『グーディメル子爵家』の夜会(パーティー)にて 1
続きです。
遅ればせながら、3万PVを越えました。
本当にありがとうございます。
皆様にご覧になって頂けていると思うと、私もモチベーションが上がります。
まだまだ物語は続きますので、引き続きお付き合い頂けると幸いです。
◇◆◇
私が『極秘資料』の山に埋もれていた時、『グーディメル家』の侍女にして、今は私の専属で付いていて下さっているシンディーから恐る恐る声を掛けられました。
「あの、ディアーナ様。お忙しい所、大変恐縮なのですが、リリアンヌ御嬢様とアキト様がディアーナ様を御呼びなのですが・・・。」
「今度は何ですのぉっ~・・・!」
自分でもはしたないと思いますが、リリに加えてアキト様が関わってからは、私も随分“素”の部分を見せる様になっていました。
まぁ、『グーディメル家』の方々とは親しくさせて頂いておりますし、正直取り繕う必要もありませんから、私自身、もしかしたら相当甘えているのかもしれませんね。
「は、はぁ・・・。何でも、『共同研究』の完成の目処が立ったから、ディアーナ様にも御見せしたいとか何とか・・・。」
「はぁっ!?・・・えっ?・・・はいっ?・・・も、もう、完成の目処が立ったんですかっ!!!???」
「ひゃ、ひゃいっ!御嬢様達は、そうおっしゃっておりましたがっ・・・!」
私の剣幕に驚いたのでしょうか?
シンディーは、そう怯えた様に言いました。
「ああ、ごめんなさい、シンディー。別に怒っている訳ではありませんわ・・・。」
「は、はぁ・・・。」
同じ女性であり、年回りの近いシンディーは、リリやレティシア同様に、ある意味私としては接しやすいのですが、彼女と私では、一応『立場』が違います。
本来ならば、『貴族家』に仕える“執事”や“侍女”と言った“使用人”と言うのは、その方々自身も『高貴』の出である事が多いのですが、『グーディメル家』では、その成り立ちもあいまって、そうした方々が、『平民』の出である事が多いのです。
私個人には、その方の“人となり”を推し量るのに、『貴族』、『平民』の区別はありませんが、相手にとって同じとは限りませんからね。
それにしても、アキト様には驚かさせてばかりですわ。
元々、リリが所謂“天才”である事は私も存じておりましたが、そのリリすら上回る幅広い『知識』を持つアキト様が現れてから、私達の『時間』は、急激な変化を起こしている様に感じますわ。
停滞していた『国内情勢』に活路を見出だすだけには飽きたらず、『魔法技術』の変化までをも、この数週間で一気に巻き起こしてしまいました。
私達だけでそれを行おうとしたら、何年、いえ、何十年の『時間』が必要なのでしょうか?
「あ、あのぉ~、ディアーナ様?それで、いかがいたしますか?」
「あ、ああ、そうですわね。それで、お二方は今どちらに?」
しばし呆然と考え込んでいた様ですわね。
シンディーが、訝しげに私の様子を窺いました。
それに、私も思考を中断して言葉を返しました。
「はい。お庭にて『試験』?、を行っている様です。」
「そうですか。では、しばらく私も出てきますわ。」
「はい。いってらっしゃいませ。」
シンディーに見送られた私は、簡易的にしつらえて頂いた『執務室』を出ました。
正直、『極秘資料』との格闘から一時的にでも解放されて、私はホッと一息吐くのでしたーーー。
・・・
「ああ、お忙しい所すいません、ディアーナさん、セドリュカさん。」
「いえ、それは良いのですが、もう『共同研究』が完成したと伺いましたが・・・?」
半信半疑で私はそうアキト様に伺います。
セドリュカ卿も、私と似たような表情ですわ。
私達の“心”は、ある意味一致しておりました。
「まさかっ・・・!」、そして、「もしかしてっ・・・?」
アキト様は、それに対して何でもない風に仰いました。
「ええ、まだ完全な『完成』とは言えないのですが、おおよそは“形”にはなりました。口でご説明するのもあれですから、まずはご覧頂きましょう。レティシアさぁ~んっ!」
「はいっ!『試作機』、走行を開始しますっ!」
アキト様がそう指示されると、“荷馬車”の“車”の部分だけの形状の物に乗り込んでいたレティシアが応えました。
そして、“何か”の操作をすると、ドドドドドッと騒音を立て始めます。
おそらく、あれがリリの言っていた『魔素結界炉』なのでしょう。
『魔素』を収束する『装置』。
少なくともこの時までは、私は、そう認識しておりました。
あれで、一体何をするのでしょうか?
レティシアが『御者台』の様な所にて操作をすると、それは静かに走り始めました。
「「おおっ!!!???」」
私とセドリュカ卿は、思わず声を上げました。
“馬”や“牛”といった動物の『動力源』無しに、“荷馬車”が動いたからです。
もちろん、『魔素結界炉』を何かしら『利用』をしているのでしょうが、何らかの『術式』が働いた気配はありません。
私もセドリュカ卿も、これでも一応『特権階級』の一員ですから、『魔法技術』にも、多少は精通しておりますので、そこは分かりました。
それ故に、ますます訳が分からなくなったのですけれど。
「まぁ、『スピード』に関してはこんなモノですが、『パワー』は凄いですよ?アイシャさぁ~んっ!」
「はいはぁ~いっ!」
私達からしたら、これでも相当な『速度』が出ていると思いますが、アキト様は、まだその結果にご不満を持っている様ですわね。
アキト様の『研究意欲』は際限がない様に感じますわ。
しかし、『力』とは何でしょう?
私達が疑問に思っていると、アイシャ様が可愛らしく応え、とてつもない大きさの『大岩』を軽々と担いでこられました。
・・・へっ?
「「」」
ズシーンッーーー!!!
私とセドリュカ卿は、白目を剥きました。
私は、アイシャ様の並外れすぎた『怪力』に対して、セドリュカ卿は、整然と整えられた庭が荒らされた事に対して、の違いはありましたけれど・・・。
しかし、それに対してアキト様達は誰も疑問を持っていない様です。
リリはうんうんと頷き、レティシアは操作に集中しておりますし・・・。
アキト様達に至っては、私達の『常識』が通用しないのは、もう嫌と言うほど知らしめられましたからねぇ~。(棒)
「『開拓』や『開墾』をする上で、こうした『岩』や『樹木』が障害になる事があるかと思います。アイシャさんの『力』なら大した事はありませんが、一般的にはこうした障害物を撤去する為には、多大な労力を必要とします。しかし、この『試作機』を使えば・・・。レティシアさぁ~んっ!」
「了解ですっ!」
うん、アキト様の言葉には突っ込み所が多いのですが、それは今は流しておきましょう。
確かにアキト様達でなければ、これ程の『大岩』を動かそうと思ったら大変な作業になりますわね。
『魔法技術』を用いても大変でしょうし、『魔法』無しの“一般市民”の方々なら尚更です。
すると、ティーネ様とリサ様の協力を経て、“車”の前面に『鉄板状』の物が取り付けられました。
その後、レティシアがその『大岩』を目標に定めると、ズズズズッと軽々と『大岩』を動かしてみせました。
これには、私もセドリュカ卿も、感嘆の声を上げました。
「「おおっ!!」」
「と、まぁ、こんな感じです。で、一番大事な事は、今は『魔法士』のレティシアさんが『操作』していますが、少し『操作』を覚えれば、これは誰でも扱える事です。」
「なんとっ・・・!?」
「それは凄いっ・・・!!!これが一つあれば、『開拓』や『開墾』の進捗率が飛躍的に跳ね上がるぞっ・・・!!!」
「そうです。更に、これはそのまま『農作業』にも転用が可能です。もちろん、『費用』や『劣化』の問題はあるものの、その利便性はご覧の通りです。初めは皆さんで共同で購入し、『共有物』として一台あるだけでも、皆さんの作業効率も大幅に上がるでしょうし、『コスト』を抑えられれば、一家に一台と言うのも夢ではないでしょう。」
「「おおぉ~!!!」」
まさか、『魔素結界炉』からこの様な物を造り出してしまうとはっ・・・!
私達は、『魔素結界炉』を『増幅魔法』の延長線上のモノと捉えておりましたし、事実、『魔素結界炉』の“利用方法”も、『魔法使い』や『魔法士』が扱う物だと考えておりました。
付け足された『回路』である『増幅回路』の効率性の悪さと負担を軽減し、『増幅魔法』以上の“効果”を発揮出来る『装置』なのだと。
リリはそれに対して“否”と答えていましたが、具体的な“利用方法”までは辿り着いていなかった様です。
もちろん、それだけでも、もの凄い『発明』である事には違いないのですけれど、アキト様は、これを更に『魔法使い』や『魔法士』でなくとも扱える代物を造り出してみせました。
事実、『術式』が発動した気配がありませんから、これが『魔法技術』によって、もちろん、その根底は『魔法技術』によって成り立っているのでしょうけれど、扱う上で、『魔法技術』が必要でない事は分かりました。
アキト様は、おそらく私達とは発想の根本が違うのですわね。
『魔法技術』を特別なモノと捉えずに、あくまで『技術』の一つと捉えているからこそ、そうした考え方に辿り着けたのですわね。
もちろん、その類いまれなる膨大な『知識』も必要不可欠なのでしょうけれど。
「それで?私達に意見を聞きたいと言うのは?」
そんな事を漠然と考えておりますと、セドリュカ卿はアキト様に質問を投げ掛けました。
「と、言うよりかはお願いですね。『人材』をご紹介頂きたいのです。まずは、『グーディメル家』から、この『プロジェクト』を統括する『リーダー』を、後は『スポンサー』や腕の良い『職人』さんなんかですね。もちろん、『グーディメル家』の『力』ならば、単独で製造、販売、流通を手掛ける事が可能でしょうが、それだと後々不利に働きかねない。大事なのは『利益』を独占する事ではなく、上手く“振り分ける”事です。そうする事によって、色々な人を『味方』につけやすくなるでしょう?」
「「っ!!!」」
まさかっ・・・!?
これほどの代物ですら『布石』に利用するおつもりでっ・・・?
「それに、僕らの『力』だけでは、これ以上の“車”や『アタッチメント』の改良は難しいのですよ。『貴族家』お抱えの『職人』さん達の意見や協力は広く募りたいですね。『パーティー』の時にでも、『余興』と言う事で、お披露目してはいかがでしょうか?」
「「・・・。」」
やはりそのつもりの様ですわね・・・。
その様な体でアキト様は仰っておりますが、私とセドリュカ卿は、その『真意』を正確に理解しておりました。
『極秘資料』に加え、この世紀の『大発明』を用いれば、『反戦派』の『貴族』だけでなく、『主戦派』の『貴族』達をも切り崩すのが更に容易になりますわ。
何せ、これに関わる事によって、その方には莫大な『利益』が約束されるのですから。
まさに“飴”と“鞭”。
『政治的カード』と『経済的カード』の両方の手綱を握られては、いかに『貴族』と言えど、それを無視する事は出来ませんわ。
『貴族』の“性質”を熟知されているからこその“計略”ですわね。
アキト様は、その齢にして『権謀術数』にも通じておいでなのですわね。
本当に底知れない御方ですわ。
しかし、『味方』とすると、これほど頼りになる存在もおりませんわね。
私とセドリュカ卿は、視線で会話を交わし、お互いに頷き合いました。
これは、夜会が楽しみですわねーーー。
◇◆◇
『グーディメル子爵家』の現・当主、セドリュカ・ド・グーディメルには、妻・クラリッサとの間に3人の子供がいた。
長男のエリック、長女のリリアンヌ、次男のジョルジュである。
『ヒーバラエウス公国』では、『ロマリア王国』とは多少事情が異なり、『成人年齢』が15歳からとなるのだが、エリック、リリアンヌ、ジョルジュはすでに15歳を越えており、『社会』へと進出していた。
さて、この世界、特に『貴族』の『就職』と言うのは少し特殊である。
基本的にこの世界では、『職業』は『世襲制』であり、『農民』の子は『農民』に、『鍛治職人』の子は『鍛治職人』になるのが一般的である。
もちろん、子供の数が多いケースも存在するので、『後継者問題』なんて話も大なり小なりあるのだが、基本的に長男が『跡継ぎ』となり、次男以降は別の『職業』を『選択』していく。
残念ながら、女性の場合は『社会的地位』がまだ高くないので、良い『家』に嫁ぐのがある種の成功と考えられており、『婚姻』がある種の『就職』と言えなくもない。
話を元に戻そう。
それで、『貴族』の『就職』の話だったが、『貴族』の『職業』とは、一つでない事が一般的である。
当然『国』や『時代』によっても異なるのだが、時に『政治家』であったり、『軍人』であったりと、『貴族』の『責務』としての『仕事』や、“領地持ち”の場合は、『領主』としての『仕事』、更には『金融業』、『不動産』なんかも手掛けているケースも多い。
以前に言及したが、『グーディメル子爵家』は『新興貴族』であり、古くからの『貴族家』と違い『領地』を有していない。
また、多くの『官僚貴族』と同様に、『政治』に関わりはするものの、『政治』の中枢には関わりが薄いのである。
しかし、『貴族家』である以上『政治』の中枢に関わりが薄いとは言え、『政治家』としての『仕事』を蔑ろにも出来ない。
故に、必然的にセドリュカは『政治家』としての『仕事』を中心として、その他の『家業』はセドリュカの親族や信頼する部下達にほぼ任せっきりであった。
それを、もちろん『顧問』やら『相談役』としてセドリュカの親族や部下達は残留しているものの、成人したエリックとジョルジュがそれぞれ引き継いだのである。
所謂、“世代交代”であった。
まぁ、リリアンヌだけは多少事情が違うのだが。
長男のエリックは、『貿易業』を中心とした『グーディメル商会』を、次男のジョルジュは『鉱山業』を中心とした『グーディメル鉱業』を引き継いでいる。
とは言え、これらはある種繋がりのなる『業種』でもある。
『鉱山業』で採れた『地下資源』を、『貿易業』にて売り捌く。
こうして、『グーディメル子爵家』は、莫大な『資産』を持つに至っているのである。
リリアンヌが『古代魔道文明研究者』になった経緯も、ある種、この『家業』の影響があったからかもしれない。
・・・
「なぜ俺達にまで夜会の『招待状』が届いたんだろうか?エリック兄さんは、父さんから何か聞いてるかい?」
「いや、詳しい事は何も・・・。しかし、私達の『仕事』には、人との“繋がり”も大事だから、おそらく挨拶回りが目的ではないかな?」
「普通の夜会ならね。しかし、今回の夜会は、若干『政治』色が強い人達が集まっている様だよ?父さん達はまだまだ若いし、仮に『グーディメル子爵家』の『後継者』としての“顔見せ”だとしても、エリック兄さんだけで十分だろう?俺まで呼ばれた理由がよく分からないんだ。」
「ふむ。まぁ、それはそうかもしれないけど、大方、夜会を口実に、『家』を出ている私達の顔を見ておきたいだけかもしれないよ?『仕事』が忙しくて、私達も中々『家』に顔を出せないからねぇ~。」
「ああっ、その可能性はあるか。父さんも母さんも、若干“親バカ”な所があるからねぇ~。いや、場合によっては、“孫”に会いたかっただけかもしれないけどね?」
「ハハハッ。言ってくれれば、いつでも遊びに来るんだけどね。まぁ、父さんも忙しい身だからねぇ~。」
「それはエリック兄さんもだろ?いや、俺も人の事は言えないんだけどさ。」
『グーディメル子爵家』の人間であるエリックとジョルジュは、エリックの妻・マドレアとその一人娘・ディアンヌと共に『グーディメル子爵邸』の別室からラウンジや庭にて歓談する『招待者』を眺めながらそんな会話を交わしていた。
一般的な“イメージ”だと、『貴族』の親類縁者の関係は、どこかドライな“イメージ”を持つかもしれないが、それは『家』によってまちまちである。
『グーディメル子爵家』の家族仲は良好な関係であった。
これは、リリアンヌほどではないが、エリックもジョルジュも“秀才”の部類に入る人物であり、なおかつ『権力』に大して固執していないからである。
むしろ『政治』とは一線を置いている感じさえあり、エリックもジョルジュも内心『後継者』など成りたくないとさえ考えているのだった。
ここら辺は、所謂意識の違いでもある。
立身出世が全てであると考える者がいれば、平穏な生活を望む者もいるのである。
まぁ、長男であるエリックが『後継者』になるのは規定路線であるからエリックもそれを受け入れているし、ジョルジュもそんな兄に内心同情しつつ、その補佐をする事を受け入れていた。
本音を言えば、「上手い事『政治家』だけはフェードアウト出来ないかなぁ~」、とか思いつつ。
「しかし、マドレア義姉さんとディアンヌは本当に久しぶりだなぁ~。エリック兄さんとは、『仕事』でちょくちょく打ち合わせをしているが・・・。ディアンヌは、もういくつになったんだい?」
「っ!・・・。」
にこやかに話し掛けるジョルジュだったが、まだ幼いディアンヌにとっては父親以外の大人の男性が怖かったのか、ビクッとマドレアの影に隠れつつ、指だけで歳をジョルジュに教えるのだった。
「3つか・・・。じゃあ、俺の事が分からなくても仕方ないなぁ~。前に会ったのは、ディアンヌが赤子の頃だもんなぁ~。」
「これ、ディアンヌ。ジョルジュさんに失礼でしょ?御免なさいね、ジョルジュさん。この娘、まだ人見知りが激しくて・・・。まだまだ『御披露目』までにはほど遠いですわねぇ~。」
「無理に『御披露目』をする必要はないさ、マドレア。」
「そう言う訳には参りませんでしょ、アナタ?アナタが『グーディメル子爵家』を継ぐ以上、この娘はいずれ『子爵令嬢』になるのですわ。今の内から『淑女教育』を徹底しませんとっ!」
「アッハイ。」
「アッハッハッハッ!マドレア義姉さんの方がしっかりしているなぁ~。エリック兄さん、マドレア義姉さんに『家督』を継いで貰った方が良いんじゃないかい?」
「出来る事ならそうして欲しいモノだよ。我々は『貴族』としては未熟だからねぇ~。」
「アナタもジョルジュさんも、そんな事では困りますわよ?まったく、『商売人』としては一人前ですけれど、『貴族』としての意識がなさすぎて不安になりますわっ!」
のんきな事を言うエリックとジョルジュに、マドレアは呆れた様にそう苦言を呈するのだった。
エリックとマドレアは、『貴族』としては珍しく『恋愛結婚』であった。
まぁ、端から見れば『政略結婚』とも見えるのだが、お互い愛し合っているのは事実である。
と、言うのも、マドレアは『貴族』の出身ではないのだ。
彼女の『実家』は『ヒーバラエウス公国』では有数の『商家』である。
『子爵』の『爵位』を賜っているとは言え、『グーディメル家』も元々は『商家』だ。
そうした横の“繋がり”もあって、エリックとマドレアは“幼馴染み”の関係なのである。
もちろん、『新興貴族』とは言え、次期『グーディメル子爵家』当主となるエリックには、『貴族家』との『縁談話』が数多く持ち込まれていた。
(まぁ、これに関してはリリアンヌもジョルジュもそうなのではあるが。)
しかし、セドリュカもクラリッサも、子供の気持ちや考えを尊重し、また、セドリュカ本人が『政界』と関わる事がいかに大変か身に染みて知っているだけに、のらりくらりとそうした話をかわしてきたのである。
ここら辺は、通常の『貴族家』と『商家』から成り上がった『グーディメル家』の意識の相違である。
そもそも、『グーディメル家』が『貴族』に成り上がったのも、『野心』の為ではなく、あくまで『商売』の幅を広げる為であった。
もちろん、『国』が壊れると『グーディメル家』としても困った事態となる為、セドリュカの様に『政治家』としての『仕事』を蔑ろにはしないものの、『他家』の様に『婚姻』によって、ゆくゆくは『大公家』と懇意に、などとは考えてもいなかったのである。
そうした背景もあり、またある種マドレアの『家柄』も『グーディメル家』としても申し分なく、エリックとマドレアはめでたく結ばれる事とあいなったのである。
ただ、マドレアは、ある種の負い目をエリックに対して感じていた。
それは、一種の『家柄』に対する“コンプレックス”かもしれないが、それ故にマドレアは、必要以上に『貴族』に固執していたのである。
それが、少し強く出て、夫であるエリックにもう少し『貴族』としての意識を持って欲しいと願い、娘を立派な『淑女』に育て上げようと奮起していたのである。
「やあ、エリック、マドレアさん、ディアンヌちゃん、それにジョルジュ。よく来てくれたね。」
「こんばんは、エリック、マドレアさん、ディアンヌちゃん、ジョルジュ。」
「おお~、マドレアさぁ~ん、アンちゃ~ん、久しぶりだねぇ~。」
そこに、セドリュカ、クラリッサ、そしてリリアンヌが現れた。
セドリュカとクラリッサはともかく、リリアンヌは普段とは違い、立派な『淑女』として着飾っている。
リリアンヌも元は悪くないので、非常に魅力的な女性に仕上がっているのだが、残念ながら彼女は良くも悪くも子供っぽいので、それらを全て台無しにしているが。
クラリッサなどは、嫁の貰い手があるのかと、内心頭を抱えるのだった。
「あぁ~、りりちゃんだぁ~。」
ただ、そうした雰囲気が子供にはウケる様で、ディアンヌは満面の笑みを浮かべてリリアンヌに抱き付く。
それを微笑ましく皆で眺めながら、近況を報告し合うのだった。
「エリック、『商会』の方はどうだ?」
「ええ、順調ですよ。『従業員』は皆さん優秀な方ばかりですから、助けられてばかりですけどね。最近、ようやく『代表』として認めて貰った様な感じですかね。」
「そうだな。『商会』の皆は古参の者達も多い。彼らの『力』なくして『商会』は成り立たないから、出来るだけよくしてやってくれ。『人材』あっての『組織』だからな。」
「ええ、心得ております。」
「『鉱業』はどうだ、ジョルジュ?」
「こっちも順調さ。と、言うより忙しいくらいだね。最近は、『鉱石類』の需要が高まっているからね。『ロマリア王国』様様って感じだよ。」
「確かにな。『ロマリア王国』の『生活魔法』・・・。あれは良い物だ。『グーディメル家』でも扱ってみようか?」
「そう出来れば願ってもない話ですが・・・、それは難しいのでは?『ヒーバラエウス公国』の『魔術師ギルド』や『貴族』の皆さんが黙っていないでしょう。昨今の『国内情勢』を鑑みれば、あまり角が立つ行動は控えるべきではないでしょうか?」
「私も少し前まではそう考えていたのだがね・・・。だが、今となってはそれも些末な事に過ぎないよ。『ヒーバラエウス公国』は確実に生まれ変わるのだからね。」
「???」
「それはどういう・・・?」
セドリュカのその言葉にエリックとジョルジュは顔を見合わせた。
「本来なら、今回の夜会は、お前達も気付いたと思うが、少々『政治』色の強い集まりだ。これは、とある『案件』の協力を要請する為に集まって貰ったからだが、実はもう一つ、重要な『発表』がある。こちらは、つい先日私も知らされたばかりだが、それ故、お前達を急遽呼び寄せる事ともなった。皆さんに知らせる前に、お前達には先に報告しておこう。」
「「・・・?」」
困惑するエリックとジョルジュをよそに、セドリュカはハーヴァーに目で合図をする。
それにコクリと頷くと、ハーヴァーは扉を開き、誰かを呼び入れた。
「「「・・・へっ・・・?」」」
「???」
「こんばんは、皆さん。ディアーナ・ヒーバラエウスですわ。」
「えっ!!!???」
「う、嘘だろっ!!!???」
「こ、公女殿下っ!!!???」
エリックとジョルジュとマドレアは目を丸くして驚き、慌てて『貴族』式の礼をした。
『ヒーバラエウス公国』の『最重要人物』の一人であるディアーナは、エリックらも顔と名前は十分に知っている。
ただ、ディアーナが、リリアンヌの『スポンサー』として彼女と、また彼女を介して『グーディメル子爵家』と“繋がり”があった事は、今の今まで知らなかったのである。
これは、『安全保障』上の観点からである。
まぁ、残念ながらディアーナはすでに『暗殺未遂』を受けた身ではあるが、彼女の行動や『交遊関係』は、本来『トップシークレット』なのだ。
それを、“何”に『利用』されるか分かったモノではないからである。
女性も羨むほどの『美貌』を更に引き立てる様に、『公女』の名に恥じぬ見事なドレスに装飾品の数々。
ジョルジュはもちろん、『既婚者』であるエリックまでも、ポーッとディアーナに見惚れていた。
「わぁ~、きれ~。ママァ~、おひめさまみたいだねぇ~。」
「ちょ、ディアンヌっ!」
ディアンヌは、子供らしく率直な感想を述べた。
『おひめさま』みたいではなく、正真正銘の『お姫さま』なのである。
ディアンヌの発言にマドレアは顔を青くするが、ディアーナはクスリッと笑みを溢した。
「まぁ、ありがとう。貴女のお洋服も素敵ですわよ。」
「ほんとぉ~?えへへぇ~、ありがと~。」
その高級そうなドレスが汚れる事も厭わずに、ディアンヌに屈んで会話をするディアーナ。
リリアンヌはともかく、クラリッサとマドレアは、それをあわあわとして心配そうに見ているのだった。
「こほんっ、公女殿下は今回の『主賓』だが、お前達に紹介したいのはこちらの方々だ。」
それを一旦仕切り直して、セドリュカは改めて言葉を発した。
一国の『最重要人物』の一人を蔑ろにする発言とも取れるが、ディアーナ本人はさもありさんと特段気にした風もなかった。
ディアーナに遅れる様に、同じ扉から入った来たのは、夜会に出席する予定はなかったが、一応『正装』したアキト達であった。
「こんばんは。はじめまして。アキト・ストレリチアです。」
「「「(・・・だれっ・・・?)」」」
「???」
誤字・脱字などありましたら、ご指摘頂けると幸いです。
ブクマ登録、評価、感想等頂けると幸いです。よろしくお願いいたします。
また、もう一つの投稿作品、「遊び人・ハヤトの異世界事件簿」も、本作共々、御一読頂けると幸いです。