『グーディメル子爵家』の夜会(パーティー)にて 4
続きです。
4万PVを越えましたっ!!!
拙く、更新頻度の遅い作品ではありますが、御覧頂いた皆様には、改めて感謝致します。
これからも、どうぞよろしくお願いいたします。
新型コロナウイルスの影響は深刻ですが、家に引きこもるのが苦にならない人ならともかく、子供や一般的な方々にはかなりのストレスになるかと思います。
優秀な作品の中に埋もれている本作ではありますが、目に触れた方々のほんの一時の何らかの一助にでもなれれば幸いです。
◇◆◇
離れの屋敷で、そんな事が起こっている事も露知らず、『反戦派』の『貴族』達のボルテージは上がっていた。
ディアーナが公式の場から長らく遠ざかっていた事によって、『ヒーバラエウス公国』の『貴族』達の間では、まことしやかにディアーナ失踪の“噂話”が囁かれ始めていた。
『主戦派』の『貴族』の謀略に遭い、『暗殺』されたとする説。
『暗殺』されかけたが、それをギリギリでかわして、雲隠れしたとする説。
果ては、『他国』に亡命したとする説まで浮上していた。
そんな“噂話”が短時間で広まりをみせるほどに、『ヒーバラエウス公国』の『国内情勢』は緊迫しているのである。
以前にも言及したが、ディアーナは今現在の『反戦派』に取っては『旗印』でもあり、大きな『精神的支柱』でもあった。
そんな彼女の不在は、『反戦派』の士気の低下や内部分裂を引き起こす可能性すらあった。
事実、その“噂話”が流れ始めた頃から、『反戦派』の勢いは大きく削がれていったのだ。
このままではマズい。
『反戦派』の誰もがそう考えたが、中にはそれなりに優秀な顔ぶれも揃っている『反戦派』の『貴族』達ではあったが、ディアーナに成り代わるほどの『カリスマ性』を有した『リーダー候補』は、残念ながらいなかった。
もちろん、無難に『反戦派』を率いる事が可能な人材は存在するのだが、勢いはどうしても弱くなってしまう。
そこに来ての『グーディメル子爵家』の夜会の『招待状』。
浮き足だっていた『反戦派』の結束を再び引き締め直す、良い機会になれば、くらいの軽い気持ちで、皆それに応じたのだった。
しかし、そこで姿を現したのは、『暗殺』の“噂話”すら出ていたディアーナと、更にそれに匹敵する“朗報”だった。
『主戦派貴族』達の不正行為や“裏”に関わる『極秘資料』の入手に成功したとの知らせ。
自分達の『主張』は成る。
そう確信し、漂い始めた諦めムードから一転して、『反戦派』の『貴族』達のボルテージが上がるのも無理からぬ話であろう。
「・・・。しかし、『極秘資料』を精査するだけでも、相当な時間を要しますわ。そこで、皆さんには、その手をお貸しいただきたいのですっ!!!」
「おおっ!!」
「もちろんですとも、公女殿下っ!!」
「『反戦派』の手に勝利をっ!『ヒーバラエウス公国』の未来に繁栄をっ!!」
すでにこの“場”は、ディアーナの独壇場であった。
皆、彼女の『演説』に希望の表情を浮かべて熱狂していた。
中には、これは『政治』が関わる話なので致し方ない事だが、『主義』・『主張』とか、己の『信念』によるモノではなく、『損得勘定』で『反戦派』についた者達もいる。
そうした者達の顔色は、より顕著に晴れやかな表情となっていた。
『極秘資料』を素早く精査し、『貴族院』にて突き付けて糾弾すれば、まず間違いなく『主戦派』は瓦解する。
もちろん、『疑惑』だけで『主戦派貴族』達を失脚させる事は困難かもしれないが、少なくとも、『極秘資料』に関わった者達の『発言力』は地に落ちる訳だ。
そうなれば、『反戦派』の勢いを止められる者はもはや皆無である。
後は、まぁ、色々と上手い具合に“料理”すれば良いだけである。
そうした『損得勘定』で動いていた者達は、早い段階で、『反戦派』を見限り、『主戦派』に鞍替えしなくて、本当に良かったと考えていた。
「・・・更にもう一つ、私から皆さんに“朗報”が御座いますわっ!我が友人にして、『グーディメル子爵家』令嬢、リリアンヌ・ド・グーディメルを御存知の方もいらっしゃる事でしょう。彼女は、優秀な『魔法使い』であり、『古代魔道文明研究者』でもあります。」
ザワッと『反戦派』の『貴族』の間にざわめきが生じた。
もちろん、彼らもリリアンヌの事を知っていた。
と、言うよりも、『ヒーバラエウス公国』の『特権階級』の間で、リリアンヌの名を知らない者はいない。
以前にも言及したが、リリアンヌは、『ヒーバラエウス公国』では有名な変わり者の『古代魔道文明研究者』で通っている。
ディアーナも言及した様に、『魔法使い』としても優秀な“才能”を有しながらも、この世界では懐疑的な意見も多い『古代魔道文明』なんてモノに傾倒してしまったからである。
もちろん、『古代魔道文明』の『遺産』たる『失われし神器』や『魔道具』は有用な物が多いのは事実だが、しかし、『遺跡』発掘と言うのは、見る人から見たら言わば一種の『博打』でしかない。
その“才能”や“情熱”を、もっと『現代魔法』に傾けてくれたら、『ヒーバラエウス公国』の『魔法技術』も、もっと発展するのに、と嘆いている者達も多いのである。
まぁ、もっとも、リリアンヌの『資金提供者』として、ディアーナが名乗りを挙げてからは、彼女達に表立って意見出来る者は皆無だったのだが。
「先日、とある筋から『技術提供』がありまして、彼女が提唱した『魔素結界炉』を『心臓部』とした『農作業用大型重機』なる物の『試作機』が完成致しましたっ!私は、皆さんより一足早くそれを拝見させて頂きましたが、とても素晴らしい物でしたっ!!『ヒーバラエウス公国』がかねてより抱えていた『食糧問題』の、一つの『答え』を出してくれる物だと、私は確信しておりますっ!!!」
ザワッと、再び『反戦派』の『貴族』達の間に、先程より大きな衝撃が襲った。
ディアーナの発言が確かなら、『主戦派』の『主張』の『根幹』となる『食糧問題』、それから派生した『ロマリア王国』からの豊かな資源や農作地を“奪取”する必要性が、そもそも無くなるのである。
これは、『政治的』にも『経済的』にも、大きな意味を持ってくる。
「では、百聞は一見にしかず。実物を御覧頂きましょうーーー。」
◇◆◇
「おっ!ようやく例の物を拝める様だよ、エリック兄さん!!!」
「少し落ち着かないか、ジョルジュ・・・。」
私は、子どもの様に無邪気に興奮している我が弟に呆れていた。
いや、正直言えば、私もかなり胸を高鳴らせている。
我が妹とアキト殿が主導し、ディアーナ公女殿下と我が父が絶賛する物に対して、期待するな、と言うのが土台無理な話なのである。
『グーディメル子爵家』の庭は広い。
正確には、我々はすでに『グーディメル子爵家』を出た人間なので、我が家ではないのだが、細かい所は気にしない事としよう。
『グーディメル子爵家』は、残念ながら『領地』を持たない類の『貴族家』だが、狭義の意味では、この広大な『グーディメル子爵邸』が『グーディメル子爵家』の『領地』と言えなくもない。
立地的には、首都・『タルブ』の郊外にあるものの、落ち着いた雰囲気を好む者達ならば、そうした場所に邸宅を構える者達も少なくないだろう。
それに、『貴族街』に別邸、あるいは本邸を構えている事も珍しくないので、『政務』や『仕事』に差し障る事もない。
広さは、おおよそ数千人単位の人々が収容出来るほどだろうか?
その庭先に、ディアーナ公女殿下と私達は移動していた。
「ようこそ御越しくださいました、紳士・淑女の皆様。今宵、『農作業用大型重機』の『試作機』の『発表者』を務めさせて頂きます、アキト・ストレリチアと申します。どうぞ、よろしくお願いいたします。」
「『農作業用大型重機』の『試作機』の『開発責任者』であるリリアンヌ・ド・グーディメルで御座います。」
そこに待ち構えていたのはアキト殿と我が妹であった。
その傍らには、リーゼロッテ嬢と、我が妹を守護する私達とも親しい間柄の『魔法士』であるレティシアの姿もあった。
レティシアは、『軍服』の様な『魔法士』としての『正装』に身を包んでいる。
『職業』柄、女性にこう表現するのは些か失礼かもしれないが、それは凛々しい出で立ちであった。
アキト殿と我が妹が、代表してご来客の皆さんにそう挨拶を述べた。
ホウッと、誰ともなく溜め息が漏れ聞こえてくる。
それはそうだろう。
アキト殿の容姿は十代半ば特有の少年性と青年性が絶妙に絡み合っており、なおかつ、神秘的であり男女の違いを飛び越えて誰をも魅了する魅力を備えている。
もっとも、先程お逢いした時は、もう少し親しみを持てる印象だったが、今は場が場なだけに、凛々しい印象がより強くなっている。
我が妹も、普段はあんな感じだが、一応『淑女教育』は一通り受けているし、しっかり着飾れば身内の贔屓目無しにも、素材は悪くないのだから、目を惹く華やかさを持っているだろう。
まぁ、残念ながらアキト殿には見劣りしてしまうのだがな。
その後ろには、いつの間にか設置されたのか、大規模な照明に照らされた歓談席の様な空間と、大きな布地で覆われた物、簡易的な“馬術競技”に用いる様な競技走行路まで用意されていた。
あいかわらず、『グーディメル子爵家』の家人達は優秀だなぁ・・・。
その後、家人達に促されたディアーナ公女殿下と私達は、歓談席に着席していた。
ガヤガヤと会話を交わしながらも、意識はアキト殿達に集中している。
そんな視線に臆する事もなく、極自然体で頃合いを見計らったアキト殿が再び声を上げた。
いや、このそうそうたる顔ぶれを前に緊張した様子もないとは、彼は本当に見た目通りの年齢なのだろうか・・・?
まぁ、今更かもしれないが。
「それでは、早速ですが、『農作業用大型重機』の『試作機』を御覧頂きましょうっ!!!」
何処からともなく、荘厳な音楽が流れる。
いつの間にか用意していたのだろう、『音楽隊』の面々であった。
ジャンッ、と心地よい静寂に包まれた瞬間、大きな布地で覆われていた物の全容が明らかになった。
何だか、いや、ディアーナ公女殿下の時にも感じていたのだが、多少過剰な演出ではあるのだが、そのどれもこれも、強く印象に残るモノばかりであった。
私も、ここまで大袈裟なモノではなくとも、そうした演出は『商談』時に参考になるかもしれないな。
などと、『商人』として頭の隅でそんな事を考えながら、明かされた物に見入っていた。
ドヨッ!!!
ザワザワッ!!!
ご来客の皆さんからは、小さなどよめきと戸惑いが交錯していた。
それはそうだろう。
そこに現れたのは、“荷馬車”の“車”部分のみ。
期待感を高められた人々にとっては、それは目新しい物では無かったからだ。
しかし、アキト殿はそれも想定済みの様であった。
「そう、何の変哲もない、ただの“車”です。しかし、覚えておいて下さい。それが“重要”なのです。それでは、『農作業用大型重機』の『性能』を御覧頂きましょう。」
ご来客の皆さんの反応に、アキト殿は残念がる様子もなく、むしろ悪戯っぽく微笑んだ。
よほど、『農作業用大型重機』に自信があると見える。
アキト殿が目配せすると、レティシアが素早く“車”に移動した。
どうやら、レティシアが『農作業用大型重機』の『実演者』らしい。
レティシアが手慣れた様に『御者台』の様な所にて操作をすると、ドドドドドッと騒音が立ち始める。
そこまで大きな音ではないものの、それにより『農作業用大型重機』の存在感が一気に増した様に感じた。
再び興味を惹かれた様子のご来客の皆さんの反応を見て、アキト殿は満足そうに頷いた。
「御覧の通り、『農作業用大型重機』には一見“馬”や“牛”といった『動力源』が備わっておりません。しかし、リリアンヌ嬢の開発した『魔素結界炉』を用いれば・・・。」
「「「「「お、おおっ・・・!!!???」」」」」
「う、動いたぞっ・・・!!!???」
「そう、この様に動かす事が可能なのですっ!!!」
おおっ!!!???
これは凄いっ!!!
しかも、その動きは“馬”や“牛”に牽かせるよりも速度が速く、敏捷性に優れている感じがした。
「こ、これはっ・・・!?か、画期的な発明だぞっ!!!どのような仕組みが作用しているかは知らないが、まず『動力源』たる“馬”や“牛”などを休ませる必要がなくなるっ・・・!!!」
「っ!!!そ、そうかっ、なるほどっ・・・!!!」
隣にいたジョルジュの呟きに、私もハッとした。
“馬”や“牛”は当然“生き物”であるから、食事や休息を必要とする。
その必要がなくなるだけでも、確かに画期的な発明であった。
ジョルジュの指摘した点に気付いた方々が同様に驚愕している。
「その通りです。『農作業用大型重機』は、『魔法技術』の『根幹』を成す、皆様も御存知の『魔素』が『動力源』となります。すなわち、“馬”や“牛”の様に、疲れる事は無いのです。」
「「「「「おおっ~~~!!!」」」」」
アキト殿も、その特徴を改めて説明する。
それによって、その事に初めて気付いていなかった方々も、納得の表情を浮かべた。
畳み掛ける様に、アキト殿はレティシアに某か合図をする。
レティシアは、それに頷くと、簡易的な競技走行路へと進路を変えた。
「更に、それだけでなく、機動性にも優れ、そしてその『パワー』は“馬”や“牛”の比ではありませんっ!!!」
簡易的な競技走行路に設置された、数々の障害をスイスイと避けて見せる。
更に一般市民の家一軒分はあろうかと言う大岩に、レティシアは『農作業用大型重機』の前面に展開された『鉄板状』部分を接触させた。
ま、まさかっ・・・!!!???
「『開拓』や『開墾』をする上で、こうした『岩』や『樹木』が一番の障害になる事があるかと思います。こうした障害物を撤去する為には、多大な労力を必要とします。しかし、『農作業用大型重機』にかかればこの通りです。」
「「「「「おっ、おおっ!!!???」」」」」
「う、嘘、だろっ・・・!!!」
「な、なんと言う『力』だっ・・・!!!」
私も、もしやとは思っていたが、レティシアの操る『農作業用大型重機』は、その大岩をアッサリと動かして見せた。
あんなものを動かすのには、本来ならば、人々や“馬”や“牛”などが何十人、何十頭が一斉に力を合わせなければ困難だ。
それを、たった一台で動かしてみせ、しかも、まだまだその『力』には余裕すら感じる。
アキト殿が自信を持つ筈である。
私達の目の前にある物は、誇張でも何でもなく、『ヒーバラエウス公国』、いや、この世界の“常識”を一変させる物だからである。
「更に、『農作業用大型重機』は、今は『魔法士』たるレティシア嬢が『操作』しておりますが、『魔法技術』を学んだ者、つまり、『魔法使い』・『魔術師』・『魔法士』でなくとも、誰にでも『操作』が可能な点が最大の特徴になります。もちろん、『操作』に慣れるには、それなりに時間がかかりますが。」
「な、なんだとっ・・・!?」
「これほどの物を、誰でも操れると言うのかっ・・・!?」
なんとっ・・・!?
いや、確かに考えてみればレティシアが『術式』を展開した様子は無かった。
ディアーナ公女殿下やアキト殿が先程から口にしている、我が妹が開発した『魔素結界炉』とやらは、『魔法技術』、あるいは『魔道技術』から出来ているのだろうが、あくまでそれを『心臓部』として使っているだけで、それ以外には『魔法技術』を用いる必要性がないと言う事か・・・?
確かに、それならば、広く一般市民にも扱う事が可能だろう。
「想像してみて下さい。『農作業用大型重機』が普及し、『ヒーバラエウス公国』の各地で『開拓』や『開墾』される様を。想像してみて下さい。『農作業用大型重機』は、当然ながら『農作業』にも転用が可能です。『農作業用大型重機』によって、『開拓』や『開墾』された広大な大地が『農作地』となる様を。」
「「「「「っ・・・!!!」」」」」
ゴクリッ。
私は息を飲んだ。
『ヒーバラエウス公国』がかねてより抱えた『食糧問題』。
『農作業用大型重機』の『力』を間近に見た今だからこそ、私はハッキリと確信した。
数年後には、『ヒーバラエウス公国』の『食糧問題』は過去の事になるだろう事を。
そして、『農作業用大型重機』には、間違いなく莫大な『利権』が絡む事を。
父さんが、私とジョルジュを夜会に呼び寄せた意味が、本当の意味でようやく理解出来た。
『農作業用大型重機』の存在は、我が『グーディメル家』を、更に発展させる事だろう。
「ただ、残念なお話もあります。これはまだまだ『未完成』の物なのです。と、申しますのも、リリアンヌ嬢が開発した『魔素結界炉』の『出力』に、“車”の方が耐えられないので、今御覧頂いた『力』も、本来の『性能』の一割にも満たないからです。」
「「「「「・・・・・・へっ???」」」」」
しかし、アキト殿の発言に、にわかに活気付いていた場がシンッと静まり返った。
もちろん、私もジョルジュもである。
今、アキト殿は何と言った・・・?
これほどの『力』を見せながらも、まだその『性能』の一割にも満たない、と言ったのか・・・?
「それ故、私は、広く皆様のお力添えを賜りたいのです。と、申しますのも、残念ながら我々は“車”部分に関しては素人同然です。もちろん、むしろ普及を目指すならば、複雑な『機構』にする必要はありませんので、既存の“車”をベースにした方が良いとは思うのですが、その後の発展を見据えるならば、様々な“専門家”の意見は重要になってきますからね。」
そうかっ・・・!!!
目新しい物ではなく、“荷馬車”の“車”部分を転用したのは、そうした狙いがあった為かっ!?
確かに、これならば、『魔素結界炉』とやらがあれば、少し調整するだけで、すぐにでも量産が可能だ。
しかし、それだけでなく、ご来客の皆さんに広くお力添えを賜ると言う事は・・・。
「新たなる雇用の創出と、『利益』の分配。それにより、『敵』になる事の愚かさを、暗に示しているのかっ・・・!?なるほど、『リベラシオン同盟』が『利権』を独占しなかったのは、この為の『布石』と言う訳かっ・・・!!!アキト殿は、恐ろしい『策略家』だな・・・。『政治的カード』と『経済的カード』をチラつかされては、それを無視出来る『貴族』など、そうはいないだろう。しかも、この“波”に乗り遅れてしまうと、莫大な『利益』をフイにする事になるっ・・・。『主戦派』の『貴族』達も一枚岩ではないから、これによって『反戦派』に流れる者達も出てくるだろう。と、言うか、すでに『詰んで』いるのかっ・・・!?」
ブツブツと早口で呟くジョルジュ。
なるほど、ジョルジュの意見はもっともだ。
もちろん、ディアーナ公女殿下にも『グーディメル子爵家』にも利がある話なのだ。
そもそも、ディアーナ公女殿下は、我が妹の『資金提供者』であるから、リリアンヌが生み出した『発明』による『利益』に関しては、その一部を受け取る権利が発生する。
これだけの規模のモノならば、その配当も、一部とは言え相当な金額になる事だろう。
『グーディメル子爵家』も言わずもがな。
すでに我々は『農作業用大型重機製作プロジェクトチーム』の『プロジェクトリーダー』に就く事が決まっているので、その莫大な『利権』を操る側になったのだから。
父さんがアキト殿に頷かれた時に、喜色を浮かべたのはその為だったのだ。
そして、それに飽きたらず、『利益』を我々だけで独占するのではなく、広く分配する事によって、嫉妬や軋轢を生じさせる事なく、『味方』を増やす事が可能なのだ。
『商人』としての観点から見ても、良いお付き合いが出来るだろう『お得意先』とわざわざケンカする愚か者はいないからな。
『リベラシオン同盟』は一見損を引いた様にも感じるが、アキト殿の事だから全くそんな事はないのだろう。
そもそも、我が妹すら霞んでしまうほどの“才”を持つ彼なら、この程度の代物はいくらでも造れるのだろう。
我々と“住む世界”の違うアキト殿には、何か別の目的があるのかもしれない。
それに、『未完成』であるとアピールする事で、あえて『農作業用大型重機製作プロジェクトチーム』参加への間口を広げているのかもしれない。
『利権』を、横やりを入れて掠め盗ろうとする者達を牽制し、しっかりと『技術』なり『資金』なりを出させて参加させる為に。
「そうした訳で、ここに『農作業用大型重機製作プロジェクトチーム』発足を宣言致しますっ!!!『プロジェクトリーダー』は『グーディメル商会』代表のエリック・ド・グーディメル殿。『グーディメル鉱業』代表のジョルジュ・ド・グーディメル殿にそれぞれお願いしてありますので、御参加頂ける方々は、お二方までお願いいたします。先に断っておきますが、リリアンヌ嬢はあくまで『開発責任者』であり、『プロジェクトリーダー』には一切ノータッチになりますので、あらかじめ御了承下さい。」
「「「「「おおっ~!!!」」」」」
最後に我が妹に直接取り入ろうとする者達を牽制しつつ、アキト殿はそう締め括るのだった。
ご来客の皆さんも、興奮冷めやらぬ感じに感嘆の声を上げていた。
「・・・素晴らしい御披露目だったね。我々も忙しくなりそうだっ・・・。」
「ああ、そうだな。すぐに皆さんから参加表明が殺到するだろう。我々も、覚悟をしなければならないな・・・。」
ここから先は、私達の『交渉』と言う名の『戦場』である。
海千山千の猛者達に後れを取らない様に、私達も気を引き締めなければならないなーーー。
◇◆◇
ふぅ・・・。
どうやら御披露目の方は上手くいった様だな。
皆さんの反応も上々だ。
裏方に徹して貰った『グーディメル子爵家』の家人の皆さんやリサさん、レティシアさんには、後で何かお礼を考えておこう。
それと、もう一つの方も、順調に進んでいる様だな。
『主戦派』の『刺客』も、上手く『罠』にハマってくれた様だ。
特別参加して貰ったアルメリア様とセレウス様にも、何かお礼を考えておこう。
さて、僕の予測通りなら、そろそろ向こうの方でも、某かのアクションがあると思うのだが・・・。
◇◆◇
夜会は全て順調に進み、私は、その『成功』にしばし酔いしれておりました。
『反戦派』の皆さんの士気は、今までにないほど高まっておりますわ。
やはり、アキト様と懇意になれたのは、私にとって、これ以上ないほどの『幸運』でした。
もちろん、リリやレティシア、『グーディメル子爵家』の皆さんのお力添えにも大いに助けて頂きましたが。
さて、『政治的カード』と『経済的カード』の両方がこれで出揃いましたわ。
後は、これを出すタイミングさえ見誤らなければっ・・・!!!
「デ、ディアーナ様っ・・・!!!」
そんな事を考えていました折り、そろそろ終わる頃合いとは言え、夜会の最中に、今は私の専属で付いて下さっている侍女のシンディーが、血相を変えて私のもとに駆け込んで来ました。
「どうしましたの、シンディー?まだ夜会の最中ですわよ?」
「お、お耳をっ・・・!!!」
訝しがる私に、シンディーは切羽詰まった様にそう応えました。
一体何がっ・・・?
「ヒソヒソヒソ・・・。」
「な、なんですってっ・・・!!!???」
シンディーの配慮を台無しにして、私は大声を上げてしまいました。
それにより、ご来客の皆さんの注目を集め、にわかにざわめきと動揺が広がっておりました。
しかし、その時の私には、周りを気にする余裕がありませんでした。
何故なら、『ヒーバラエウス公国』の君主にして、我が父、アンブリオ・ヒーバラエウスが、崩御されたとの報が届いたのですからーーー。
誤字・脱字がありましたら、ご指摘頂けると幸いです。
ブクマ登録、評価、感想等頂けると幸いです。是非よろしくお願いいたします。
また、もう一つの投稿作品、「遊び人・ハヤトの異世界事件簿」も、本作共々、御一読頂けると幸いです。