それはリリアンヌ・ド・グーディメル殿()()()生み出された物かな?」

「「「「「???」」」」」

「っ!!!???そ、それはっ・・・!!!」


グスタークの言葉に、大半の『貴族』達は疑問符を乱立させた。

しかし、“事情”を知っている者達や、ディアーナはそうではなかった。


「・・・答えられないのか、ディアーナ?ならば、私が代わりに答えてやろう。本当は、『リベラシオン同盟』が“()”で関わっているのだろう?」

「「「っ!!!???」」」「「???」」

「っ!!!???」

「・・・あの、グスターク公太子殿下。お話の途中で恐縮ですが、浅学な私は、その『リベラシオン同盟』とやらを存じ上げないのですが、その者達が関与していると何か不都合でもあるのでしょうか?」


話の腰を折り、『反戦派』の『貴族』はグスタークにそう質問した。

この発言には、半数以上の者達から嘲笑されたが、しかし、中には同じく『リベラシオン同盟』を知らない者達も存在した。

これは、『リベラシオン同盟』の『存在意義』に関わる部分だから、その者達が知らないのも無理からぬ事なのだ。


と言うのも、確かに『政治』を司る『貴族』であれば、『情報』に(さと)い事は重要なのだが、さりとて、自身に関わりが薄い事柄に関してはその限りではないのだ。

『リベラシオン同盟』の()()()の『活動内容』は、

1、『ロマリア王国』の腐敗の根絶

2、『人身売買』の根絶

である。

『隣国』の『組織』である『リベラシオン同盟』の事を詳しく知っていると言う事は、よほど『情報通』か、よほど()()()()()()()()()、そのどちらしかないのである。

故に、『リベラシオン同盟』を知らなかった者達は、ある意味では()()()()『政治家』であった、と言う裏返しでもあった。


しかし、ここで重要なのはそこではない。

グスタークは若干呆れながらも説明を続ける。


「『リベラシオン同盟』とは、『隣国』・『ロマリア王国』の『組織』だ。その『活動内容』はここでは割愛するが、重要なのはその『組織』が『ヒーバラエウス公国(我が国)』の『組織』()()()()、と言う点だ。故に、これはディアーナ(我が妹)が『他国』と()()()()()可能性がある、と言う事だよ。」

「「はっ!!!???」」


遅ればせながら、その『貴族』達もその事実にようやく気が付いた。


「その通りだよ。ディアーナ(我が妹)には『国家反逆』の疑いがあるのだよ。」

「ご、誤解ですっ!!!(わたくし)はその様な事っ!!!」

「では、その件に『リベラシオン同盟(彼ら)』の()()がないと?」

「っ!!!」


()()()()が重なって、普段は聡明なディアーナも、混乱し上手い切り返しを思い付かなかった。

その隙を突いて、グスタークは『印象操作』をより深めていった。


「もちろん、確かな『証拠』もなしにお前を罰する事は出来ないし、『リベラシオン同盟(彼ら)』にどんな思惑があるのかは知らないが、その『()()』持って『後継者』とするならば、それは、ひいては『ヒーバラエウス公国(我が国)』の『国益』を損なう可能性すらあるだろう。故に、少なくともその“疑惑”を払拭しない事には、ディアーナにその『()』があるかどうかは・・・。」

「うぅ~む・・・。」

「それは・・・、そう、ですなぁ~・・・。」


ニヤリッ。

グスタークは内心ほくそ笑んでいた。


一時はどうなる事かと思ったが、アドリブで“先制攻撃”を仕掛ける事によって、副次的にディアーナのここからの『発言力』を弱める事にもグスタークは成功したのだった。

これによって、ディアーナの持つ『政治的カード(極秘資料)』に関しても、牽制する事が出来た訳である。


この思わぬピンチを何とか乗り切り、場の空気すら掌握したグスタークは、更に勢いに乗って、いよいよ“ドルフォロ(本命)”に仕掛けるのだったーーー。



誤字・脱字がありましたら、ご指摘頂けると幸いです。


ブクマ登録、評価、感想等頂けると幸いです。是非よろしくお願いいたします。


また、もう一つの投稿作品、「勇者の師匠は遊び人っ!?」も、本作共々、御一読頂けると幸いです。

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