『グーディメル子爵家』の夜会(パーティー)にて 3
続きです。
当初の予定に反して、この章は思いの外長くなりそうです。
気長にお付き合い下さいませ。
◇◆◇
ディアーナ公女殿下の後に姿を現したのは、黒い『宮廷服』を身に纏った、年の頃14、5歳の黒髪長髪の少年と、アイボリー色のドレスを身に纏った、浅黒い肌をした小柄な十代後半の美しい少女であった。
その少女は、おそらく『ドワーフ族』だろう。
私も、『グーディメル商会』を預かる身として、『商談』において『ドワーフ族』の方々とはそれなりに付き合いがある方だ。
『ドワーフ族』は、特に『職人』の男性に多いのだが、卓越した『職人』としての『腕』を持ちながらも、事『商売関係』の話においては疎い者が大半を占める。
そうした場合、実質的な『商談』、『経営』や『金勘定』に関しては『ドワーフ族』の女性が表に立つ事が多いのである。
故に、『グーディメル商会』との『取引窓口』となる『ドワーフ族』の女性達とは、私もそれなりに面識があるのでピンと来たのだ。
『ドワーフ族』の女性達は、男性達と違い、身体的特徴では『人間族』との見分けが付きにくい。
もちろん、小柄で浅黒い肌をしていて、肉感的な肉体を持っていると言う特徴はあるものの、それは『人間族』の女性の中にもいない訳ではないからだ。
『ドワーフ族』の男性達は、小柄で浅黒い肌をし、それでいて、筋肉粒々のガッシリした体格と特徴的な髭をたくわえているから、まだ分かりやすいのだが・・・。
しかし、私は、その美しい少女よりも、この少年から目が離せなかった。
『神々』から与えられたかのごとき神秘的な容姿に圧倒的な存在感。
だと言うのに、穏やかな雰囲気を感じさせる物腰に、不思議と暖かみのある雰囲気。
その目元は涼やかであり、しかし生命力と力強さを感じさせる。
ーただ者ではない。ー
彼を一目見て直感的にそう感じ取った。
そして、その自分の『勘』は間違っていない事にすぐに気付く事となる。
父さんからの紹介で、彼らはそれぞれ名乗りを上げた。
「お前達、こちらは『リベラシオン同盟』の『独立部隊』にして、『冒険者』パーティー・『アレーテイア』を率いるアキト・ストレリチア殿だ。かの有名な『ルダ村の英雄』殿だな。そして、そちらはアキト殿のお仲間で、『ドワーフ族』のリーゼロッテ・シュトラウス嬢だ。」
「改めまして、はじめまして。今ご紹介に与りました『リベラシオン同盟』の『独立部隊』にして、『冒険者』パーティー・『アレーテイア』を率いるアキト・ストレリチアと申します。以後お見知り置きを。」
「同じく、はじめまして。『リベラシオン同盟』の『独立部隊』にして、『冒険者』パーティー・『アレーテイア』所属のリーゼロッテ・シュトラウスと申します。よろしくお願いいたします。」
えっ!!!???
私とジョルジュは顔を見合わせた。
私達も『商人』であり『貴族』の端くれだ。
当然、『リベラシオン同盟』や『ルダ村の英雄』の“噂話”は聞き及んでいる。
しかし、彼はあまりに若すぎる。
いや、彼の雰囲気から、それはまごうことなき事実であると断言出来るのだが・・・。
それを確認しようと父さんに声を掛けると、ちゃんと挨拶をしなさいとたしなめられてしまった。
『商人』として『貴族』として挨拶は基本中の基本なのに、それすら簡単にすっ飛んでしまった。
いやはや、お恥ずかしい。
しかし、慌てて挨拶を交わす私達を彼らは気にする様子もなく、穏やかに微笑んでいた。
人見知りの激しい我が娘も、アキト殿をすぐに気に入ったのか、私達にも驚くべき事に、すぐに抱っこをせがんだりしている。
こ、これ、失礼だろうっ!
しかし、アキト殿とリーゼロッテ嬢は、ニコニコと微笑み、私達夫婦の焦りを手で制されて無言で頷く。
そして、おもむろにディアンヌを抱きかかえ、ディアンヌは、キラキラとした表情を浮かべ、非常に嬉しそうだった。
若干、父親としては複雑な気分だが・・・。
そして、若干気まずそうなジョルジュの挨拶を経て、私達は驚きの事実を知る事となった。
・・・
話はディアーナ公女殿下の『暗殺未遂事件』から始まり、それを『リベラシオン同盟』が介入し未然に防いだ事、その後リリを介してディアーナ公女殿下が『グーディメル子爵家』に匿われた事、その間に『リベラシオン同盟』が『主戦派貴族』達から不正行為や“裏”に関わる『極秘資料』を入手した事、リリとアキト殿の『共同研究』とやらの『試作機』が完成した事などが語られていく。
どれもこれも、私達の想像をはるかに越える話ばかりであった。
しかし、聞けば聞くほど『リベラシオン同盟』はとんでもない存在である。
“噂話”と言うのは、尾ひれが付く事が一般的だ。
それ故、私達も『商人』としては『情報』には敏感だが、その一方で“噂話”を全て鵜呑みにする事はほとんどない。
誤った『情報』は、時としては私達に『不利益』をもたらさないとも限らないからだ。
しかし、『リベラシオン同盟』の様に、“噂話”の方がまだまだ『過小評価』である事は極めて稀な事である。
淡々と語ってはいるが、どれもこれも一個の組織程度に出来る範囲を大きく逸脱している。
もちろん、ディアーナ公女殿下や父さんが冗談を言う訳はないし、私達は『荒事』に関しては素人ではあるものの、アキト殿達からは圧倒的な強者の雰囲気がある事は、何となく理解出来る。
故に、それらが当然事実なのだと、何となく納得していた。
「今日の夜会では、私の生存報告と共に『反戦派』の『貴族』の方々との『極秘資料』の“共有”やその『処理』への協力を求めるのが主な狙いですわ。ただ、これと平行して、リリとアキト様との『共同研究』の成果である『農作業用大型重機』の『試作機』を御披露目して、『農作業用大型重機製作プロジェクトチーム』のメンバー募集やスポンサー募集を募る予定でもあります。」
「お前達には、その『農作業用大型重機製作プロジェクトチーム』の『プロジェクトリーダー』の座に就いて貰いたいのだ。」
ディアーナ公女殿下と父さんが、そう話を締め括る。
「それはっ・・・、もちろん『グーディメル商会』や『グーディメル鉱業』としては願ってもない話ですが、その、よろしいのですか・・・?」
私は、アキト殿の顔色を窺いそう尋ねる。
これは、話を聞くだけでも途方もない『利益』の絡む話である。
アキト殿からは、我が妹たるリリアンヌ同様に、所謂『強欲さ』は感じられないものの、それでも彼の力なら、彼自身が主導しても良いのではないかと思ったからであった。
「『リベラシオン同盟』としては問題ありません。と、言うよりも、僕は、今現在は『冒険者』ではありますが、所属としては『ロマリア王国』の人間になってしまいますからね。どちらの案件も、『ヒーバラエウス公国』の人間ではない『リベラシオン同盟』が表立って動くと、『内政干渉』に抵触する恐れがありますので、むしろこちらからお願いしたいのですよ。」
「なるほどなぁ・・・。姉さんはそうした事には疎いし、父さん達はディアーナ公女殿下の補佐で手一杯。それ故、我らに話が回ってきた、と言う訳か・・・。」
なるほど。
私もジョルジュ同様に納得していた。
そこまで考えた上で私達に話が持ち込まれた訳だ。
私達は、何故今回の夜会に呼ばれたのか、ようやく合点がいった。
素人同然の『政治家』としてではなく、『グーディメル商会』と『グーディメル鉱業』の代表として呼ばれたのだ。
「そうです。それと、もう一つ。これは、少し先の話になりますが、『農作業用大型重機製作プロジェクト』が軌道に乗って成果が現れるまでには、しばらく時間が掛かるでしょう。その間を埋める意味でも、また、『ヒーバラエウス公国』の『食糧問題』を緩和する意味でも、民間クラスでの交易を強化していきたいと考えています。もちろん、最終的には『ロマリア王国』と『ヒーバラエウス公国』とで『国同士』の『合意』を目指していますが、そちらも今しばらく時間が掛かるでしょうからね。」
ついで、とばかりに、アキト殿はサラッととんでもない提案を更にぶちこんできた。
「それは、もちろん有り難い申し出だが、少し難しいのではないですか?『食糧輸送』にはそれなりに時間が掛かる。『ロマリア王国』から『ヒーバラエウス公国』に至るまでには、『食糧』が大抵は腐ってしまってとても食べられた物じゃない。もちろん、『保存食』としてでも交易を強化出来るのなら、随分助かりますが・・・。」
それには、流石に私も疑問を呈した。
“噂話”では、『ロマリア王国』・『ヒーバラエウス公国』・『ドワーフ族の国』とを結ぶ要所であり、交易の盛んな『ダガの街』周辺は、『リベラシオン同盟』の介入により、非常に安全性の高いルートに様変わりしている事は聞き及んでいる。
事実、『グーディメル商会』と取引のある様々な『商会』は、それらのルートを使って多大な『利益』をもたらしてくれている。
しかし、『食糧輸送』となるとまた話は別だ。
「それも問題ありません。鮮度抜群、とまではいきませんが、『保存食』ではない、腐っていない『食糧』をお届け出来ますから。」
「なんとっ・・・!?」
しかし、アキト殿は、何でもない風にその問題に解決策がある事を示唆した。
「・・・それは、噂に聞く、『レーゾーコ』なる物を用いるのですか?」
「・・・おや、よく御存知ですね?」
「私も噂に聞いた程度でしかないのですが・・・。『ロンベリダム帝国』では、そうした物の普及が、少しずつ始まっているとかなんとか・・・。」
ジョルジュは、何らかの『情報』を持っていたのか、半信半疑でアキト殿にそう尋ねた。
しかし、それも無理からぬ事だ。
私も、ジョルジュの口から『ロンベリダム帝国』の名前が上がった事で内心納得していた。
『ロンベリダム帝国』は、ハレシオン大陸屈指の『強国』であり、また、『魔法技術先進国』でもある。
『ロンベリダム帝国』をして、ようやく普及が始まりつつある『最新技術』を、すでにアキト殿達は持っていると言うのである。
大変失礼だが、近年の『ロマリア王国』はまた話は別だが、しばらく前は、『魔法技術』において一歩劣っている印象のあった『ロマリア王国』の出身者であるアキト殿達が、『最新技術』をすでに持っている事に驚きを禁じ得なかったのだ。
いや、我が妹にして身内である私の目からも見ても“天才”に映るリリアンヌと共に、『共同開発』などと言う偉業が可能ならば、それも難しい話ではないのかもしれないが・・・。
「御存知なら話は早い。まぁ、そうした訳で、お二人には、色々と御協力頂きたいと考えています。もちろん、お返事は今すぐでなくとも構いません。この後、余興として『試作機』の御披露目もありますから、それを参考にして頂ければよろしいかと。」
「そうですな。」
「・・・分かりました。」
「・・・はい。」
終始圧倒されっぱなしだった私達に向けて、アキト殿はそう話を締め括るのだったーーー。
・・・
「どう思う、ジョルジュ?」
「ふむ・・・。」
その後盛大に始まった夜会の最中も、『グーディメル子爵家』の直系の者として様々な方々と挨拶を交わしながらも、私達の頭の中は、先程のアキト殿とのやり取りが大半を占めていて多少気もそぞろであった。
もっとも、私達も『貴族』であり『商人』である者の一人として、こうした場でボロを出す様な立ち居振舞いはしない。
正直、半分以上覚えていないが、無難に挨拶や受け答えが出来ていた事だろう。
挨拶回りが一通り済み、夜会全体も少し落ち着いた来た雰囲気だ。
先程の話から、そろそろディアーナ公女殿下が姿を見せる頃合いだろう。
私はそのタイミングで、先程から気になっていた事をジョルジュに問い掛けたのだった。
「こんな事を言うのは、『商人』としては本来ならありえないんだろうけど、俺はすでにアキト殿を全面的に信用している。もちろん、父さんや姉さんが認めているって言う根拠みたいなモノもあるんだが・・・。」
「ふむ・・・。ジョルジュも私と同じ意見か・・・。」
私達は、『グーディメル商会』と『グーディメル鉱業』を引き継ぎ、それぞれ『代表』の『地位』に就いてはいるが、それでも『権限』としては独自の裁量で判断を下しても問題ないのだが、そうする事は滅多にない。
なぜなら、私達は『組織』においては“新参者”だからである。
確かに私達は、所謂『創業家』の人間かもしれないが、実際に『組織』を運営してきたのは、私達の先祖や『組織』の人間達であって私達ではない。
故に、大事な局面においては、時間が掛かろうとも、全体の『総意』を大切にする事を心掛けている。
これは、私達と『組織』の人間達との『信頼関係』を構築する事が目的だからである。
こと『商売事』においては(まぁ、これは他の『分野』でも同じ事なのだが)、結果が全てである。
何の実績もない者を信頼する者など普通は皆無だ。
だから私達は、一つ一つの実績を積み重ね、『組織』の『代表』として皆に認めて貰う努力をしてきた。
もちろん、『商談』は“生き物”であるから、時に“即断即決”が必要な場面も出てくるのだが、それでもなるべく多くの『判断材料』をかき集める。
今回の話にしたってそうである。
もちろん、父さんやリリアンヌが関わっている話なので、我々に損がない事は分かりきっているのだが、『組織』の『代表』としては、それでも慎重であるべきなのだ。
しかし、ジョルジュの言葉通り、私達はすでにアキト殿を全面的に信用していた。
これは、『商人』としてはあるまじき事である。
我々『商人』は、嫌らしい話『損得勘定』で動かなければならない。
もちろん、『金銭』の絡む話であるから、『取引相手』との『信頼関係』は重要な要素ではあるものの、極論を言ってしまえば、『取引相手』の『人間性』などは『判断材料』の基準としては二の次なのである。
だと言うのに、私達はアキト殿の発する圧倒的な雰囲気を間近に触れて、件の『農作業用大型重機』の『試作機』とやらの実物すらこの目で見ていないと言うのに、その話だけで首を縦にふる事も吝かではないと考えていた。
まぁ、もっとも、それはアキト殿の方から実物を見てから判断する様に言ってきたのだが。
「いずれにせよ、向こうから実物を見てから判断しろと言ってきたのだから、せいぜい楽しみにさせて貰う事としよう。」
「そうだな。」
と、そのタイミングで父さんがご来客の皆さんに声を掛けていた。
いよいよ、『ヒーバラエウス公国』の『国内情勢』が大きく様変わりする発表が成されるのだろう。
多少過剰な演出と共に、『反戦派』の『旗印』たるディアーナ公女殿下が、その“場”にお出ましになられたのだったーーー。
◇◆◇
『グーディメル子爵家』主催の夜会が、本屋敷にてディアーナが現れた事で佳境に入っていたタイミングで、『グーディメル子爵家』の離れの屋敷に幽閉されていたモルゴナガル伯爵のもとに、『主戦派』の息のかかった『暗殺者』が密かに潜入を果たしていた。
目的は、もちろん『主戦派』に取って不利な『情報』を数多く持つモルゴナガルの“口封じ”の為である。
もっとも、すでにアキト達はモルゴナガルから得た『情報』をもとに、『主戦派貴族』達の不正行為や“裏”に関わる『極秘資料』は奪取している訳だが、とは言え、『資料』は結局『資料』でしかない。
当然『資料』も『証拠』としては重視されるのだが、やはり一番状況を左右するのは“当事者”の『証言』であるから、公式の場でモルゴナガルに発言される事は『主戦派』に取っても一番避けなければならない事でもあった。
故に、この時点でも、モルゴナガルの“口封じ”には、それなりに意味がある事なのである。
「おや、お食事の時間ですかな?本屋敷では、さぞや盛大な夜会が開かれているのでしょう?私から掠め取った『情報』も、それに彩りを添えているのですから、私も少しはご相伴に与りたいものですよねぇ。」
ハッハッハッと、半ば開き直った態度でモルゴナガルは皮肉めいた事を言う。
もちろん、ただの虚勢である。
『公女暗殺計画』が失敗に終わり、『グーディメル子爵家』に幽閉されるーーー。
これだけならば、まだモルゴナガルに取っては何とかなるレベルだった。
この世界の『特権階級』を拘束し続ける事は、それほど難しい事なのである。
仮に拘束されたとしても、色々と理由をつけては身柄の解放を要求出来る。
向こうの世界、特に日本における、所謂『議員特権』や『不逮捕特権』みたいなモノを、『特権階級』の者達は保持している為である。
これは、『公女暗殺計画』の“首謀者”と目されるモルゴナガルであっても同様である。
もちろん、彼の仕出かした事はとてつもない『重罪』であるが、今回の件においては、彼が関与した『証拠』は『状況証拠』と当事者達の『証言』しかない。
『特権階級』の者達を公式に罰するとするならば、それなりの確固たる『証拠』が必要なのである。
一度拘束を解かれてしまえば、それは『政治』の世界では『解放』と同義である。
後は、適当な『証拠』をでっち上げ、誰かに『罪』を擦り付けるなり、『冤罪』を主張するなり、軽い『罰』を受ける事で、罰せられたと言う体を演出するなりすれば良いだけの事。
何とも理不尽かつおかしな話だが、えてして『政治』の世界ではよくある事なのである。
心証的には完全に『クロ』なのに、捕らえる事が出来ない案件と言うのが、この世の中には意外とありふれているのである。
しかし、ここにアキトが関わると、話は大きく変わってくる。
『常識』が通用しないのは、アキトも同様である。
アキトは『ヒーバラエウス公国』の人間ではないので、モルゴナガルの持つ『特権』は全く通用しないし、関係ないのである。
更に、『神域』に足を踏み入れたアキトは、“物理的制約”や“精神的制約”すら軽く飛び越えてくるので、より“性質”が悪いかもしれない。
絶対に明るみに出せない、幾重にも厳重に守っている『秘密』と言えど、アキト達にすれば簡単に手に入る物でしかなく、更に、己自身にしか知り得ない『秘密』やすでに闇に葬り去った筈の『秘密』ですら、アキト達は簡単に“サルベージ”してくる。
事実、今回の『主戦派貴族』達の『情報』にしてもモルゴナガルには漏らした記憶が一切ない。
だと言うのに、いつの間にか至極当然の如く、アキト達はそれらを知っていて、もはやモルゴナガルにはそれに抗う術がなかった。
モルゴナガルがそうした事を経験し、半ばやけくそになるのも無理からぬ事であろう。
まぁ、彼のこれまでの行いを鑑みれば、同情の余地はないのだが。
「モルゴナガル卿とお見受けいたしますが・・・?」
しかし、そこに現れたのは、給仕に遣わされた『グーディメル子爵家』の執事や侍女ではなく、目だけを闇夜に浮かび上がらせる怪しげな格好をした男だった。
すぐに、モルゴナガルは事情を察した。
「おや、これはこれは。いかにも、私がモルゴナガルですよぉ。・・・いやはや、私には“最後の晩餐”を楽しむ事すら許されない、と言う事ですかねぇ。」
「残念ですが・・・。我が主の命により、その命貰い受けますっ!!!」
ヒュッ!!!
『暗殺者』が静かにそう宣言すると、彼の姿はかき消えた。
斬っ!!!
ブシュゥゥゥッーーー!!!
「カヒュッ・・・!!!」
『主戦派』の息のかかった『暗殺者』は、かなりの手練れであった。
『暗殺者』の凶刃は、モルゴナガルの“首”と“胴体”を簡単に分けてみせた。
その瞬間、モルゴナガルの口から声が漏れた様な気がしたが、おそらく幻聴か、空気が漏れたと言った様な事だろう。
モルゴナガルは、悲鳴も断末魔も上げる間もなく、驚愕の表情を浮かべたまま、その命を刈り取られたのだから。
「・・・。」
勢い良く吹き出た返り血を避け、短剣に付いた血糊をピッと払う仕草をした『暗殺者』は、しばらく流血が収まるのを待つと同時に、モルゴナガルだったモノに、静かに黙祷を捧げた。
これが、この『暗殺者』の流儀なのだろう。
その後、流血が収まると、『暗殺者』は手早く“首”を回収し、“胴体”からモルゴナガルの『伯爵』としての『紋章』を回収、『暗殺』を成した『証拠』を携えて、再び闇夜に消えていったのであった。
こうして、『ヒーバラエウス公国』の中でも、相当な『権力』を有していたモルゴナガル伯爵は、人知れず静かにその生涯を終えたのであったーーー。
誤字・脱字がありましたら、ご指摘頂けると幸いです。
ブクマ登録、評価、感想等頂けると幸いです。是非よろしくお願いいたします。
また、もう一つの投稿作品、「遊び人・ハヤトの異世界事件簿」も、本作共々、御一読頂ける幸いです。




